第四話 ランク制度
2017/01/22
ランク制度の表記を変更しました
「なかなか優秀じゃないか。ビックリしたぞ」
試験が終わって、俺はカウンター越しにケーラーと話をしていた。試験の結果は既に知らされており、かなり優秀だと既に思われている。もちろん俺はそんな事など思っていないが。
「とりあえずお前さんはEランクの三級で登録しておく」
冒険者にはランクがあるそうだが、そのランクの中でもさらに部類分けがあるそうだ。
また、いくら優秀そうな者であったとしても、登録時は最大でEランクからのスタートになるのだという。
冒険者ランク
SS 特級冒険者
個人で複数のドラゴンや超大型の魔物(体長三百フィート級)を討伐可能
※常時滞在中の町などを知らせる義務あり
S 特級冒険者
個人で単独のドラゴンや大型種の魔物(体長百フィート級)を討伐可能。複数なら撃退可能
※常時滞在中の町などを知らせる義務あり
A 上級上位冒険者 個人でドラゴンを討伐または撃退可能
※常時滞在中の町などを知らせる義務あり
※実質的最高ランク
B 上級冒険者
五人程度集まる事でドラゴン亜種(ワイバーン等)や他の大型種の魔物程度を討伐可能
※常時滞在中の町などを知らせる義務あり
C 中級上位冒険者
単独で十匹程度の中型種の魔物(ジャイアントオーガ等)を討伐可能
D 中級冒険者
単独で街付近に出没する魔物を討伐または撃退可能
E 初級冒険者
街などの周囲で小型の魔物一匹(オーク等)なら単独で討伐または撃退可能
F 初心者冒険者
一人で冒険者としては街を出る事が出来ない
五人程度集まれば討伐可能な事も
※ランクFのみの冒険者では街の外に出る事は制限される
G 冒険者ギルドに所属している事を示す身分証
※街は町、村を含む
サブランク
1級 武術、魔法共に、最前線で戦闘可能
2級 武術または魔法にて最前線で戦闘可能
3級 武術または魔法で魔物と単独で戦える
4級 近接、中距離の戦闘支援が主となる
5級 遠距離での戦闘支援が主となる
6級 仲間の支援のみ
このような形でランク制度が定められており、Eランクからサブランクが適用される事があるそうだ。少なくともEランクでなければ単独行動は都市や町、村の外に出ることは許されず、ほとんどの場合Eランク以上の者とパーティーを組まなければ、実質的な戦力としては見なされない。
また魔物のランクとしては、ドラゴンなどの大型種がSランクとされ、ワイバーン等のドラゴン亜種がAランク。Bランクでキングオーガと呼ばれる体長三十フィート級のモンスター、Cランクでジャイアントオーガと呼ばれる体長十五フィートクラスのモンスター、Dクラスでやっとオーガや上位種のオーク等、Eクラスでオークなどが指定されているらしい。
俺の登録については、普通なら最高でもFランクからが一般的だそうだが、今回の模擬戦でEランクの3級が認められた。これは、この支部初の事らしい。他の支部でも聞いた事が無いと聞く。ただ、制度上は認めざるを得ないので、今回の対応になったそうだ。
ちなみに試験を担当した女性教官ハッドンの個人的な意見だと、実力的にはCランク確実らしいのだが、制度的に認められないという。
Eランクであれば、少なくともこの街の近隣に限って一人での行動が許され、3級ならばこの街の周辺にある村などまで、一人での行動が許される。サブランクも3級以下では、一人での行動はDランクにならなければ個人で街の外に出る事は事実上禁止だ。6級ともなれば個人での戦闘能力は無いと見なされる。ランク制度が複雑に思えるが、今までこれでやってきたらしいので、俺が口出すする事ではないな。
またモンスターの種類毎に大まかなランクが定められており、それらを記載したハウツー本のような物もあるとの事。ギルドなら無料で閲覧も出来るが、ある程度の経験者なら個人で購入する者も少なくないという。特にパーティーのリーダーなら、ほぼ持っているらしい事も聞いた。
この街にいる半数の冒険者もEランク以下で、サブランクを適用されていない者がほとんどだという。ちなみに喧嘩をふっかけてきたあのバカは、どうやら一応Dランクのようだ。あれでDランクなのかと思うと、Dランクの定義が間違っている気がするのだが。あの実力で、オーガを相手に出来るのか?それとも、オーガとはそんなに強くないのか?
