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第五話 スキル

2017/01/29

内容を一部修正しました

 八番のカウンターは、すぐに見つかった。天井付近に木製の看板が釣り下げられており、そこは仕切りで区切られて五つの区画となっている。そのうち三つは天井から布製のブラインドが下ろされていて、一つだけ人がいる。


 職員は普人(ふひと)の女性。暇そうにしている。カウンターには二冊ほど分厚い本が置かれているが、女性の背後にも分厚い本が並んだ本棚が見える。カウンターが多いのは、スキルを覚える奴が多いからだろうか?


「スキルを覚えたくて来たのだが、ここで間違いないか?」


「はい、そうです。覚えるスキルはお決まりですか?」


 着火や浄化といった基本的な物はすぐに覚えたいと伝えたいのだが、その前に記憶喪失でスキルの覚え方その物が分からない事を伝える。知っている事前提で話されても、こっちが困るからな。


「もしかして、タカオさんですか? それではスキルについて、最初から説明が必要ですね。奥に専門の者がおりますので、そこのカウンターの横からお入りください」


 どうやら、事前に俺の事が伝えられていたらしい。まあ、その方が余計な手間も省ける。


 カウンターの横に扉があり、そこから入るよう案内される。どうやら内側から鍵がかけられていたらしく、カチッと音がして扉が開いた。カウンターの女性から既に声をかけられていたのか、扉を開けるとノルベルトが待っていた。連絡を受けて待っていたのか?


「先ほどは失礼した。一応再度自己紹介するが、スキルの専門家でもあり、同時にスキル受付責任者でノルベルトだ。記憶喪失だって? それは大変だな」


「ああ。おかげで困っている。しかし俺が言うのも何だが、責任者という割に若いと思うが……」


「はは、よく言われるよ。だがこれでもスキルについては専門家でね。スキルの専門書を今でも書いているんだよ。私が出した専門書だけでも十種類は軽く超えるね。入門書まで含めたら、多分三十は越えるんじゃないかな?」


 それは凄いと言うと、喜んでもらえたらしい。


「まあ、実際年齢的に若いと言われるのは仕方がないさ。他に才能が無かったとも言うんだがね」


 その言葉の影に、どこか悲しさを感じる。


「それは謙遜しすぎじゃないか? 才能があるから出来るのであって、無い人間は、文字通り何も出来ないと思うが?」


 言われて見ればそうだな、と彼は少し天井を見てから答えた。


 そのまま奥にある部屋の中に案内され、向かい合う形でテーブルを挟み席に座る。


「それでスキルを覚えたいが、記憶喪失なんだよな? 今覚えているスキルはあるのかな?」


「いや、それがよく分からないんだ」


 そもそもこの世界で言う所のスキルなど、存在しない世界から来たのだから、あるもないもないのだが、それは言わないでおく。


「十六歳で、スキルを一つも覚えていないかもしれない? 記憶喪失は仕方がないにしても、それは妙な話だ。それにハッドンから聞いたのだが、剣術スキルは持っていてもおかしくないらしいぞ」


「そうなのか?」


「生活する上で、大抵は何個か覚える。一般人でも十個程度は覚えているのが普通だな。生活系のスキルだけでもかなりあるんだ。それが全く無いとなると、正直信じられない。そもそも、剣術スキル一つ無いのに、訓練生をぶちのめすのは無理がある。カードを見せてもらえるか?」


 言われるがままにステータスカードを見せる。論より証拠だろう。それをノルベルトが机の上にある箱の上に置くと、まるでホログラムのようにステータスカードの内容が表示された。


「一応、いくつかスキルはあるようだ。しかし偏りすぎだ。このSP(スキルポイント)が4500というのは、本当なのか? 計測の間違いは……ここで計測しているなら、それはあり得ないな。ちょっと待っていてくれるか」


