第十一話 急成長!?
名前も忘れたドラゴンの頭を見て、さらに周囲の状況を確認する。
自分の身こそ血に汚れていないが、周囲は凄惨な殺戮現場とかしている。
大半は胴体が上下に分離した死体であるが、中には身体が横半分に裂かれている死体もあり、周囲には血の臭いが蔓延し、各所に臓物が散乱している有様だ。当然生きている反応はまるで無い。
いや、少し離れた所に生き物の反応があった。どうやら俺の事を影で監視していた者のようだ。そこそこ離れているが、動かないのはこちらの様子を伺っているのか、それとも恐怖で動けないのか?
『マスター、やり過ぎかと……』
呆れた声でエデムが言うが、こっちはモンスタースタンビードを単独で止めた立役者だ。多少撃ち漏らしはあったとしても、そんな物は数に入らないだろう。
『それよりもマスター、報告する事がいくつかございます』
ん?
『今回の戦闘により、経験値を大量に取得されました。それによりレベルが大幅に上昇しております。また基礎能力も大幅な上昇があり、スキル取得のためのポイントも大量に取得されました』
確かに大量に殺したな。そう言えばスキルで色々と取得出来たんだったか。
「で、結局どうなったんだ?」
スキルの知覚範囲に人がいる事を知っていても、声が聞こえる距離とはほど遠い。それもあり、口にして問いかける。
『まずレベルですが、現在のレベルは157となりました。倒した魔物の総数は8万3,239体でした。撃ち漏らしは確認されておりません。また上位の魔物を殲滅した事により、ボーナス経験値とスキルポイントが加算されております』
普通に8万を超えたモンスターの群れを倒したのだから、それだけでもかなり経験値は貯まったのだろう。
『ですが、注意頂きたいのはレベルが上昇しても、スキルの上昇とは落差が激しくなります。仮に千体のモンスターを倒したとしても、そこから得られる経験値とスキルポイントで一段階上げるとでは、スキルの恩恵が上です』
やはり、どこまでもスキルが最優先らしい。
『現在のスキルポイント数は3,938SPとなりました。また今回の戦闘で武器・防具習熟度が最大となり、現在装備されている装備品での効率よい戦闘が行えるようになっております』
「武器・防具習熟度?」
『はい。一般に認知されておりませんが、装備している武器や防具を使用した状態で一定以上のモンスターなどを撃破すると、習熟度が上がります。正しこれは一般に確認出来る方法が無く、また習熟度が最大値に達するまでに装備品が破損する事が普通なため、最大値になる事はありません。今回は装備している武器・防具が特殊であったため、このような事となりました』
特殊と言われて刀を見る。刃こぼれは全くしていなく、大量のモンスターを切ったはずなのに血糊すら付いていない。それどころか、刃が最初の頃よりも輝いて見えるのは気のせいだろうか? 見た目は変わっていないはずだが、何かが違う。
その時偶然、腕に嵌めていた盾が見えた。元々は革の上に薄く伸ばした金属を貼り付けただけの物だったはずで、色はごく普通にある鉄の色だったはずだ。それが今は赤というか、朱色のような盾になっている。大きさは変わらないが、なぜか魔力を感じ、内側に張られていたはずの革の感触も無い。
内側を改めてみると、中の革も表面と同じ色になっていた。腕に嵌めている部分こそ革のようだが、それも最初の頃は正直ショボいベルトだった物が、今では明らかに高級そうで、しっかりとした高品質な革の素材に見える。
それでさらに気になり鎧を見てみると、訳の分からない和洋折衷鎧が、今は和風に近い鎧に変化していた。ただし一つ一つの部品が見た事のない素材で、魔力も感じる。さらに全体が深い赤色――光沢のある赤紅となっている。
「な、何が起ったんだ!?」
盾もそうだが、鎧を着替えた覚えなどあるはずもない。そもそも戦闘をしていたのであって、その途中に鎧を変えるなどと言う事はしていない。訳が分からない。
『武器である桜樺刀ですが、強化により茜樺と名称が変更されました。銘も既に変わっております。また武器としての等級が、桜樺刀の時の伝説級から神々級へとクラスアップしました』
ん? ミソロジーだと、神話だと思うが……。
『マスター。一部以前いらした世界と、記憶が混濁しているようです。この世界と、以前いらした世界では、呼称が一部異なります。クラスは最低の粗悪級から始まり――』
エデムの話によると、この世界のあらゆる物は次のように分類されるらしい。
