代役のお兄様
「で、何すか?急に呼び出して。俺、暇じゃねぇんスけど……」
「馬鹿ニカウ!!さっきから口を慎め!!」
「う、うむ………。」
取り乱したミナリア姫は、何事も無かったかの様に座席に着く。こほん、とわざとらしく咳払いをすると、本題に入り出した。
「ハルト兄様が異界旅に出て2年。いつもなら、半年で帰る兄様が帰らない今!このマギアル地域最有力貴族として、我らも何か手を打たねばならない!」
夢魔族でも上流階級のミナリアの兄・ハルト王子は「夢の旅人」と称される。「夢魔族の新たなる未来のために」と日々、異世界をメイドを1人連れて、旅している。
今は執事のアルスと召喚師のニカウしかいない。アルスはお抱えだが、ニカウは優秀な偏屈者と言うか、勝手に住みついている。
更に言えば、屋敷は廃城なのでボロだ……。
「あ~、そうですね。普段はハルト様の持ち帰られた異世界の珍しい品を高額で売り払って生活の足しにしてましたし、城がボロなので、このままでは維持費も少し……」
「あ、アルス!やかましいぞ!!本当の事を言うな!!」
「でも事実ッスよ。」
確かに事実である!
「はっはっは!脆い城よな!」と言わんばかりに水属性の天の魔物(ただの雨水)の侵入を許し、2階には雨漏りが多発し、台所ではたまに忌々しいネズミが食物をかじって「ヒャッハー!口に合わねぇぜ!」と食べかけ放置プレイヤー。良く分からない魔界植物が城壁に図々しくも咲き誇り始めてみたり、言いだしたらきりが無い状態である!
「うぐっ!!心に矢が……!」
「姫ぇ!!お気を確かにぃ!!今日も姫はお美しいですよっ!!」
走馬灯の様によぎったのか、ミナリアの心に何かが刺さり、アルスがその心をケアし始める。
「姫、お豆腐メンタルだったんスね」
「ぐわぁああ!!」
「姫ぇ!!に、ニカウ、貴様!!姫をえぐるなぁ!!」
「サモナーは呪文も得手分野なモンで……あれ?」
ニカウは、何かに気が付いた様に背後の壁を急に見つめ始める。
「姫!お豆腐にはお豆腐の良いところありますよ!」
「うぐ……もう少し」
「へ、ヘルシー!!ヘルシー・イコール・ナイスバディ~!」
「ふぅ……。ふっ!そんなに褒めるな、アルス!」
「はぁ……よかった。夢魔族は精神に寄り添いますからね!一大事に………。お、おい!!ニカウ!聞いてる……」
「召喚陣が起動してるッス」
その言葉にミナリアもアルスも動きが止まった。
普段はひとりでに起動しない、魔術の間の召喚陣。
陣と言っても言うなればゲートみたいなもので、鍵になるのは呪文と魔力。
ハルト王子とお付きのメイドもそこから出入りする。
と言うことは結論はひとつだった。
「お兄様っ!!」
「あっ、姫!!」
3人は急ぎ、魔術の間に走った。
何せ、2年もいなかったのだ。
本来、この城の城主もハルト王子。
待ち侘びた王の帰還である。
━━━━はずだった。