近場でたまに森から出てくる魔物や凶暴な動物を、五人以上で討伐しに行く事はあるらしいのだが。Eランクでサブランクが適用されていない場合、最低でも五人での行動が義務化されている。それだけ魔物や凶暴な動物が強いということなのだろう。
それとSSやSランクと呼ばれる特級冒険者というのは、別名『勇者』とも言われるらしく、最強の代名詞みたいなものらしい。個人で国家規模の軍隊とも渡り合えるような実力があるそうだ。それは人と言えるのか?まあ、ここ最近はSSランクなどいないらしいし、そもそもSランクすらこのギルドにいないと言われた。たまにBランクの者が他の所から立ち寄る事があるらしいが、Aランクすら目にする事は希だという。ここは比較的大きな街らしいのだが、それでも目にする機会が少ないというのは、それだけ厳しい評価基準でもあるのかもしれない。
現状仲間となるような者もいない事だし、一人での行動がある程度許されるのは大きいだろう。当然何かあっても自己責任にはなるが。最優先ではないが、仲間を見つけることもした方が将来的には得策ではあるだろうが。一番の問題は、やはり知り合いが誰もいない事だな。
「しかし、だ。お前さんはまだ装備がまるで無い。流石にそれで街の外に出るのはどうかと思うぞ。街の周囲ならそんなにモンスターもいないはずだが、全くではない。ゴブリン程度なら普通にいるし、オークの目撃情報も頻繁にある。まずは街の中の依頼をいくつかこなして、装備を調えるべきだろうな。ついでに言えば、仲間は早めに見つけておいた方が良いだろう。一人ではやはり色々と厳しい。特に護衛依頼などは、一人で受ける事は無理だからな」
護衛依頼は、最低でも四人以上のパーティーである事が必須とされるそうだ。
「ああ、それはそうだろう。俺も無茶をするつもりは無い。仲間は……まあ、何とかするさ」
どちらにしても、一人では出来る事も少ないだろう。それに俺は記憶喪失で色々と常識に疎い状態らしい。ならば仲間は早めに見つけなければ。
「それでだ。ステータスを調べるからこのクリスタルにしっかりと手を置いてくれ」
目の前に、人の頭ほどはあるほぼ透明な球体が置かれた。一見すると巨大なガラス玉に思える。クリスタルというと、水晶だろうか?
「クリスタル?」
「魔法鉱物の一種だな。普通は親指程度の大きさしかないが、特殊な加工でこの大きさにしてあるらしい。俺もさすがに作り方は知らないが」
そうか、と言ってからクリスタルの上に右手を置く。瞬間、クリスタルが音も立てずに文字通り砂となった。ケーラーが、何が起きたか分からないといった感じで、クリスタルであった物を見ている。
「今ので終わりなのか?」
何度か問いかけるが、ケーラーはまるで反応がない。目の前で何度か手をかざしてみたりもしたが、それすら反応しない。気絶でもしているのか?何かの病気持ちなのか?
「はっ!?」
どうやら気がついたらしい。本当に大丈夫か?
「クリスタルが砕けた?まさか!?そんなバカな……」
ケーラーの顔が引き攣りながら、譫言のように言葉を発する。近くにいなければ、まともに聞き取る事すら難しかったかもしれない。
「ちょっと待っててくれ!」
ケーラーは席を外すと、駆けだしてどこかに行く。何か問題でもあったのか?
数分程して、他に二人を連れ戻って来る。一体何なんだ?
