ギルドで依頼を受けよう
「…………」
「パーティ募集に来てくれてありがとう、君の職業は……コンクリート開拓士? えっと……魔力は凄いようだけど攻撃魔法は使えないんだっけ? ごめん、今回は遠慮させてもらっていいかな?」
「…………」
「コンクリート開拓士? 地属性魔法とは……違う、飛ばせない。ふーん……」
「…………」
「コンクリート開拓士ねぇ……聞いた事無いけど聞かなかったことにするね。え、パーティの件? 聞かなかったことにするね」
「うああああああああああ!」
「うるせえよ、人の受付前で大声出すんじゃねえ、迷惑だ」
「怒るなよ。なあ受付のおっさん。誰も俺をパーティに入れてくれないんだけど!」
「でもお前コンクリート開拓士だろ? レアジョブじゃねえか」
「何がレアジョブだ、レアすぎて実績が皆無、誰もパーティに入れてくれねえよ」
「敬語を使え馬鹿野郎、あと落ち着け」
殴られた。
「すいません」
「ふん、まあ気持ちは分かるがな」
ちらりと憐れみ混じりの視線を送られる。
その目やめて、色んな人から受けたから泣いちゃう。
「スキルみたいなものはあるんだろう?」
「一応はですけど」
「どんなのだよ」
「んーと、コンクリートの壁を手から出せます」
「……そのコンクリートって何だ?」
「あー……」
そういえばどのパーティの人に言ってもコンクリートという言葉を知らなかった。
もしかしたらこの世界にはコンクリートという物がないようだ。
まあ鉱石とかあるからコンクリートなんて要らないのかもしれないけど。
「で、どんなのだ」
「それは……」
「おい聞いたか? 近くの排水施設が壊れたらしいぜ」
「石みたいな白い物で排水溝ふさがれてたんだろ? 酷い事するぜ」
「犯人を見つけたら牢屋に入れてやるってよ」
「子供のいたずらじゃねえの?」
「ないない、子供にあんなことは出来ないってよ」
「…………」
噂話をしながら冒険者らしき人らが後ろを歩いて行く。
十中八九昨日俺が八つ当たりで排水溝をコンクリートで固めたあれが原因だ。
ヤバい、ばれたら牢屋行きだ。
「スキルは……ってどうした、いきなり凄い汗かいてるじゃねえか」
「い、いや、別に」
額から汗が流れるがおっさんは少々呆れたような顔をした。
「まあ大して興味ないから良いけどな。それよりお前そろそろ依頼受けなくて良いのか? 金はあるのか?」
「少しですけどね」
一応俺は野宿ではなく今ギルド近くの宿に泊まっている。
マッチョの神様、マキシマム川崎から貰ったお金のおかげだ。
まあ、明日には宿代を払えなくなるのだが。
「ただ明日から金が無くて野宿になりそうです」
「だろうな、ソロでも行けそうなクエスト探してやろうか?」
「お願いしますと言いたいところだけど武器が無いんですけど」
「ギルドが貸し出してるもんもってけ、強度は察しレベルだけどな」
「……助かります」
というわけでパーティ募集を断られ続けた俺はソロでクエストに行くことになった。
☆☆☆
とりあえず街の東にある森に向かった。
依頼内容は、
『数日前に東の森でコボルドの群れを見付けた、農作物を荒らされる前に何とかしてくれ』
との事。
ちなみに俺がギルドから貰った武器は剣でも杖でもない。
青銅(ちょっと錆びている)のスコップである。
別に好きでこれを選んだわけじゃない。
どうしてか分からないが剣や杖を持とうとすると重すぎて装備出来なかったのだ。それは軽いナイフを持とうとしてもそうだからもしかしたら装備不可なのかもしれない。
コンクリート開拓にはスコップがあれば十分だろみたいな事だろうか。
「スコップもってコボルド退治ってどうよ」
絵面がどう見てもモンスター退治に行くようには見えない、よくて炭鉱夫だ。
ちなみにコボルドは犬の顔をした小柄な獣人で脅威ではないらしい。
一匹なら大体の冒険者が倒せるとの事だが、そもそもスコップを装備した冒険者が未だかつていたのだろうか。
「そもそもこんな森にそのコボルドとか言う魔物がいんのかよ」
そんな事を呟いていると、がさがさと茂みの中から何かがやってくる。
「あ……」
「ギ……?」
対面してしまった。
犬の顔をした二足歩行の獣人だ。
右手には武器を持っていて、の割には明らかに戸惑っている。
勿論俺も戸惑ってるけども。
目が合う事数十秒、コボルドが悲鳴を上げたと思った直後、わさわさと茂みの中から似たような顔をした奴らが現れた。
完全に包囲されているではないか。
スコップを握りしめて一匹に襲い掛かった。
「おおおおお!」
思いっきりスコップで殴ろうとしたが、当然の事ながらコボルドは持っている武器でガードした。
案外力が強く弾かれた拍子に後ろに倒れてしまう。
「…………」
「…………」
周囲にはコボルドの群れ、対しこちらはスコップを持った貧弱なコンクリート開拓士。
勝てる気がしねえ。
俺はジョブスキルである唯一の魔法を使った。
【コンクリートウォール】
地面から出てきたのは自分の想像通りの灰色の壁である。
それを自分の前後左右に設置した。
「ギイイイイッ!」
大きな声と共にガンガンと外からコボルド達が壁を叩く音が聞こえてくる。
ああ、もう駄目だ、この壁が壊れたら俺は殺されるんだ……。
壁の中でがくがく震えていたが。
『ガンガンガンガン』
音は継続的に続いているが、壁は壊れる気がしない。
更に言えば急に静かになった。
『ギ? ギグガガガ!』
というか悲鳴が聞こえている気がする。
這いつくばりながらこっそり外の様子を窺おうと壁に手をやって拳大の小さな穴を空けた。
こっそりと顔を近づけ、覗いてみる。
すると白い布が見える。
「なんだこれ?」
じっと見ているとそれは動いた。
「今どこかから声聞こえなかった?」
「ん? さあ、それより血が付いちゃったかも、白いから目立つなあ」
「ちょっと、むやみにスカートをばたつかせない、カインもいるんだから」
「俺はこんながきのなんか見てもどうも思わねえよ、つかこの石壁なんだろうな、びくともしねえ」
「うーん、前まで無かった気がするんだけど……ってあら? ルウその穴は何? 壁に穴が開いてるじゃない」
「え? どこ?」
「スカートの所」
「ああ、これ。何だろう」
「おい、あんまり不用意に覗くなよ」
声と共に穴の向こうで女の子と目が合った。
「…………」
「……ども」
「きゃあああああああ!」
森の中に悲鳴が響いた。