学術都市キーン5
学術都市キーン
かつての王が政治の中心である王都とは別に学問に特化した都市を作りたいと目指した事から出来た街である。
その歴史通り学問に特化しており、国内でも随一の学校の数を誇り、更に学校関係者ばかりではなく、それを標的にした商人が押し寄せ、娯楽を提供する一団が現れ、気づけば周辺に住む人口の多さから王国第二の都市となっていた。
更に地理的な事で言えば街の至る所に水路があり、水の都とも呼ばれている。
水路を作ることで近くの川より水を引き込み、当時の研究で必要であった大量の水を都市外に出なくても利用できるようにしたのだ。
ちなみにここの学生は基本的にほぼ全員が魔法を使える。
キーンの街を歩きながらユウハ様が自慢気に話してくれた。
「ユウハ様詳しいね」
「そりゃここに長く住んでたからな」
「へえ、そういえばユウハ様はどこに住んでたんだ?」
「私は学校の寮だな」
「学校……どれだよ」
「もう少し先だな」
言いながらユウハ様は歩いて行く。
「こいつは消費魔力を少なくする貴重な杖だ。大魔法を使える優秀な学生にお勧めだぞ」
「お兄さん達飲んでいかない? お酒に合う良いお魚料理が味わえるわ」
「こいつを知っているか? ドラゴン種相手にも負けないブレス耐性が付くブラキドンの毛皮、これを買わずに街の外には出れないぜ!」
街の両サイドでは沢山の店が軒を連ねていて道行く人に呼び掛けている。
なんというか非常に活気のある場所だ。
人の多さといい竹下通り、いや、上野のアメ横っぽさがある。
なんとなく行った事のある場所に似ていて嬉しくなってしまう。
まあ、売っている物は完全に日本の物ではないんだけど。
「ニヤニヤしてどうした?」
「いや、別に」
「ふむ、静かな場所も良いがたまにはこういう賑やかな場所も悪くないな」
ガイラルが微笑む。
「お前普段どこほっつき歩いてんの?」
「主に人里離れた山や湖や墓地や……そこらにある神殿やらだな」
神殿ってそこらにあるのかな。
「街には来ないのか?」
「あまりな、用もないからな」
「今は何か用があるのか?」
「…………」
ガイラルは不敵に笑うだけだ。
こいつ俺を気に入ったとか言ってるけど、どうもそれだけじゃない気がするんだよなあ……他に目的がありそうなんだけど。
「あれだ」
ユウハ様が叫ぶから自然と顔が前に向いた。
そこにあるのは一際大きな建物だ。
白亜の塔が幾つも立ち、どこか外国の修道院に似ている気がする。
石造りでそれでいて入り口からして広く高く、天井まで概算十メートルはありそうだ。
「これ学校なのか?」
「いかにも、キーン一大きく優秀な学生が集まる学校だからな」
「そんな学校の教授だったのか……もしかしてユウハ様って凄い人だったりする?」
「そんなにじゃない。元だし。世話になったロハ学長が死んでからは全然だ」
ユウハ様が悲しそうに笑う。
なんとなくだがそのユウハ様の後ろ盾だったロハ学長がいなくなったから今の現状になったんじゃないか?
考えながらじっと学校を見ていると学生たちがわらわらと出てきた。
黒を基調とした制服はぴっしりとしてかっこよく、出て来る学生も見るからに頭が良さそうだ。中には俺より年上に見えるのもいるがそいつもまた頭良さそうだ。
俺がこの中に入るとしたら……少し想像してやっぱり無理だと思ってしまう。
まず間違いなく浮く未来しか見えない。
やっぱり俺はこの世界で学校に通うのは諦めた方がいいかもな。
なんて考えていると学生の一人がこちらを見て、驚いたように指さしてきた。
ユウハ様を……だ。
「教授! ユウハ教授!」
「ユウハ教授!」
学生が集まってきた。
「……久しぶりだな、トクス、シューベラに……」
学生の名前を言っていくと学生たちは嬉しそうにしている。
「学長もユウハ教授もいなくなったからデルコイ教授がそのまま学長になりそうで……」
「本当ならユウハ教授が学長になるはずだったのに」
「過ぎた事だ、仕方ない」
ユウハ様はまあまあとなだめている。
「人望はあるようだな」
ガイラルの言う通りこうしてみると立派な教授だったのだなと思う。
パデキアの村でのあれは気のせいだ、うん。
暫く離れた所で待っているとようやく学生から解放されたユウハ様が帰ってきた。
「昔の教え子たちだ、昔とは言ってもそう何年も前ではないがな」
「好かれてるんだな」
「……それなりだところで、そろそろ宿を探さねばならんな。今日はどこに泊まるつもりだ?」
「え、特に考えてなかったですけど」
「ではこの近くにいい宿があるからそこへ行こう、良いか?」
「俺は良いよ、ガイラルは?」
「我もそれでいい」
「よし、では連れて行こう」
ユウハ様がやや上機嫌に歩いて行く、きっと昔の教え子に会えたから喜んでいるのだろう。
ふと思ったのだが。
振り返り、ガイラルを見る。
「そういえばお前金あんの?」
ガイラルはキラリと光る宝石を見せてくる。
「死者の寝床は宝物庫という言葉がある」
なるほど、魔王のくせに墓荒らしをして宝石を集めたと。
罰当たりな奴め。




