表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

第三話 冒険者ギルドとテンプレ

2017/01/21

誤字等修正しました

 中央通りと言われるだけあり、人はかなりいる。普人ふひとはもちろんだが、ドワーフと思われる者やエルフらしき者、その他色々な種族がいる。それが不思議だとは思わないし、当たり前に感じる。普通にドワーフやエルフと分かるのが当たり前に思うが、どこかおかしく感じるのは気のせいか?多分だが、俺が違う世界から来たからだろう。まあ、そのうちこんな状況にも慣れるはずだ。


 通り沿いには露店が並んでいるが、道具類を売っていたり野菜を売っている店、肉などを売っている店の他に、串焼きらしき物などを売っている店がある。他にも簡単な軽食を売っている所もあり、それらを道端で食べている者もそれなりにいるようだ。


 串焼きのような物が何なのかは分からないが、値段は銅板一枚から二枚程度。軽食は銅板五枚程度から売られている。飲み物は別で銅板一枚としている店が多いようだ。メニューの内容まではよく見なかったが、価格表に『銅板2・青銅3』といった形で値段が表示されている。軽食などの場合は青銅の表記がない店が多い気もする。


 まあこんな物なのだろうと思いながら、先に進む。大通りなだけあり、宿泊施設や店を構えた道具屋、武器・防具屋などもある。他にもアクセサリーや服なども売っている。ただ露店が多いためか、どうしても露店の影に隠れて、肝心の店が目立ちにくい。商売の邪魔をしているようにしか見えないが、店主は何も言わないのだろうか?


 中央通りに建ち並ぶ家は、どれも白っぽい石材で出来た家ばかりだ。基本的には二階建てのようだが、たまに三階建てや四階建てもある。そういった所は良く見ると、宿屋になっていたり酒場になっているらしい。たまに木造の家もあるが、それらはかなり少数だ。


 どうやら銅板五枚で普通の外食一回分らしく、銀板一枚だと一般的な宿の一泊分らしい。銅貨二枚で共同部屋一泊となり、それぞれの通貨は十枚で次の単位に上がる。まあ金の使い方はそのうち思い出すだろうし、今は金よりも俺自身がどうなっているかの方が問題だ。


 手持ちは一万一千百十ゴルになるわけだが、これだと共同部屋で暮らしても食費を考えると長期は続かないだろう。急ぎ金を作れるような仕事をする必要がある。


 つまり金は確かに問題なのだが、生活基盤をどうにかしなければ。その為には仕事を探さないとならない。冒険者ギルドでまともな仕事でもあれば良いのだが。


 十分ほど中央通りを歩いただろうか?目の前にかなり立派な建物がある。看板には冒険者ギルドと書かれていて、時折防具屋武器で身の回りを固めた者たちが出入りしている。どうやらここで間違いないようだ。俺よりも少し大柄な者が多いが、それなりに小さい者たちも出入りしている。種族が違うのかもしれない。何となくだが、ドワーフではないかと思うのだが。その他にも、犬や猫型の耳を持つ者も出入りしている。


 冒険者ギルドも白い石造りで、外見は五階建て。周囲より高い建物だからか、はっきり言って目立つ。それに横幅もかなり長く、先ほどまで見てきた建物の三倍は優にあるだろう。近くには武器屋や防具屋、道具屋といった店も見受けられる。冒険者相手に商売をしているのは明らかだ。


 確かに近場で全てを揃えられるのは便利だろうが、問題は必ずしも良い物があるとは思えない。最初は利用する事もあるだろうが、最初だけで終わりそうな気もする。


 扉は一応付いているが、明け放れたままになっている。ここもそうだが、扉は木製。まあ、石で扉を作るような事は無いか。ただ、扉が明け放れたままなのは、冒険者ギルドだけのように思える。人の出入りが多いからかもしれない。他の店などは、多くが木製の扉。一部にガラスを使った店もあるが、それは少ないようだ。ちなみに冒険者ギルドの扉は両開きだが、他はほとんどが片開きだ。


 とりあえずギルドの中に入る。そこには多種多様な者たちがいて、奥はちょっとした酒場にもなっているようだ。受付は入り口の前にいくつかある。その他にも階段が見え、上の階にも行けるようになっているようだ。


 すぐに受付と思わしき場所に行こうとした所で、突然後ろから誰かが当たってきた。


「てめぇ、当たったじゃねえか! ああ、肩が痛えや。治療費払えや!」


 俺よりも頭一つ高い、どうやら冒険者とはいってもガラが悪い者がいる。その後ろにも三人程いて、多分仲間だろう。声をかけてきたのはベスティア・オアーミ(獣人)族で、狐系の種族だと思う。後ろにいるのは普人とエルフ、ドワーフだろうか?どれもやさぐれた感じがする。


