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第八話 スキル+ステータス=?

 翌日は何だかスッキリと起床。しかも嬉しい事に、なんだかスキルの使い方が分かってきた。記憶がそれなりに戻った事が影響している?


「ライト……」


 生活魔法の基礎でもある『ライト』を使ってみる。火魔法の一種で、明かりとして使う魔法だ。瞬間、部屋全体が激しい光に包まれた。ただ、自分だけは眩しくない。あまりに明るすぎて、周囲の物が光に呑み込まれ、ベッドの端の位置すら分からなくなっている事くらいは……。


 すぐに足音がして、扉が開かれる音がしたが、問題はその扉すら光の海に飲まれて位置が分からない。


「ギャァ――目、目が――!」


「直視するな! 誰か部屋にいるのか?」


「確かタカオがいるはずです!」


「おい、誰か! 医者か治療師を呼んでこい! 目がやられている!」


 多分扉の付近だとは思うけど、悲鳴なり怒号なり、色々な声が聞こえる。このままでも仕方がないので、『ライト』の魔法を終わらせる。


「おはようございます。何があったんですか? 急に俺の部屋を開けたみたいですけど?」


 そのまま十秒程経過しただろうか? 誰も反応をしない。いや、正確には俺を見ているだけで、それ以上の反応が無い。


「あの……?」


「あ、あの魔法は君が?」


「そうだけども、何か?」


 何か信じられないような顔をしながら、話しかけてきた男が口をポカンと開けている。正直だらしがない。


「タカオ、無事か!」


 走ってくる足音がしたと思うと、ハッドンが部屋の中に入ってきた。


「いや、別に大丈夫だが、何か問題でも?」


「君がいる部屋から、尋常じゃ無い光が漏れていると聞いたんだ。それで慌てて来たのだが、体には問題ないか?」


「ああ、問題ないな。それよりも、そっちで泡を吹いているのが問題だと思うが……」


 俺が指さした先に、医者かどうか分からないが、泡を吹いて倒れている者を見ながら、症状を確認しているようだ。


「なあ、どうなんだ?」


「ちょっとしたショックだ。いや、ちょっとでは無いか。あまりに強い光を一瞬で見たために、ショック状態だな。まあ、何とかなるよ」


 医者らしき男がそう言うので、ハッドンは安心したらしい。ホッと息を漏らしている。


「それで、何があったんだ? 急に騒ぎが起きたから来てみたが、倒れている者以外は問題無さそうに私は見えるが?」


「それは彼に聞いてくれ。俺たちが来た時には、部屋全体が光に包まれていたんだ」


 そう言われて俺の方を全員が見る。大した事などしていないはずだが……。


「俺は単にライトの魔法を使ってみただけなんだが?」


 俺がそう言った瞬間、全員が「ハァ?」とハモった。いや、事実なんだけども……。


「ちょっと私の方から聞いておくわ。後は任せてくれないかしら?」


 ハッドンの申し出に、他にいた全員が『ヤレヤレ』といった感じで退散していく。それを見届けたハッドンは、そのまま扉を閉める。


「それで、実際は何をしたのよ?」


 彼女の口調は、責めている訳ではないとは思うが、どこか納得がいかないといった感じだ。それと、昨日からどうも二人きりの時は彼女の口調が変わる事に気がついた。


「いや、言った通りだ。単に『ライト』と唱えただけだぞ? まあ、まさかこんな事になるとは思ってもいなかったけど」


 しばらくハッドンは何かを考えるようにしてから、ステータスカードを見せるように言うので、ステータスの内容を表示させる。


「中級魔法を使えるようにしているから、確かにライトの威力が上がるのは理解できるとして……」


 は?


「あ……もしかして、スキルの事はノルベルトから教わっただけ?」


 首肯すると、ハッドンは大きく溜息をつく。


「基本的に彼は優秀よ。それこそ、本来なら王都で出世できるくらいにはね。でも、彼はそれが出来ない。専門書を何冊も書いているというのは聞いたわよね? 普通なら、数冊書いただけでも王都に栄転。それが出来ないのは、彼の性格」


「どういう事?」


「肝心な事をちゃんと教えない癖があるのね。いくら彼が優秀な能力を持っていたとしても、それでは無理という事」


 再度ハッドンが溜息をついた。


「魔法の威力というのは、どんな魔法であってもその人の持つ魔力などが影響する。あなたの能力値を考えたら、何も考えずに魔法を使うだけで災害になりかねない威力があるわ。本来はそうならないために説明をするのよ。聞いていないわね?」