「――な、バカな事があるか」
「しかし、確かに目の前で!」
「可能性としては、クリスタルが……」
三人で何かを話ながら、やっと俺の前に来る。するとケーラーに案内されてきた二人は、机の上にある砕け散ったクリスタルの破片を見て、ケーラーがそうであったように絶句している。何これ、面白い光景かも?
「だから言っただろう!」
ケーラーが語気を強めて言うが、それでも残りの二人は反応がない。俺が何か悪い事でもしたのか?
「こ、これは……」
そう言ったのはエルフと思わしき女性。そして来た道を走って戻る。
「しかし、こんなに綺麗に砕けたのか?本当にこれはクリスタルなのか?」
もう一人残っていた普人の男が、信じられないとばかりに言う。やっぱり不味い事をしたか?
「そもそも、本物だとしても砕けるのか?膝上どころか、二階から落としても割れない物だぞ?」
そう言われてケーラーは顔を顰めるが、それが本当だとしたら、なかなかに硬い物なのだろう。ガラスのように見えたが、ガラスなら間違いなく割れるだろうからな。同じ条件であれば、水晶でも割れるとは思うが。
そんなやり取りを見ながら一人考えに耽っていると、先ほど走って行ったエルフの女性が戻ってきた。手には何かを抱えている。
「倉庫にあった、特殊用途用を持ってきたわ。これで試すのが一番ね」
そう言われて、残りの二人もなぜか納得する。先ほどのクリスタルと同じように見えるが、何か違うのだろう。わざわざ倉庫から持ち出したと言うのだからな。
「さあ、これに先ほどと同じように手を載せて!」
彼女は素早く散らばったクリスタルの破片を、机ごと傾ける事で片付け?先ほどと同じようにクリスタルのような物を置いた。言われるがまま、再度右手をその上に置く。と言うより、彼女に手を引っ張られて無理矢置かされたと言えなくもない。
今度は急に透明だった球体が、様々な色で輝き出す。まるで虹色といった感じだ。しかもなぜか点滅しているようにすら見えるが、大丈夫なのか?
「うそっ……」
エルフの彼女が、何か信じられない物でも見るかのような感じで俺を見る。そんな顔をされても、俺の方が困るのだが。というより、説明をして欲しい。さっきからまともな説明がない。
「と、とにかく光が消えるまでそのままで!」
「ああ、分かった。しかし、大丈夫なのか?」
「多分……?」
「おい……」
そこは保証しろと断言したい。しかも、何気に疑問形だった気がする。そして残りの二人は、口を開けて固まっている。やはり病気じゃないのか?
その後、エルフの女性が何も言わないので、黙って輝くクリスタルのような物を見る。まあ、綺麗と言えば綺麗だが、何をしているのかサッパリだ。なぜ説明をしないのか、小一時間問い詰めたくなる。
五分程経過しただろうか。冷たかった物が少し温かく感じるようになる。最後に黒く染まると、やっと正気を取り戻したのか、ケーラーが手を退けて良いと言う。
「これが身分証にもなるステータスカードだ。ある種の魔道具らしいが、俺も詳しくはないな。その辺は偽造出来ないように秘密にされているんだよ。無くさないようにしろよ?再発行には銀貨一枚かかるからな。銀貨一枚分の労働という方法もあるが。それで、これをクリスタルの上に置く訳だ」
ステータスカードは銀色をしている。銀貨となると持ち合わせのほとんどだ。それだけ高価な物なのだろう。魔道具なので余計なのかもしれないが。
「それより、そちらの二人を紹介してくれないか?」
ケーラーがカードをクリスタルの上に置くと、カードがしばらく金色に輝いて、クリスタルが透明に戻った。魔法的な仕組みが使われているのだろう。もちろん俺には原理など分からない。
「ああ、すまん。こっちの男がノルベルトで、スキルの専門家だ。そしてこちらのエルフがステッラといって、魔法関連を専門にしている。どちらもこのギルドの職員だ」
なるほど。専門家立ち会いなのか。
「うぉ!?嘘だろ……」
急にケーラーが驚きの声を上げたので、俺も驚く。
「どうかしたのか?」
ケーラーの驚きを見て、ステッラが身分証を横から見る。そして口をパクパクさせている。そこへさらにノルベルトが加わると、口をまた開けたまま放心している感じだ。本当に大丈夫なのか?何か体でも悪い所が無ければ良いが。早急に医者の所に行った方が良いのでは?
