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パデキアの村2

 思い立ったが吉日。

 そのまま帰ろうかと思ったが、一応向井に解決できるならしてきてと言われた手前何もせず帰るのも気が引けた。

 どうせ帰るにせよ、何かしらして駄目だったわ。の方が言い訳として形になるはず。

 ――というわけで。


 おかしな集会が終わった後、俺はそのユウハ様とか言う教祖様に会う事にした。

 多分こいつ向井の敵側の神の派閥っぽいけどな。

 村人に聞いてユウハ様が住んでいるという家に来た。

 村長の家の近く、奥まったところにあるのだがどう見ても村長の家よりでかい。

 村長の扱いをもっとよくしてやれよ!

 思いつつ、ドアをノックする。

 応答はない。

 留守だろうか?

 もう一度ノックしようとしたとき。


「うがああああああ!」


 部屋の中から大きな声が聞こえた。

 ドアノブを回すと普通に開く。

 田舎の防犯意識の低さを感じるがこいつこの村の人間じゃねえと思うけど、まあいいや。

 悪いと思いつつも俺はこっそり家の中に入った。


☆☆☆


「くそくそくそ! あんの糞神! 何が素敵な貴方に少しの間で良いから私に手伝って欲しいよ! 騙された、完全に騙された! ていうか元はと言えば悪いのは脳筋共のせいでもあるし、天才の私を馬鹿にして、私の研究は完璧だったのに不細工だからやら、良いけど筋肉が足りないとか研究と関係ないじゃない、意味わかんないし! 死ね、本当に皆死ね! 私とこの村の人間以外皆死ねばいい、私を認めてくれないこんな世界滅べばいいのに!」


 半狂乱になりながらユウハ様は暴れていた。

 その顔は非常に整っているのだが目からは涙が流れ、鼻は真っ赤だ。

 少し前まであんなに堂々と村人の前で語りかけていた人物と同じとは思えない。

 これ関わると面倒臭そうだなあ……。

 少しでも話が出来たらと思ったが無理そうだと決断。

 逃げようとして……。


「あっ」


 ふと泣いていたユウハ様と目があってしまう。


「…………」

「……初めまして」

「うああああああああ!」


☆☆☆


「こほん、あらあら、お客様かしら?」


 絶叫する事一分。バタバタと部屋の奥へ逃げたかと思えば暫くして何事もなかったかのように出てきた。

 その目は赤い。


「あの、さっき泣いてませんでした?」

「何の事かしら?」


 上品ぶってしらばっくれてるみたいだ、あんな醜態さらしておいてこれは凄いな。


「いえ、泣いてましたよね?」

「ちょっと何を言ってるか分からないわ」


 身体が震えているのは気のせいだろうか。


「先ほどの恨みつらみは……」

「うがああああああ!」


 いきなり襲い掛かってきた。

 咄嗟に掴みかかってきた手を逆につかみ取る。

 思ったより力は強くないようだ。これは勝てる気がする。


「お、落ち着いて。落ち着いてくださいユウハ様」

「殺す! 絶対に殺す。お前を殺して私は生きる!」

「そこは一緒に死んどけよ! 待てって、ちょっとま、待てっつってんでしょ」


 咄嗟に背負い投げをしてしまった。


「きゅう……」


 ユウハ様は気を失ってしまったようだ。これは不味い、やってしまった。

 俺はすぐに部屋を探して紐を見つける。


「これで良し」


 また襲い掛かってこないように近くの柱に縛り付けた。

 ただ、何か間違えたような気がするが気のせいだろうか?


「私は一体何を……んん? 何だこれ」


 暫くしてユウハ様は目を覚ました。


「ああ、目が覚めましたか。俺は三浦冬馬って言います、初めまして」

「む、これはこれはご丁寧に。私はユウハだ。ところでこれは一体?」

「ユウハ様が暴れないようにしているのです」

「そうかそうか、はっはっは。すぐに外せ! 殺すぞ!」


 いきなり怒りだした。目が覚めて早々こいつやばすぎだろ。


「落ち着いてください、一応きつめに縛っているので外れないはずです。落ち着かないと今度はもっと酷い事しますよ」


 俺の言葉を聞くや否やユウハ様はびくりと身体を震わせ静かになった。

 そそ……と無駄なのに俺から逃げようとしているのはどうしてだろう、むしろ逃げたいのは俺の方なのだが。


「平和的に話をしましょう、そうすれば変な事はしませんよ」

「ほ、本当か? 酷い事しないのか? 私の身体は思ったより貧相だぞ、こんな無茶をしてまで手に入れる価値は無いぞ」

「そんな事しませんから大人しくしてくれれば拘束も解きますし。……俺も一応向井っていう奴の依頼を受けて嫌々調査に来ただけなので」

「向井? どこかで聞いたことがあるような……。私は四大神の一人、レーゼフォンしおりんの第一の使徒ユウハである」


 レーゼフォンしおりんね。

 この世界の神様のネーミングセンスはどうなってんだろうな。


「ていうか何でこんな事してるんですか?」


☆☆☆


「本当信じられないんだよ、私研究者で学術都市でも一番の学校で教鞭も取ってたんだけど、見た目があれだからって全然先生扱いされない。酷くない? その上、ちょっと良いなと思った人には完全に子供扱いされてさ。研究結果を見せて偉くしてほしいって言ったら、でも君獣人だし不細工だから上の評判も悪いし……だって。研究と何の関係があるんだって怒りたくもなるよ、なるよね?」