「あ、ああ……」


「ちょっと私はやる事が出来たわ。とにかく私が良いと言うまで、魔法は絶対に使わないように。朝食はまだよね? 先に食べていなさい。私も後で来るわ。とにかく、今は魔法を絶対に使わない事と、出来れば他人に絡まれても、出来るだけ無視してくれると助かるわ。良いかしら?」


 俺が分かったと言うと、彼女はすぐに部屋から出て行った。


    ――――――――――


 朝食のために食堂兼酒場に行くと、朝から酔いつぶれた者が何人かいる。どうやら昨日から飲み続けたらしい。俺はそれを無視して、カウンター席に行く。朝食は基本的に三種類の定食があるらしく、金額はどれも同じ八十ゴルとなっていた。ちなみに三種類とも日替わりらしい。


 どうせ朝からまたトレーニングをやると考えれば、それなりに体力が付きそうな物を食べる事にする。肉がメインの朝食だが、昨日と違って今日出てきたのはカールゴンと呼ばれる魔物の肉で、巨大なトカゲらしい。食べてみると淡泊で、特にソースなどもかかっていなかったが旨い。


 飲み物を含めてトータル八十五ゴルだが、量は多めでしっかりと腹にたまる。冒険者向けの食事だと、やはり量が多いのは普通なのだろう。それ以外を食べたければ、もっと違う店を探せという事なのだろうが、今のところこれで問題は無い。飲み物の金額を抑えようとすると、アルコール以外の選択肢が無いという点はあるが。しかも生温いエールで、正直美味しくはない。


 それよりも早朝のアレは何だったんだろうか?


 確か普通に『ライト』の魔法を使っただけのはず。しかしどうも威力が強すぎたみたいだ。それでも俺としては、知識として与えられたであろう方法で『ライト』の魔法を使っただけ。


「タカオ、待たせたな」


 食事が終わりそのまま温いエールで喉を潤していると、ハッドンがやってきて隣の席に座る。手には何かの資料数冊と、数枚の紙を手にしている。


「参ったわ。私の想像していた通り。ノルベルトがスキルの事を担当したんだって聞いて、もしやと思っていたのよ。アイツは悪い奴じゃないんだが、さっきも言った通りどうも抜けているんだ。だからアイツが説明をした後は、他の奴が確認する事にしていたはずなんだが、忘れていたらしいわ」


 肝心な説明が抜けていたら、確かにそれは大問題だ。


「ところで、なんだか雰囲気が違う? 俺が最初に会った時は、もっと男らしい口調だったような……」


「ああ、それね。使い分けているだけよ? 訓練なら厳しくしないとならないから、どうしてもああいう口調になるのよ。こっちが素ね」


「俺が言うのも何だけど、今の方が良い気もするけど?」


「癖なのよ。それよりも、私がスキルやその他について、追加で説明するわ。まあ、その前に私も食事にしないと」


 そう言って彼女も注文する。俺とは別のメニューだったが、メインの料理が違っているだけで、他は同じだ。まあ、夕食でもないのだし、朝食のメニューなんてのはこんな物なんだろう。


 ハッドンが朝食を摂りながら、最近の事情を少しばかり話してくれた。


 どうやらこの世界には魔王と呼ばれる存在が複数いるらしいが、今は大人しくしているらしい。それと、魔王と一般的なモンスターは特に連携を取ったりとかはしないのだそうだ。魔王には魔王に仕えるモンスターがいるらしく、魔王が大人しくしている間は滅多に見る事もないらしい。ただ、大半のモンスターは普通にいるモンスターと区別が付かないらしいが、それでも魔王の配下にいるモンスターの場合は、かなり統率の取れた行動を取るとの事だ。


「まあでも、魔王だなんて過去の遺物ね。私が知る限り、最後に出てきたのは数千年前って話よ。今も生きているかどうかと言われたら、普通は生きているとは思えないわ。そもそも伝説で語られる事がほとんどだし、見た事がある人なんていないのだから」


「じゃあ、何で魔王の話を?」


「最近少しだけど、魔物が活発になっているって話があるのよ。それを魔王に結びつけたい人がいるって事。言っている本人も本気にしているかは怪しいけど、知識としてあった方が良いでしょ?」