 そう言ってノルベルトが席を立つと、どこかに行ったようだ。何かを確認しにいったのだろうか? まあ待っているしかないだろうし、どうせ俺のステータスでも聞きにいったのだろう。冒険者ギルドの中でなら、そのくらいの情報は共有するはずだ。


 しばらくすると彼が手に紙を持って戻って来る。それをテーブルに置くと、やはりステータス表だ。


「驚いたよ。SPが4500だなんて前代未聞だ。正直年齢を疑いたくなるね。かなりの訓練をした者でも、トータル値で4500など聞いた事すらない。元々スキルが伸びやすいような暮らしをしていて、さらにかなりの鍛錬をしても、精々3000止まりだ。ちなみにそういった奴は、大抵が騎士とかそういった連中だな。向こうで騎士だったんじゃと聞かれたんだろう? 私だってそう思いたいが、向こうの登録の方で一応調べたらしい。該当者はいないそうだ。それに騎士だとしても、この値は異常だが。何より基本的なスキルをいくつか覚えているのに、その上でSPが4500だなんて、それこそ異常だよ」


 そこまでやっているのか。まあ、どんなに調べた所で該当者などいるはずはないが。


「よく分からんが、SPが多いのは悪い事ではないのだろう? むしろ何を覚えてよいのかが分からん。生活に必須なスキルは当然だが、今後必要なスキルを重点的に覚えたい。専門書まで出しているのなら、アドバイスも出来るんじゃないのか?」


「ああ、そうだな。しかし正直困った。向こうでは前衛向きの剣士タイプが良いのではと言っているのだが、私から言わせればどんなタイプでも構わない。多分否定されたはずだが、君なら一通りのスキルを取ってもSPに余裕でお釣りが来るな」


「言われた事とだいぶ違うのだが……」


「ああ、そうだと思う。だからという訳ではないが、君がやりたい事をまずは教えて欲しい。SPにはゆとりがあるので、それなりには叶えられるはずだ。足りないとなれば、そこから必要性が低い物を外せば良いのだから。まあ、普通に考えればそんな事はまず無いと思うけどね」


 どうやら話が分かる男のようで、正直安心した。これで一方的に決められるのであれば、正直どうかと思っていた所だったからだ。


 ちなみにノルベルトが言うには、ステータス表示はもちろん、生活に必要な着火、洗浄は取得しており、剣術もレベルは5だと言う。剣術の場合に限らず、大抵の攻撃や防御に該当するスキルはレベルの最大値が10らしく、5はかなり高いらしい。


 他にも料理スキルをレベル3、護身術レベル3,感知レベル2といったスキルを持っているそうだ。


 さらに魔法スキルとして火、水、土、風それぞれの属性をレベル4。それらの基礎となる初級魔法スキルを覚えていて、治療魔法をレベル3で覚えているらしいのだが、全く実感が無い。そもそも使い方が分からない。


「これだけのスキルを取得しているはずなのに、使い方が分からないというのも変な話だな……」


 ノルベルトがそう言うのも無理はないだろう。どうやらスキルを覚えていれば、自然に使えるのが当たり前らしいのだ。


「そうなると、スキルの使い方を教えて欲しいが、そもそも教えられるのか? その話だと、スキルを取得した時点で使えると言われているように聞こえるが?」


「ああ、普通はそうだな。こればかりは練習するしかないだろう。君が思い描く形で、例えば着火の魔法を試してみるとかだな。あとでギルド奥にある練習場で試すのが一番だろう」


「そうだな。分かった。しかし剣術と護身術だけで、外で戦えるのか? 魔法は抜きにしてだが」


「このレベルなら問題ないどころか、むしろ圧倒できるぞ。ここのギルドに所属している者は、そのほとんどがレベル3程度だ。それで一人で戦えるからな。そう考えると、さっきも言ったが練習場で少し体を動かして、自分の剣術をしっかりと把握した方が良いだろうな」