「まあそうですかねえ……」


 聞かなきゃ良かった……そう思ったのは拘束を外し、話を聞き始めて十分経った頃からだ。

 こいつ本当に愚痴が長い。相槌討つのもそろそろ疲れてきた。


「誰にも褒められなくてやさぐれてたら神様が来て私が活躍できる場所を用意してくれるって、そしたらこの村を紹介されて、最初は良かったけど段々飽きてきて村から出たかったのに今度はタイミング悪くこの辺に危険なモンスターが住み着いてしまったから全然動けなくなってしまって……それもモンスターに好き勝手させてる魔王のせいだ」


 そして最終的にぐすぐすと泣き出した。めんどくせえ。

 ん? 途中気になる単語が出てきたな。


「え、何この世界魔王とかいるんですか?」

「いるに決まってるだろ、むしろ神様がいるのに魔王がいない世界なんてあるのか?」


 日本は神様がいるのに魔王がいなかったなあ……いや、実際に神様がいたのかなんて分からないか。

 こっちにはマキシマムやらコンスタドールやらレーゼフォンやらよく分からない名前の神様はいるのにね。


「えっと、ユウハ様」

「いいよもう、敬語やめろ。この村の奴らは何でか私に敬意持ってくれてるけど、お前別に私に敬意持ってないっていうか元々敬語を使うような殊勝な奴じゃないだろ? なんとなくわかるんだよ、無理すんな」


 こいつに俺の何がわかると言うのか、とはいえカイン達といる時とか話していたが敬語は苦手な方だ。

 使わなくていいなら使う必要も無いか、気が楽だし。


「とりあえずお前が苦労した結果拗らせたって事は分かった」

「お前って言うなユウハ様って呼べ」

「敬語使わなくていいって言ったじゃん」

「敬称については言ってない」


 こいつすぐ泣く上にめんどくせえ……。


「何か言ったか?」

「何も、結局お前どうしたいんだよ。何なら俺手伝うぞ」


 向井の奴可能なら解決しろとか言ってたな。それって普通に考えて半強制だよな、多分こいつを村から出せば村の変な空気も治るし解決するはず。


「手伝う?」


 はん……とユウハ様は俺の容姿を見て鼻で笑う。


「私の耳を見て対応変えなかったのは百歩譲って認めるが、お前じゃ無理だろ、弱そうだし」

「弱そうって何か力が必要なものあるのか?」


 ユウハ様は目を細めながら腕を組む。


「私はもう元の学術都市に帰りたい、だからこの村を出たいんだが。最近この村の周辺にはモンスターが増えていてな、特に二体危険なモンスターが住み着いてるんだ。縄張り争いしてるまである」

「マジか」


 そんな危険なモンスターがこの村の周辺に?

 あれ、じゃあもしかして俺もここから出れないんじゃね? 調査終わったとしてもギルドに報告に行けないじゃん。


「どんな奴だよ」


 はぁ……と深いため息をついてからユウハ様はゆっくりと口を開く。

 無知ですまないね、この世界の事はよく知らないのだよ。


「まずアスケロクロウラーだ、口から強靭な糸を吐き敵をからめとり食べるモンスターだ、危険度はA級、全身固い甲殻に覆われていて外からの攻撃に強く、それでいてでかい」

「黄土色で頭が緑色の斑になってる奴か?」

「そうだ、単純だが強い」


 あれか、確かに強そうだった。

 コンクリートキャノン一発で沈んだから覚えていないけど。


「それともう一匹、ソードベアー、手が剣のような形をした熊型のモンスターでデカく速くそして決して一撃で沈まない耐久力を持った強力な熊だ。一発で仕留められなければ剣の形をした手で殺されてしまう。見たら死ぬと思え」

「胸だけ星型に白い毛がある熊か」

「そうだ……ん?」


 そんな恐ろしい奴だったのか、一発で仕留めたから知らなかった、気を付けよう。

 うんうん考えているとユウハ様が顔をひしゃげながらこっちを見ている。

 変顔しても整った顔立ちは可愛い、凄いなこいつ、これで偉そうなくせにすぐ泣きだすのと癇癪持ちでいきなり襲い掛かってくるのと、愚痴が始まったら長時間止まらないという三大めんどくさい属性がなければこんな彼女欲しいと思った位だ。

 正直俺ムチブリより華奢なロリの方が好きだし。


「そういえばお前どこから来たんだ? 村周辺にそいつらが徘徊してるのに、というかどうしてそいつらの事知ってるんだ?」

「多分そいつらを倒してだけど……」

「え?」

「え?」


 ユウハ様は今まで見た事のない程のアホ面をかましていた。

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