おっぱいの常識
今回も止まり木旅館ご招待キャンペーン第二弾のお客様で、まっさー様著『いちご荘の彼女たち』から朝日羽衣様にお越しいただきます★
あたい、朝日羽衣は男性恐怖症だった。だったというのは、もちろん過去のことだから。正直、克服できるとは思ってなかったのだけれど、あたいの日常がガラリと変わったのはあの日に遡る。
まず、あたいの住まいのことから説明しよう。あたいはごく普通の高校三年生なんだけど、実家住まいではない。ではどこに住んでるの?というと、それは女性専用共同住宅! その名もいちご荘。可愛いでしょ? 地域の女子会と連動してるシェアハウスって感じかな。
住んでいるのはもちろん女の子ばっかりで、みんなで家事も分担してる。だけど、如何せん女の子だけでは困り事も出てくるわけで……。だから、やっぱり男手もほしい!という意見があることは前々から知ってたよ。でも突然どこの誰だか分からないような男がいちご荘に住むことになるなんて! あたいはそんなこと許せなくて、とりあえず「男なんてこの世からいなくなればいいんだ!」って言っておいた。美憂姉がスカウトしてきた人だから、世間一般的には変な人じゃないかもしれない。でも、そいつは男なんだ。それは、あたいが拒否するには十分すぎる条件だった。
けれど、現実は残酷。あたい以外のみんなはすぐに新たな住人、南川優くんを受け入れてしまったのだ。
あたいにはトラウマがある。女の子としてそれはそれは大きな傷が心の奥深くにあって、それは女性専用住宅に住んだところで癒える気配はない。あたいは本能的に、自衛行動として凶器を持ち歩くようになっていた。そして彼が、あの日あたいの部屋に来た時も……。
あれ。頭がぼんやりとする。
あたいは目を擦りながら身体を起こした。目の前にあるのは大きな看板。『止まり木旅館』? 確か自分の部屋から廊下に出ようとしていたはずなのに、どうしてこんな所にいるの? 見渡す限り白い霧。とにかく誰か人を探さなきゃ。あたいは、目の前に立ちはだかる扉を押し開けた。
***
「ご不明な点やお困りのことがありましたら、お気軽にお声がけください」
旅館の説明をそう言って締めくくったのは、ここ止まり木旅館の女将で楓さん。にこやかに。たおやかに。それはそれは人生経験の少ないあたいが体験したことのない、いかにも高級老舗旅館っぽいおもてなしなのだけれど、一つ突っ込んでもいいだろうか。
胸、見すぎ!
あたいは、視線を楓さんの顔から少し下に降ろした。あぁ……。あたいはGカップだけど、楓さんは……。何も言うまい、と一瞬思ったけれど、ここでついつい一言多く言ってしまうのがあたいだ。
「では、早速一つ質問いいですか?」
「何でしょうか?」
「あたいはいちご荘っていうところに住んでるんだけど、定期的にガールズトーク討論会っていうのをやってるの」
「ガールズトーク?! いいですね!」
楓さんって、ガールズなのかな? たぶんガールズだよね。うん。それにしてもすごい食いつき。この人、友達いないのかな?
「それって、どんなお話をなさるのですか? やっぱり恋バナかしら?」
討論会は毎回お題が変わるのだ。
「確かこの前は……胸の大きさについて討論したよ」
と、あたいが言った瞬間、ブッと盛大に噴き出した方が約二名。一人は楓さんのすぐ後ろに座っている方で、巴さん。さらにその後ろの障子裏にも一名いるが、これは男なので人数に数えることすら癪だね。
「いちご荘では、巨乳党と美乳党に分かれてて、あたいは……」
「巨乳党なのですね?」
確認してきたのは巴さん。楓さんの目は死んでいる。
「あ、やっぱり分かっちゃったか。楓さんはどっちなんですか?」
あ、楓さんの気配が空気になった。どうしよう。別に気を悪くさせるつもりはなかったんだけどな。
「なんかごめんなさい」
「いえ、お気になさらず」
「あ。そっか。楓さんは微乳党なんですね! うちもいますよ。家主さんの娘さんで、すみっちって言うんだけど」
一瞬顔に生気が戻った楓さん。あ、でもね。
「まだ十一歳だから、これから成長すると思うんだ。すみっちのお母さんは巨乳党だしねー」
あれ。楓さんが畳の上に突っ伏した。先ほどまでの女将らしい風格が皆無に。頭の上で、小鳥がピヨピヨ鳴きながら輪を描いて飛んでるよ。そこへ巴さんが話しかけてきた。
「あの、えっと、そんなことはさておき、せっかく女の子が三人も集まってるんですし、ここでもガールズトークしましょうよ! 羽衣様は今、お好きな方がいらっしゃらないのですか?」
