フューゲル帰還
「ようやく着いたわね、さあギルドへ報告に行きましょう」
ミアナが先頭に立って歩いて行く。
ちなみにこの街、フューゲルという名前らしい。知らなかった。
街を歩いていると周囲が慌ただしい気がする。
「なんか街の人変じゃないですか?」
「ん? そうだな」
話しかけるとカインもおかしいと思っていたのだろう。
近くの住人に話しかけに行ってすぐに戻ってきた。
「神様が来てるらしい」
「神様?」
首を傾げるとカインが苦笑する。
「前にミアナがお前に話してたろ、この世界には四人の神様がいるってよ、その中の一人がこの街に来てるらしいんだ」
「あー……」
言われて思い出す、確かに聞いたような気がする。
四人の神様ね、八百万の神様の一人と会った事があるがあんな感じだろうか。
なんとなくブーメランパンツのマッチョ神様ことマキシマム川崎を思い出す。
「神様ってそんなに人気あるんですか?」
「そりゃそうだろ、むしろ神様を知らなかったお前に驚きだよ」
「神様は世界中を歩き回ってるらしいけど偏りがあるらしいからね、きっと三浦さんの住んでる近くには来なかったのよ」
「ルウも知らなかった」
「お前は記憶喪失だからな」
「忘れてるだけでしょ」
「忘れてるだけだろうな、それより早くギルドへ行こうぜ」
☆☆☆
「おう、てっきりコボルドにやられちまったのかと思ったぜ」
ギルドでいつもの受付に行くといつもの厳ついおっさんが出てきた。
「コボルド討伐したんですけど」
「そうか、とりあえずこの位だな」
おっさんは金を出してくれた。
銀貨2枚だ、確か銅貨一枚が百円、銀貨一枚が千円、金貨一枚が1万円位の価値だった気がする。
という事は二千円である。
コボルドに殺されかけたってのに二千円、きついなあ。
「あとスコップ返します」
「ん、もう使わねえのか?」
「はい、俺には要らない物なんで」
「ふーん、まあ良いけどな。あん?」
おっさんが俺の後ろに目を向けた。
「よお三浦、金貰ったか?」
振り向けばカインが軽く手を振りながら歩いてきた。
「はい、一応ですけどね」
銀貨二枚を見せるとカインが笑い出した。
「あはは! 銀貨二枚ってお前。いや、コボルド退治ならそんなもんか」
カインは笑いながら受付の方へ歩いて行く。
「よおマスター、久しぶり。相変わらずマスターになってもたまに受付やってんだな」
「おう、カインの坊主。何度も言ってんだろ、俺は冒険者の成長を見るのが好きなんだって、成長が一番わかるのが受付なんだから仕方ねえだろ。それよりそいつとは知り合いだったのか」
「まあな、前のクエストでな」
「そういえばお前らだけでバッファローメイジとバッファローナイトを倒したそうじゃないか。しかも金を受け取らなかったなんてどうしたよ?」
受付のおっさんが楽しそうに笑っている。
ていうかマスター?
「あの、マスターって?」
俺の言葉にカインが変な顔をする。
「ん? ああ、そうか。三浦は新人だもんな。ほら、目の前にいるのがこのギルドのマスターだぜ。顔見てただの受付じゃないって分からなかったのか?」
「…………」
このおっさんギルドマスター? 一番偉い人だったの?
でも確かに歴戦の強者面してるとは思ってたけどまさかマスターだったとは。
「なあマスター、実はバッファローメイジとバッファローナイトを倒したの俺らじゃなくてこいつ、三浦冬馬なんだよ」
「何?」
おっさんもといギルドマスターが俺を一瞥する。
「冗談だろう? こんな昨日今日ギルドに来たばかりの初心者がか?」
「それがマジの大マジなんだよ。こいつに俺ら助けられたんだ、だからっつーのもなんだけど俺らに支払われるはずだった金、こいつに渡してくれないか?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それなら俺が討伐したって事になっているコボルドだって」
カインが手で言葉を制す。
「いや、それも要らねえ。本当にな、俺らっていうか俺自身あの時は死を覚悟したんだ。だからそれも含めお前に貰った欲しいんだ。なあ、マスター駄目か?」
カインの言葉にギルドマスターのおっさんは腕を組み目を瞑る。
「そうだなあ、正直な感想を言わせてもらえば信じられねえがお前は嘘つく男じゃねえからなあ」
そして俺を見る。
「まあ倒したこいつが要らねえっていうんだからそれでも良いか。ちょっと待ってろ」
おっさんは一度裏に戻ってから再び戻ってきた。
「ほら、持っていけ」
小さな革袋を投げてきた。
中を見れば金貨が十枚程入っている。
「いや、これ」
慌ててカインに渡そうとするがカインは笑いながら俺の肩を掴む。
「要らねえよ、でもどうしてもって言うならその金で昼飯でも奢ってくれよ、ルウとミアナが外で待ってるからよ」
カインはニッと笑った。
こいついい奴だなあ。
☆☆☆
ギルドを出ると何やら人垣が出来ているのが見えた。
「なんだ? 神様……じゃなさそうだな」
カインが怪訝な顔をしている。
人垣の一部がこちらを指さし大声を上げた。
その直後、わらわらと鎧を来た兵士っぽい奴らが俺とカインを囲む。
「お、なんだなんだ?」
「見つけました! 目撃情報と一致しています、恐らくこいつです!」
人垣をかきわけて一人の人物が歩いてくる。
白銀の鎧にマントを羽織った騎士っぽい男だ。
茶色の髪は肩まで伸びており、イケメンである。
イケメンは俺を指さし言った。
「貴様を牢屋に連行する!」