ユウハ様警戒を覚える
「ははは! ざまあみろ! これで邪魔者が一人死んだ、あと二人だ!」
「みうら? おい、三浦! しっかりしろ」
ユウハを何かから庇った三浦が倒れた直後、急に黒い何かが現れた。
鎌を持ったそれは明らかに人間ではない。
「デルコイ! 貴様三浦に何をした」
「邪魔な奴を排除したまでだ、大したことはしていない」
「じゃあそいつはなんだ!」
「これか? これは私が召喚した死神さ。どんな命令も聞く使える道具だ。貴様を殺してからと思ったがまあいい、順番が狂っただけ、問題ない。ワイバーンを倒すほどの男でもこれには敵うまい、はっはっはっは!」
「死……神?」
こいつが? じゃあ三浦は?
「さて、次は貴様の番だ。心配するな、後でミーアにも後を追わせてやる」
「そうはいかないな」
声の方向を見るとそれまでずっとどこかへ行っていた魔王、チェリッシュ・ガイラルが立っている。
その表情は普段と違って怒っているようにも見える。
「召喚の書物で死神クリア・テリアを勝手に使役している者を探していたがこんな所にいたとは……が、そいつは我の大事な部下だ。返してもらおうか」
「魔王……ふん、たとえ魔王が相手だろうが私には死神がいる。王が神に勝てるわけがない、行け死神よ、奴とユウハ、まとめて殺せ!」
デルコイは指さし死神に命令した。
――が。
死神は動かない。
それどころか存在がどんどん薄くなっていき、そのまま消えてしまう。
「あつっ!」
見ればデルコイの持っていた古文書がいきなり燃え出し、あっという間に消し炭になってしまった。
「ば、ばかな……一体何が起きた?」
デルコイは自分の手から滑り落ちた黒いカスを驚愕の表情で見た。
「くくく、人間よ、死神クリア・テリアとの契約は破棄されたようだな」
「ど……どうして」
「破棄の条件は使役者の契約破棄、死去もしくは失敗だ」
「失敗……?」
「見ろ」
ガイラルが三浦を指さす。
「え……」
ユウハは目を見開く。
三浦の身体は白い光を放っていた。
「貴様の失敗は三つ。即死無効のスキルを持ったこの者を狙った事、分不相応な力を用いてしまった事。その結果我の怒りを買ってしまった事だ!」
瞬間。
ユウハの目の前、ガイラルの近くの空間が歪んだ。
「貴様には特別にそんなちんけな書物を媒介にしなくても良い本当の召喚を見せてやる」
その歪んだ空間は徐々にその部分だけ暗くなっていき、更に黒い獣の足が見えてきた。
「あ……あ……」
デルコイの目の前には黒い犬に似た獣が現れる。
その瞳は赤く、酷い死臭を放っている。
「死獣よ、喰らえ」
直後、黒い影がデルコイを覆いつくす。
それはデルコイの肉体を食み、悲鳴を上げる口を噤ませ。暗い空間へと引きずり込む。
「た、助け……」
小さく弱弱しい声音。
それがデルコイが口にした最後の言葉となった。
☆☆☆
「どうしたユウハ様、ぼーっとして」
「わっ!」
学園でのことを思い出していると目の前に三浦の顔が現れ、思わず仰け反ってしまった。
「な、何でもない。ちょっと考え事をしてただけだ」
「何を?」
「別に良いだろ」
「ふーん、ま、良いけどね」
三浦は改めて離れて座る。
現在、私と三浦は馬車に乗って王都へ移動していた。
見れば三浦は鼻歌を歌いながら馬車の小さな窓から見える景色を見ている。
もうすっかり元気になった様でほっとした半面、私は少々こいつを警戒してしまっている。
勿論こいつが良い奴であることは間違いない、どうしてか分からないが私に何かと気を使ってくれる優しい男だ。、よく喋るし常識的で人並みの感性を持っている。
学園では身を挺して私を守ってくれた事は思う所がないわけではない。
しかしだ。
何故か自分の力に自信を持っていないが、ワイバーンを簡単に倒し、魔王に認められるほどの力を持ち、四大神の向井と親しくあまつさえ死神の一撃を無効化するスキルを持っているただの人間……人間?
「…………」
うーん、私が今まで見てきた人間とは違いすぎる。
「ユ……さ……」
正直ちょっと怖い。
「ユウハ様?」
「…………!」
三浦が心配そうに私の顔を覗いてくる。
「だ、大丈夫だ。本当に大丈夫」
またぼーっとしてしまったみたいだ。
「身体の調子が悪いのなら言ってくれ、効くか分からないがコンクリートヒールなんてものもあるから」
「お、おう。分かった」
確かに三浦は優しい……が少し警戒をしなければならないかもしれないな。
☆☆☆
朝
「また犠牲者だ!」
「昨日の夜か!?」
「くそ! 今度は警備の兵士、しかも兵士長がやられたか」
女性兵士が目を覆う。
「誰か……誰か何とかして!」
その叫びは王都の空に響いた。