「なる程……」


 まあ実際にいたとしても、それですぐにどうこうなるとは思えない。もしそんな事になっているのであれば、国単位で何らかの行動をしているはずだろう。


 ハッドンが食事を終えるまでそんな話をし、それからギルドにある会議室などに使われる、比較的小さな部屋に移動する事となった。


    ――――――――――


 個室はそれほど大きい訳ではないが、それでも机が一つとそれを挟むように椅子がそれぞれ三脚備わっている。飲み物もハッドンが用意してくれたが、相変わらず温いエールだ。まあ、水が貴重であれば仕方がない。


「さて、ここからが本題なんだけど、あのノルベルトどころか、ギルド全体が必要な事を教えるのを忘れていたわ。全く呆れるわね。誰かが教えると思っていたらしいんだけど、誰も確認していなかったのよ」


 そう言ってハッドンは深々と溜息をつく。まあ確かにそういう事であれば、溜息もつきたくなるだろう。


「で、スキルやそれに伴う力――魔法も含まれるけど。これには様々なステータスが影響するわ。簡単に言えば、基本となるステータスが低ければ大した事は出来ないし、高ければ簡単な物でも上位のスキルや魔法が大幅に強化されるの。ここまでは良いかしら?」


「つまり俺のステータスが高いから、今朝起きたような事が普通にあると?」


「そうね。しかもあなたのステータスは、正直私から見ても異常よ。初級の魔法を放っただけでも、災害級の魔法になりかねない。普通ならファイアボールとして放った魔法でも、タカオの場合はこの辺の魔物を一掃できる威力がある事になるわね。ただ、素材は何も取れないと思うけど」


 そう言いながら彼女は苦笑いをして、『討伐部位も回収できないんじゃないかしら?』とまで言われた。


「それで肝心の力の使い方なんだけど、剣術などはまだ別としても、魔法に関しては手を抜くしかないわね」


「手を抜く? 言っている意味が……」


「語弊があるのは分かっているわ。詳しく言えば、発動させる魔法の魔力を調整するって事よ。でも、実際には手を抜くって表現が一番なのよね。実際、魔法をメインで使う冒険者も『手抜き』とか言っているくらいよ?」


 それで良いのかと思いつつも、周囲がそう言っているのであれば仕方がない。


「例えば明かりの魔法だが、君の場合は絞りに絞って、明かりが点くかどうかくらいでも十分すぎると私は思う。後は訓練次第かな。練習すれば普通の明かりも出来ると思うけども、しばらくは人前で使わない方が安全よ。少なくとも目立つ所でやるのはお勧め出来ないわね。出来れば窓が無い部屋で練習するのがベストだと思うわ。そうしないと、窓から漏れた明かりで、また大騒ぎになると思うわよ」


「そこまで言うか?」


「仕方ないじゃない。最初に悲鳴を上げた彼の事覚えている? 危うく失明の危機だったんだから。治療がすぐ出来たから問題なかったけど、時間が経過したら魔法でも治せないわ」


 そう言って、また溜息をつかれた。どうやら理解していないと完全に思われているようだ。まあ、確かに言われてしまえば反論できないのが悔しいのだけども。


「とにかく、どんなスキルにしても力加減を考えて欲しいわ。多分記憶を取り戻しつつあることで、スキルの使い方も自然に分かってきたんじゃないかと思うのよね。この分だと、もしかしたら昨日の体力測定もやり直しを検討しないといけないかしら?」


「それは勘弁して欲しいかな。それよりも実践的な訓練をしたいと思うんだけども」


「そうなのよね。正直即戦力になりそうな人を遊ばせておくのは勿体ないわ。でも、魔法に関してはもう少し慣れるまで訓練して。これはお願いというより命令ね。この周辺は森に囲まれているから、下手に火力の強い魔法なんか使われたら、それこそ面倒……というより、街に被害が出るわよ」


 それを言われて思わず唸る。


 どうやらかなり威力が強いらしいので、このままだと魔法は封印しないといけないらしい。せっかくSPまで使って魔法を使えるようにしたのに、本末転倒だ。


「まあ、裏の訓練所で魔法専用の場所があるから、そこでなら大丈夫だとは思うけど。今日は自分の魔法をちゃんと使えるまでは、そっちの訓練優先で」


 凄まれるように言われて、仕方なく頷くしかなかった。


    ――――――――――


「で、何から練習を?」


「そうだな。まずは着火の魔法だな」


 訓練所に行くと、ハッドンの言葉が最初に会った時と同じになった。何かのスイッチでもあるのではと思いたくもなるが、そういう性格なのだろう。


「着火というと、生活魔法だったような? 火魔法ですらないのを練習する意味は?」


「その気持ちも分かるが、魔法というのはステータスの魔力などによっても威力が変わる。君の場合はその魔力が尋常じゃ無い。なら、比較的安全な生活魔法で試すのが筋という物だ」


