あるカメラマンの話
天野さんより「チート財布チビも拾ってみたら?」と言っていただいたので
少しショートショートを書こうと思います。
どんな人が拾ったら面白いでしょうね?
ライバルを蹴落としたいサラリーマン
仕事に夢を失ったカメラマン
名誉欲の強いデザイナー
収入証明を得るために、宝くじを買い続ける男(三億使って三億得る的な)
自分用の登り窯を作って山籠もりする才能のない陶芸家(才能があれば細川元首相ですね・・・)
アイドル好きなOL
なかなか話にまとめるほど膨らまないのですが、思いつくままに。
絵画は写真の誕生により、自由になった。
記録媒体という役割が、写真にとってかわられたことでその幅が広がった。
もちろん役目を奪われた当初は、色々な苦しみがあっただろうけど、今絵画はとても自由だと思う。
写真はどうだろうか?
僕はしがないカメラマンだ。
通販のカタログ写真を撮ることが僕の仕事。
ワンピースはこう、時計はこう、バッグはこう、全て撮り方が決まっている。
マニュアル通りに商品を撮り、加工する。
僕の会社はお手頃価格の便利グッズの会社なので、商品をキレイに撮りすぎてはいけない。
お客様に「写真と違う」と思わせてはいけないのだ。
今、カメラマンの仕事は激減している。
廃刊した雑誌も多い。
ケイタイを使えば一般の人でもそれなりの写真が撮れる。
良いカメラを使えば写真の理論なんか知らなくても、ちゃんと撮れるし、アングルがまずければ加工すればいい。
子供の写真を撮る大手メーカーの面接に行った時には
「男性ではなくカメラ好きの主婦を求めているんです」
と言われた。
デザイナーが写真を撮る。
ルポライターも写真を撮る。
一昔前だったらカメラマンとワンセットで動いていた職業の人たちが
自分で写真を撮るようになった。
もちろんそれでも頑張ってフリーで仕事をしている人も沢山いる。
アシスタントをやって、若いうちは人脈作りをする、と決めている友人もいる。
写真では食べていけない、と見切りをつけて元フィルム会社に勤めた友人もいる。
僕は一番中途半端だ。
写真に見切りをつけるほど諦めが良くない。
でも自分の写真に自信も持てない。
そんなわけで僕は今日もお手軽便利グッズの写真を撮る。
安っぽい商品をそこそこきれいに、でもきれいすぎないように撮る毎日。
そんなある日僕は財布を拾った。
不思議な財布だった。
お金が無くならないのだ。
財布から出した金額と同じ金額が足されている。
僕は財布をながめる。
写真を勉強し始めたころのことを思い出す。
あの頃僕は撮りたい写真があった。
そうだ。
撮りたい写真を撮ろう。
車を買って、最小限の荷物をもって旅をしよう。
そして好きな写真を撮ろう。
そこで出会った人、風景、何ともない瞬間、愛しい日常。
そんな誰かと共有したい幸せな瞬間を、僕の感覚で切り取る。
時間と空間のトリミング。
そんな写真を撮るために旅に出よう。
あの人どうやって生計を立てているんだろう?
と思うような人、周りにいませんか?
実はチート財布チビを持っているかもしれませんね。
チート財布チビは、なにがしかの制限がついていて、悠人さんが返しすぎた分のおこぼれを、貰っている財布、と思っています。
この話の彼は、制限に気付くほどたくさんのお金は出さないでしょう。