「お前さん、前に兵士……いや、騎士とかやってないよな?確かにこの値なら、あの冒険者に圧倒出来るだろうが、正直信じられんぞ。訓練も特にしていない普通の奴だと、ステータスの値は一般に高くても五十程度なんだが……こんなのは俺も初めてだ。というか、間違ってないか、これ?」
そう言って俺にステータスカードを見せると、そこにはこう記載されていた。
・体力 :SS(6425)
・筋力 :SS(8722)
・力 :SS(8853)
・素早さ:S(3026)
・器用 :S(2568)
・敏捷 :SS(9387)
・反応 :S(2711)
・感知 :SS(5376)
・知性 :S(2195)
・学習力:S(2344)
・知識 :B(795)
・魅力 :S(1689)
・HP :12634
・MP :5498
おそらくSが高く、Bが低いのだろうが、括弧の中の数値は何だろうか?それにしても項目が細かいな。こんなに沢山は一度に覚えられないぞ。
「それなりに出来るとは思っていたが、体力や筋力、力がSSだと!?それに知識がBだなんて、初めて登録した者では見たことがない。それに知性も異常だが、知識がBだなんて魔法使いでも希だぞ!?」
「ちょ、ちょっとこれ、写させて。それと、これは回収するわ。こっちでも異常が無いか調べるから。ノルベルト、行きましょう」
ステッラがそう言ってクリスタルのような物を回収し、同時にノルベルトを引っ張るようにしてどこかに行く。
「何となくここに書かれている値が、普通ではないというのは分かるんだが、説明してくれないか?どうも状況が読めないのだが?」
ケーラーは一度俺の顔を見ると、少し落ち着いたのか近くのテーブルに行くよう案内する。一応ギルドの中にある半個室になった場所だ。ちょっとした相談事などの時に良く使用するらしい。
向かい合わせに座ると、ケーラーがさっそく作ったばかりの身分証をテーブルに置く。そこには名前とその横にE3と書かれており、これがEランクの3級であるという事なのだろう。名前の下にはカルチーク発行と記載がある。冒険者ギルド関係の名前だろうか?他にもいくつか記号や表記があるが、記号だけの物はさすがに意味が分からない。
「先ほどは済まなかった。ああいったステータスについては、本来外部に対しては秘密にしなければならないのだが、驚きのあまりな……」
そんな事だろうとは思い、特に問題と思っていない事を伝える。少なくとも、全ての値まで言われた訳でもないのだ。それに調べる者が調べたら、すぐに分かる事のはずだ。
「それで、まずはこの身分証の解説をしておく。まあ、そんな難しい事が書いてある訳ではない。値は信じられないがな。まずは名前だが、問題はないな?とはいえ記憶喪失という事だし、もし名前をきちんと思い出したら伝えて欲しい。その時は無料で修正する。それと無許可での名前変更は罪になる。普通は行えないようになっているが、それなりの手段を用いれば偽造も出来てしまうからな。罰則としては最低でも一年間の資格停止と、その間の強制労働だ。強制労働を拒否したり、逃げ出した場合は奴隷落ちする事となる」
刑罰を拒否すれば奴隷落ちか。理由は色々あるのだろうし、今気にする事ではなさそうだ。それよりも……。
「偽造出来るのか?それは問題だと思うが」
「詳細は一切言う事が出来ないが……というか、俺も知らないし、方法があるとだけ覚えて欲しい。希にこれを奪われて、成りすまされる事もある。紛失した場合は、すぐに近くの冒険者ギルドに届けて欲しいが、冒険者ギルドなければ、とにかくギルドはどこでも良いから届けて欲しい。どんな小さな町にも、これを読み取る事が出来る施設があるはずだ。そこで事情を伝えれば、少なくともその時点で奪われた事は、全ての関係各所に通知が行く事になっている」
