無効の従者 ~色~
「いってぇ~!!冗談だって………カタブツだなぁ」
「…………王子もよくそう言っていた」
「俺は王子じゃねぇよ」
その言葉に、エルナはただ溜息を着いた。
「1つ聞かせろ。何故、お前は姫のためにそこまでするのだ。王子でないとしながら……」
「そうだな………」
考えるまでもないが、少しばかり整理してみる。
「ただ単純にあの子を泣かせたくない」
「………お前、姫が好きなのか?」
それについては分からない。
「さぁな……。俺からもいいか?お前、何のために闘うんだ?」
「………私は」
エルナ自身、分からなかった。
「………よかったら、教えてくれないか?」
「何をだ?」
「昔話だよ。どこで生まれ、どこで育ったんだ?」
「ダークエルフが稀に生まれる膨大な魔力を持つエルフだとは知っているか?」
確か、指名手配の書類に魔王の器がどうとか書いてあった。
それには黙って頷く。
「私は一族の技術発達の第一歩として極秘に試験管で生み出されたダークエルフだ。里の外に秘密裏に作られた基地で育ち、その頃に古代魔術や相手を殺したり拘束する術など、徹底的に叩き込まれた。」
「…………すまん。」
なんだか悪いことを聞いた。
「何だ?もう聞かないのか?」
嘲笑するエルナ。まるで本人は気にしていないと言うように鼻先で笑った。
「施設は鉄の網で囲まれていたが、ある日、そんな山奥の施設の鉄網の向こうに人が現れた。私が7つの時だ。それがまだ幼かった王子だった。私はそれを追い払おうとしたが、一向に帰らない。それどころか質問攻めだ。何してるの?エルフなの?そこ狭くない?何が好き?」
どこか楽しそうなエルナ。
━━━━夕方には帰るクセに、毎日やって来て、しつこい。
やがて渋々と質問に答えるウチに私は王子に心を開いてしまい、それが露見して里の施設に移された。
やがて14の頃、同じ試験管で育った部下を連れて里から出て離れた山で演習を行った際、私は足を踏み外して、崖から転落し、部隊からも離れてしまった事がある。足が折れて、全身を強く打った私は満身創痍で気絶した。しかし、目を覚ました時、辺りの夜の闇を照らす火の灯り、その目には信じられないものが映った。
ハルトだ。彼は何故か麦わら帽子や虫かごを引っ提げたまま、必死に私を看護していた。
「お、気が付いた!」
何のイタズラか、偶然、昆虫採集に興じていた彼の目の前に私は落ちたらしい。動けない私を彼は何日も山に通い、看病した。
食事を用意し、衣服を用意し、私に叩かれながら臆しもせず体を拭き、寂しくないようにと会話した。
試験管で生まれ、軍事しか知らない私の心にはいつしか恋心が芽生えていた。私は初めて、そこで生物らしく恋をした。
この男になら全て捧げていい。
好きだった。こんなに私のために尽くしてくれる彼に胸は張り裂けんばかりだった。
それと同時に、天は私にはある感情も与えた。それは憎しみだった。
ハルトに恋をすると同じく、軍事の為に!闘って殺すためだけに!兵器として生み、他を奪った里の軍部のエルフ達!
憎い!憎い!憎い!憎い!!
私はケガを治すと、ハルトに想いだけを伝え、里に戻ると応報した!!
育った施設から破壊し!!自分と同じ試験管に入る胎児を、命乞いする連中を、関係のない赴任してきたばかりの医療スタッフも、向かう者も、全て蹂躙した!!
しかし、里の6割を破壊した際に、疲労から私は意識を欠いて罠にハマり、捕縛され、拷問された。
その際、ハルトも呼び出された。しかし、ハルトはあろうことか、自分の身分を賭けて私の解放を交渉し始めたのだ。
私はこのスキを突いて、ハルトを連れて里から逃げ出した。
さすがのエルフも、部外者の貴族を残りの部族で暗殺することも、私を相手取ることも出来ず、追わなかった。
ハルトは私を娶ってもいいと言いだしたが、私はそれを拒んだ。
………私は罪人だ。試験管から生まれ、同族も罪なき命も殺し尽くした罪人だ。そんな私が彼と結ばれるのは、あらゆる面で許されなかった。
だから、私は言った。
「お願いします。使用人として、側に置いて下さい。」
情け無く、涙ながらに、彼に懇願した。
今でも覚えているよ。彼は私に向かい、涙を流しながら笑顔を向けていた。
「仕方ないなぁ、エルは…………」
━━━━…………そして、私は使用人になった。
「それからは知っての通りだ。」
エルナは一息着くと、顔を見やる。
「何故、泣いているのだ?」
「………バカだな、お前」
感涙を拭いながら、ヒロは言った。
「好きなら好きって、言やぁよかったんだ」




