代役のお兄様
そして、今日で1週間が立った。
アルスは今日も今日とて、ミナリア姫の部屋の前で食事の呼び掛けをする。
「姫、お食事の時間ですよ?」
「……………。」
返事はない。毎日、少しでも姫を考え、心を痛めつつも料理を作り待つが、もう1週間立つ。
「お体に触りますよ?今日は姫の好きなワイバーンハンバーグですよ?」
「……………。」
ため息をつきつつも、少し心が折れそうにもなる。
「まだやってんすか?」
「ニカウ。何か進捗は?」
「いや、進捗も何も、姫、出て来てくんねぇじゃねぇッスか。」
「引っ張り出そうにもなぁ……。さすがに、1週間も泣き続けて、夜な夜なあの声を聞くと心が痛い。」
「つぅか、怖ぇッス。」
ニカウやアルスも魔術や武装で扉を破壊しようと試みたのだが、ミナリアは扉を何かの魔法で強化してしまい、「扉が無理なら!」と、姫に対して「ロリ顔バンザイ!」「姫、愛してるぅ!」とか何かよく分からない愛を叫びながらアルスが壁を壊す強行に出た所、盛大にはじき飛ばされて一日、気を失ったり、ニカウが窓を破壊しようと外から石を投げてみると窓に触れた石がヒヨコになって屋敷の家畜が10匹は増えた。
「どうなってんスかね?アレ」
「分からん。姫も魔界貴族だからな。先代の執事も知らないそうだ。」
「ところで、ハルトさんの事なんスけど」
「何か分かったのか?」
エルナリーナの話によると、ハルト王子は向こうの異世界で住人の夢に干渉している際に深手を負う様な襲撃に遭い、融解を余儀なくされたらしい。しかし、夢魔族は死を融解と呼ばれる訳であり、その溶けた欠片を集めれば王子は復活できるのではないか?とニカウは考えた。
「カケラを見つけたッス」
「何!?」
「それで、それを召喚してみようと思うんスけど手伝ってくんないッスか?カケラがあればハルト王子が復活するかもしれないッ………」
その時、扉がドカン!と勢いよく開いた!
「ス………」
「……本当か?」
ニカウもアルスも唖然とした。姫がついに姿を現した。目を真っ赤に腫らして、腫れぼったいような顔で、ややかすれた声ではある。なんだか水槽の金魚を連想させる。
「へ、へい………」
「本当なのだな!?」
思わず、三下っぽい返事をするニカウに詰め寄る姫。
顔が怖い……。
「けど、準備に時間……」
「すぐに!!」
ずぃっと般若の様な形相で詰め寄るので、ニカウも思わず首を上下にブンブンと振って、急いで準備にかかる!
やっぱり怖い……。
「アルス!!」
「は、はい?」
「ご飯!!大盛り!!」
それを聞くと、アルスは晴れやかな顔で「ただちに!!」と1つ返事で厨房へ走った!
「ハンバーグはよく焼くのだぞっ!!」
「はい~!!」
「……………お兄様!」
静けさの増した城で、ぐっと拳を握る。
握ってみるが……。
「………お、お腹へった」
廊下にはただ、ただ、姫のお腹からエマージェンシーが鳴り響くのみだった。
ヘナヘナとした動きで、まずは腹ごしらえに行くのだった。