「通知を出しても、全てに知らせが行くのに時間がかかるのでは?」
「専用の魔道具があるんだ。少なくともそれで、最低でも一日以内に全て通知されることになる。仮にその間に使用されたとしても、そこから犯人を割り出す事も出来る訳だ」
「便利だな。しかし、殺されたりしたらどうなんだ?さすがに無理だろう」
「それも対策は一応ある。冒険者ギルドのある国によって呼び方は多少異なる事があるが、依頼を受ける時と、完了時に登録情報を確認する。その際に先ほどのステータスと照合するんだが、人によりその値は異なる。そもそも更新する前の値しか、カードには記載されない。数値は一般的に非表示にされているし、本人もしくはギルドなどの公的機関以外では表示不可能だ。同じ事も希にあるが、ほぼ無いと言って差し支えない。なので、それで判別できるわけだ。それにここまで高い値となると、同じ人物が二人いることはまず無いな。経験と共に値は変化するからだ」
その他にも色々とカードが奪われた時や紛失した時の説明があり、先ほども教わったが紛失の際は銀貨一枚の罰金で、奪われた場合は再発行手数料で銀板一枚となる。それなりの高級宿一泊が銀板一枚らしいので、銀貨一枚となると銀板十枚の価値。紛失した場合はかなりの痛手だし、それに伴うペナルティーも厳しい。
それとカードに記載があった記号などだが、E3とはやはりEランクの3級で、名前の下は発行した都市の名前。この街はガリンド王国のカルチークという都市。
ちなみにこの国で、街として制定されているのは四つのみ。比較的大きな都市にのみ『街』の名称が使われ、その他は『町』と『村』となり、町ならば各ギルドの支部が一応あるが、村にはない。小さな役場らしき物はあるらしいが、どうも聞いていると、村長の家がそのまま役場的な役割もしているようだ。
他にある記号でカルチークの隣にあるTという記号は男性を示し、女性ならEとなる。その横にHの表記があり、これは俺が普人族であるという事。先ほど行ったクリスタルの判定で普人族と出たそうだ。
種族としては他にドワーフやエルフ、ホビット族、ベスティア・オアーミなどがおり、それぞれD、E,F、Bなどで表記される。なのでエルフの女性ならEEの表記なのだとか。種族名が長い場合もあるらしいので、略号を使うのは確かに便利なのだろう。他に植物系の種族もいるらしいが、少数民族という話だ。
「それで先ほどのステータス値なんだが、上はSSから始まりS、Aとなって、最後がGだな。まあ普通の奴ならGで何の問題も無いのだが。それぞれに範囲が決まっていて、Gなら0から24までだ。俺が驚いたのは、一番低い知識でもBで、値が795って事だな。知識がBなんて、俺は初めて見たぞ。それ以前に、Sなんて見た事もない。SSだなんて、正直計測ミスを疑う所だ」
そう言われると確かにそんな気がするし、そもそも俺にそんな力や知識があるとは思えない。
ケーラーは、ステータス値一覧表を俺の前に出した。確かに一番低いのがGで0から24であり、次がFで25から49と続き、Eが99まで、Dが最大199、Cは399までとなっていて、Bが799まで。Aとなると1599までとなり、Sともなると3199となっている。SSは3200以上で、最大値の記載が無い。
「見て分かる通り、Cランクともなるとかなりの実力があると見なされる。それで君の場合は大半がA以上で、Sが多い。というか、SSなど信じられん。少なくともこの周辺に出る魔物では、君に単独で敵うのはまずいないだろうな。とはいえ大抵は集団で襲ってくるのが魔物だ。だから一人での行動は、一応今の段階ではお勧め出来ないという訳だが。ただなぁ。これを見ると、正直囲まれても平気な気もする。まあ、慢心はするなよ?」
