代役のお兄様
青年は気が付くと、少女に抱き付かれていた。
目の前には気の強そうな瞳を涙で潤ませた、美しい白い髪の少女。
その背後には執事と思しき男と、ヘンテコな魔法使いみたいな男が口を魚みたいにパクパクさせて、驚いた瞳でこちらを凝視してる。
ヘンテコな方は、漫画とかで読むドルイドに似てる気もする。
「マジデスカ?ニカウサァ~ン?」
「信じらんねぇ。これがカケラ?似すぎだろマジ?本人?」
「ハルトお兄様!!生きてたんだ!!」
「は?はると?」
青年にはハルトなんて名前は分からない。
部屋を見渡すと、なんか怪しい。
(床とか、ナニコレ。)
「あれ?お兄様、髪の色が黒いよ?あとその服装は?なんかニンゲンくさい気も……」
「え?あぁ、そうか?」
(どうなってんだ?これ……)
その様子を見て、アルスとニカウは「あ!」と声を揃えて気が付く。
「あ、あぁあ!!ハルト王子!!お疲れでしょう!!お風呂とか入られます!?」
「い、いや待って欲しいッス!ちょっと召喚師として確認しておきたいことが!」
それには姫も青年も首を傾げる。
「どうしたのだ?2人とも」
「「とにかく!!姫は向こうで待っていて下さい!!」」
揃えた声をあげて、2人は姫をグイグイと部屋の外に押し出すと扉に鍵をかけて、青年に詰め寄った。
「私、執事のアルスです!!お兄さん!!お名前は!?」
「はぁ………。ヒロタカです。」
「サモナーのニカウっス!ご出身は!?」
「日本。群馬。」
それを聞くと、2人は思い思いに落胆した。
壁に拳を叩き付けたり、頭を抱えて「オーマイゴーッッ」と叫んだり。その後に、2人でコソコソと何か会話し始める。
「あ、あの、ここ、どこ?日本?」
それを聞いて、2人はクル~リとゆっくりこちらを向く。
人形くさくて何だか怖い……。
「いいですか!!落ち着いて聞いて下さい!!ここは大魔界マギカニア!!ニーホンなどではありません!!」
「正確にはマギカニアのマギアル地域ピリピリヒル城ッス。」
「ぴり?」
「あなたに!!」
「お願いしたい事があるっス!!」
「はい?」
事の経緯を聞く。
どうやら、2人の言うハルト王子は自分にソックリらしいって事。幼女くさいあの娘はミナリア姫と言う姫でブラコンじゃねぇの?ってくらいお兄様大好きっ子シスターである事。あと、そのハルト王子が真夏の炎天下のアメ玉みたいにとけて、それを呼び出そうとしたら自分が呼び出されちまった。いわゆる事故だぜぇ、ヒャッハー!!
2人のお願いは、とりあえずハルト王子の代わりになって欲しいって事。影武者ヨロシク、入れ替わって欲しいってアンバイだ。
「ヒロさんの処遇とか知識とか色々と追い追い説明します!なんとか!!」
「もう夜中に不気味な鳴き声はイヤッス!!」
伝記物なんかは大好きだし、耐性ないワケじゃないが色々言われて頭がパンクしそうだ。
………そうそう!!
2人はこんな大事な事も言っていた。
帰す方法が分からない!あと、マギカニアは人間は食べられちゃう事もあるんだって!物理的にも精神的にもね!魔界だからね!!
帰れない時点で既にヒロタカには選択肢はなかった。
嘘か誠か食人文化あるとかいうカニバリズムな場所な時点でも、渋々と言うわけにもいかず、およそ快諾。
よく来た1年生!!
こうして、天文学的数値で悪いクジ運みたいにブラック企業に転職を繰り返していた27の俺は大魔界の辺境のお姫様の「お兄様代理」に就職した。