学術都市キーン
フューゲルの街を出てから一週間。
山を越え谷を越え、時には馬車から降りて足腰を伸ばして……。
ていうか馬車快適すぎな。
本当は歩いてくる予定だったが、ユウハ様が歩きたくないとごねるから結局俺達は、フューゲルから馬車に乗って来た。
高かった……これで確実に俺が学校に入る事は不可能だな、うん。
もうすぐ着くって話だったが。
「まだ着かないのか?」
横でユウハ様がぶー垂れている。
しかしおかしい、今日の昼前には着くって話だったがもう昼になるのに着いてないぞ。
「昼に着くって話だったのにな」
「困ったな」
「困ったって何が?」
昼に着かなければならない何かがあったんだろうか? 言ってくれたらもっと早く着く方法考えたのに。
「買っておいた保存食ももう尽きるぞ」
「飯の心配かよ」
こいつ更にキャラを増やす気か、つっても腹ペコキャラはその華奢な身体に似合ってないからせめて無気力キャラ演じ……いや、駄目だな、こいつ癇癪持ちだった。
「我慢しなさい」
「ぶー」
ユウハ様が不満げに頬を膨らませる。
子供っぽくて可愛い、つかこいつ何歳なんだろう?
「そういえばユウハ様って何歳なの?」
「何歳だと思う?」
誇らしげに聞いてきたがこれだるいよね。
「いや、いい。変な事聞いて悪かった」
「え、待って諦めるの? 聞いてよ、ねえねえ」
子供かよ、やめろ、袖を引っ張んな。
「はいはい、分かったから。んーと、15とか?」
「ぶー、正解は18でした」
18? この見た目で? バグってんじゃねえの?
「…………」
「何その目は」
「別に」
「文句あるの? ぶっ殺されたいの?」
「分かった、分かったから服引っ張んな。あと迷惑かかってるから」
馬車は決して貸し切りではなく他にも数人乗り合いの人が載っているのだ。
騒ぎ過ぎて迷惑をかけてはいけないと思う。マナーを大事にしたまえ。
それにしても……。
「なんか止まってないか?」
ずっとしていた馬車の揺れが収まっている。というか馬車の窓から見える景色が全く変わっていない気がするのだ。
「というか俺ら以上に外騒がしくないか?」
耳を澄ませば悲鳴まで聞こえるような気がするのは俺の幻聴だろうか?
とりあえず前の方にいる御者に話しかけてみる。
「すいませーん、何かあったんですか?」
御者は慌てたように振り返る。
「何かじゃねえよ、キーンがモンスターに襲われてるんだ! しかもありゃワイバーンだ、空を飛んでるからなかなか倒せないでいるみたいだ。今ならこっちに気づいてないから逃げられるかも」
「へえ、ワイバーンね」
強いのかどうかわからない。
「ワイバーンって強いの?」
ユウハ様に聞くとユウハ様は何言ってんだとばかりに俺を見る。
「ワイバーンは飛竜種だな、一応飛竜種の中では弱い方だけど空から火炎弾を放ってくるから下手なモンスターより厄介だな、腐っても竜種だからちんけな魔法じゃ傷一つ付かないし」
「ふーん」
でもコンクリートなら大丈夫じゃね?
俺は試してみたくて早速馬車から降りて街の方へ歩いて行った。
遠目で見ていると確かにワイバーンは街を襲っている。
厳密には街の正門。
外で追い払おうとしている兵士やら冒険者やらを火炎弾で薙ぎ払っている感じだ。
「お前ってたまに命知らずな事始めるよな」
「なんとなくコンクリート魔法なら行けるんじゃないかと思って」
「…………やってみたら?」
俺は掌をワイバーンに向ける。
そして――
【コンクリートキャノン】
脳内のイメージと同時に口を開くと手のひらから拳大のコンクリートが凄い勢いで飛んで行って。
『グワゥ!』
ワイバーンの身体を貫いた。
ただ、どうも小さい。
もう少し大きなコンクリートの塊にならないだろうか。
頭の中のイメージを強め、掌に更に意識を集中すると。
「お」
出た。
さっきと違い、バレーボール位のコンクリートの塊だ。
もう少し数が欲しいな。
そう思ってイメージを強め、更に掌に集中すると。
「おお」
コンクリートの塊が5個出来ているではないか。
空中にぷかぷかと浮いている。
これならいけるだろ。
「お、おい。弟子、いや三浦?」
「ちょっと待っててくださいね」
【コンクリートキャノン】
俺が口にするや否や、五つのコンクリートの塊がワイバーンへと一直線に飛んでいき。
『ガァアアアアアアア』
甲高い声と共にワイバーンが空中からきりもみに落ちていった。
「うん、いい感じだな。それで何か?」
「……何でもない」
「でもさっき」
「何でもないったら何でもない。それより様子を見に行こう」
確かにどうなったか気になるな。
俺はユウハ様と落ちたワイバーンを見に行くことにした。
☆☆☆
ユウハ視点
はぁ……とため息をつく。
先を歩く弟子をちらっと見る。
「詠唱破棄に魔法強化に魔法増殖。魔力は尽きずにぴんぴんしている」
ずっと思っていたがこいつ一切詠唱をしないんだよなあ……。
普通するはずの詠唱を破棄してそれでいて大体威力が決まっているはずの魔法をどうやってか強化してあまつさえ魔法の弾の数をそのまま増やして、更に魔力は尽きない。
私自身魔力があまり多い方ではないにしても、ワイバーンの硬い魔法耐性を持っている鱗を貫く魔法を放つとなれば一発でも相当魔力が減る物だが、こいつはワイバーンの鱗を貫くほどの魔法を複数撃った後も涼しい顔をしている。
聞けば最近冒険者になったっていう、いわば初心者冒険者。
それでいて私に対する態度も普通でそこらの人間より優しい、良い奴だ。
それは断言できる、だが。
なんかこいつの魔法能力おかしくないか?




