無効の従者 ~色~
「お前に説教されるとはな………。」
「………決めた!!やっぱ、ミナの言うことは何だかんだ正解だ!!」
その言葉に、エルナは困惑した表情を浮かべる。
堂々たる姿勢で告げる。
「お前を絶対連れ帰る!!もっと色々な世界を見よう!!狭い世でも、世界は広い!!」
「………おかしな奴だ」
エルナは席を立つと、微笑みを浮かべた。
「期待しないでおこう。王子代行。」
エルナは部屋から立ち去るが、その部屋にただ1人残り、気合いを入れるように一気に残しておいた干し肉を頬張る!
香辛料の利いた肉の旨みが口いっぱいに広がり、まずはこの後、どうするかを考え始めた。
紙にスラスラと筆を走らせ、事象と事象を繋げて、起こりうる事象、未来を先読みする。
真剣にやっていたが、やがて眠気に襲われ、再び眠りについてしまうのだった……。
━━━………。
━━━━━……………。
…………痛い。
心が痛い。腕が痛い。足が痛い。内蔵が、筋肉が、脳が、痛い。
「お前なんか金を稼ぐためにしか使えないんだよっ!!」
「バットで頭を吹き飛ばしてやる!!」
誠実に、教わった正義だけを通してきた。
私がなにをした?私はただ生まれて、誰かの温もりが欲しかった。
家族が欲しかった。友達が欲しかった。優しくして、優しくされたかった。目の前で起こる言葉と肉体の暴力の嵐。毎日が戦乱の様な日々。心を掻き乱し、涙を流し、絶叫し、嗚咽も何もかも吐き散らかした日々。
「死ね!」「殺してやる!!」
やめてくれ!!俺はこんなところで死にたくない!!
まだ何もしていない!!
「何でアタシがお前に殴られなきゃいけないんだよ!!」
「お前が黙って死ねば」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」
俺に黙って死ねと言うのか!!
俺にお前達の快楽のために生きろと言うのか!!
こんな腐ったものを喰らい、ゴミの入り込んだメシを食い、ガラスの入り込んだ衣服を纏い………。
………冗談ではない。
人間が50年と誰かが言った。冗談ではない。もう半分だ!
誰も助けない。救わない。それを見て嘲う。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!
━━━━ 死にたい ━━━━
━━━━「お兄様?」
肩に何かが触れた。
敵だ。動け。確認しろ。武器を探せ。体勢を整えろ。威嚇しろ。
それらが一気に脳を支配し、テーブルを倒してそれを盾にする。
目を凝らして見ると、ミナリアがこちらを見ていた。
周囲も敵はない。兵達がこちらに視線を集めている。
「あ、あの…………」
確認すると、落ち着いて元に戻した。
「すまん。敵かと思った………」
「び、ビックリしたぁ~」
胸を撫で下ろすミナリア。
「朝ご飯、一緒に食べよ」
「あ、あぁ…………」
(なんで………あんな昔の事ばかり)
もういい。
もういいのだ。全てカタを付けた話だ。
(忘れろ。もう復讐で身を削るな………)
「お兄様?顔色が………」
「いや、悪い。大丈夫だ。それより今朝は何だろうな」
「今朝はパン食みたいだよ?あ!ここの自家製ジャム、美味しいよ!」
そうだ。
そうだとも。例え偽物でも、この娘の為に生きればいい。
代わりであっても………。
朝食は質素なものだが、味にはこだわっていた。
屋敷ほどではないがパンも生きていない。
ジャムは何種類か用意されていた。トレーに皿を乗せ、バイキング方式で取っていく。
「迷うな………」
「う~ん………コレとコレとコレとコレと」
「お、おい!さすがに取り過ぎだろ!」
迷っていると、ミナリアがトレーに選んで乗せてくれるが、量が多い。
かなりカラフルなジャムが山盛りだ。
「え?そうかな?」
「いや取り過ぎだろ!8種類はあるぞ!」
「安心しろ。この基地のシェフはうるさいので約20種類。裏メニュー配合含め約150通りのジャムと200通りのメニューがある」
ふと横を見るとエルナがいた。
「ほら、スープもあるぞ。野菜ジュースもだ。」
「あ!エルナ、おはよう!!」
「おはようございます。お嬢様、ご一緒しても?」
「いいよ~♪」
そんな会話をしながら、エルナとミナリアは自分のものを取りながらも、何故かこちらのトレーにもポンポン乗せていく。
「お、おい!!」
「美味いから安心しろ」
「強くなれないよ?お兄様!」
「そう言う問題じゃねぇ!!」
2人は山盛り人のトレーに乗せると、さっさと席に着いた。
食い切れないと思ったので、少し戻そうと思ったが、肩を叩かれ振り返る。
「喰え………」
そこには屈強な大男が仁王立ちしていた。
「はい…………」
逆らえず、渋々と席に着いた。
「なんだ、あの強そうなオッサン………」
「コック長だ。」
「アレが!?」
もう1度、パンを片手に振り返る!
人の2倍はあろう筋肉が盛られた肉体に、顔面や腕には大きな刀傷が目立つ。マユゲが太くて、アゴとか腹筋とか割れてる。
それが料理の並んだ場に仁王立ちして食事を手にする兵達を見ている。
「良い人だよ?」
「ウソやろ………?ミナ」
コック長はこちらに気が付くと、厨房から小さな器をもってやってくる。気のせいか、顔が怖い。
「おい、何かしたか?コック長は食にはうるさい」
「な、何もしてねぇよ!」
コック長はその器をミナリアの前に、そっと差し出す。
「お嬢ちゃん、昨日の話からポヨポヨのジャムを作ってみた。試食してくれ。」
「わぁ~!ウソぉ!ホントに!?」
「後で感想聞かせてくれ」
「うん!ありがとう!」
それだけ言うとコック長は黙って立ち去る。
(まさか、お嬢様と仲がいいとは………)
(お前、友達作れないとか言ってなかったか……)
「どうしたの?2人とも?」
「いや!なんでもない!」
「なんでもありません!」
食事を取り始める。量は多いが実に味は良い。
ちょっとキツいが、なんとか完食を目指す。
「それにしても、軍用基地なのに食事は豪華だな」
「あ、そうだよね!もっと簡単なごはんだと思ってた!」
「それは仕方ないのです。食事は体作りにも役に立つ。それが美味で種類があれば、兵の楽しみになり、メンタルケアなどにも役に立ちますから………」
食事をしながら会話を続ける。
「まぁ、あちらの軍はもっと質素でしょう。エルフは今では里を丸ごと基地にして、全てを軍用にしかねない勢いですから。」
「え!?丸ごと!?」
「可能なのか?」
「ほぼ独裁です。今の長、元帥にあたるエルフは少数派のダークエルフや反対勢力を軍事力で抑えています。」
「感じワル………」
「ふっ!お嬢様は相変わらずですね!」
なるほど。独裁の勢力に対する反対勢力。
義勇軍に近いが、確かに国から離反していればテロリスト扱いだ。
「友達いないんじゃないの?そのゲンスイって人……」
「ははは………。そうだよな」
(お前がいうか)
「ふふっ!確かに友達はいないでしょう」
(そう言うお嬢様は友達ができたのだろうか………)