「その身長があって、肩ねぇ……」


 下から見上げる形ではあるが、一応少し睨みを付けてみた。まあ、それで引き下がるとは思っていない。


「んだとぉ、てめぇ! 表に出ろ!」


「いや、勝手に当たって、表に出ろと言われてもなぁ」


 思わず頭を掻きながら周囲を見ると、ギルドの職員らしき者達が何人か慌てており、酒場の者達は面白そうに見守っている。少なくとも、すぐに俺を守るような奴はいなそうだな。これだと正当防衛が成立するのか?


「てめぇ、調子に乗ってんじゃねぇ!」


 いちいち反応が面白い奴だが、俺の胸ぐらを右手で掴んできた。これなら別に構わないよな?俺はすぐに相手の手首を左手で掴む。それを見て、相手は一瞬顔色を変えたようだが、俺の知った事じゃない。


「警告するが、これ以上やると俺も反撃するぞ?」


 別にこれくらいの相手なら、武器など無くても勝てると自然に分かる。


「面白ぇ、やってみろや!」


 相手の同意も得られたので、すぐに手首を捻り胸ぐらから手を離させると、そのまま真上に相手を突き上げるような形で、上も見ずに振り上げた。次の瞬間、真上で板が割れる音がする。改めて見上げると、首から上が木で出来た天井に埋まっていた。なかなか面白い光景だ。手足がピクピク震えているが、痙攣でもしているのだろうか?


「そっちの三人も、相手になるが?」


 正直全く強そうに思えない。俺は武器を持っていないが、素手でも勝てる気がする。それにしても、この程度で本当に冒険者だったりするのか?それなら弱すぎて、話にもならない気がするが。


「わ、悪かった。すまねぇ」


 普人族の男が震えながら急に謝ると、残りの二人が天井に突き刺さった男を助けようとし始める。震えるような事をしたか?


 興味も失ったので、いい加減ギルドで登録など行う必要があると思い、そのまま立ち去る事にした。酒場の方からは、何だか驚嘆とも言える声がした気がするが、大した事はしていないと思うが?


 そのままカウンターの方へ向かう。特に誰かが並んでいる様子も無い。受付その物は五カ所あるが、人がいるのはそのうち二つだけだ。多分暇なんだろう。


「よ、ようこそ冒険者ギルドへ。見かけない方ですが、依頼の受注ですか?」


 声をかけてくれたのは少し耳が横に長い女性。エルフに見えるが、ちょっと違う気もする。声が震えているのは気のせいか?


「いや、身分証の確認に来た。教会から紹介状をもらっている」


 紹介状を見せると、受付にいた彼女は少しそれを見てから、受付の奥を見てから再度俺を見る。異世界から来たと言っても、変人扱いされるだけだろう。ん、異世界から着たなんて、何で知っているんだ?


「確認の方なんですけど、ちょっと時間がかかりそうですね。奥の部屋にご案内しますので、そちらの椅子でしばらくお待ちください」


 受付の側にはいくつか椅子があり、そこで待つように指示される。


 そういえば俺の身分証には、大した事が書かれていなかったらしいし、それで色々聞かれるのだろう。いくら紹介状があるとはいえ、こればかりは仕方がないか。


 椅子に座って周囲を見渡す。多いのは普人だが、ベスティア・オアーミ(獣人)もそれなりにいるし、エルフも少ないながらいる。武器を手にしている者もいるが、半数は手ぶらだ。どこかに預けているのだろうか?


 それと少し離れた所に依頼の掲示板があった。ここからは流石に内容まで見えないが、数はかなり多いように思える。そこには五人ほど、依頼内容を確かめる者たちがいる。


 先ほど酒場だと思っていた場所は、どうやら食事も普通に提供しているようだ。それを見ていると、何だか腹が減ってきた。そういえば今は何時だろうか?起きてから何も食べていないし、そもそもどれだけ食べていなかったのか分からない。


「待たせたな。俺はここのギルドで受付管理の責任者をしているペーテル・ブルスだ。早速だがいくつか聞きたい事がある。俺と一緒に来い」


 普人だが少し年齢を重ねているように見える。五十歳は超えているか?しかし体つきはしっかりしているので、それなりに実力はあるだろう。責任者と名乗るのだから実力はあるのは当たり前か。それで言葉づかいも若干乱暴なのだと思う。気にする事じゃないな。


「ああ、構わない」


 俺はブルスに案内され、ギルドの奥にある小部屋に案内される。机が一つに椅子が四脚。既に他に男が一人が待っていた。どうやらドワーフ族のようで、身長は低い。しかしガッシリした体つきは力強さを感じるのに十分だ。


「彼はギルドの登録責任者で、ドワーフのホラーツ・ケーラーだ。今から俺と彼とでいくつか聞きたい事がある。まあ座ってくれ」


 俺は指示されるがままに二人の正面に座った。二人とも責任者と名乗っていたが、何か理由があるのか?