 なるほどと納得する。恐らく、スキルはあるが使った事がないので体が慣れていないのだろう。それなら辻褄が合いそうだ。


 それでも剣術と護身術だけではどうも汎用性に欠ける気がする。とりあえず最低限はこの周囲で戦闘出来る程度の腕前。武器の種類は問わない。それから生活に必要な魔法は全て。料理や回復魔法も、すぐに使えるようになりたい。自分で作った飯が不味かったら、目も当てられないからな。やはり食事は大事な要素だろう。無論魔法という物も使ってみたいが、正直今は体になれる事が大切だろう。。


 それにしても火を点けるのに道具を使う方法もあるが、スキルで代用する人が多いというのは驚きだ。何故か分からないが、普通は道具を使う気がする。これも記憶喪失が原因だろうか?


 目の前でノルベルトが紙に何かを書き続けている。どうやらスキルリストらしい。時々傍にある本を見る事もあるが、ほとんどは何も見ずに書き続けている。


 しばらくして終わったのか、数枚の紙を俺に見せた。


「これが必要なスキルとそのSP。スキルの数だけ見ると多いように思うかもしれないけど、使うSPはそんなに多くない。とりあえずこれらを先に覚えてしまおうか」


 すると後ろにある棚から、拳大ほどの水晶を取り出す。スキルを覚えるのに必要なのだろうか?


「このクリスタルでスキルを覚える事が出来る。両手を置いてくれ」


 水晶というか、この世界では何をするにもクリスタルを使うらしい。当たり前の筈なんだが、どうも違和感を拭えない。この違和感は一体何だ?


「後はこっちで全て行うので、そのまま手を離さないように」


 言われてそのままにしていると、先ほどのリストと照らし合わせるように金属板をどこからか取り出し、それをクリスタルに触れさせる。するとクリスタルが一瞬だけ光った。同じ作業をずっと続けていくが、その間俺は手をクリスタルから離すことは許されないらしい。


 そうしていると頭にスキルの名前が浮かんでくる。同時にその使い方も分かるようになってきた。名前と使い方が一致するのには、少しばかりタイムラグがあるようだが。しかし単にクリスタルに手を置くだけというのは暇だ。しかもその間は事実上動けない。スキルを覚えるだけなら、問題は無いと言えるが。


 十分ほど経過しただろうか? やっとスキルの取得が終わった。


「それにしても、私も初めてだよ。まさかスキルポイントが余るだなんてね。普通は少ないスキルポイントで、色々と考えて自分の戦い方を模索するんだ。こんな事は前代未聞だよ」


 確かにそうだとは思う。普通は五歳にもなれば、男であれば初歩のナイフ術を覚えさせられるらしいし、女子であれば調理スキルを覚えるそうだ。男の場合のナイフ術は、主に木などから実を採る時のために必要だったりする。なお女子の調理スキルの場合、初歩のナイフスキルも同時に覚える事となる。調理には物は必須だからだ。その意味では女子の方が早くから高いスキルを覚えさせられると言っても良いだろう。


 そんな常識を知っているのに、なぜ俺はスキル一つまともな使い方を知らなかったのだろうか? まあ、今も完全に把握は出来ていないが。


「これで要望のスキルは終わった。SPもまだほとんど使っていない。覚えたいスキルがあれば、まだまだ色々取得出来るが、どうする?」


 正直言って驚きだ。取得したスキルだけでもかなりの量があるが、それでも510しか使わなかったことになる。ちなみに今回覚えたスキルはこんな感じだ。括弧の中は取得に必要としたSPとなる。元々覚えていた物は、ポイントは除外するが。


基本スキル系

・ステータス開示

・着火

・洗浄

・時間(1)

・地図LV5(5)


技能スキル系

・調理LV3→LV5(+4)

・ナイフ術LV5(10)


戦闘スキル

・護身術LV3→LV5(+36)

・格闘術LV5(48)

・剣術LV5

・弓術LV5(48)

