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第十四話 どこか、遠くでの出来事

今回の内容には奴隷とその生活などの描写が一部にあり、人によっては気分を害する可能性があります。その点ご注意頂ければと思います。

また、洗脳やそれに類ずる描写がある事も先にお知らせします。


またキーワードに『奴隷』を付けていなかったので、追加しました。


奴隷などに関しては今後も描写がある事を先にお知らせする次第です。

 晴れ渡る空に、澄んだ空気。山間にあるその城は、純白の石で覆われており、そこに禍々しさなど微塵も感じられない。それどころか、眼下に広がる町を見ても、そこは平和そのもの。


 正式名称サントス・グ・ブラール・ストラス、一般にはサングブトスと呼ばれ、現地の意味で水の都を指す。そして城はバン・フェイファと呼ばれ親しまれており、こちらも現地の言葉で白亜の城という意味である。


 しかしここは、人が言う所の魔王城であり、その王都。当然住んでいる者は魔物と言われる者達だ。ただ、彼らは自分たちを魔族と呼んでいるが。


 実際に通りを歩くそれは、普通に頭に角があったり、背中からコウモリのような翼を生やしている者もいる。他にも馬の体に人の上半身、一般的にはケンタウロスと呼ばれる種族がいたりと、そこに一般的なヒト(獣人を含む)の姿はほとんど無い。


 ただ、それでも少なくない数のヒトはいる。彼ら、彼女らは腕や首に様々な輪を付けられており、場合によっては鎖で主人と思われる魔族に引っ張られている者もいる。ただし、鎖に繋がれている者の方が少なく、魔族から逃げる様子も見られない。


 その輪を付けられた者たちは、全員が奴隷だ。元々ここで生まれ育った奴隷もいるし、攻め入った場所で捕獲した人々を奴隷にしている事も多い。


 首輪や腕輪には特殊な魔法が込められており、主人の言う事を聞かなければ最悪死に至る。しかし恭順を示せば、多少の差はあれどそれなりの扱いを受ける事が出来、他の国々ではまず見られない風呂などにも、日常的に入る事が出来る。少なくとも鎖で引っ張られていなければ、風呂などには毎日入る自由がある。


 奴隷にも等級があり、最も等級が高いと武器の所持さえ認められている。しかし最も低い等級ならば、その扱いは家畜以下と言って良いだろう。実際に繁殖奴隷という者達も多く存在している。


 そんな彼らが過ごす町を見下ろすようにある城は、その外観からは信じられない程の防御力と攻撃力を誇るが、それが実戦で使われた事はいまだかつて無い。何せここに攻め込む事が出来た者がいないのだから。


 バン・フェイファ城は城門からして巨大で、その前には堀が張り巡らされており、仮に船で近づいたとしても見張りがそれを見逃すのは困難だろう。常に魔法で監視されたその堀は、城壁の上を歩く者以外にも城内に監視施設があり、事前の許可が無い物があれば警報が出る。それは堀の水の中まで監視されており、監視のために魚もいないその中では、どこからか落ちてきた葉っぱでさえ注意情報が出る程で、当然ヒトのサイズともなれば確実に警報となる。


 そもそも堀に葉っぱが落ちる事のないように、周辺は常に掃除が行われており、嵐でもなければ水面に葉っぱ一枚落ちている事はないだろう。そしてその嵐でさえ堀から内側になる城は結界が張り巡らされている。


 そんなバン・フェイファ城の会議室では、いつもの定例会議ではあったが、いつもと違った空気で話し合いが行われていた。


「それで、カルチーク先遣隊とは連絡が取れないのか?」


「左様でございます。既に二日経過している事を考えれば、全滅したと考えるのが妥当かと」


 一般には知られていない事だが、いわゆるドラゴンと言われる者達は、魔法にて一時的に体の大きさを変える事が出来る。ただしその場合の魔力消費量が高く、会議のような事でもない限り使用される事は少ない。またその様な魔法を使えるドラゴンは、かなり限られた上位種と呼ばれる者達だ。


