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第一話 気がついたら、知らない天井

 ボーッとしつつも目が覚めてきた。次第に視界がクリアになり、白塗りの天井が目に付く。ああ、知らない天井ってこんなものなのか?


 お約束として『知らない天井』なんて言おうと思ったが、案外言葉には出来ない。ところで何故『知らない天井』がお約束なのだろうか?知っている気がするが、どうも分からない。


 まだ覚醒しない頭を働かせながら、現状を確認しようとする。どうやらベッドの上にいるらしいが、あまり寝心地がお世辞にも言えない。かなり安物のベッドだとは思うが、どうも身体が動かない。身体の節々が痛む感じだ。ベッドの上という事は、人が住む所にいるのだろう。


 確か新しい世界へと転移?させられたんだったかな。その影響か分からないが、何だか体が少しばかり痛む。転移の影響なのだろうか。一時的なものだと助かるが。そもそも、何故転移させられたんだったか……。


 部屋の中を観察するが、チェストが二つと机が一つ。椅子もあるが、木製でクッションはない。どれも安物だろう。装飾も見当たらないし、かなり使い古されている。元は白だったのかもしれないが、あちこち塗装が剥げて、薄汚れた木目が見えている。それ以外には、俺が寝ていたベッドだけだ。正直な感想と言えば殺風景だが、一応部屋全体が白い。よく見ると白い石で出来ているようだ。いや、白い石が発光している?


 そういえば電灯が見当たらないな。ああ、ランプは一応備え付けられている。窓が無いので外までは分からないが。時間がこれだと分からないな。多分発光しているのは魔法か何かの力だろう。魔法があると聞いたからな


「あら、ようやくお目覚めかしら?体調はどう?その様子だと、とりあえずは大丈夫そうね」


 俺の側に現れたのは、紺の修道服を着た普人ふひとの女性。


 顔立ちから二十歳は超えていると思う。種族は分からない。まあ、女性に年齢を聞くような野暮でもない。そこそこに美人だとは思うが、修道服を着ているので、髪などもあまり見えないし、体型もはっきりしないので、顔だけで判断するのは早計だろう。しかし青い瞳が綺麗な事は確かだ。それなりの服装をすれば、もっと美しく見えるような気もする。少し残念には思う。


「自己紹介が遅れたわね。私はここの教会で修道僧をしているイゾルデというの。イゾルデと呼び捨てで構わないわ。ところで城壁の外に倒れていたと聞いたけど、何かあったの?」


 何か忘れている気がする?そういえば何でこんな所にいるんだ?


「いや、よく覚えていないんだ。何かあった気がするんだが、どうも記憶が曖昧で……」


 思い出そうとしても、どうも頭がふらつくというか、目眩のような物を感じる。


「よく城壁の外で無事だったわね?この辺の魔物はあまり強くはないのだけど、それでもたまに死人も出るのよ?それと、あなたの名前を教えてくれるかしら?」


 名前……あれ?名前を思い出せない。こりゃ、本格的に不味いかもしれない。


「記憶喪失?ちょっとごめんなさいね。あなたの身分証を拝見させてもらうわ」


 彼女はそう言うなり、俺の服にあるポケットを漁る。それなりの美人に服を漁られるのは、案外悪くない。そういえば俺は、見た事がない服装をしている気がするんだが、気のせいか?恐らく麻で出来た服だとは思うが、着心地はかなり悪い。近くには革のブーツもある。ほぼ膝下まである物だ。他の持ち物は……。


「あったわ。えーと、タカオっていうの?初めて聞く、珍しい名前ね。種族の記述がないけど、普人族かしら。姓が無い所を見ると、貴族とかそういう立場じゃ無いみたいね。あなたの出身地が記載されていないわ。どういう事かしら?あとは年齢が十六歳……まあ、見た目は大人びているし、成人しているって事だから、こっちは問題ないと思うわ。普人族で間違いないと思うのだけど、魔法で偽っている訳はないわよね。こんな事ってあり得ないんだけど……」


 俺はタカオって名前なのか。覚えがあるような名前だが、相変わらず思い出せない。まあ名前が分かっただけでも良しとしよう。それにしても十六歳?俺はそんなに若かったか?実感が無いが……。


