学長選4~筋肉連の説得~
筋肉連の上層部がいるという場所にやってきた。
学校の一部にあるそれは外から見る限りだと広い講堂のような場所だ。
「ちなみにこっちは?」
隣には建物自体は大きいがぼろく使われてなさそうな建造物がある。
「これは旧生徒会の会議場だな。最も、十数年前から取り壊しが決まっているが予算の関係でそのままだ」
「金ないの?」
「取り壊しに使うのがもったいないだけだろ。学長選は大体金をばらまくからな。やろうと思えばやれるだけの資金は集められると思うが……ロハ学長もそうだったが先々の学長選を見てて使わないんだ。デルコイだって今回は特に突然で沢山金をばらまいてるからきっと金はかつかつなはずだ」
「ミーア教授は?」
「あの人はデルコイアンチが担ぎ上げた人だからな。金ばらまかなくても一定数以上の票が集まるからばらまく必要が無い、だから寄付金だけが募ってると思う。ただでさえ対抗馬は行方不明になってるから尚更だ」
「へえ」
なんか本当の選挙みたいだな。
「それはともかく中に入ろうぜ」
「ええ……ああ」
ユウハ様は嫌そうだが引きずるように一緒に中に入った。
そして驚いた。
「おお……」
低めの天井に鉱石を用いた錘にダンベルに似た鉱石の付いた棒とか床がちょっと弾力のある平らなマットとか……。
なんていうかこれ、スポーツジムじゃね?
ダンベルのようなものを触っていると奥の部屋が突然開いた。
「今日も元気に! マッスルだね!」
「マッスル! ああ、妹よ! 僕たちの憩いの場に不細工な誰かいるよ!」
「ああ! 兄様! 私たちのエデンに不細工な誰かがいるわ!」
現れたのは筋肉ムッキムキで短髪の若い男と引き締まった身体で出る所が出ているこっちも若い女だ。
恐らく兄妹なんだろうがどちらも美形でしかも俺らを不細工と言い小ばかにした感じ。
「……あれが筋肉連の代表を務める兄妹だ」
隣でユウハ様がぼそりと呟いた。
普段と違い完全に俺の服を掴み後ろに隠れているあたり相当こいつらが苦手なのだろう。
ここは俺が前に出なければなるまい。
「俺は三浦! お前らと学長選について話に来た! ちなみにこの世界の神であるコンスタドール向井やマキシマム川崎の知り合いだ! 丁寧に接しろ!」
☆☆☆
「こちら……暖かいプロテンです」
神様の名前を出した結果、奥の部屋に通されて現在接待を受けている。
ていうかなにこれ、カップの中に白いドロドロした何かが入ってんだけど、プロテインに似てるけどこの世界にあんのか?
「なにこれ」
「私たちの神様が下さる神聖な飲み物プロテンです、これを運動後に飲むと筋肉が付きやすくなりますし滋養強壮に聞きますし恋人も出来るそうです」
なんか途中から怪しい器具販売みたいな事言ってるけど、恐らくこれプロテインだから筋肉以外には効かないと思う。
「改めて自己紹介を。私はフロキーナ、こっちの兄はマホリフって言います」
「よろしく」
「あ、どうも」
意外と丁寧に挨拶してくれた。
フロキーナにマホリフね、なんかどっかの勇者パーティにいそうな名前だこと。
「さっきも言ったけど俺は三浦、こっちは俺の師匠のユウハ様だ。呼ぶときはちゃんと様を付けるようにな」
「確か退校になった不細工の……ねえ兄さま?」
「ああ、不細工な……あれだな」
「「よろしくお願いしますね、不細工なユウハ様」」
そうか、こいつらユウハ様を知ってるのか。
それにしてもナチュラルに煽りよる。声までそろえて尚更煽りを強めるとは……。
見ろ、ユウハ様が怒りたいけど怒れなくてウサミミと身体がプルプルしてる。
これはこれで可愛いから放っておこう。
「それで神様のお知り合いの方が俺らに話って何ですか?」
俺はちらっと隣に座る師匠ユウハ様を見る。