「なるほど、それで一人ではという事か。それなら納得だな」
どんなに個人の能力が高くても、集団と個人で戦うのは意味が違う。どの程度の規模で襲ってくるのかは知らないが、一度に十匹とかは無理だろう。
聞く所によると、普通に街道などを移動する程度では魔物との遭遇確率は低いらしいが、森の中ではかなりの頻度で遭遇するそうだ。そもそも魔物の生態もよく分かっていない所が多いらしい。
「これだけのステータスがあれば色々とスキルも覚えられるな。そうだ、説明していなかったな。これが君のスキルポイントだ」
別の紙に俺の情報が色々と記載されていて、そこにSPと表記があり、その隣には4500と書かれている。
「この値も俺としては信じられないんだが、まあ説明だ。SPというのがスキルポイントだ。これを使用して色々なスキルを覚えていく。剣術などもそうだが、魔法もこれで覚える。当然簡単な物であればSPは少なくて済むが、威力としては期待出来ない。武術は大まかに三ランクまであり、魔法関連のスキルは一から十までレベルがある。魔法は少なくとも三以上なければ実用性はないぞ。スキルのリセットは一応可能だが、それには金が必要だ。なので出来るだけ慎重に選んだ方が良いだろう。こっちが武術系統のスキルで、これが魔法関係だ」
別の紙二枚を提示される。剣術や槍術などのスキルが載っていて、必要なスキルポイントの表記がある。魔法も同様だ。色々と記載されていて、最後に『詳細は専門書を参照』とすら書かれている。ここに載っているのはあくまで基本的な事だけのようだ。
前に本を読んだが、どうやらその通りの事が書いてある。
「色々あるな。しかし迷うな。どれも取ってみたい所だが……」
「それはお勧め出来ない。いわゆる器用貧乏になる可能性が高くなる。まあ中衛でやるならまた別だが、君の場合は体力なども高い。前衛に向いていると俺は思う」
万能タイプが楽かと思ったが、そうとも言えないらしい。まあ経験者なんだろうから、これは従った方が良いのだろう。
「それともう一つ、SPはレベルが上がれば上昇する。レベルは戦闘経験に依存するが、一番上がるのは相手を倒した時だな。訓練でも上がるが、この数値を見ていると訓練で上がるのか疑問だが……」
「そうか。それでスキルを覚えるには?」
「後で説明しよう。その前にまだ説明がある。このHPという表記だが、これがゼロの場合に死亡する。スキルで『ステータス表示』という物がある。必要なSPは一ポイントで、自分のHPとMPを常時表示させる事が出来るようになる。もちろん任意で消す事も可能だ。これは冒険者に必須のスキルと言っていいな。命は惜しいだろう?」
「ああ、確かに」
それにしても、命を預けるHPですらスキルを取得しないと見る事が出来ないのか。まあ、普通は見る必要すら無いのかもしれないが。
HPとMPについてはそれぞれ計算式があるらしい。HPは基本体力や力で、そこに細かいいくつかを足す感じに思える。MPはかなり複雑な感じで、知性や知識はもちろん、器用や学習力を元に計算するようだ。
「それと浄化や着火のスキルというか、これは一応分類としては魔法だな。どれも一ポイントで取得しておく事を勧める。浄化はちょっとした汚れを取ったりする事が可能で、一応身体を清潔にする事も出来るが、身体はきちんと定期的に水浴びなどで拭いた方が良い。浄化の魔法で身体を清潔にするのは一時的なものだ。移動時なら仕方がないが、それ以外ではちゃんと水浴びくらいはした方が良い」
「風呂はないのか?」