 なる程と頷きながら、一応着火の魔法について説明を受ける。単に目的の物に対して火を点けるだけの魔法と言われるが、燃えやすくするために少量の油や木くず、小枝などを準備するのが普通だと言われた。今回は着火自体を行うのではなく、魔法の練習なので、目標となる垂直に立てられた木の棒に向かってやる事になるのだけども、練習なら関係が無い?


「普通は『着火』と言いながら対象物に火を点ければ終わりだ。詳しく言えば、火を点けるイメージをしっかり持つ事なんだが、『ライト』の魔法を聞く限り、その心配は無さそうだな」


「なる程……着火!」


 その瞬間、目の前の棒に火が点いたかと思うと、一瞬で黒焦げになって焼け落ちた。いや、ちょっと違うな。僅かに灰となった物が下に落ちているけども、ほとんど完全に燃焼している。


 ハッドンの方を向くと、口を開けて固まっている。口の中が乾くんじゃ?


「はっ! な、何が起きたんだ!?」


「いや、着火の魔法を使っただけだぞ? 言われたとおりに」


「それはおかしい! そもそも生活魔法の着火で、それほど太くはないとはいえ丸太を黒焦げどころか焼失させるだなんて聞いた事がない。ん……ちょっと待てよ? もう一度ステータスを確認させてくれ」


 何か気になる事でもあるのだろう。ステータス表示を行うと、ハッドンが何やら考え込むように唸りながら見続けている。


「聞いた事もないし、そもそも見た事も初めてだから断言は出来ないが……MPの込めすぎだな」


「えっ?」


「今の君のMPは上限が5498もある。今使った魔法で、ほぼ100程減っている。普通というか、どんな魔法でも一般的にMPを100も使うなどまず無い。つまりMPというか、魔力を使いすぎているんだ。普通は着火の魔法でMPが減るなんて事は無いからな。かなり不器用な奴がやっても、せいぜい1消費すれば良い方だ」


「つまり?」


「今のは無意識なんだよな? なら、もっと軽く……物を温める程度のイメージでも大丈夫なんじゃないか? しかしノルベルトの奴め、本当に何も説明していないな。一番大切な事なんだが……」


「とりあえず、温める程度のイメージで構わないんだな?」


 隣に同じように設置された棒に、今度は物を温める程度のイメージで火を点けてみる。すると先ほどよりも威力こそ小さいが、一瞬で棒全体に火が点くのは変わりがない。先ほどよりも時間こそかかっているし、灰もだいぶ出たけども、棒全部を燃やしてしまった。


「な、なぁ……」


「いやいや、これは無いだろう!」


 ハッドンが慌てて俺の方に来て、両肩を掴むと揺さぶりだした。


「火魔法を使ったんだよな! 私は生活魔法って言ったはずだ! 生活魔法であの威力はあり得ない! そもそも魔法というのは――」


 頭を揺さぶられながら語り出したのだけども、頭を揺さぶられているせいでだんだん意識が遠くなって――。


    ――――――――――


「おお、気がついたか」


 気がつくと、知らない天井……じゃなく、ギルドの部屋の中だろう。


「ハッドンが暴走したみたいで、気を失っていてな。慌てて運んだんだ。魔法で何かやらかしたのか?」


 窓の外を見ると暗くなっている。どうやら夜らしい。


「えーと、生活魔法の練習をしていたような?」


「とりあえずハッドンの方には私から注意しておいた」


「あんたは?」


「ああ、言い遅れたな。ギルドで治療師をしているジェレミーだ」


 蒼い髪をした長髪のエルフだが、どうやら男性らしい。


「ここはギルドの治療院にある個室だ。腹が減っているか? 何なら持ってこさせるが。どのみち、今日は寝ていた方がいい」


「そうか……飯は腹も減っていない事だし、寝る事にする。結局あの後どうなったんだ?」


「それは明日にでもハッドンや他の関係者に聞いてくれ。まあ、悪いようにはならないと思うぞ?」


 そういう物かと思う事にして、今日はこのまま寝る事にしよう。それにしても、せっかく異世界で冒険だと思ったのに、冒険はどこにいったんだ?

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