戦闘と新たな能力
軽いネタバレ含む用語説明!
主な用語
竜使い
この国に昔からある職業で竜と心を通わし使役する人を指す。昔は選ばれた者しかなる事は出来なかったが"黒星院"の開発した装置により一般でも習得出来る職業となった
竜王使い
一般の竜使いとは違い竜王が直々に選んだ者しか継承されない職業。しかも契約するにはその竜王が住まう土地でしか契約の儀が出来ず更に見届け人として竜使いが居なければ契約が出来ない
継承の儀
立会人の元竜王と契約者がその身を呈して互いの力をぶつけ合い竜王に認めてもらう儀式
半竜体
竜使い専用の術技で人と竜のデメリットを失くした姿。パートナーと魂のみシンクロする事で最大限の力を出すことが可能。ただ欠点として竜が受けた傷をシンクロした竜使いも請け負う事
紅月の家から徒歩数分目的地である海焔山に辿り着いた一行はその猛々しい山を見上げ息を付く。噂と違わないその山はそこに住む竜王と鼓動しているかのよう時折煙を吐き出していた。
「それにしても暑っついわね」
「フッ。フーラやはり君でもこの暑さには耐えられないかい」
「確かに私も種族はフレイムドラゴンで属性も炎だけどこの暑さは異常よ異常!」
「あはは。だけど普段の海焔山に比べたらまだ涼しい方だよ」
「嘘でしょ...」
凪の隣で今にも倒れそうになっているフーラに2人して笑う。フーラは凪のパートナーであり大切な相棒竜だ。聞いた所によるとフーラは元々野良で今よりヤンチャだったらしく出会う人全てに戦いを挑んでいたものの偶々通りかかった凪に勝負を挑んだはいいが結果として完敗。その強さと優しさに心惹かれたフーラはそのまま強引に凪と契約を交わしたとフーラが言ってたが、凪によると実はフーラが凪に一目惚れし猛アタックの末、凪が折れ晴れて恋人となったのが真実との事。凪の横にピッタリと寄り添いながらフーラはふと疑問を口にした
「でもなんで紅月はここの主と契約結ぶ事になったのよ?」
「ん~それは昔色々あってね...」
フーラ達竜の間ではこの海焔山の主である爆炎竜王は五大竜王の中でも契約難易度が高いとされていてここ数百年契約出来た者は居ないとされている。理由としては元々竜王クラスになると契約は困難である事とこの山の主は己にも他人にも厳しく何より気性が荒く戦闘狂であるとされていて扱いがどの竜王より難しいが故に誰一人として契約を交わすことが出来なかったのだ
「色々ねぇ···けどあの竜王が紅月と契約交わすなんて余っ程の事があったのね」
「そうなるかな?っとそろそろ山頂に着くよ」
「え!?もう!?」
「どうやら海焔山の竜王が気を利かせてくれたみたいだな」
「そうだね」
「え?」
そう言い合う2人にフーラはふと気付く。先程まで確かに峠道に居たはずなのに今目の前に広がるのは白い煙と辺り一面に舞う白銀の灰、そしてポッカリと開いた穴の中唸るように動くマグマが湧き上がっていた
「さて、そろそろ始めなきゃ」
「あぁ。それにどうやらここの主も紅月を待っていたみたいだぞ」
凪の言葉と同時、先程より激しくマグマがボコボコと音を立てながら吹き上がり辺り一面熱風と火の粉が覆い尽くすと巨大な火柱が上がりそれに合わせて地を割くような咆哮と共にこの山の主である竜王が姿を見せた
「久しいな紅月よ」
「うん。久しぶりだねフェル」
「あぁ。してそこの2人は誰だ?」
「っ...」
紅月に向ける穏やかな瞳から一変、フェルは紅月の背後にいた凪とフーラを睨み付け唸る。その鋭き眼孔と殺気に凪とフーラは思わず息を飲んだ。そんな緊張感を割くように紅月がフェルに話しかけた
「彼は俺が養成学校で出会い親友となった凪とそのパートナーのフーラだよフェル。そして俺達の契約の儀の立会人」
「そうか。紅月の知り合いとなれば構わん。怖がらせたようですまなかったな」
「いや気にしてないから大丈夫だ」
「え、えぇ」
深々と頭を下げるフェルに2人は首を横に振り少しだけ後ろに下がりながら答えると凪は胸元から1つの石を取り出し空へと放つ。放たれた石は淡い光を放ちながら辺りを包むかのよう光の波紋となって広がっていった
「準備は出来たぞ紅月」
「ありがとう凪」
「ほぅ。古の結界術か...その歳で大したものだ」
「お褒めに預かり光栄です」
感心したようにフェルがそう凪に告げると凪は小さく微笑んで頭を下げる。勿論隣にいたフーラもだ。そんなやり取りをする彼等に待ち切れなくなったのか紅月が手を鳴らす
「戯れ言はそこまでにしてそろそろ始めようよフェル」
「かかって来い紅月。お前の力を俺に示してみよ!!」
放たれる焔を交わし紅月は手にしていた剣を掲げ真っ直ぐフェルへと立ち向かっていった
あの日の約束を果たす為に──!