 会議室では様々な魔族が集まり、定期会議を開いている最中。


「しかし理解出来んな。確か向けた兵力は量産型のゴブリンやオークが主体とはいえ、監視にそれなりの魔族も含まれていたはずだ。何より指揮官は中位クラスのドラゴンのはず。ヒトにそう簡単に負ける訳がない。しかも数が数だ」


 カルチークを襲ったゴブリンやオークは、魔族の町などで『繁殖』させた戦闘用の使い捨て兵力である事を、ヒトは知らない。そもそもその違いを見分ける事は不可能であり、知る術がない。


 そしてそんなゴブリンやオークを産んでいるのは、奴隷の最下層にいるヒトが使われている。一度に大量の子を産ませ、それを繰り返せば簡単に軍隊を編成できる勢力になる。そしてそれをさせられている奴隷の女達は、ほとんど機械のように産まされ続けるだけであり、産んだ子供――それが例え魔物であったとしても、すぐに母親から離されるのでどうなっているか知る術はない。


 ちなみにだが、上級の奴隷でも魔族の子を産む事は少なくない。しかしそれは、その魔族に寵愛を受けた結果であり、決して乱暴な扱いは受けないし、子供も大切にされる事が多い。また子供と親は違うという理由から、奴隷となるケースは希である。何より生まれる子供は、ほぼ確実に魔族である事も関係しているのだろう。むしろそんな立場にいる彼女らは、それを誇りにすらしている傾向があるという。何せ寵愛を受けられたという事は、例え奴隷という身分であっても立場がかなり高い事の証明になる。それは量産された下級の魔物よりも立場が良いくらいだ。ごく少数ではあるが、中には奴隷から解放された者もいる。


 さらに付け加えるなら、ゴブリンやオークにもそれなりの地位を持った者がおり、その者達の寵愛を受ける奴隷すらいる。その場合は繁殖奴隷と比較にならない程の待遇であり、数こそ少ないが側室として奴隷ではあっても認められている者すらいる。当然彼女たちが無理な出産などをさせられる事もない。食事も下手な僻地の町などより豪華であり、使用している衣服や家具に至っては、下手な王族よりも質が良い。何よりそのゴブリンやオークと呼ばれる魔族は、ヒトが知っている容姿とは極めて異なり、男女共に種族としての特徴はあっても、決して醜いとは言えず、むしろ綺麗と言われる者もいる。


 また城の中で働く奴隷もいる。その中には特に幼少期に検査を受け、教育さえ行えば一定以上の実力を発揮出来る事が確定した者達だ。研究職の者もいれば、中には警備を任せられる者もいる。ヒトの中では残酷という一言で片付けられる魔族だが、実態はかなり違うと言って良いだろう。特に目立った功績があれば、奴隷から解放される事も少なくなく、そしてそのまま彼ら、彼女らは職務に専念する。


 当然城の中で働いていれば、上位の魔族との接触も多くなる。残業という概念がなく、規定の時間の仕事が終われば奴隷だとしても城勤めであればそれなりの自由があり、個室とまではいかなくてもそれなりの部屋すら用意される彼ら、彼女らに対して、上位の魔族は好意的である。何より複数人が共にする部屋だというのに、きちんとした調度品が用意され、個人の私物も多少は置け、寝具は確実に下手な王族の物より上だ。


 当然そんな扱いであるから、女性の奴隷であれば寵愛を受ける事もあり、仕事以外は寵愛を受けた魔族の家で過ごす事になったりもする。そのまま側室や妾として魔族と生活する事となり、女性達にはどれだけ上級の魔族から声をかけられるかが楽しみの一つになっている程である。


 また男性奴隷であっても、上位の女性魔族から寵愛を受ける場合すらあり、当然彼らの扱いはもはや奴隷とは思えないだろう。実際に奴隷から解放された者も女性程ではないがそれなりにいる。


 寵愛とまではいかなくとも、その仕事ぶりが認められた場合は、男女関係なく魔族の使用人や私兵として、その魔族の家で働く事もあり、もちろんその様な場合におかしな扱いを受ける事もない。中には私兵の教育係となった者がいたりと、一般的な奴隷の概念とは違った扱いを受ける者すらいる。