俺の視線につられ二人はユウハ様を見るがユウハ様は、やっぱりこいつらが苦手なのだろう。
嫌そうに俺の後ろに隠れた。
耳がフルフルしてるのが更に怯えてて可愛い。
――と、こいつらと一緒にユウハ様を苛めてる場合じゃねえ、本題だ。
「ここに来たのは理由がある。お前らが筋肉連の代表で間違いないんだな?」
「そうですが?」
「今回の学長選、ミーア教授の味方になって欲しい」
率直に言うと二人は小ばかにしたような顔をする。
「それは難しいですわね」
「というかどうして僕達がミーア教授の味方をしなければならないのかな?」
「デルコイ教授で良いじゃない」
「そうだね、デルコイ教授で良いと思うな」
二人はうんうんと腕組みをしている。
「じゃあ聞くがどうしてデルコイ教授なんだ?」
思い出しても彼らが応援するような何か、例えば筋肉とかを持ってそうに見えないのだが。
「デルコイ教授は言ったわ、もう一つ器具を用意してくれるって」
「器具?」
「そう、見て分からない?」
フロキーナが指さす方を見ると扉……否、さっきのトレーニングルームだ。
なるほど、デルコイは筋トレ器具を買ってくれるからこいつらデルコイ側に着いたのか。
ていうかこいつら物につられたのかよ!
思ったより俗物的な奴らである。
いや、プロテンで喜んでた辺り本当に物につられやすいのかもしれない。
しかしここでそうですかと引き下がるわけにもいかない。
俺はユウハ様をチラ見する。
ユウハ様は、不安そうな顔でそっと俺の後ろに隠れているだけである。
可愛いけど使えねえなこの師匠は。
「じゃ、じゃあ俺らは器具を二つ用意しよう。これならどうだ?」
「要らないわ」
なぬ!?
やれやれ……とフロキーナとマホリフはため息をつく。
「見ての通り器具は沢山あるし。これ以上増えても置く場所が無いわ」
「一つならまだしも更に増えるとなるとストレッチの場所が無くなってしまう。器具を使わない運動が出来なくなってしまうじゃないか」
何より……。
二人はキリっとした顔で俺を睨む。
「「筋肉連は物なんかじゃ釣られない!」」
浅はかだった。
物で釣れると思った俺は浅慮だったと言えるだろう。
彼らはこう見えて筋肉連の代表なのだ。
物如きで彼らの意思を覆そうなんて土台無理な話だったのかもしれない。
「三浦……」
ユウハ様が悲しそうな顔で俺を見る。
「どうやらこれ以上の説得は無理みたいだな、仕方ない。最悪隣の旧生徒会の会議場を改築して筋肉連に渡そうかと思ったけどそれも多分効果ないな」
俺が立ち上がろうとした時。
カタン……という音がした。
…………?
見れば机の上、プロテンが入っていたカップが横倒しになっている。
それも二つ。
フロキーナとマホリフがそれぞれ小刻みに身体を震わせている。
なんだ突然、筋肉疲労か?
「……今君なんと言った?」
「え、どうやらこれ以上の説得は無理みたいだなって」
「その後だよ!」
急な慟哭に思わず俺とユウハ様はびくりと震える。
「最悪隣の旧生徒会の会議場を改築して筋肉連に渡そうか……って」
言った瞬間、マホリフが立ち上がる。
「なあ最愛の妹よ、僕は前からミーア教授が次期学長に相応しいんじゃないかと思っていたんだ」
続けてフロキーナが立ち上がる。
「ええ、知っているわ。私もその意見に賛成していたわ。ほんの数か月前からね」
……こいつら。
二人はちらちらとこっちを見てくる。
まるで俺にもう一度説得しろと言っているようで腹立たしい。
――が、良い。
ふう……と一度息を吐き怒りを鎮め、気持ちを落ち着ける。
「こほん、改めて聞くが筋肉連、ミーア教授の側に着いてくれないか?」
「喜んで!」
「勿論さ!」
二人の清々しいまでの笑顔とサムズアップ、完璧な掌返しは思わずぶん殴りたくなった。




