代役のお兄様
「キミの中を覗かせて貰ったよ。もう分かった。キミなら安心して任せられる。だから、どうか世界を恨まないでくれ。」
「分かったような事、言うなよ。」
そう言いつつ、彼の方を見た時だ。
━━━いなかった。
そこには何も無かった。周囲を見ても、そんな人影も、すぐに隠れられるような場所もない。
かなり重い鬱病にかかり、幻視、幻聴も見た事はあるが、こんなに鮮明な事は無い。
なら、アレはなんだったのか……。
コスプレとも考えにくい。それにあんなに過去を見透かしたかの様な言葉。
「世界を恨むな……だと?」
胸糞悪い言葉だった。
自分の過去など「自殺しないのが不思議」とか「重い」と誰もが耳を塞ぎ、自分から興味本位で聞いてくる輩すら、目を逸らすと言うのに。
「……………。」
やめよう。そもそも、あんな良く分からない奴が何を理解するのだ。
カマをかけていたのかもしれない。
そもそも、そんな者に憤慨するのも不毛かつ時間の浪費だ。
そう言い聞かせて、自分を鎮める。
「誰も理解できない。人の心なんて」
━━━ そうでもないさ ━━━
ちょっとおてんばなんだけど、
良い子 な だ
から だ ど
た の む
━━━頼むよ、よろしく。ボクは先に行かなきゃ。
急に目眩がする中、途切れた言葉の中、それだけがハッキリ聞こえた。
何故だろう?
それは、憎しみや怒り、悲しみと言った負の感情ばかりを抱え込んできた心にも確かに響く訴えだった。