無効の従者
そして朝日が昇り……━━━
「……………。」
(寝過ごしたぁぁ~~!!)
何も考えていなかったし、何も思いつかなかった!
「なんとかしてやる!」なんて昨日の言葉が脳裏を過ぎり、途端にミナリアに何て言うか考え始める。しかし、思いつかない!!
「お兄様、おはよう!!」
「おわっ!?」
唐突に部屋に入って来たのはミナリアだ。
まずい………。何も考えてない。
「お兄様、どうしたの?」
「すまん!!ミナ!!寝過ごしてしまった!」
仕方なく、頭を下げて事情を説明する。
「これ………」
ミナリアはデスクに乗ったメモの走り書きを見て、微笑んだ。何かしただろうか?
「な、なんだ?」
「なんでもないよ!それより、どうするの?諦めちゃう?」
「いや………こうなれば最後だ!!」
ミナリアの手を引き、台所にいると思われるアルスの元へ向かう。
アルスは朝食の準備をしているハズだ。
しかし、台所には人影はなかった。
「む!ここにはいない!!」
辺りを調べると、スープや他のパンとも見える食材の完成品が見える。朝食の準備を済ませて、どこかに行った様にも見えた。
「あれ?アルスどこに……」
「仕方ない!次だ!」
台所を出ようとすると、そこへちょうど戻ったアルスと立ち会う。
「おっと!」
「うぉわ!」
思わず、ぶつかりそうになる手前で足を止める。
「どうしました?朝食はもう少しですが……」
「アルス!!」
もう恥も外聞も無かった。
ただ、ただ頭を下げた。
「頼む!!アルス!!個人的な資産なのは分かってる!!貸すだけでもいい!!ミナは、ミナリアにはエルナも必要なんだ!!」
「…………。」
それをアルスは黙って聞いていた。
「誰一人欠けてもいけない家族なんだ!!お前にニカウに、謙信、信玄、みんないないといけない!!だから……頼む!!」
「お兄様………」
聞いていたミナリアも思わず頭を下げた。
「私もお願い!!」
「ちょ、ちょっと姫まで!!」
「私、イヤなの!!確かにエルナとお兄様には嫉妬してしまった事もある!でも、エルナも家族なの!!これ以上、誰もいなくなって欲しくないの!!」
「……………はぁ」
それを聞くと、アルスは観念したように懐に手を入れると木製の証を取り出した。
伝統工芸の様な作りだが、ヒモが付いて首からも掛けられるようになっている。
「それは………」
アルスはそれを2人の首に1つずつ掛けた。
「欠けてもいけない、ですか。そうですね。負けましたよ、あなた方には………」
「アルス……」
「夕べ、実は謙信さんに口説かれましてね。早朝から入手しに出ていたんですよ。それに、逃げ回ったり、あしらうのも疲れましたし、正直、謙信さんの言うとおりで………」
微笑みを浮かべながら、アルスは照れくさそうに言う。
「それに、私自身もなんだかエルナさんがいた方がいいような……」
「アルス!!」
ミナリアはそこまで聞くと、アルスに抱き着いた!
「ありがとうアルス!大好き!!」
「ははは………!姫にこうされると、お釣りが来るようです。」
アルスはミナリアを引き離すと、告げた。
「さ、姫!善は急げです!通行証は2人分しか用意できませんでしたが、朝食までに早く仕度をして下さい?」
「うん!!お兄様も、ありがとう!!」
ミナリアは元気よく飛ぶように台所を後にした。
「ははは!俺はついでか!………アルス、すまなかった。無理を言って。」
「いえ、良いんですよ。お二人の熱意に当てられて、私も何だか清々しいくらいです。こちらこそ、姫をお願いするカタチになってしまいます。」
アルスはふと思う。
「敵うものではない。白旗を用意しておけ」と言う昨晩のあの言葉。確かに、その通りであった。
謙信に打ち負かされた事は癪だが、それでも言うことは間違えてなかった。
「この熱意には負けますね」
「ん?何だ?」
本人は分かってないが、魔界と言う考え方も在り方も多種多様なこの世界で、こんなに道徳観を振り回しているのはある意味、凶悪だ。
やはり、この方はカケラであっても………
「いいえ。アナタも準備なさって下さい。ハルト王子」
「分かった!ありがとう、アルス!」
そう。
我が姫の幼い瞳は狂いなく見ていたのだ。
「代役」と言う、澱んだ目で見ていたのは私かも知れない。
だから、従者アルスはもう少し見たいと願うのであった。