・大弓術LV5(48)

・盾術LV5(48)


魔法スキル

・初歩魔法→中級魔法(+50)

・火魔法LV4

・水魔法LV4

・風魔法LV4

・土魔法LV4

・精霊魔法LV4(25)

・召喚魔法LV4(25)

・妖術魔法LV4(22)

・回復魔法LV3→LV4(+50)


戦闘補助スキル

・感知LV2→LV5(42)

・隠密LV5(48)


 消費SP 510 残りSP 3990


 まず基本スキルだが、自分のステータスを見るための物に、着火と浄化、時間が分かるようにするのは外せない。地図は一度見たり購入した地図を見れば、その場所に限り自分の位置がどこなのか分かるようになるスキルなのだが、レベルが高い程その範囲が広くなる。


 技能スキルは調理を上げた。やはり美味い飯は食べられるようにしたい。またナイフ術も取得し、倒した獲物の素材剥ぎ取りなどが最も効率よく行える利点があり、調理スキルの他に覚えて損はない。


 戦闘スキルは剣と弓を中心に、盾も覚えておくことにする。弓は小型の弓と大型の弓で扱いが異なるらしい。単なる弓術の場合は小型の弓なので比較的短時間で弓を射ることが出来る利点があるが、一発の威力が劣る。大弓術は一度に射る回数こそ少ないが、威力は下手な剣術よりも優れている利点がある。また遠距離からの狙い撃ちも可能だ。格闘術は体術系統の発展系で、武器のない状態での肉弾戦にて威力を発揮する。武器がない状態も考慮すれば、これは外せなかった。


 他に必要そうなスキルとして、感知と隠密。地図と感知を組み合わせれば、一度確認した人物などの居場所をかなりの精度で確認出来る。また隠密は、レベルが高ければ感知からも居場所を隠せる優れものだ。今後冒険者をやるのであれば、こういったスキルは必要だろう。


 これらを取得したことにより、残りのSPは3990となった。他にも色々とスキルがあり、例えば鍛冶などだろうが、それは今後の課題だな。


 魔法系スキルはあまり変更していない。そもそも使い方がまだ良く分からない。この状態で下手にスキルレベルを上げるのは危険な気がする。


「正直に言うが、これだけならこの辺りの冒険者なら敵無しだな。魔物もこの辺ではオーバーキルになると思うぞ?」


「実感が湧かないが……」


「訓練所で試してみれば分かる。ちなみに魔法だが、原則として決まった名前の魔法という物は無い。まあ、火属性なら誰でもファイアボールを唱えるが、それ以外だと結構勝手に名前を付ける。むしろ大事なのはレベルだな。レベルが高ければ高いほど、同じ魔法でも威力が変わる」


「例えば?」


「そうだな……ファイアボールで言うと、レベル1のファイアボールでは魔物を倒す事は難しい。大抵は魔物の皮膚に軽い火傷を負わせるのが精一杯だ。行動に支障の出るダメージを与えるとなると、最低でも3はいる。3もあれば手足を奪う事も出来るだろう。5あれば、一撃で魔物を倒す事も可能だ。まあ、火魔法で魔物を倒すのは、必ずしもお勧めではないが。LV4もあれば、弱いモンスターなら十分だが、素材は諦めた方が良いかもしれないな」


「なぜだ?」


「魔物から採れる様々な物を傷つけてしまうからだよ。熊系統の魔物なら、本来素材として毛皮を売る事が出来るが、火魔法だと全てを焼いてしまう」


「なるほど。確かにそれは問題だな……」


「まあ、レベル5あれば矢のような火魔法も簡単に使える。そうすれば毛皮のダメージは最低限で済むので、それほど価値は落とさないけどな。気が向いたら魔法のスキルレベルも検討してくれ」


 とりあえずスキルの使い方を予習し、追加でスキルも覚える事が出来た。後は実際に使ってみた方が良いだろう。

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