「まずは君の経歴を聞きたいのだが、記憶喪失らしいな。名前はタカオというらしいが、他に何か覚えている事は無いのか?調べてみたが、君の名前での登録は一件もなかった。そもそも、ここら一帯では聞いた事がない響きの名前だ」


 先に質問してきたのはケーラーだ。登録の責任者らしいので、一応俺の事についてちゃんと知りたいのだろう。記憶喪失の件は、紹介状に書いてあったのだろう。


「悪いが本当に分からないんだ。名前は確かにタカオだと思うが、それ以外の事がさっぱり分からない。そもそもこの街の外で倒れていたらしく、その理由も不明だ。何となくニッポンという地名が記憶にあるのだが、それがどこかも分からない」


「ふむ。そうなると種族も分からないのか?」


「種族?俺は普人じゃないのか?」


 ケーラーの質問の意図が分からない。


「確かに見た目は普人に思えるが、どうもちょっと気配が違う気がしてな。しかし本人が種族も分からないか。どこから来たかも分からないらしいな。悪く思わないでくれ。一応こちらとしても確認は必要なんでな。他国のスパイが冒険者として紛れ込む事もあるのでな」


「ああ、そういう事か。気が付いたらこの街の教会にいた。そこで、ここに行ったらどうかと言われたので来た。正直持ち金もほとんど無いし、他に宛てもない。適当な所があれば一番だが、教会の修道僧というか、修道女なのか?がここに行く事を勧めた。彼女も悪気があった訳では無いと思うが」


 少なくとも、ここを勧められた事は本当の事だ。紹介状も書いてくれた。


「いや、それは構わない。実はここ最近、君みたいな者が少し増えていてな。それで何か知っていないかと聞いただけだ」


 ブルスの返答に、なるほどと納得する。しかし最近増えているとはどういう事だろうか?俺みたいな存在が他にもいるのか?


「新規の登録となるが、ギルドは別に君の登録をすることに反対はしない。ただ一応実力を見せてもらいたいのと、いくつか確認の手続きがある。まあ、さっき一人ぶちのめしたらしいが……。記憶喪失と言っていたが、今まで武器を扱ったことはあるか?」


 ケーラーの質問に対して、俺は横に首を振った。そもそもそれすら覚えていない事を説明する。一応それに納得してくれたらしい。仮に死ぬ以前にそんな事があったとしても、今は無意味だろう。ん?死ぬ以前?何でそんな事を考えたんだ?


「まあ実力を見せると言っても、大抵は剣すら触った事が無い者が来る事が多い。別に気にする必要は無いな」


 ケーラーの言葉に戸惑う。それで本当に大丈夫なのか?冒険者というと仮にもモンスターと戦うんだろうに。それとも俺が考えている事が間違っているのだろうか。


「ああ、心配する事は無いぞ。初心者用に訓練をする施設も完備している。まあ、それに合格しないと街の外に出る事はまず無理だろうがな。いくら弱いモンスターとはいえ、集団で襲われたらベテランでも危うい事もあるのさ。流石に街のすぐ近くでは、そういった事は無いが。まだ外で戦えるほどの実力が無い者は、街の中の仕事を手伝ったりといった事もある。ちゃんと仕事をしていれば食う事だけは出来るはずだ」


「街の中の手伝い?一体何をするんだ?」


 ケーラーの説明によると、多くは建設現場の手伝いらしい。体力も付くし、他の仕事よりも一般的には手取りが良いそうだ。他には害虫駆除もあるらしいのだが、聞く所によると大きさが六フィートはある鼠の退治などが主という。しかしフィートという単位を理解しているが、何か大切なことが抜けている気がするのは気のせいか?頭の中で勝手に六フィートを二メートル以上と認識出来るが、メートルとは何だろうか。かなり巨大だとは分かるが。それに鼠はそんなに大きくない気がする。俺が知っている普通の鼠とは、精々体だけなら拳の大きさもあれば大きいはずだ。


 因みにその鼠だが、初心者レベルだと問題なく駆除出来るらしいのだが、新入りのような冒険者では、五人程度で対処の必要があるらしい。これを一人で退治出来ないようでは、街の外でのモンスター退治は無理と判断されるそうだ。やはり鼠の定義が間違っていると思う。


