音悦の精神寄生魔人
━━━━そして
「いません…………誰も」
魔人は再び元いた広場でウロウロと彷徨いながら、あちらこちらのものを叩いていた。
金属音・風邪を切る音・石を叩く音・水をはじく音・水を切る音・滴る音………。
「これでは私が作る音楽には遠い!!」
4つの腕から奏でられる音は雑音混じりで、とても音楽とは呼べたものではない。
もとより、彼が求めた音楽ではない。
「音楽とはなんぞ」
そこへやってきた。
新たな音を奏でる男。喉は太く、意思も強そうな瞳、四肢も太く、さぞかし良い音を奏でるに違いない。
「はぁ!?あなた!あなたあなたあなたあなた!!それもしらない!?ご存じない!?」
「……………。」
黙る男を前に、ひたすら優越に浸るようにニタリと笑いながら魔人は続けた。
「音楽は楽曲を様々な音で奏でる旋律!戦慄!音と音が連鎖して奏でるメロディー!それが音楽!!私は様々な音楽を耳にしてきた!!様々な楽曲や楽器を見てきた!!」
「……………。」
「しかし、しかししかししかし!!どれも違うんですよぉ!!この魔界に相応しくないふさわしくない!魔界はいつから腐ったのかっ!!」
唐突に魔人の腕が伸びる!それは信玄にベクトルを向けて、首を刈り取ろうとする!
「腐っておるのは貴様であろう」
造作も無く刃で受け止める。
しかし、それで終わるはずは無い!二手、三手、次が来る!!
「しぇははははは!!アナタはどんな楽器ですか!?その腕や足は!臓物は!」
「っ!!」
「喉は!口は!血は!骨は!筋肉は!どんな音を奏でてくれますか!?」
「知らぬわ」
さすがの信玄も笑ってはいられず、怒りからか腕を1本切り落とす!
「………ぬぁに?私の腕が減ったぁ?なんですかぁ、それはぁ」
「喋りすぎは早死にするわ、童」
(再生はしておらん。確かに、見届けたぞヘルナリナよ)
「ジジィの説教なんぞ音楽にも」
その時、振り上げられた腕に、どこからともなく射出されたワイヤーフックが巻き付いた!
ワイヤーは魔人の腕を封じる!放ったのは信玄が指揮した部隊の者だ!
「小賢しい!小賢しい小賢しい小賢しい小賢しい!!」
魔人は暴れ、そこかしこへ落雷を落とし始める!
しかし、誰1人に命中しない。それどころか、どこかへ雷は反れていく!!
「わ、私の音楽よ!どうした!私の音楽よ!」
「悪いが、細工させてもろうたわい!」
(ヒロの悪智慧はうまくいった。あとは………)
━━━━━某・建造物の屋上。
「やれやれ、間に合ったか」
「これで後は合図を待つだけか」
兵達が、それを見ていた。
避雷針と電気集めの魔術の設置。これにより、魔人の雷は届かない。もとはピリピリヒル城のピリピリツタの電気をどうにかするためのものだったが、それがここで役に立った。
「お嬢とアニキの準備は済んでる」
「あとはオジキ待ちか!にしてもよぉ……」
「なんだよ?」
「俺達、ホント幸運だよな!」
「うるせぇーなぁ」「なんだよ、気持ちわりぃ」
「ホントならあのままゴロツキでおっ死ぬだけだったのによぉ、今は美人の姐さんと男前なオジキの兵隊!」
「街を守る正義の味方ってか?まぁ、憧れなかったわけじゃねぇな」
「あ~、それ分かるわ!お、合図だ!」
信玄が刀で天を突く動作をする!
これが合図だ!!
「まったくよぉ………ホント、俺達やるようになったよなぁ!!」
━━━ドシュッ!!
「ぐぼぁっ!!」
放たれたワイヤーフックは今度は魔人を貫いた!!
「な、なん」
「最後に聞かせよ。あの娘はどうした?」
「あの娘ぇ!?」
「知らぬなら、直接聞くまでよ」
━━━ギュルゥゥゥゥ!!
ワイヤーが擦れる音がする!魔人が振り返ると、ミナを抱えてワイヤーに取り付けられた滑車を使って、まっすぐに魔人に向かい、ヒロが突撃する!魔人は悟った!
「まさか!?やめろぉぉぉぉおおおおお!!」
自分の中に突っ込んでくる気だ!!
魔人にぶつかるや否や、ヒロとミナは魔人の中に溶けて、姿を消した!
