マキシマム再び
目を覚ますとそこはいつか見た白い空間だ。
視界一杯にあるのは真っ白な、どこまでも真っ白な大きな部屋……いや、これ見たわ。見覚えありまくりだわ。
上体を起こすと見覚えのあるマッチョ。
「お、起きたか」
黒いブーメランパンツを履いたムッキムキの巨体を誇る神、マキシマム川崎が立っていた。
ぼんやり見上げて、はぁ……と思わずため息をついてしまう。
「どうした、ため息なんかついて」
「いや、だって……」
普通目が覚めたら可愛い女の子がいてってのがデフォじゃね?
何で俺だけいつも筋肉盛り盛りマッチョマンが出迎えるんだよ。
違うだろ、ラブコメ的にはこれじゃない感満載だろ。
いやま、そもそも俺ラブコメの主人公じゃないから良いけどさ。
「この筋肉に見惚れたか?」
パァン! と川崎は分厚い自分の大胸筋を叩く。
初見ならビビってる所だが向井も合わせれば似たようなことを何回か見せられているから別に怖くない。
「見惚れてねえよ。久しぶりだな」
「おう、久しぶりだな。三浦冬馬」
ニカっと笑う川崎は爽やかだ。
「この世界は慣れたか?」
「まあね、ていうかお前! 次会ったら言いたかった事沢山あるんだよ!」
「ふむ? 聞こうか」
「なんだよこのコンクリート開拓士って!」
「んん? 何が不満なんだ? お前が求めたレアスキル、ユニークスキルだろう? 被っている奴は一人もいなかったはずだが?」
「ああ、いないな! 過去にもいなかったから実績ゼロでギルド行ってもパーティに入れて貰えなかったぞ!」
「レアなんだから仕方ないだろう。スキルは弱かったか?」
「ふぐ……いや、強かった……」
「じゃあ良いじゃないか、下手にパーティなんか入ったってどうせお前は弾かれたよ」
「何でだよ!」
「人はそういうものだからだ。強すぎる者は妬まれ、結局弾かれる。弱者が侮蔑され歯牙にもかけられないのと同じだ。違うか?」
「それは……」
そうかもしれない……のか? いや待てよ。
「でも森で会った奴らは俺が強くなっても弾いたりしなかったぞ」
「そもそも彼らはお前が弱くても仲間に入れてくれたじゃないか。無理に仲間を増やす必要は無い、どんなお前だとしても認めてくれる所へ行けば良い、そうだろう?」
そういう川崎の目はすこぶる優しい。
こいつ言動の半分が筋肉のくせに時々的を射た事を言うし神っぽい反応しやがる。
「あ、あとお前あいつの教育どうなってんだよ」
「あいつ?」
「向井だよ!」
「向井か、そういえばお前は気に入られていたな、祝福まで貰って」
「気に入られちゃいねえよ、あいつが勝手に気に入っただけだ。てかあいつ会話通じねえんだけど、どうなってんだよ」
「あいつは人の話を聞かないからな」
「本当だよ!」
人に依頼しといて結果も聞かずにどっか行くし、自由過ぎる。
「あー、あとゴッドウォーとか言うめんどくさい事に俺を巻き込むんじゃねえよ、俺はもっと自由に生きたいんだよ」
「自由にこの世界で生きてるじゃないか、見ていると楽しそうにしているようだが?」
「たの……」
「楽しくないのか?」
「楽しく……」
ないわけじゃない。むしろ楽しい。
向こうの世界と違ってこの世界はモンスターはいるし人種とかもドロドロしてるし何かって言うと危険がいっぱいだが楽しかった。
可愛い女の子と旅も出来たしな、短い時間だったけど。
「はぁ……」
ユウハ様大丈夫かな、ていうか俺結局何もしてねえ。
可愛い女の子と旅をするだけで満足して手も繋いでないまま死んじゃったな。
気取らないでもっと積極的に……いや嘘。俺じゃ無理だ。
ユウハ様可愛いし俺じゃ釣り合わない。
――ていうかそういう関係じゃねえし。
「ふふ……」
隣で唐突に笑い出した川崎を俺は睨む。
「なんだよ」
「いや、お前は変わらないなと思ってな。最初に来た時も女の事を考えていたなと思ってな」
「良いだろ別に、男は何歳になってもそんなもんだよ」
「だが、お前の魂の色は変わっている」
「ああ? 魂の色?」
「うむ、うっすらとだが歴史に名を遺す英雄色に変わってきている」
「何が英雄色だよ、お前俺が何装備出来るか知ってんのか? エクスカリバーという名のスコップだぞ。更に言えば職業はコンクリート開拓士の英雄! どっかの土木会社に就職したら確かに英雄になれるだろうな! ゆくゆくは三浦建設っていう会社名で名を残せそうだよ糞が!」
「はっは、お前は相変わらず賑やかで面白いな」
「黙れよ」
何が可笑しいのか川崎は楽しそうに笑っている。
からかわれているはずなのにその声は不思議と不快にならない。
「つってももう遅いよ、英雄色とか馬鹿馬鹿しい」
「む、どうしてだ?」
「お前とここで話してるって事は俺死んだんだろ?」
前回と同じくきっと俺は死んだのだ。
覚えている、デルコイが何かをした、恐らくあれ即死魔法か何かじゃないだろうか。
なんとなくあれは死神に似ていた気がするし。
「多分死神の一撃を喰らってさ」
「ああ、確かにお前が喰らったのは簡易だが死神召喚での一撃だな、女の子を庇うなんてやるじゃないか」
「死んだら意味ねえよ」
女の子を庇って死んだ所で思い出になるだけで結局後から現れたかっこいい男に持っていかれるんだ。
本当に意味ねえ、噛ませ犬に他ならない。
ユウハ様、変な男に捕まらなきゃ良いけど……いや、捕まりそうだなあ。
不安だ。
「ふむ、不安なら悪い虫がつかないように傍にいてやれば良いじゃないか」
「ナチュラルに人の思考読むんじゃねえよ。ていうか無理だろ、俺もう死んでるんだから」
「お前は一つ勘違いしている。お前がここにいるのは私が久しぶりに話したかっただけだ。連れてきた身としては前の世界より楽しんでないと困るからな」
「え、ああそうなの?」
「うむ、とりあえずお前が楽しんでいるようで安心した」
「そりゃ良かったな。……ん? じゃあ、あれ。俺はえっと今どうなってる?」
「自分のステータスを思い出せ、お前はたとえ死神相手でも即死はあり得ない」
「あ……」
そういえば俺即死無効ってスキルあったな。
ん? んん? えっと……。
「もしかして俺は?」
「無論、死んでいない。ではまた会おう、三浦冬馬」
☆☆☆
「…………っ!」
上体を起こす。
白い部屋、水差し、木製の机、ふかふかの布団。
感じるのは生暖かい右手。
生暖かい右手?
見れば俺の手は繋がれているのだ。
何に? それはベッドの隣、椅子に座っている……。
「ユウハ様」
「三浦? み、三浦!」
「お、おおう!」
ユウハ様が胸に飛び込んできた。
ユウハ様の頭部と震えるうさ耳。
確かな……暖かなぬくもり。
やっぱりというか、どうやら俺は死ななかったらしい。