「...何か信じらんない戦いね凪」
「信じられなくともこの儀式は紛うことなき現実だ。ありのまま受け止めるんだフーラ」
2人の目の前では互いに全力を出し合い真剣勝負を繰り広げているフェルと紅月の姿があった。
竜と契約を交わす即ちそれは竜と戦う事を意味する。互いに最大の力をぶつけ合いお互いの精神の奥の奥までその力を注ぎ込み内なる魂と契りを交わす・・・─
それが一般の竜使いにはない竜王使い専用の契約の義──
凪も初めて契約の儀を見たがこれ程まで激しくも美しい契約の儀を凪は見た事がなかった。焔と炎がぶつかり合い火の粉がまるで蝶のように舞う中で戦う紅月とフェルの姿は洗練された演武のよう輝いていた
「流石だな紅月...よもやここまで強くなるとは」
「当たり前だろ?君と契約する為にこの6年頑張ったんだから」
ただフェル君に会いたいが為に──
紅月の言葉にフェルはふとあの日の出会いを思い出す。フェルはとある事件により海焔山へと封じられていた身であった。長い年月をかけ力を蓄えていたがふと人の気配を感じ目を開いた先に居た小さな童が紅月だった。あの頃の紅月は幼いながら瞳の奥底に闇を宿していた。曰く紅月には不思議な力があり瞳を見るだけで意図せず相手の意思を奪うというもので街の人間に忌み恐れられていたという。更にそれだけではなく紅月は病を患っていて同い年の子供達と満足に遊べた事は無くいつも1人で過ごしていた。泣く事も笑う事もしなかったあの日の紅月...それが今身も心も成長し自分との約束を果たす為己が前に立っている
成長したな紅月──
ククッと喉で笑いフェルは纏っていた焔を消すとゆっくりとした動作で紅月に向かって頭を垂れそして手の甲に刻まれた紋章に口付けた
「我、汝を主と認めあらゆるものから主を護る事をここに誓う。我が名は海焔山が主 爆炎竜 王インフェルノ・フレイムドラゴン!!竜王使い紅月・アル・インフェルノイドに焔の加護ぞあれ!!」
「っ!」
高らかにフェルが宣言すると紅月の右手の甲に痛みが走る。何事かと思い見遣るとそこには深紅のルビーが輝いていた
「これ、」
「それが俺との契約の証だ。普通の竜と契約を結ぶだけならその竜の紋が身体のどこかに現れるのが一般的だが竜王となればその個体と同じ力を宿した宝石が右手の甲に現れる」
「俺の場合は焔の王。故に宝石は深紅のルビーが契約の証となる」
「そうなんだ...って事は他の竜王使いも右手の甲に宝石が付いてるの?」
「あぁ。もし他の竜王使いとコンタクトを取りたければ右手の甲を頼りに探すといい」
「分かった」
「話は済んだか?2人とも」
先程まで2人を見守っていた凪が控えめに声を掛ける。その表情はやや曇っているのが伺えた
「凪どうしたんだ?顔色が悪いけど...」
「実はお前達が話してる時ユナイトに居るクリストから連絡が入ってな..."狂王の使い"が現れたそうだ」
「!?」
「しかも奴らが襲おうとしているのがこの海焔国だそうだ」
凪の発言と同時に黒い雷が降り注ぎ暗雲ただよう隙間、赤き瞳をギラつかせた黒い竜が2人と2匹の前に舞い降りた
『狂王に仇なす愚かな竜使いとその国に破滅をぉお!!』
「あれが狂王の使い黒竜...」
「紅月下がれ!フーラ!!」
「ええ!凪!!」
『解除!!』
凪の掛け声に合わせフーラはその身を竜人と変え 凪との間に赤い縄のようなものを繋げる。そして炎を身に纏いフーラは黒竜から放たれたブレスを爪で切り裂き勢いのまま黒竜に攻撃すべく立ち向かっていった。そんな人であり人ではない姿となったフーラを見てフェルはポツリと呟いた
「ほぅ...あれが"半竜体"か」
「"半竜体"?」
フェルと一緒に後退した紅月が見上げながら尋ねるとフェルはコクリと頷き話し始めた
「"半竜体"とは人と竜が混じった姿を示す。つまり人間の能力と竜の能力を掛け合わせ更にパートナーとシンクロする事により効率よく最大限の力を引き出せる"形態"って事だ。それを担っているのが互いに繋がっているあの綱だ」
「つまり人間のデメリットと竜のデメリットを無くしたって事?」
「簡単に言えばな…だが一見デメリットがない"半竜体"だが一つだけ欠点があるとしたらシンクロしたパートナーにも攻撃の余波が来る事だ」
ツイっとフェルが示す先に目を向ければフーラが受けた場所と同じ場所に傷が付いている凪の姿があった
「あれが"半竜体"のデメリット」
「何かしら力を得るにはそれ相応の対価が必要となる。”半竜体”はパートナーである竜が絶命すれば同じようにパートナーも絶命する」
ドォン──!
