代役のお兄様
20XX………
デフレとかなんとか政治な話はよく分からねぇ。
俺はよく分からないが、感じてはいる。
物価の度重なる上昇、税金引き上げ、田舎の街には老人達が溢れ、時代の旨みをしめた中年代が若年層を酷使、酷評し、少子化により希少価値な若者達は今や、この街には少ない。
「はぁ………」
故になのか、人件費の安売り合戦みたいにブラック企業ばかりが蔓延る。転職先は毎回、ブラック企業。諦めては見ても、身体が壊れるまで酷使されては切り捨てられ、それを繰り返した結果だった。
「ヘルニアですね」そう告げられて、それを理由にクビにされたのは、ひと月前。もう俺は27になるが、相変わらず安定した仕事と言う安寧の日常はない。貯金があるかと言えば、そうでもない。浪費家な親に全て奪われ、残るのはこの身1つだ。
うなだれて、夜の公園のベンチに座り、散りかけの桜を眺めると、電話がかかってくる。
「もしもし?ヒロかい?晩ごはん、どうするんだい?」
「あぁ、気にしなくていいよ。」
電話をしてきたのは祖母だ。貯金も尽きかけて、両親とは別離した俺を居候させてくれている。
そんな祖母に断りを入れて、今日は1人、散りかけの桜を見に来ていた。こんな桜も気晴らしにはなるかと思ったからだ。
まだ少しだけ肌寒いが、もう時期は過ぎている。
桜祭りと称され、公園内には出店などが立ち並び、人で賑わったのは3日前。今は1人もいないほど、園内は静けさに包まれ、たまに風だけがヒュルリと吹く。
そんな公園は城の跡地で、今は一際大きな名物桜の前に俺がいるだけだ。
「散りかけの桜も、また風情があるな」
1人のはずだった。
「そうだな。」
気が付くと、横には誰か良く分からないが男が立っていた。
「こんな綺麗なものは世界広しと言えど、少ないだろうよ」
そう言う男の格好はどこか妙だった。革製と見えるロングブーツに肩から羽織った外套は風に揺れているが、穴が空いている。
まるでどこか、戦場から帰ったかの様に顔や衣服には汚れが目立つ。
そう、何かの漫画に出てきそうな感じだ。
「……いくつもあるような口ぶりだな。」
「なんだ?キミはないのか?」
「あぁ、ないね。この世は地獄の淵さ。生きて楽しいのか?」
初対面の上に、明らかに怪しい。
なのに、何故か自暴自棄に本音に語ってしまう。
「地獄の淵………?クッ!はっはっはっは!!」
「何がおかしい?」
「ははぁ~、なるほど。キミはそう言う過去を。なるほど、なかなかに希有だね!ははぁ~。なるほどなるほど!」
何か知った様な口ぶりの男だ。
少しばかり、怒りも込み上げる。
「あんまり言いたくないが、何がおかしいんだ?」
「いやはや、これで決まったかな。キミに決めたよ。」
「話が見えない。」
「いや、すぐ分かるさ。」