第二二話 ステータスカードがおかしい
翌日になり紹介された場所に行くと、そこには『ラーチャ町役場』と簡潔に記載された看板が入り口の上に掲げられていた。石造りの建物だが、二階建てでさほど大きくもなく、実質堅固というイメージが当てはまる。
「まさかステータスカードの再発行が役所だとはな」
「ええ、以外ですね。てっきり冒険者ギルドかと思ったのですが」
エレナも同意しながら、そのまま中に入る。
中は外と違い木材が多用されており、落ち着いた雰囲気で、人の数もまばらだ。入り口のすぐ正面に『案内』の表示があるカウンターがあったので、早速そこで聞いてみると、奥にある七番の札がかかったカウンターに行くよう言われた。言われたとおりに向かうと、七番の看板には他に『身分証受付』と書かれている。確かにこれなら番号で案内した方が分かりやすいだろう。そこには一人の男性と思える虎系のベスティア・オアーミがカウンター越しに座っており、こちら側にも簡易的な丸椅子が一つ用意されていた。この様子だと、普段複数の人が一度に訪れることは少ないのだろう。
「ステータスカードの再発行を頼みたいのだが、俺と彼女の分をお願いしたい。頼めるか? 以前に普人の町で作ったんだが、作り直した方が良いと言われたんだ。これが紹介状だ」
男は紹介状を受け取り、一度俺達を見る。
「分かった。今持っているステータスカードを貸してくれ」
二人してカードを渡すと、それをカウンターに置いてから初めて見る長方形の銀色をした箱をカウンターの下から取り出した。長さは手首から肘程度、高さは手のひら程度だ。その上にカードを改めて一つずつ男が置く。
「あー……これは最初から作り直した方が良いな」
「どういう事だ?」
「これを作った計測器が、かなり古い奴なんだよ。正直一体いつ作られたのか、俺が聞きたいくらいだ。まあ、料金はそのままで構わないから、最初から計測させてくれ。にしても普人の町じゃあ、こんな古いので今でもやっているのか」
男は呆れ顔で箱を眺めている。恐らく反対側に何か表示されているのだろう。
「ちょっと用意するから、そのまま待ってくれ。計測自体はすぐに終わる」
そう言って男はカウンターから離れると、奥に消えていった。
「人の町にある道具にそんなに差があるなんて、初めて知ったわ」
「だろうな。俺もまさか作り直しだとは思わなかった。誰も疑問に思っていないのか?」
「壊れたりしない限りは交換しないと思うし、滅多に壊れるとは思わないから、古い物をいつまでも使い続けているとしか思えないわ。まあ、今の私達には関係ない事ね」
エレナは何か吹っ切れた様子で、箱の上に置かれたままのカードを見ている。
「確かにそうだな。それよりも俺としてはシュメル王国の首都を早く見てみたい。こっちとのやり取りが限られているなら、珍しい物もありそうだ」
「珍しい物?」
「ああ。俺としては武器などは今ある物で構わないが、食い物が一番気になるな。正直どこでも構わないと言えばそれまでだが、食い物が美味い所なら住んでも良いと思っている」
「確かに、食事が美味しくない所は止めたいわね。私としては、一年を通して過ごしやすい気候も捨てがたいけど、そんな場所は簡単にはなさそうだし……」
「まあ、今までは追われていたんだ。そういった事はこれからだろうな」
流石に他国の中までは早々追っ手は来まい。
そんな話をしていると、カウンター越しにいくつもの水晶球を受付の男が並べだした。それぞれ別の色をしており、大きさは両手に収まるくらいだろう。色が違うだけで、サイズはどれも同じだ。ただ光の加減で微妙に大きさが異なるように見える。そんな物が10個以上はあるだろうか。
「待たせたな。この水晶球を使ってそれぞれの能力を計測する。少し面倒にはなるが、この方が正確だし、今では我々にとっては常識だな。一つの水晶球で行うと、どうしてもどこかに誤差が生じてしまうのだが、これなら正確に計測できる」
「こんなに……」
エレナは今までの常識が覆させられたようで、どこか放心しているようにすら見えた。
「とりあえず君……タカオから始めよう。まずはその透明な球体を両手で包み込むような形に触れてくれ」
言われたままに両手で透明な球体を包み込む。当然両手の手のひらよりも大きいので、隙間があちこちにあるが、これで問題ないのだろう。そのまま数秒程すると、一瞬だけ強く光った気がした。
「今ので肉体的な計測は終わりだ。次はこの赤い球体で火属性を計測する。順に他も計測するので、光ったら手を離して良い」
言われるままに計測を繰り返していく。どれも両手のひらで包み込んでから数秒で一瞬だけ光り輝く。そんな形で少し時間がかかったが、俺の計測は終わり今度はエレナの計測だ。エレナは最初こそ緊張していたようだが、それも数回繰り返すと慣れてきたのか、最後の方にはごく普通に両手のひらで計測をしていた。
