第十二話 さっさと街に入れろ!
遅くなりました<_ _>
あの後エデムに指摘されて、サクッと魔石やモンスターの価値がある部位を拾い集めた。
拾い集めたと言っても、風魔法でモンスターを集めながら、同じく風魔法で必要部位だけを切り刻んで、必要の無くなったモンスターをさらに風魔法で適当な所に山積みにしただけ。
収納袋の容量は持ち主の魔力により変動すると聞いたが、問題なく全部収納出来た。エデム曰く、まだまだ余裕があるらしい。
一応魔物の骨なども利用価値はあるらしいが、そこまで集めると面倒なので放置。
それと解体された魔物が腐っても困るので、山積みになっている魔物に時々火魔法を使って焼却した。普通に初級扱いのファイアを使ったはずなのだが、俺の火魔法スキルレベルがLV10で、この世界にいるとされる神に対しての絶対命令権があり、しかも超級魔法というスキルらしい物まで取得していたので、魔法を放った側から実質的に蒸発するような勢いで山積みのモンスターが消えていく。
所で気になっているのだが、スキルを上げるにはその専門家に頼む必要があったはずだが?
『それについては、原因は不明です』
まあ、いいか。便利になったからな。
そんな感じで二時間程かけて色々集めたり焼却した後に、街に戻ったら、何だか騒ぎになっている。しかも俺が近づくと、かなりの人数が俺の方を指さしたり、盾を向けている。指を指すのもそうだが、盾を向ける事はないだろうに。
歩いて近づいているが、盾などで身を守る者が次第に多くなっているのは気のせいか?
『マスター、少しは自覚をされたら如何かと……』
いやいや、それはおかしい。俺はスタンビードを止めた立役者だろ? 感謝されるべきであって、恐れられるのは筋違いだ。
エデムがなんだか溜息でも吐いているような気がしたが、そんなのは無視だ。
数分してようやく城壁の前に到着すると、どうやら衛兵の指揮官らしき男と数人の歩兵がこっちに来た。
「まさかとは思うが、一人でスタンビードを止めたのか?」
全く、最初に名乗りくらいしたらどうだ?
「そうだ。もう終わったぞ? 何をやっているんだ? そもそも、あんたは誰だ?」
一瞬だが目の前の男達に、引き攣った表情が見える。そんな事よりも、さっさと中に入って素材の換金でもしたいんだけどな。
「私はヒデオン・テル・ハール。このカルチークの街では軍の最高責任者だ。カルチーク都市騎士団長に任命されている。君は確か――」
「タカオだ。さっさと中に入りたいんだが?」
俺が言った事を理解出来ないのだろうか? なんだか渋った顔をしている。
「魔物は殲滅したぞ。残りもいない。換金出来そうな物を集めたから、さっさと換金したいんだが、足止めする理由があるのか?」
強行突破は簡単だろうが、そうするとこの街で換金が出来なくなるどころか、下手をすれば犯罪者になりかねない。
「魔物が残っていないかの確認はこちらでも行う。所で、我々が聞いていた君の実力からすると、到底全滅させたなど考えられない。はっきりと言わせてもらうが、魔物の中に意思疎通出来る者がいたのではないか? まさかその魔物と、何らかの繋がりがあるんじゃないだろうな?」
オイオイ。モンスターとの繋がり? いい加減にしろ。
「確かに会話出来るモンスター……ここらでは魔物と言った方が良いのか? そいつらがいくつかいたが、全部殺したぞ。襲ってきたモンスターはどうやらドラゴンが率いていたようだが、そいつもぶっ殺した。しかし、尋問したら魔王がどうとか言っていたがな」
「魔王だと!?」
一緒に来ていた兵士の一人が、驚愕の顔をしながら言ったが、ハールがそれを左手を挙げる事で制する。
「確か、嘘を見抜く物があったよな? 何ならそれを使っても良いぞ。つか、俺がほぼ一人で倒したんだから、いい加減街の中で休ませろ」
『マスター。ほぼでは無く、お一人で全て倒されています。少なくとも偵察の者が戻ってからは、マスター以外に誰も倒しておりません』
少しは仕事しろ、このものぐさ兵士どもが。
「そうしたい所だが、先ほども言ったように我々の想定を超えた事を君がしたのは確かだ。それに伴い、兵士や冒険者、住民が君を恐れている。簡単に街へ入れる訳にはいかなくなったのだ」
「あのなぁ……」
ハールの言葉に呆れるばかりだ。全く、俺がいなかったらこいつら死んでいたんじゃないか?
「休憩を取りたいといいうのは分かった。すぐにテントを用意しよう」
そう言ってハールは左手で何かの合図をする。事前に何か決めていたのか? そんな暇があったら、モンスターを倒す努力をしろと言いたい。
「冒険者ギルドでステータスカードを受け取ったはずだ。それの確認をしたい。もし君が魔族と繋がりがあるなら、カードにそれを示す記号が出るはずだ」
一度ムゥと唸ってから、このまま言い争っても埒があきそうもないと、仕方なしにカードを取り出して見せる。
「記載は無いな……犯罪者のマークも出ていない」
犯罪者のマーク?