「こ、ぁ…………」
ひとしきり暴れ、ワイヤーを怪力で振り払うと、魔人はそのまま倒れた。
倒れると黒い腕や触角などが風に吹かれた砂のようにサラサラと消え、中から眠った謙信が出てきた。
「…………無茶ばかりするわぃ」
「そうね。」
謙信を抱える信玄の背後からヘルナリナがやってくる。
「でも、まだ終わりじゃないわ。アレは元より肉体は無い。残っているのは、お色気さんの中の潜伏体。アレの魂よ。」
「あとはどうするんじゃ?」
「待つ、しかないわね………」
━━━━━……………
━━━━━━そこは漆黒の闇だった。
さっきとは場所が違うから、そこがそうだとは分かる。
中は分からない。視界は真っ黒に覆われ、自身の手足さえ確認できない。無意識とはいえ、侵入に成功したが肝心な事は歩き方を知らない事だ。
「ミナ!」
━━━………………。
「謙信!」
━━━━……………。
「くそ…………」
返事も無い。手足を動かすと感覚はある。足下はしっかりしている。どこに何があるかは分からない。
(長く居続ければ、精神がやられる………。)
考えろ。
そう念じて、頭を働かせた。まずは落ち着いて迅速に、現状を確認する。声は出せて、手足は動く。視界は頼れない。
まずは足下を気をつけながら、足を頼る。
視界がないなら……………
「…………フゥーッ」
深呼吸し、五感からなるべく意識を遠ざけ、考え捨てる。
完全に捨てる。恐らく思考すれば意識は自我が自我を食い、崩壊に向かうからだ。
━━━これはそう言う罠だ。考えれば考えるほど、五体満足に感じれば感じるほど、訴えられた感情は負に落ち込み、自滅する。
ならば、体を動かすことだけに専念し、全てを忘れるしかない。
「………………。」
暗闇を進み、歩み、なるべく手足は刻むように
「……………。」
そうして行くと、段々、頭にモヤがかかってきた。
何かが訴えるようなものだ。
気にせず歩く。
━━━━「小さな頃、それは衝撃的なことで忘れられませんでした」
それは声の様に頭にやがて響いてきた。
━━━━「小さな農村の領主の家柄に生まれた私は、幼い頃から坊ちゃんと呼ばれ、友達もなく、ただ書物を読み、勉学だけを好みました。だって、友達なんて作れなかった。私は村では特別で、私と同じになれる人は…………」
━━━━「ある時、村に音楽団がやってきました。旅芸人で、たったの6人。」
━━━「衝撃でした。音楽は歌も踊りもついていて、村人を沸かせると、みんなでどんちゃん騒ぎ。見たことは無かったし、聞いたことも無かった。そんな喧騒のなか、はじめて友達と呼べる村の子が出来たのです。」
━━━「あんなに難しかった友達も簡単に作れて、あんなに皆の心を掴めるなんて。私はのめり込み、領主としての地位も投げ、村で恋したリタを連れて都へ行きました。」
━━━「リタの支えもあり、私は貪るように音楽だけを勉強し、やがて大きな楽団を作り上げ、この頃から新しい音楽を志すようになりました。全ては上手くいっていたのだ」
━━━━「しかし、そればかりではなかった。戦争が起きたのだ。国主が堕落し、それにつけ込む他国から干渉があったらしい。隣国から嫁いできた姫が国主に代わり軍備を整え、私はその政策で従軍することとなった。」
━━「従軍しても私は変わらなかった。リタには手紙を出し、来る日も来る日も間を縫っては音楽の勉学に勤しみ、時には同じ隊の仲間に持ってきた笛で演奏などした。忌々しいことにそれを嫌う上官はやがて私をある管轄へ左遷させた」
━━━「それは死体処理だった。遺体は本国へ全て持ち帰る間がない。同じ仲間の遺体を文句も言わず、ただ疫病を予防する薬品をかけたりして処理する。埋葬や火葬、形は問われない。かつて同じ楽団の仲間だった者も死んだだけで何人も処理した。気が狂いそうだ」
━━━「リタの手紙は来ない。上官が握りつぶしてしまう。リタへ手紙は出せない。上官が引き裂いてしまう。イヤでも拒否は出来ない。次は私があぁなってしまう。楽器も演奏できない。笛は折られた。自殺して自責の念も何もかも許されたら、どれだけ良いだろう。死ねば反逆者としてリタや仲間も死ぬかもしれない。音楽への意思も挫けかけたが…………」
━━━━「ある日、同じ処理班の男が死体を力いっぱいに暴行していた。私が止めると、彼は言った。やってられない。誰も咎めない。死体を処理するのは我々だ。なぜだか、それにはひどく合点がいき、止めるのはやめた。耳から死体の骨が折れる音や、血の滴る音が離れなかった。」
━━━「とうとう嫌気がさした私は、その同僚を殺して処理した。あぁ、誰かを殺して音をもてあそぶのは、罪だろうか?」