 普人族は、確か人間の事だったよな。一般に人間という単語は使わないはずだ。しかし、何故そんな事を思ったのだろう?そもそも人間という言葉は、全ての種族を指す言葉だ。


「俺もよく分からない。これってやっぱり、記憶喪失って事なのか?正直名前も言われるまで分からなかったんだが。それにこの身分証、初めて見たような……」


「うーん、かなりの重傷なのかしら?頭を打ったとか、そんな記憶も無いのよね?」


「ああ。正直ここがどこだかも分からない。まあ、助けてくれたのは感謝するが。助けてくれたんだよな?」


 城壁の外にいたと言っていたな。


「それなら、最初に見つけた衛兵に感謝する事ね。見回りの時、城壁の上を歩いていて見つけたらしいから。持ち物も特に不審な所は無かったみたいだし、それでここに運ばれてきたのよ。一応ここは、あなたみたいな人を一時的に保護する役目も担っているの。教会の役割みたいなものよ。身分証から名前を調べたと思うのだけど、犯罪歴が無かったから、ここに案内されたのね。もしあなたに犯罪歴でもあったら、まずは衛兵の詰め所にある、収監所に入れられるから」


「収監所?牢屋みたいな所か?」


「そうね。その認識で間違いは無いわ。それとあなたの他の持ち物は先に拝見しておいたわ。私には読めない本が一冊あったけど、武器も無いし防具も身につけていないなんて、よく無事だったと思うわよ。持ち物は今着ている服と小さな鞄に僅かなお金に本だけ。そのお金じゃ長い間は生活出来ないと思うけど、見た目からして冒険者なのかしら?それなら冒険者ギルドで登録を確認すれば、とりあえずは仕事に困らないとは思うけど。前に登録していれば、再発行をしてくれるはずよ。流石に、いつまでもここにいてもらう訳にはいかないから」


 どうも詳しく聞くと、基本的には単なる教会らしい。身分も分からないのでとりあえずここに運ばれてきたという訳か。今いるのはその中にある部屋の一室らしい。


「冒険者でなかったとしても、行ってみる価値はあると思うわよ。冒険者ギルドもそうだけど、ステータス判定機を使えば、あなたの総合的な力や魔力などが分かるわ。もちろんその中で冒険者に向かない人もいるし、その場合は商人になったり、場合によっては農家などで仕事をする事もあるそうね。ただあなたって、見た目は強そうな気がするから、そのまま冒険者として登録出来るんじゃないかしら?」


「そうか。わざわざ教えてもらって悪かったな。礼をしたい所だが、その金もまともに無いといった感じなのか。持ち物も他になさそうだし、その冒険者ギルドだが、どこにあるんだ?」


 話をしていて、少しずつ目眩も治ってきた。ゆっくりとベッドから起き上がる。


「礼なんて必要ないわよ。冒険者ギルドなら中央通りに出て、左手に曲がって。しばらくすれば看板があるわ。そこそこ大きな建物だし、見失う事は無いはずよ。ただ荒くれ者も多いから、その点は注意してね?」


 ニッコリと微笑みながらも、その影にトゲのような意味合いを感じる言葉だ。


「分かった。教えてくれて感謝するよ、イゾルデ。金が出来てからでも、後でお礼をしたいのだが……」


「私達は、そんな事のために人助けしている訳じゃ無いわ。それにあなたはまだ、あまりお金を持っていないしね。それなりに稼げるようになったら、後で寄付でもしてくれればそれで良いわよ。どうしてもと言うなら受け取るけど、とにかく冒険者ギルドへ早く行く事を勧めるわ。あなたの身分証だと、この街から出るのは難しいわね。ギルドで身分証をちゃんと作り直さないと、その身分証だと役に立たないから。それには冒険者ギルドが一番早いわ」


「そうなのか?」


 俺がベッドから起き上がるのを確認してから、イゾルデはブーツを側に置いてくれた。それをしっかり履く。革製の編み上げブーツだが、脚にしっかりとフィットした。


「その為の身分証だもの。本来なら、場合によっては身分証を発行するにもお金がかかるわ。だからお金は大事にした方が良いわね。それとこれが紹介状。これがあれば無料で身分証を作ってもらえるかもしれないわ。その身分証だと、作り直さないとダメだと思うしね。名前と年齢しか記載が無いから。そんな身分証では、この街の中では何の役にも立たないわ」


「分かった。色々教えてもらって済まない。とりあえずその冒険者ギルドに行ってみる事にするよ」


 どうも記憶がまだ曖昧だが、どちらにしても仕事を探した方が良いのは間違いないらしい。ならば冒険者ギルドに足を運ぶ事にするか。


 礼を言いながら、俺は教会を出る事にした。

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