無効の従者
━━ある日の午後━━
「アルスさん!!」
「おや、ニカウどうしました?」
「金出す気にならねぇんスか?」
「なりません。」
「チッ………」
「ハッキリ言い過ぎですよ、アナタは……」
ニカウには期待できなそうだ。
失敗。
━━━ある日の風呂━━━
「ふぅ………疲れましたね」
今日も今日とて皆に追われ業務をするアルスはお疲れモードだ。今日で5日目だ。
「お疲れ。」
「お疲れッス。」
「…………。」
しかし先にヒロとニカウが入っているのを見て、少々辟易する。
「そんな顔するなよ。もう俺はお手上げだ。」
「風呂場でまで迫らないッス。疲れるッス。」
さすがに疲れたので信用の尺度などもう計る気はない。
とにかく熱い湯に入りたかった。
お構いなく、2人が入る湯舟に入る。城の湯舟は来客が来ても良いような広々とした湯舟だ。特に近づくワケもなく、離れた間合いから会話が始まる。
「なぁ、正直、エルナってどんな人物なんだ?」
「そうですねぇ。真面目で、堅物で、この屋敷の風紀委員みたいな感じですねぇ」
「そうっすね。やることは何でも王子と姫のためって、口うるさくて、変なウワサもあったッス。」
「変なウワサ?」
それを切り出すと、アルスも「あぁ、アレですか」と苦笑い。
「王子とエルナさんは恋仲だったと言うウワサですよ」
「なに?」
「王子も優しい方ですし、魔界では珍しい良い人なのですが恋人がいなかったんです。ただ、そんな性格なので、必然的にエルナさんを労おうとしたりするんですが」
「エルナ姉さんも尽くすもんだから、周りには多分そう見えたッス。たまに姫がヤキモチして大変だったッス」
王子とエルナは誤解を受けるほどの仲だったらしい。
だが、疑問が生まれる。
「じゃ、なんでエルナを連れ戻すなんて言うんだ?」
「それなんスよ。あのブラコンな姫がまさか言うなんて」
「私も、正直、驚いてますよ。姫がエルナさんを」
そんな会話の途中だが、勢い良く風呂場の戸が開く音がしてそちらを振り向いた。信玄だろうか?
「なんだ、男湯は狭いな!!」
「「「なっっ!!」」」
男3人、声を揃えて絶句。
入ってきたのは謙信だ。別段、タオルで隠すまでもなく堂々と全裸である。
と言うより、ここは男湯だ。
「ば、ばか!こっちは男湯だ!!」
「隠さねぇと、ジックリ見ちまうっスよ。あと素晴らしいモノをお持ちッスね。」
「バカニカウ!じっくり見るな!失礼でしょう!」
「カタいこと言うな」と言いつつ、謙信は堂々とした態度で湯舟に入る。
「ふむ、女湯より熱い。良い湯だな。別に穴が空くほど見ても構わぬが、余計な事をするなら……」
そう言うと謙信は拳を空に振り上げる。
その動作を見て3人ともビビる!その動作は、あの落雷を落とした動作にそっくりだった。
「さ、さて上がるかニカウ!」
「そうっスね!」
「で、では私も………」
湯舟からいそいそと出ようと試みる。
余計な事をして、龍の逆鱗に触れて湯舟で感電死とか笑えない!
魔界新聞の三面記事を「女の裸を見て、湯舟で感電死!?」とか書かれたくない!!
しかし、謙信はアルスの腕を掴む。
「ちょわ!なんで私だけ!?」
「付き合え」
「はぁ!?なんでアナタと風呂に!!」
それを見て、ヒロとニカウは「助かった」と言わんばかりにニッコリ笑っている。
「頑張れ、アルス!リベンジだぞ!雪辱を晴らせ!こんな機会、色々と無いぞ!!」
「湯舟は汚さねぇで欲しいっス!あと発展したら感想ヨロシクっス!」
「ごゆっくり!!」と扉を閉めて、そそくさと居なくなり、湯舟にはアルスと謙信だけが残った。
「私は姫一筋です!変な気はありませんからねっ!!」
「安心しろ、私もミナの方がいい。」
「相変わらず、減らず口を」
「ふ、第一お前、こう言うのには興味ないのか?ミナですら、触るぞ?」
「姫に不埒な事させないで下さいっ!!」
やはり仲がいいとは言えない。
こんな言い合いしても不毛だ。そう感じてか、1度だけ口を閉ざした。
「おい、お前」
「なんですか………」
「ミナは本気で心配していたぞ。お前が業務多忙で倒れないかとな」
「私の事は心配」
「ないと言えるか?昔はエルナとやらと分担業だったのを1人で長らくこなしているそうではないか!」
…………確かに。
毎日、忙しい。毎日忙しくて、家事に姫の業務、王子のカケラについてもあるが、なかなか手がつかない。
私は姫の執事だ。あの身も心も美しくて可憐な主のためなら、何でもする。彼女のためなら、彼女を泣かしてしまう結果になってもそうする。
「辛くないと言えばウソですがね、私はミナリア様の執事です。例え身が滅びようともです。だから、安易にお金も出しません。彼女の為にはなりません!」
「あの男、ハルトとか言ったか?あの男もミナのために必死だぞ?だから下策と知りつつ……」
「…………。」
本当はどうすればいいかなんて分かってる。
財の話なんて二の次だ。執事として彼女のためにしてやれる事は何かなんて事は。
「話はそれだけですか?」
湯舟から出ようとすると、流石に今度は止めなかった。
「アルス殿!!」
「……………。」
「私を引き止めたのは何だと思う?」
「さぁ?」
「いずれ分かる。勝てぬぞ?白旗を準備しておけ」
それだけ言われて、答えも言い出せず、何か良く分からないまま、もどかしい気持ちで風呂を後にした。