「まあ、登録はある程度こちらで行っておく。これに名前など分かる範囲で書いて欲しい。分からなければ空欄で結構だ。あとは試験次第で君のランクが決まる。決まってからランクは説明しよう」


 紙は少し茶けた紙で、品質は良くないと思える。渡されたのは鳥の羽を加工したペンだ。とりあえず名前の欄にタカオと記載して、年齢は十六歳とそのまま記載した。十六歳よりももっと年齢は高かったと思うが、変な感じだ。他には何も記載していない。


「十六歳か……それよりも年齢は……まあいい。記憶喪失だからな。それに年齢程度は別に適当でも構わない。冒険者ギルドに来るのは、いつ生まれたかも分からない連中もいるからな」


 どうも名前以外は、あまり重要視されないように感じる。あとは種族か?


 数少ない記入項目を書き終え、早速ブルスの案内で訓練場に案内された。かなり敷地は広い。それなりの人数が訓練をしているようだが、正直実感がまだわかない。


「おい、アナスタージア。新しい登録希望者だ。少し腕前を見てやって欲しい」


 俺が案内された先には、三十代前に見える女性が立っていた。ハーフプレートで身を包み、金髪で美人には見えるが目つきが鋭い。普人族だが、やけに身長が高いと思う。


「ああ、分かった。私はアナスタージア・ハッドン。貴族の生まれではあるが、家出中だ。ここの訓練教官の一人だ。見たところ剣を扱うのも初めてか?」


 下手な男よりも男らしい女性のようだ。しかし悪い気はしない。姓があるのは、貴族の生まれだからか。


「ああ、そうだ」


 少なくとも触った事は無いはず。大人しく頷いた。それを聞いて、ハッドンは少しニンマリしたような表情をした気がするが、気のせいか?


「コイツは記憶喪失らしい。名前はタカオ。種族もまだ不明だ。とりあえず簡単に見てやってくれ。その間に手続きをしてくる。あまり虐めるなよ?」


 そう言い残してブルスは戻っていく。ハッドンは俺にいきなり真剣を投げ渡してきたが、とりあえず掴むことだけは成功した。思ったよりも身体の動きはスムーズに思う。


 剣は鋳型に流して作った汎用品のようだ。見た目の装飾も何もない、文字通り無骨な剣。長さは握りの部分を含めて四フィート程度だろう。両刃にはなっているが、どちらかというと切るよりも叩きつける事の方が攻撃力として高そうに思う。


「どうせ後で能力判定の魔動具を使う。しかしそれだけでは分からないこともあるからな。それであの藁人形を切ってみろ」


 ハッドンに言われ、藁人形の前に立つ。とりあえず剣を俺なりに構え、上段から一気に右下へ振りかぶった。藁人形はそのまま斜めに切断され、上下が分離されて地面に落ちる。


「ほう……見込みはありそうだ。あれを一撃で切断出来るなら、それだけでも初級冒険者の実力はありそうだな。よし、少し手合わせしてやろう。これを受け取れ」


 ハッドンは俺にもう一つの剣を渡してきた。先ほどの剣と同じように見えたが、よく見ると刃が潰されている。訓練用なのだろう。


「遠慮する必要は無いぞ。これでも私は元Bランク二級冒険者だ。怪我で今は治療中だが、教える程度なら問題は無い。本気でかかってこい」


 剣を持ち替えると、俺は彼女と正面から対峙した。どうもランク制度の説明をしたらしいが、まだまだ俺にはよく分からない。それでもかなりの実力者だとはすぐに分かる。少なくとも隙が無い。


 剣を上段に構え、ハッドンと対峙する。彼女は大柄な剣を左手で軽く構えているだけだ。何となくだが、馬鹿にされている気がする。実力はあるのだろうが、やはり納得は出来ない。馬鹿にしすぎだろう。


 そのままゆっくりと足裏を軽く引きずりながら、彼女に近づく。それでも構えをまるで変えようとしないその様子に、思わず舌打ちした。


「どうした、早くかかってこい!」


「ほざけ!」


 一気に駆け寄り、気合いを込めて真上から斬りかかる。その瞬間、ハッドンの左手が素早く動き、俺の剣を頭上で弾いた。思わず手が痺れ、それに気が取られていると剣先が俺の首に当てられている。


「まあ、悪くはないな。見た事が無い構えだったが、気合いはよし。少し訓練すれば十分に戦えるだろう。普通の男共は、私の気合いだけで戦意喪失する者もいるくらいだ。記憶喪失で、戦い方も鈍っているのかもしれないしな。十分資質があると思うぞ」