「計測結果をこれから転写するが、今は数値で値を出すようなことはしていない。実際、数値だけでは説明できないことも多いので、カードに記載された結果を見てもらった方が早いだろう」
そう言われながら記録を上書きしたステータスカードを受け取り、内容を確認する。
タカオ 男(普人)
冒険者レベル XX
体力 X
魔力 ZZ
肉体能力 XX
魔法適正
全魔法適正 魔道士X Lv7
※精霊魔道士 Lv10
※妖術魔道士 Lv5
「何だこりゃ?」
名前や性別、種族は良いとして、他の項目が今までと違いすぎる。
「おお、凄いな。俺もこんなのを見るのは初めてだ。XやZというのはランクを表しているが、最も低いランクがFで、そこからAまで上がる。そしてその次がSとなり、さらにその上にXとZが存在する。あと、SやXに限り3つまで重なり、SSSの上がXの要に表記され、最上位がZZZになる。多分だが、世界でも最強クラスじゃないか? なにより魔力がZZなど、魔法を使いたい放題だな。普通に魔法を使っていて魔力切れなど起こすことは考えられないし、魔力切れを起こすとしたら戦術どころか戦略魔法を乱射でもしない限り、魔力が尽きないはずだ」
「おい、マテ。戦略魔法を乱発?」
「正確には魔道士XでLv7だから、単なるファイア・ボールのような魔法でも、相手からしたら俺達が言う所の極炎球と呼ばれる、金属すら一瞬で蒸発させる火球の攻撃も出来るはずだ。まあ意識がそこに追いつけていないだろうから、今の段階ならファイア・ボールと言う名前の、フレア・ボール数発分の威力だろうが。練習すればすぐ使えると思うぞ」
「ちょ、ちょっと待って! フレア・ボール数発分って、普通一発でも人に当たったら、それだけで致命傷になりかねないのよ? それが数発分って、威力過剰よ!」
当然というか当たり前というか、エレナが激しく反応する。そういえば前に魔物を蹴散らした時、フレア・ボールを無制限に放っていたな。万を超える大軍だったから、殲滅するにはちょうど良いと思ったんだが、過剰だったのか?
「それよりもエレナのステータスはどうなんだ?」
エレナに話を任せていると、なんだか長くなりそうなので彼女のステータスを聞く事にする。彼女のステータスはこんな感じだ。
エレナ 女(普人)
冒険者レベル C
体力 C
魔力 B
肉体能力 C
魔法適正
火・水・光・治療魔法適正 魔法使いC Lv6
※治療魔法適正 Lv9
※火魔法適正 Lv4
「エレナは治療魔法以外は一般的な魔法職といった感じだ。前衛は難しいだろうが、後衛からの援護を主体にすれば、普通に活躍できると思う。ただ、まだ魔法になれていないようだな。まあ、訓練すれば火魔法ももっと伸ばせるだろうし、火魔法が伸びれば普通に魔術師レベルには上がるだろう。その辺を重点的に伸ばすことを勧めるよ」
「治療魔法なんて使ったことがないのに……」
そもそもエレナは魔法をあまり使ったことが無いと言っていた。つまりこのステータスカードは、能力を使いこなせればこの表記程度には十分なると言う理解で大丈夫だろう。
「まあ、あんたは常識の範囲内だが、タカオは非常識の塊だな」
そう言って受付の男がニヤつく。正直頭にくるが、ステータスカードの表記が本当なのであれば言い返せない。
「あと、このステータスカードは普人の町で確認しようとしても、以前と同じようにしか表示されないから、その辺は怪しまれずに済むぞ。まあ、そんな古いのを今でも使っているのが俺には信じられないがな」
単なる銀色のプレートにしか見えないが、恐らく魔法的な技術が凝縮されているのだろう。
「それからステータスの細かいことは、本人が開示しない限りステータス測定器を通さないと見ることが出来ない。基本的には名前と性別、種族に冒険者のランクしか見ることは出来ないから、変な情報が漏れることはないし、こっちもステータスの情報を漏らすことは禁じられている。なので早々はステータスの内容がバレることはないから安心してくれ」
「色々言いたいことはあるが、とりあえず分かったと言っておく」
そう言った後に料金である銀貨を2枚渡した。
「ステータスで分からないことがあったら、また来るがいい。まあ、当然有料だがな。れとお嬢さんなんかは必要になる可能性があるが、スキルも販売している。ただ、それなりに有効なスキルは値段も高い。それは覚えておいてくれ」
「分かったわ。ありがとう」
スキルも販売しているというのは少し驚いたが、考えてみればスキルを覚える手段を知らない。まあ、何故か色々なスキルを俺は使えるが。しかしエレナには今後必要になるだろう。後でスキルの検証もした方が良さそうだ
そんな事を考えながら、俺達はその場を後にして武器を調達することにした。