「!?」
炎と雷が激しくぶつかり合い爆風を起こす。砂埃が晴れるとそこには膝を着くフーラと凪の姿があった
「凪!!」
「っ!凪アイツら何かおかしいわ...!!」
「あぁ...狂王の使いの中では最下位の兵な筈だが明らかに奴は上位クラスの力を宿している」
『くかか...当たり前だろぅ貴様らが力を付けているように俺達も力を付けてんだよ!!今の俺は貴様らより強い!!!』
「ぐっ!」
「あかっ!」
ゲラゲラと笑い黒竜は鋭い尻尾で凪とフーラを弾き飛ばす。呻き声を上げフーラと凪は岩肌に叩きつけらた
『所詮貴様らに狂王様を倒す事は不可能なんだよ!』
まるでトドメというように黒竜は2人に向かって最大級の雷を放つ。だがそれは2人に当たることはなくかき消された
『なっ!』
「それ以上俺の親友を傷付ける事は許さない」
「っ紅月...!いくらお前が竜王使いだとしても契約したてのお前で、は...」
ザッと2人を守るよう黒竜との間に入る紅月に凪は叫ぶもその姿に目を見開いた。声は確かに紅月のものだが姿は明らかに違っていたのだ。短かった髪は少し伸び青味を帯びていた髪色は深紅へと変わっていた。その頭部には見覚えのある角が生えていて、ゆっくりと振り向いた紅月の瞳は蒼と紅のオッドアイへと変化していた。何より紅月が放つ気配は彼竜まさに竜王そのものだった
「あ、紅月...」
「説明は後。今はあの竜を倒す事が先だ」
『倒すぅ?貴様が俺を??クカカ!戯れ言をほざくな小僧!!竜王使いだか何だか知らないが貴様も俺には...っ』
「俺には──何だって?あぁもう聞こえないか」
カチリ───
と金属音が響き数秒もしない間に黒竜の身体は霧となり消えていった。後に残されたのは小さな装置と黒い宝石。紅月inフェルはそれを躊躇うことなく踏み潰すと凪達に近寄り手を横に振り抜いた。すると2人の傷は一瞬の内に消えていて戦闘前と変わらない姿に戻っていたのだ
「コレは一体...」
「何が起きたの...?」
「良かった...2人とも」
2人の傷が癒えたのを確認した紅月の身体が淡く光る。そして光が収まるとそこには意識を失くした紅月を抱える1人の女性が居た。
「初めてにしては上出来だ紅月よ...全くお前には本当に驚かされるわ」
「貴女はまさか...」
「説明は紅月が目覚めてからだ。一先ず山を降りるとしよう」
紅月を抱えたままフェルは凪とフーラに自分へと掴まるよう指示を出す。戸惑いながらも2人は指示通りフェルに掴まるとそれを確認したフェルはスっと腰を落とした。
「振り落とされるなよ?」
パリッ─
その声と同時小さな音が聴こえたかと思うと一瞬にしてフェル達の姿は見えなくなり気付けば見慣れた家の前に辿り着いていた
「は?」
「えっ?」
「うむ。初めてだが上手くいったな」
イマイチ状況が把握出来てない凪とフーラを他所にフェルは満足そうに頷くとさっさと家の中に入っていく。暫くポカンとしていたがハッと我に返り2人はフェルの後を慌てて追い掛けていった──