好きというか。ちょっと最近親密になったというか。そういう人ならいるけど。でも。
「やっぱりー♡ ねぇねぇ、どんな人? かっこいい?」
「かっこいいというよりは、優しいというか……」
この人、見た目お姉さんだけど、中身はおばちゃんだな。この押しの強さと勢いには、あたいも抗えないものがある。
「そうなんだ! で、どこまで進んだの?」
「進んだというか。えっと、その……」
そしてついに、あたいはいろんなことをぶちまけてしまった。おおまかに説明すると、こんな感じ。あたいの天敵だった南川優くん。あたいがこんなにも嫌っていたにも関わらず、親睦を深める?とかであたいの部屋にやってきた。もちろんあたいはナイフを持ち出し、優くんに立ち向かうことになる。それなのにあれよあれよという間にあたいのトラウマの原因となる過去の出来事を話すことになってしまったのだ。こんな話聞いたら、さすがに向こうも身を引くだろうと思ったし、その時のあたいは「男なんて皆同じ」って思ってた。だけど優くんは違って……。上半身裸になったあたいを見ても、優くんは「可愛らしい身体。魅力的」って言ってくれたんだ。
「楓さん、大丈夫ですか?!」
「大丈夫ですよ。どうぞ続けて!」
巴さんは、鼻血を吹き出しそうな楓さんの背に手を添えながら変わりに返事をしてくれた。もしかして、刺激が強すぎた? はい。それでは気を取り直して続きを。
でね、あたいはそんな優くんのことをすぐには信用できなかった。だから、あたいを抱いてお腹回りを触ってみてって言ってみた。そしたらすっごく気持ちよくなっちゃって。その流れでいつの間にかあたい達はキスしたり、下の服も脱いで抱き合って……
「はい! そこまでー!」
あれれ、突然楓さんが起き上がった。かと思ったら、こちらに詰め寄ってきた。
「え?」
「え?じゃありません! 私なんて、結婚するまではずーっとそういうのと縁遠かったというのに! 最近の子はもう……!」
「楓さん、最近の子とか、そんな言い方すると老けますよ!」
巴さんの言葉に、再び撃沈する楓さん。なんか面白いかも、この人達。
「それに、肝心なことをまだ話せてないんだから、最後まで聞いてよ?! あのね、優くんはこうやって、あたいの男性恐怖症を治してくれたの! これはすっごく画期的なことなの! 別に、えっちな話を自慢したかったとか、優くんのことを思い出して和みたかったとか、そういうのじゃないんだからね?!」
その時、背中側からふわっと風が吹いてきた。振り返るとあたいの部屋のドア。ほら、名前だって書いてる。
「お帰りの扉が開きました!」
そうだよ。あたいは帰らなきゃ。止まり木旅館のお姉さん方を見ていたら、すっごくいちご荘が恋しくなってきちゃった。それに、優くんに会いたい。たぶん、いちご荘のみんなが優くんのこと好きなんだ。最近は優くんったら天然タラシなので、外にも女の子の気配があるし。でも、こんなに深いつながりがあるのはあたいが一番だよっ!
「この度はご利用ありがとうございました。もう二度とお会いすることがありませんよう、従業員一同お祈りしております」
「あたいは、楓さんの胸が大きくなって、旦那さんを喜ばせられるようになることを祈ってるよ! じゃぁね!」
あたいは、すぐにドアの向こう側へ飛び込んだ。だから、真相を知ることはできなかった。楓さんの旦那さんが竜であること。そして、竜は卵生であることから、人化した場合でも女性の胸はほとんど発達しておらず、凹凸がほぼ無いということ。だから、旦那さんの常識的には、楓さんの胸はごく普通のもので、好みの範疇だということに。
『世界変われば常識変わる。種族変われば好みも変わる。』
たまたまネットサーフィンして見つけた面白そうなブログ『とある旅館従業員の観察日誌』の中にそんな言葉と見覚えある旅館の写真を見つけ、あたいが一人、部屋で小さく叫び声をあげそうになるのはここから数日後。
羽衣ちゃんが登場するまっさー様著『いちご荘の彼女たち』は下記からお読みいただけます!
https://ncode.syosetu.com/n1339en/
この作品、ほんといろんなタイプの可愛い女の子達が出てきます。
その中で今回ご登場いただいた羽衣ちゃんは正直くせ者ではあるのですが、根はとても繊細で乙女な娘さん。
このコラボ短編では詳しく書くのを控えましたが、いろいろと事情がありますので、気になる方はぜひぜひ本編をチェックです!







