王からの依頼
次の日。
野宿だった為に身体の節々に痛みを感じながら俺らは王城に向かって、昨日話した兵士の所へ行った。
「ども、昨日ぶりです」
「お前か、案内の者が来るから待っていろ」
それからすぐに中へと通してくれた。
案内役の兵士は俺らの姿を見て舌打ちをかましてくる。
なんか嫌な感じだと思ったが、後ろを歩きながら城の中を見て驚いた。
はっきり言って城内は綺麗だった。
廊下の真ん中には赤い絨毯が敷かれていて壁には一定の区画ごとに石で出来た鎧兵士の人形が置かれていて、それでいて武器は本物の様だ。
鎧を身に纏いマントを付けた騎士が鋭い眼差しで歩き、豪奢な服を着た貴族が我が物顔で闊歩する。
「ねえユウハ様、もしかして俺ら場違いな所に来たのでは?」
こそこそ耳打ちするとユウハ様は鼻で笑う。
「気にすることは無い、私が隣にいるんだ、大船に乗ったつもりでいると良い」
流石はユウハ様、言う事が違うぜ。
だけど俺の後ろで服の袖を震えながら掴んでなかったらもっと良かった。
城に何かトラウマでもあるのかな?
「静かにしろ田舎者」
「す、すいません」
「ちっ、何で俺がこんな奴らの案内なんて、カードも負けるし最悪だ」
怒られた、けどぶつぶつ言っている内容からするとこいつカードゲームで負けて機嫌が悪いのだろう。
一応王宮から呼ばれた立場なんだから八つ当たりは辞めて欲しい。
黙っていると兵士はこちらを一瞥し鼻で笑う。
「ふん、言い返しもしないとは情けない男だ」
何だよと思ったがこれからきっと偉い人に会うんだしあまり面倒事は起こしたくない。
「失礼な男だな、偉そうに」
「あ?」
「ちょっと! ユウハ様?」
何が琴線に触れたのかユウハ様が公然と喧嘩を売り始めた。
「黙ってればこっちは客人だぞ。兵士風情が何様のつもりだ」
「なんだと!」
「ユウハ様、ちょっと」
「うるさい、三浦は黙ってろ。私はこいつに言っているんだ」
始まってしまった。
止めようとしてもユウハ様の舌鋒は鋭くなるばかりだ。
ただでさえ癇癪持ちだからなぁ……。
余りの怒り具合に遂に兵士の手が出そうになり思わず止めに入る。
「そこで何をやっている!」
大きな声と共に騎士の集団が歩いてくる。
先頭を歩く騎士は白銀の鎧にマントを羽織り茶色の髪はまるで柔軟剤を使っているほどにサラサラである。
そして顔はイケメンと言って他ならない。
ちょっとイラっとしたがどこかで見た覚えがあるような……。
「バ、バルト様! いえ、この娘が無礼を働き」
「娘?」
騎士がじろっとユウハ様を見てくる。
ユウハ様の怒りは霧散したのかささっと俺の後ろに隠れる。
まずい、どうしよう……。なんて小声で言いながら震えている。
そんなに震える位ならあんなに言わなきゃよかったのに。
イケメン騎士は続けて顔を上げ、俺の顔を見て……大きく目を見開き顔が真っ青になる。
そして途端に片膝立ちとなり膝には右手を、そして傅くような姿勢になった。
「あの、バルト様?」
「お、あ……ええ?」
兵士とユウハ様はうろたえるが俺はこの態度を見てやっぱりあの時、俺を牢屋に入れた騎士だと確信した。
「馬鹿者が! このお方を誰だと思っている! ……申し訳ございません、三浦様。此度の失礼をお許しください!」
☆☆☆
「へえ、バルトさんってここの騎士だったんですね」
「はいそうなんですよ。それにあれから出世しまして、一応第二騎士団の団長をさせて頂いております。それと三浦様。私にさん付けなんかしなくて大丈夫ですよ。むしろシューベルとお呼びください」
「いえ、それはちょっと……」
現在俺達は横柄な兵士の代わりにバルト・シューベルに案内されている。
別に良かったのだがその熱烈な押しには嫌と言うわけにはいかない。
「そうだ、もしよかったら今度食事に招待いたしますね」
「あ、お気になさらず……いえ、はい。分かりました」
こいつの押しの強さには思わず良い返事をしてしまう。
「勿論そちらのお嬢様も」
「は、はい」
ユウハ様が緊張気味に返事する。
ていうかなんだ、ユウハ様イケメンの微笑みでちょっと顔赤らんでないか?
俺の連れに色目使うんじゃねえ。
案内されて謁見の間に通された。
広い空間だ、上にはステンドグラスっぽい窓があり光を中に入れてくれる。
周囲には騎士と貴族っぽい人らがいて正面には恐らく王だろう、威厳のありそうなナイスミドルが座っている。
こほん……と王の横にいる神経質そうな小男がわざとらしく咳き込む。
「では王……」
「うむ、よくぞ参った。名は三浦……と申すのだったか」
「はい」
「ふむ、神である向井様が推薦したというなら凡人ではないのであろう」
向井様……だと?
なにあいつ、もしかして王様より偉いの? 神様だから? 変態のくせに生意気な。
「貴殿をここへ呼んだのには理由がある」
「……と言いますと?」
「詳しくはこの大臣が話す」
王はちらっと隣の小男を見て頷く。
「ここからは私が、実は昨今この王都の治安が悪化しており、夜道を男が出歩けなくなっている」
まあ治安が悪化したら夜道を……んん?
「……男がですか?」
「うむ」
「女性がじゃなく?」
「そうだ」
思わずユウハ様の顔を見てしまう。
案の定というべきかユウハ様も眉をハの字にしている。
そうだよね、俺がおかしいわけじゃないよね。
「えっと……それはどういう事でしょう」
「夜になると街の男を襲う狼がいるのだ、治安を担当している第二騎士団が動いている為、犯人の目星は着いているがなかなか捕まえられないのだ。神に指名された貴君なら第二騎士団と協力し解決してくれると思っている」
「目星は着いているのに捕まえられない……男の夜道を襲う狼がいる」
よく分からないけど多分犯人は向井じゃね? あいつ気に入ったら男でも襲いそうだし。
「やってくれるな?」
随分と断れない空気出すじゃない。
まあ、第二騎士団って多分あいつだろうしこれも縁かな。
「畏まりました」
一応大仰な礼をしといた。