返却されたカードを見たが、当然マークなど無い。
「ああ、説明はされていないだろうな。他言無用だが、カードのある位置に犯罪を犯すとマークが現れる。パッと見では分かり辛いが。もちろんどんな物かは教えられないぞ。それにこの件に関しては、冒険者ギルドにも原則秘匿している。幹部の連中は知っているが」
なる程。それなら説明がなかったのも頷ける話だ。しかし、何を基準に犯罪者とマークされるのかが問題ではある。かといって、質問してもまともに答えてくれる保証は無さそうだ。まあ普通の生活をしていれば、まず問題は無いと思いたいが。
「もう一つ確認を忘れていた。再度カードを貸してくれ。討伐履歴を簡易確認する」
ハールが後ろを向いて何かを合図したのか、一緒にいた兵士の一人が拳大の水晶のような物を取り出し、ハールに渡した。俺も仕方なしにカードを再度渡す。
カードを水晶のような物にかざすと、まるでホログラムのような物が上に出てきた。こちらからだと反対側になるようで、しかも内容はこちらから見えないようになっているのか、赤く光った横に長い長方形が見えるだけだ。
「討伐数が……は、8万3,239体だと!?」
ハールが驚きの声を上げるが、その前にお前らは仕事をしろと再度言いたい。少なくとも偵察兵が戻ってから、まともな仕事をしていないのはエデムから教わっている。
「なあ。そんな事よりも、そろそろ椅子くらい用意してくれないか。その数を見れば、どれだけ戦ったのかくらいは分かるだろう?」
まあ、正直戦闘はそんなに苦では無かったがな。それよりも待たされる事にイライラする。
「テントと一緒に運ばせているはずだが……来たようだ」
城門の方に、恐らくテントに使うであろう支柱などの部材や大きな布のような物、椅子や机などが運ばれてきていた。それを城門の所にいた兵士が受け取って、こちらに運んできている。
一応、話している時間を考えれば、それなりに急いではいたのだろう。だからといって、俺の不機嫌さが治る訳では無いが。
兵士五、六人程が、テントや机、椅子などを運んできている。テントとは言っていたが、支柱やその他を見る限りは天幕ではないかと思える。使われている布かどうかは分からないが、色はやや濃い緑だ。まあ、日差しが多少でも遮られるなら文句を言っても仕方がないか。それにこの世界ではテントの事を天幕と言うのかもしれない。俺が知っているテントとは、もっと違う形だと思うのだが、前世の記憶と混同しているのだろうか?
『この世界でのテントとは、一般に天幕の事を指します。マスターの知っているテントは、一般的ではありません』
こんな時はエデムの解説も便利だ。
ハールの指示で椅子だけが先に用意された。そのすぐ傍で天幕が設置されているが、こっちはもうしばらく時間がかかるだろう。さっそく椅子に腰掛けると、とりあえずは背伸びをする。やっと文字通り一息つけた気がする。
「今、ギルドの職員も急いでこちらに向かっているが、そちらはもうしばらくかかるだろう。それで確認したいのだが、覚えている限りでどんな魔物がいたか教えて欲しいのだが」
ハールも向かい合わせになった椅子に座り、手渡されたボードに紙のような物を置いてから質問してきた。筆記具は羽根ペン。傍にいた兵士の一人が、インク壺を持っている。
とりあえず思い出せる限りでモンスターの種類を挙げていく。それをすぐさま紙に記載しているが、数までは質問されなかった。恐らくエデムに聞けば数は分かるのだろうが、そこまで教えるつもりも無いし、そもそも正確な数など言えば不自然だろう。
それでもエデムからの指摘で、おおよそモンスターの種類を伝える。同じ系統のモンスターもいるが、そこまでは詳しくいちいち教えない。そんな事をすれば怪しまれるのは確実であろうし、そもそも亜種を含めると100を優に超える数になる。なので伝えたのは、ざっと20種程度のモンスターだ。それでもハールはかなりの驚きを隠せずにいるし、傍にいる何人かの兵士は明らかに青い顔をしている。
「おおよその事は理解した。ただ……正直私も信じられない。一応聞く所によると、君は冒険者ギルドに登録して日が浅いと連絡があった。しかし今回の働きが真実だとすれば、少なくともAランク、考えたくは無いがSランク以上の実力を持っている事になる」
「そんな事を言われてもな。俺は近づいてきたモンスターを殺しまくっただけだ。確かに強いモンスターも中にはいたようだが、それが集団でいる訳でもないし、それなりに対処すれば別に強敵とは思わなかったぞ?」
実際、一刀で大半のモンスターを切り捨ててきたからな。それで強い弱いなど判断しろと言われても困る。
そんなやり取りをしている間に、やはりテントでは無く天幕が張られていく。それを横目で見ながら、簡潔に質問へと答えていくが、正直時間の無駄にしか思えない。
やっと天幕が完成しする。支柱の上に布のような物を被せており、上は三角錐になっているようだ。広さは大人が十人程座れる程だろう。その中へ机が二つと、俺たちが座っている二脚の椅子の他、六脚の椅子が用意されている。
「準備が終わったようだ。あちらで続きを話そう」
ハールの言葉に仕方なく頷き、そのまま天幕の中に移動する。俺たちが座っていた椅子を、他の兵士がそのまま中に移動させてきた。今度は机を挟んで対面する形となる。
「騎士団長。到着したようです」
ハールに誰かの到着を兵士が伝える。そのままハールが後ろを振り返るので、俺も街の方を見ると冒険者ギルドで会ったケラネンギルド長がこちらに歩いてきている。それと試験などで色々話したハッドンも一緒にいるようだ。
二人が天幕に入ると、ハールに一度礼をしてから挨拶をしている。俺はそれを眺めながら、なんだかややこしい事になりそうな予感に苛まれる予感がした。