 ところがこれがヒトの治める地域となると、奴隷には等しく最低限の扱いしかなく、死亡率も極めて高い。早ければ三ヶ月もせずに死亡する事すらある。大抵は鉱山などで働かされる場合が多いのがその理由だ。希に愛玩奴隷という形もあるが、それでも魔族が行っている奴隷の扱いからすれば、雲泥の差となってしまう。生活環境など、考えるだけ無駄であろう。


 その点、繁殖奴隷という最低の扱いであっても、数十年生きる事は普通であり、扱いこそ最も低い奴隷ではあるが、食べ物や病気に対しては手厚く保護されている。下手をすると小さな町などでの食事よりも良い物を食べているくらいだ。


 ただし町などから捕まったばかりの奴隷は当然反抗心が高く、それまでは肉体的な暴力を受ける事も多いのだが、それでも反抗心が失われるまでの間であっても、食事や治療に関しては手厚く保護されるなど、一般にヒトが想像している魔族とはかけ離れており、その間に奴隷達は、その反抗心を失っていくという作用もあるが。そして魔族はそれを分かって行っている。


 ただし反抗心が高く捕まった女性奴隷などは、やはり繁殖奴隷扱いとなる場合が多いのもまた事実だが。それでも長期間良い食事を摂らされ、常に良い体調管理をされると、いずれそんな彼女たちも恭順化してゆく。


 他にも魔族から『更生の余地無し』とされた反抗的な男性の奴隷は、その観察期間はおおよそ一年程ではあるが、別の施設に移送される事になる。彼らはそこで一定期間飼育され、魔族が飼っているペット用の食肉として加工される事になる。


 それを反抗的な男性奴隷にわざと見せる事で、反抗心を失わせるといった事も当然行われており、実際に食肉扱いにされる奴隷はごく少数でしかない。従ってさえいればそれなりの待遇を受ける事が分かっていて、しかも無闇に殺される事がないと分かれば、恭順するのは当然ともいえる。


 そんな奴隷達が魔族の会議の中でお茶くみをしていたりもするが、それを気にする魔族はどこにもいない。


「何か不測の自体があったとしか考えられませんが、指揮官が死亡している事は確実です。転移用の魔方陣が消失している事がそれを裏付けています」


 指揮官が殺された場合は、状況に関係なく転移用の魔方陣が消失する事になっている。そもそも本来であれば、指揮官クラスの魔族が簡単にヒトに敗れる事はない。当然そんな事になったのであれば、軍事的に見て安全を優先するのは当たり前である。


「しかし妙だな。事前の偵察では、それほどの戦力などいないはずだが。そもそも三分の一の兵力でも過剰戦力だったはずだ」


「私もそれには同意します。ですが、何か他の要因があったと考えるべきでしょう。一つ一つの個体は弱いといえ、集団となれば多少の脅威にはなります。また、我々が知り得なかった外的要因があった可能性もあります。しばらくはあの街を観察する事に重点を置いた方が賢明かと。また第三軍は予定通り街の確保に成功しています。現在そちらから使える奴隷を選別、移送準備中です。戦闘に関しては確実という物はありませんが、少なくとも他では成功している事を考えれば、カルチークが何か特殊な状況下にあったと考えるのが自然かと」


「うむ、分かった。他にはあるか?」


「現在第一軍は下級の魔物を訓練中で、あと一ヶ月は戦場に送る事は出来ません。第二軍は現在慣熟訓練待ちで、一週間程かと。第三軍は状況の確認が終わり次第帰還と休暇になります。今回失った第四軍に関しては、早急に再編成を行います。第五軍から九軍は魔物の生産待ちです。ですが今回第三軍が成功した事により、繁殖奴隷が大量に入手できるかと。それにより生産が早まるでしょう」


「分かった。ご苦労だった。カルチークに関しては、こちらで間諜の準備をしておく」


 魔族が計画的に各地を襲っている事など、魔族以外は誰も知らない。


 そして、それには魔族なりの理由があり、奴隷確保が目的でない事も知る由は無い。

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