 剣先を俺の首から放してそんな事を言われても、正直嬉しくはない。


「その割には余裕だったな。嫌味に聞こえるぞ?」


「それは仕方がないだろう。後でランク制度については説明があると思うが、君はまだ私のランクの意味を知らないからな。しかしそうだな……おい、そこの四人。ちょっと相手をしてやってくれ」


 言われて近づいてきたのは、男女二人ずつの四人。二人は普人の男性で金髪と茶髪。背丈は俺よりも少し高い。一人はエルフの女性だと思う。彼女は銀髪で、男達よりも頭一つ分高い。かなりの高身長に思える。もう一人も女性で、犬系のベスティア・オアーミ(獣人)族だろう。茶色の毛並みが少し汚れているが、訓練で汚れているのかもしれない。一番小柄だが、体つきは一番しっかりしているように思える。


「教官、何でしょうか?」


 男の一人が聞いている。どうやら呼ばれた理由まではよく分からなかったようだ。突然声をかけられたのだから、無理は無いと思うが。


「コイツと模擬戦をしてやってくれ。とりあえずは一人ずつだな。模擬戦のやり方は任せる。魔法は……まあ、加減してやってくれ。まだ魔法については知らないようだからな」


 男の一人が『ハァ』と面倒くさそうな溜息を少しついてから、手にしている剣を構えた。


「じゃ、俺からで構わないな?見たところ登録に来たばかりか?」


 相手は茶髪の男。俺より少し背は高いが、ヒョロッとした感じで強そうには正直思えない。


「ああ、構わないが……」


 そう言いながらハッドンを見る。


「安心しろ。こいつらが持っている武器は模造品だ。多少打ち身の怪我はするかもしれないが、死ぬ事は無いだろうさ」


 俺も先ほどから模造剣を持っているので、打ち所が悪くなければ確かに大事には至らないだろう。他の三人は少し下がって俺たちを見学するようだ。俺も両手で剣を構える。


「まあ、怪我しても恨むなよ?」


 そう言って一気に駆け寄ってくるが、正直あまり早いとは思えない。ハッドンと模擬戦をした後だからだろうか?剣術など習った事は無いはずだが、そのまま相手が振りかぶってきた所を剣で弾く。そして持ち手の部分を相手に向けてそのまま腹に打ち込んだ。姿勢が悪かったせいか、茶髪の男は受け身が取れずそのまま地面に転がり呻き声を上げる。


「おい、大丈夫か?」


 思わず声をかけるが、男はそのまま起き上がろうとして尻餅をついた。


「本気を出せ!次だ!」


 ハッドンが声をかけると、金髪の男が茶髪の男を肩にその場から下がり、エルフらしい女が俺の前に立つ。


「なかなかやるようね。じゃ、遠慮無くやらせてもらうわ!」


 コイツの武器は短剣らしい。そう思っていると、突然左側の地面が少しえぐれる。


「風の魔法よ。威力は調整するから、覚悟しなさいよね!」


 なるほど、魔法も使えるという訳か。ならば動かずに待つのは危なそうだ。俺はすぐに抉られた左側の地面に駆け、背後に回り込むようにしながら近づく。魔法の威力を調整しているのか、足下の近くに時折土煙が上がるが、今のところ当たっていない。


「ちょっと、なんで当たらないのよ!」


 そんな事を俺に言われても困る。必死という訳では無いが、訓練とはいえ手を抜くのもおかしな話だろう。流石に魔法は威力を調整する必要があるのだろうが。


 それにしても、俺はこんなに素早く動けたのか?正直身体が軽く感じる。そのままサイドステップを踏みながら女に近づき、正面に魔法を放とうとしたので剣の角度を九十度変え、腹の部分で上手く魔法を弾けたようだ。少し刀身に重みを感じたが、そのまま女の右肩に腹の部分のまま剣を下ろす。少し強かったのか、右から身体を崩して片足をついた。


「そこまでだ。ふむ……思ったよりもやるようだな」


「痛ったいわねぇ……まさか剣で魔法を弾かれるなんて、初めてよ。あんた、どんな神経してるのよ?見えない魔法を弾かれるなんて、聞いた事がないわ」


「さあな?俺も何せ初めてだ。まあ、運が良かっただけだろう」


 女は何だか納得出来ない顔をしていたが、それでも負けは認めているようだ。


「よし。残り二人で相手をしろ。お前なら大丈夫だろう」


 結局二人と対戦したが、何故か俺が勝つ事が出来た。相手の四人は何だか納得出来ていないようだが、俺だって納得は出来ていない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