無効の従者 ~色~
「通行証を出せ」
門に着くと2人しかいない番兵に通行証を提示する。
番兵は2人しか見えず、思ったより装備は軽装だ。
鎧や盾、刀槍の類いは見えず、腰に自分達の様に銃を下げていて、軍人らしい服装だ。
想像していたものとは違うが、エルフの1人は設営されたテントの下のデスクに座ると書類を書き始める。
「里には?」
「えぇ、と………」
しどろもどろなミナリアに代わり受け答えを始める。
「かつての使用人がいまして、それに要件が」
「使用人?我々、エルフの?」
「エルナリーナと言う名前の………」
「あぁ、アイツか。」
最初は訝しんだ番兵も、エルナリーナの名を聞くとすらすらと書類をしたためる。
そして、それを手渡した。
「持って行け。里へはまっすぐ道なりに行け。明日には着ける。」
「ありがとうございます。」
「あぁ、それと……。里では無闇に色彩の名を口にしない事だ。あいつはダークエルフだからな」
「色彩?」
「なんだ?ホントにお前ら主人だったのか?」
そう言うと「要注意人物」の書類も渡してきた。
「持って行け。そのリストの人物には気を付けろ。里にも報告するように」
そう言われて門を後にする。
要注意人物リストと言っても、前半からペラペラとめくるが、中身は「強盗」から「強姦」まで様々な犯罪者のリストだ。
「お兄様、強姦って?」
「そ、それはだな………」
しかし、見ていくと書類の中に確かにあった。
「あ、お兄様!!」
「これは………」
写真付きだ。しかもカラー。褐色の肌に紅い瞳。金の髪に、切り裂く眼光。
━━━ エルナリーナ・ブレイズ。
特A級要注意人物。元階級・大佐。色彩のエルナリーナ。
我流CQCの達人。危険な思想を持つダークエルフである。
軍事機密を持ち出して、軍部に対する破壊活動の上で脱走。のちに捕縛。処分を受け、里を去る。近々、潜伏の情報を得てはいるが消息不明。「焼却者」と言う彼女に対する信奉者によるテロリスト集団の存在もあり、領内紛争の可能性も示唆される。
※ダークエルフはエルフ族でも大量の魔力を所有し、魔王の器として忌避される少数のエルフである。
━━━………………。
「そんなヤバい奴なのか………」
「は、初めてきいた………」
確かに、写真の面構えは明らかにワルそうだ。
「ラスボスみてぇだ………」
「ふっ!それ、エルナに聞かれたら殴られるよ?」
「マジかよ……」
CQCとは近接格闘術の事だ。元・大佐とか言う時点でアブナイ。
先ほどの色彩と言うのは、エルナの通り名らしい。
こんな危険そうな奴と知り合いだと勘づかれたら、穏当にはいかないだろう。
「エルナの名前は言わない方がいいだろうか」
「でも、これにはどこかに潜伏してるって………」
「う~ん……参ったな。」
一難去ってまた一難。
てっきり、里にいるかと思えば、エルナは里ではテロリストらしい。なんでテロリストなんかがメイドしてんだ?とか色々と疑問は尽きない。
しばらく黙々と道を歩き続けたが、日も落ちてきて、暗くなって来る。
近くの道沿いに小屋が一軒。
中に入ると、人はおらず、わずかながら埃っぽい……
「ここはどうやら、旅人用の小屋みたいだな」
「いいのかな?」
「いいんだよ。ほら、これ」
テーブルには現在地と里への道のりや周辺の地図が書かれた書類が並ぶ。
「これ、なんだろ?」
ミナリアが1つ、書類の束を手に取る。
それを見ると旅人達が残したメモだった。
「何か書いてあるかもしれないな」
「そうだね!」
━━━○月×日
エルフどもはホントに高慢だ。内乱が起きたらしく、我々ガーゴイルまで疑われるとは。にしても、あの射撃はどこから来たのか。我々の石の体には体術はともかく、魔法弾の銃撃は痛い。ウワサには聞いたが、アレが森の守護者。気を付けろ。
━━━マギアルから来たサキュバス
はぁい。エルフの可愛い子がいるって言うから来てみたんだけど、カタブツばっかで面白いわね!胸ばっかりチラチラ見てるから、からかいがいがあったわ。夜もイイカンジだったし。あの焼却者っての、ホントにテロリストなのかしら?あんなウブな連中が街を制圧して、女子供をやっちゃうなんてウソじゃない?
━━━山の賢者より
エルフの領内は思ったより広そうだ。
里の正規兵は森はともかく山の地形には馴れないらしく、ガイドもいっぱいいっぱいだったよ。それにしても、あんなに広いと、どこまであるんだろう?美しい鍾乳洞があるらしいと知人に聞いたが、全く分からなかったよ。山の賢者失格だな。
━━…………中身は様々なメモ書きで溢れている。
アブナイ内容から、旅のメモまで。
ふと、気が付くとミナリアが疲れ果てて、肩に寄りかかったままスヤスヤと寝息を立てていた。
「ミナ?」
「んにゅ………」
起こすのも悪いので、その可愛らしい寝顔を崩さぬ様に、そっと背負ってきた荷物の袋と入れ替わる。
ミナリアは気が付かぬまま、寝息を立てていた。
「可愛らしい寝顔だな。」
暗くなってきたので、灯りを着けてみる。
部屋のランタンのレバーを回すと、魔法で火が着く仕組みらしい。
すぐに部屋は明るくなるが、時期に外は暗くなる。
メモと地図に目を通しながら、アルスが持たせてくれた干し肉をかじり、水を飲む。
━━━この辺りには魔物の心配などはないが、夜には気を付けた方がいい。オオカミが来ても平気な様に戸は閉めておけ。
そんなメモに目が通ったので、外行き用のランタンを手に外へ出てみる。
小屋の外は木で出来た柵があり、そこは崖になっている。
水音がする辺り、下が河になっているようだ。
小屋の反対側には、道を挟んで森が並び、梟のような鳥の鳴き声が静かに響き渡る。
空は晴天で、雲1つ無く、星々が輝いていた。
…………が。
「……………。」
空を眺めていると、気が付いた。
あたりに耳を澄ます。
………………。
静寂だけが辺りを包んでいた。
おかしい。鳥の鳴き声が聞こえない。
山育ちのせいか、すぐに分かる。獣や虫が鳴かない。
オオカミやクマなどの狩りならば、それはない。




