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異界飼育日記  作者: 二川よひら
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平凡な黒髪の男

 男は地味な茶色の布服に身を包み、腰にカバンをいくつかぶら下げていた。黒髪はおなざりな手入れを思わせる。

 格好を無視すれば、多分、その辺の駅ですれ違っても、誰も気にしない。やせぎすで、のっぺりとした平凡な顔。

 そんな男がダンジョンの中を、のろのろとうろついていた。横をのたくるネコウミウシより、男の歩みは遅い。

 男の足取りはフラフラだった。見るからに弱そうだった。

 だから、心の準備が出来なかった。

 男がすっとしゃがみ込んだ。そこにネコウミウシがいた。男の身体の下で、もふもふの尻尾がピンと跳ね上がる。そのまま男はゆっくり立ち上がる。左手に、だらりと伸びたネコウミウシを抱えて。

 最初は、何を簡単に捕まってるのかと考えた。でも、男はネコウミウシの尻尾を腰のベルトに慣れた手つきでくくり付けた。

 それで、ようやくわかった。あのネコウミウシは、もう、動くことはない。

 男の右手には、いつのまにか短い銀色のナイフが握られていた。鉛筆を削るのに使うような、小さくて頼りない刃物。

 男はそれを振るった。

 もう一度。今度は別のネコウミウシの背中に。

 音が聞こえてこなくて良かったと、頭の後ろ側でぼんやり考えた。

 これで、2匹目。だらりと力無く、多分、もう、息はない。それを男が腰に括り付ける。

 狩り、という単語が頭に浮かんだ。そうだ、これは狩りだ。

 男がまた屈み込んだ。そこにもネコウミウシがいた。流れるような直線の動きが意味する結果が、意識の真ん中に弾けるような理解を結んで、私はたまらずビンから目をそらした。

 はずみで、手から箸がぽろりところげる。

 そのままことりとビンを机に置いて、天井を仰ぐ。レンズのはまった左目が、ボヤけた像を結んでいた。

 膝で、ショーショーが小さく鳴いた。


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