「おいおい、贅沢だな。風呂なんて貴族様くらいしか使わないぞ?まあ高級宿にも備え付けている所はあるが、冒険者にはまず縁がない。ギルドにあるのは水浴び場だけだし、宿だって良くてシャワーがあるくらいだ。当然単なる水だぞ。冬は氷のように冷たいから、使う奴なんていないしな。シャワーだと最低でも銀板一枚はかかる。ここの水浴びだって有料で、一回銅貨一枚だ。なので水浴びも三日や四日に一度しか行わない冒険者も多いな。ちなみに一般的には一度に使える水浴びの水は桶三杯だ。身体を拭くための布は自分で用意しておけ」
「銅貨一枚か……」
確か銅貨二枚で雑魚寝の共同部屋ではあるらしいが、最低限の宿には泊まれる事を考えると、かなり高額だと言える。しかし風呂がないのは寂しい。風呂でゆっくり浸かるのが楽しみだったんだが。
「この街に限らないが、水はどこでも貴重品だ。飲み水となると余計にな。コップ一杯の水で、普通は銅板一枚だ。水が貴重な所だと、銅板三枚なんて所だってあるからな」
銅貨一枚の十分の一が銅板一枚と考えると、銅板三枚はかなり高額だと言える。水環境はあまり良くないのだろう。
「水魔法を覚えれば、それだけで自分の水くらいは用意出来る。他のスキルを犠牲にしても、水魔法を最低限覚える奴は多い。魔法の水ならそのまま飲める」
これは良いことを聞いた。水魔法は覚えておかねば。
「それと着火の魔法だが、野営する時には必須と言える。薪に火を点けるのに一番楽だ。一応火打ち石や着火用の道具も他にあるが、あれだと大抵時間がかかるからな。高級品ならそうでもないが。普通に暮らすだけなら問題ないが、外での野営なら時間は限られる。なので覚えておく事を勧めるよ」
少なくとも着火と浄化は必須だな。どちらもSPは一ポイントなので、二つでも二ポイントだ。これだったら取らない理由はない。後は水魔法をどの程度覚えるかだな。
「分かった。それは覚えておこう。他に必須のスキルはあるのか?」
「そうなだ……見落としがちだが、調理などはあると便利だぞ。知らない食材でもそれなりに調理して食えるようになるって代物だ。それと、調理に使う食材で毒があるかどうかの判別が出来る。ただ毒草や毒キノコがそのまま判別対象にはならないんだが。量によってはそれらも味付けになるらしい。もちろん無害で食べられる量に限られるらしいが」
「確かに野営する時には便利そうだな。それにしても、毒系統の草でも調理次第では食えるのか……」
「ああ、そうらしいぞ。俺はその辺の事は知らないが。それに食う物に困っている時には、多少の文句は言えないだろう?」
「それはそうだな」
さらに調理スキルは、食堂経営などの者は確実に取得しているそうだ。ほぼ必須のスキルだと言われた。レベルが高ければかなりの腕前になるらしい。なかなか上級のレベルになるのは難しいという話だが。流石にそこまでは俺に関係ないだろう。
他にも毒や麻痺スキルなどを覚えることで、それらに対して耐性を持つことも可能という。スキルポイントに余裕があれば取っておいて損はないそうだ。
「詳しくはスキルを覚える時に担当者に聞くといいだろう。多分だが、先ほどのノルベルトに聞く事になると思うが。それでだ、この後はどうするんだ?お前さんはかなり実力が高そうだし、色々と出来ると思うんだが……」
「そう言われてもなぁ……正直記憶喪失らしいし、金はないが生活に困らない程度の仕事をして、様子を見ようと思っているんだが」
いくら実力が高そうだとはいえ、そう無理するつもりは毛頭無い。そもそも何故記憶が無いのかも、まだ具体的に分かっていないのかが疑問だ。なのに普通の会話にはとりあえず困っていない。分からない事が多すぎる。
「そうか。まあ、何かあったらギルドに相談してくれ。それが俺たちの仕事でもあるからな。とりあえずスキルを覚えた方が良いだろう。八番の札があるカウンターでスキルを覚えられる。詳しい事はそこで聞いてくれ」
俺はケーラーにとりあえず礼を言うと、その場を後にした。




