第二〇話 まあ、こっちは売れれば構わないが……
俺の持っているハンダーと呼ばれる魔法の袋には、大量の鎧と武器が収納されている。その殆どが途中で『拾った』物で、何故か持ち主なり所属している所を示すマークが、全て削り取られているが、拾った物だからそれは別に構わないというか、興味が無い。
武器と防具の買い取りとなれば、やはり武器屋なり防具屋だろう。重量などは魔法の袋なので関係ないが、気分的にかさばるイメージが強いので、防具屋で買い取りをお願いしようと思ったが、どうやらこのラーチャという町には、武器と防具は一つの店で扱っているようだ。
「いらっしゃい。武器を探しに来たのか?」
カウンターにいる猫系のベスティア・オアーミが声を掛けてきたので、買い取りを頼みたいと言うと、専用のカウンターに案内される。店員は何人かいるようだが、全員が猫系で似たような色合いの毛のため、家族経営なのかもしれない。
「ちょっと量が多いが、大丈夫か? 武器、防具の両方で、かなり大量にあるんだが」
「物次第だな。良い物は高く買い取るのは当然だが、クズのような物は1つどころか10個で青銅貨1枚という場合もあるぞ? まあ、査定ならすぐにやるから、とりあえず見せてくれ」
言われて、比較的状態の良い鎧2点と、状態の悪い鎧2点、そして剣などの武器を10点ほど置く。
「状態が悪い物も多いが、まあ買い取れるレベルだな。しかしこれは……」
無理矢理削られた紋章などがあったであろう場所を注意深く見て、それから他のも一通り確認すると、その男はニンマリとした顔をした。
「これをどこで手に入れたかは聞かないし、俺としてはどうでも良い事だ。当然あんたらがどんな立場かも興味は無い。ただ、あんたら2人が久々に大儲けの機会を持ってきてくれた事は間違いなさそうだ」
そう言われて思わずエレナと見つめ合ってら、一緒に何の事だと首を傾げてしまう。
「武器や防具ってのは、実際の所ちゃんと作れる工房は決まっているんだ。で、そう言った工房は1日に作る事が出来る数も限られるし、当然それ以上に作ろうとしても最初から無理な事は理解出来るな? で、急に大量注文が来たとしよう。そう言った場合でも、ちゃんと納品はする。じゃあ、どうやって調達すると思う?」
「専門家でもないし、分からないが、ある程度作り置きするんじゃないのか?」
「そうだな。確かにそういった方法もあるが、それ以上に注文が来る場合もある。当然普通は対応できないが、実際には対応する。それが目の前にあるこれだ」
そう言ってカウンターに置いた武器や防具を指した。
「あんたら、追われていただろう? で、どうやったかは知らないが、追ってきた相手を身ぐるみ剥いだ訳だ。俺は別にそれが悪い事だと思わないし、殺されるような力量でしかない相手が悪いとしか思わない」
「ドライな考え方だな」
「ああ。だが事実だ。どんな優秀な装備を持ったとしても、使いこなせなければ意味などない。しかし、襲わせた側は当然大量の装備品を失う訳だ。かといって、それを公にしてどうこうはできない。出来るなら、最初から紋章なりそういった物を消したりはしないからな。つまりここにある物は、例えそれが見た目そっくりでも、出所不明の武器や防具となる訳だ」
「まあ、何となくは分かるわ。でも、それにどういった意味があるの?」
「お嬢さん、そう急ぎなさるな。ところで知っているかな? この周辺の国家に武器や防具を供給しているのは、俺たち|ベスティア・オアーミだ。連中は俺たちの事を色々馬鹿にするが、そんな連中は俺たちが作る武器や防具と同じ物どころか、劣化品でさえまともに作れない。まあ、これを知っているのは普人でもごく一部の支配者層だけだがな。しかも連中は、見た目が綺麗であればそれが新品と簡単に信じるほどのバカだ」
「おいおい、それは無いだろう。新品と中古の区別くらい付くんじゃないか?」
俺がそう言うと、店員は馬鹿にしたように首を振った。
「あんたらがどうかは知らないが、今まで修理した中古を大量に売りつけても、それが中古だと文句を言われた事など皆無だ。むしろ綺麗に見えただけで『今回のは良い出来だな』なんてほざいて、余計に支払いまでしてくれた例もあるぞ。まあ、連中からすればこっちから武器を買えなくなれば、それだけで死活問題だろうからな。実際、そこにある真っ二つの鎧だが、俺が見た感じだと今まで5回は修理した鎧だ。まあ、修理と言っても大した事なんてしていないが、連中は見た目が良ければそれで良いのさ」
「悪い。話が見えないんだが、それと買い取りに何の意味があるんだ?」
「おっと、いけねぇ。ついつい話し込んだな。それでだ、あんたらが良ければ、これと同じ種類の物を全部買い取りたい。この手の鎧なら普人の所で流通している金貨1枚、剣も同じだ。その他はまあ応相談だが、とりあえず全部買い取らせてくれ」
「金貨1枚!?」
エレナが驚くのも無理はないだろう。実際に俺もかなり驚いている。
「お嬢さん。俺たちはこれを修理して、鎧なら金貨10枚で売っているんだぜ? まあ、修理賃と輸送費も含まれた金額にはなるが、連中はそんな金額で買ってくれるのさ。だから俺たちは買い取れる物は買い取る。で、あんたらは金が手に入る。貧乏とは思えないが、金がある事は困らないだろう?」
「そうだな。たしかにあって困るものじゃない」
「と言う訳で、あるだけ買い取るから全部出してくれると助かる。金は用意しよう。ちょっと待たせる事になるかもしれないが、構わないか? なんなら、泊まっている宿を教えてくれれば、査定が終わった後に人を寄こす。この分だと、かなり溜め込んでいるんだろう?」
「流石に商売人だな。しかし俺たちは、これからこの国の首都に行ってみたいと思っているんだ。出来ればこの国で使える金にしてもらえると助かるが」
「ほう……なかなか面白い事を言うな。それは、分かっていて言っているんだよな?」
「もちろんだ。こっちも危ない橋をそれなりに渡っているという自覚はあるさ」
俺がそう言うと、男は何か考える素振りをしてから、少し離れた所にいる別の店員に何かのハンドサインを送った。
「どうやらお前さん達は、俺たちの敵では無さそうだ。査定が終わった時にちょっとした物を用意するから、それをある所に持っていけ。普通に行くよりは、ずっと楽が出来るはずだ。流石にそれ以上はここで言えないが、まあ、分かるだろう?」
「なるほど……わかった。じゃあ、宿と部屋の番号を教えるから、紙か何かないか? あと、かなり大量にある。出すのはここで良いのか? あったらだが、倉庫に出した方が良いと思うんだが」
「そうだな。倉庫に出してくれ。案内しよう。付いてこい」
その後倉庫で一通りの物を出すと、男はかなり興奮して査定を始めた。査定には2日ほどかかるらしいので、それまでは待機だな。
後日査定が終わったとの事で店に行くと、結局全部で約金貨400枚ほどになった。それと蝋諷された封筒を渡され、この町の役所に行くように言われる。どちらにしても余計な荷物が減り、金が増えたのは良いことだ。
エレナは実情を知って何だか複雑な顔をこの2日ほどしていたが、俺がもう関係ないことだというと、次第に余計な事は考えなくなったようで、今はもう以前と同じようになっている。
まあショックがあったのは当然だと思うが、その責任はエレナにあった訳では無い。むしろこんな事も見抜けない買い付け担当者なり、兵士が問題だろう。




