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学長選1

「意外とおしゃれな宿を知ってるな」


 そこは学校近くの宿だがなかなか大きな宿だ。

 一階は食堂となっており、吹き抜けになっていて、二階の部屋の扉が一階の食堂から見える。

 暁の火鉢亭あかつきのひばちていという名前だ。

 壁に備えられた明かりとは別に食堂の隅に設置された暖炉からの明かりが煌々と食堂を照らし、店の名前を表しているのかもしれない。

 従業員も多くウエイトレスも可愛い所が集まっているように見える。


「どうぞお料理をお持ちしました」


 料理を運んできたこのウエイトレスも可愛い、ていうか上が薄着なのにミニスカートとかやばいな、もし俺がこの街に住む事になったら間違いなくこの店の常連になるだろう。

 じいっと見ていると不意に頭を叩かれた。

 見ればユウハ様が目を細めながらこっちを見ている。


「犯罪者の目になっていたぞ」

「俺が? まさか、可愛い孫を見る目だったよ」

「嘘つけ」


 ユウハ様が少々不機嫌だ、ついさっきまで楽しそうだったのに相変わらず喜怒哀楽が激しすぎる。


「やれやれ、食事の時位争うのはやめておけ、そんな事していると我が全て食してしまうぞ」


 俺はガイラルの食事風景を見てげんなりしてしまう。


「あのさ、俺らまだ食ってないんだからそういうのやめろよ」


 ガイラルは全ての料理の真ん中に食器を垂直に立てて心地よさそうに笑みを浮かべている。

 こいつ的にはこれが食事なんだろうが。墓の前、お供え物を連想してしまって食欲が失せるからやめて欲しい。

 

 食後に果実ジュースを飲んでいるとやはりご飯時なのか周囲でも楽しそうに話しながらご飯を食べている奴らが沢山いる。


「デルコイ教授も遂に学長か」


 その中の会話で気になる単語が聞こえた。

 ちらりと見れば学校の制服を着ている。生徒の様だ。

 俺はユウハ様と目が合うとおのずと口を閉ざし、聞き耳を立てることにした。


「ずっとなりたがってたもんな。ロハ学長が死んでもうすぐ百日、これでようやく学長選が始められるからな」

「この百日の間に学長有力候補だったユウハ教授も遠ざけたし、他のロハ学長派閥で有力な教授も退けたデルコイ教授で決まりだろ、唯一対抗できそうな中立派のミーア教授はやる気なさそうだし」

「でもなぁ……」

「どうしたよ?」

「デルコイ教授の研究ってどれも分かりづらいんだよな。基本的に説明おおざっぱっていうか、それに質問してもはぐらかすだけでよく分からないまま終わるし、あんな人が学長で良いのかな」

「教授達は良いかもしれないけど、生徒の俺ら的にはそれはあるよな。あ、そういえば俺先輩から聞いたんだけどさ、お前デルコイ教授の部屋って入った事ある?」

「いや、無いけど」


「教授の部屋さ、古い魔導書が沢山保管されてるらしい」

「古い魔導書? 研究で使ってるもんじゃなくて?」

「いや、違うんじゃね? 先輩がこっそり中覗いたらどれも古代語で書かれてて分からなかったって言ってたし」

「古代語ねえ……デルコイ教授って別に古代語詳しいとかじゃなかったよな」

「今回のそれと関係あるか知らないけど、随分前から古代語翻訳の本とか得意な奴探してたような……」

「うーん、教授も変わってるからよくわかんねえや」

「俺も、飯食ったら明日提出のレポート手伝えよ」

「しょうがねえな、じゃあ今日の飯お前の奢りな」

「くあ! 俺金欠なのに」


 生徒達が楽しそうに話してた。


「おおざっぱな説明の研究ねぇ……」


 なんかうさんくせえなあ。

 思わずユウハ様を見る。

 言わずもがな、きっとユウハ様同様誰かの研究をパクったのかもしれない。

 それにしてもそんな頻繁に研究を盗んでたら色んな奴から盗作言われて騒ぎになりそうなもんだけど、どうしてならないんだろうな。

 何かあるのか?

 ちらりとガイラルを見て。


「…………」


 質問しようとした言葉を一瞬忘れた。

 ガイラルが殺気でも混じってそうな真剣な眼差しで生徒を見ていたからだ。


「ガイ……ラル?」


 話しかけて良いか分からなかったが一応声をかけるとガイラルは俺を一瞥し、すぐにいつも見ているような不敵な笑みを浮かべる。


「ふむ、人間同士の会話とはなかなか面白いものだな。我にとっては有益だった」


 有益って何がだろう?

 ダン……と隣から大きな音が鳴る。

 見ればユウハ様がカップをおもいきり机に置いた音だ。


「あんな奴が学長だと? ロハ学長の後釜にだと、そんなことはさせない」

「あの、ユウハ様?」


 激高しているユウハ様は、俺を睨む。


「三浦」

「は、はい」

「潰すぞ」

「は……え、何を?」


 いきなり何を言い出したんだこいつは。


「あんな奴を学長にするわけにはいかない。私達であいつの学長就任を阻止するんだ」

「ええ……」


 そんな無茶な、もう根回しとか終わってて戦う前から負け見えてんじゃねこれ?

 どうやって止めようか考えているとガイラルがふん……と笑う。


「面白い、座興だ。我も手伝ってやる。策を考えろ」

「えええ……」


 なんか俺、拒否権の存在しない面倒な事に巻き込まれた気がするぞ。

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