・粗悪級 一般の販売にも適さない粗悪品
・汎用級 一般の店頭で販売される品
・一品級 個人に合わせて製造された装備。品質は希少級に劣らないが、装着者が極めて限定される。
・希少級 装着者を選ばない一品級装備
・遺物級 遺跡などで見つかる装備。希少級の数倍から数十倍の性能がある
・古代級 遺物級の上位品。まず見つかる事はない。一つで国家予算並みの価値がある代物
・伝説級 あるかどうかも不明な装備。その具体的な性能は大半が不明
・精霊級 精霊の加護が付いているとされる装備。通常は一つの精霊の加護だが、希に全種類の精霊の加護がある品物があるらしい。詳しい事は不明
・神話級 古代文明が製造したとされる品。現存する者で武器は見つかっていない。古代級が霞む性能があるとされるが、鑑定不能な物ばかりで詳細不明
・神々級 現存しないとされる品だが、この世界誕生時にもたらされたとされる品。詳細は一切不明
十種類というか、十等級があるそうだ。
因みにこれらを判別するには『真贋』という鑑定スキルの最上位が必要で、現在はそのスキルを持っている者はいないらしい。判別出来ても伝説級までで、それ以上は鑑定不能とされているのだとか。
「おい、ちょっと待て。伝説級の物が、最上位の神々級になったのか? おかしくないか?」
飛び級にも程があるはずだ。いくら大量に倒したとはいえ、そんな簡単に武器や防具が進化するのか?
『今回はかなり希なケースです。実際に発生した事例では、恐らく初めてかと思われます』
何だそりゃ?
『そもそも武器などが進化するには条件があります。今回の事例では、単独でオーク種やゴブリン種などを短時間で規定数を殺した場合に条件が満たされます。しかも今回はドラゴン種まで殺していますので、考えられない破格の条件が満たされた事となります。その結果として、現状を受け入れて頂ければと』
「おい……」
思わず声を上げてしまった。俺は悪くないと思う……悪くないよな?
『それから、武器が進化した事により武器のスキルが発生しました』
道具にスキル?
・非劣化LV― 各種メンテナンスが不要になり、劣化が発生しない
・質残像LV― 質量を持つ残像を発生させる事が出来る。残像にも攻撃力を有する
・残像誘導LV― 発生させた残像を、敵に対して自動誘導させる事が出来る
・神攻輝LV― 聖属性。アンデット系のモンスターに対して最大補正の攻撃力
・敵対攻撃補正LV― 使用者が敵対すると感じている場合に、相手に対して最大攻撃補正
色々とツッコみたい所があるが、質量を持つ残像? どこかで聞いた事があるが、普通にあり得ないはずだ。
『空気中から残像となる物質を収集するため、刀その物の質量は変化しません』
それは良いのか? 良いのか……あ、そう。
それからLV表記が数値になっていないのは、レベルの概念がないスキルらしい。そもそも性能を考えれば、レベルの概念などあったら一体どうなるのか疑問でしかない。
つか、敵対攻撃補正と神攻輝が組み合わさった場合、アンデット系に対して無敵じゃないのか、これ?
『Sランクまでのアンデット系モンスターに対しては、致命傷となる可能性が高いかと。SSランクについては分かりかねます』
あ、そう……。もう、どうにでもなーれ……。
『盾も今回の戦闘により進化し、汎用級の金属強化の盾から神々級と変化し、主要金属がテクトオリハルコン製の朱輝の聖盾へと進化しました』
オリハルコンだとしても大概だが、初耳の物だぞ? そもそも、テクトオリハルコンって何だよ……。
『テクトオリハルコンはオリハルコンの上位鉱物で、モノス硬度に当てはめた場合に20となります。参考までにダイアモンドが10で、オリハルコンが17です。現在の所、モノス硬度ではテクトオリハルコンを超える硬度の物は確認されておりません』
モノス硬度――この世界で鉱物の硬さを表す指標の一つ。以前はダイヤモンドが10でそれが最大だと思われていたらしいのだが、大昔にオリハルコンがある程度の量で見つかり、その試験をしてから最大値が大幅に引き上げられたらしい。
それより何となくだが、ダイヤモンドでも強い衝撃で割れたか、砕けたと思うが?
『オリハルコンやテクトオリハルコンでは、現在のところ1インチに1000クオーター重さで、時速80マイルでの衝突でも傷や歪みが付いた事はありません。耐衝撃性が高いのは当然ですが、熱変化にも強く、高度で精密な魔法を用いた専用の魔法炉でなければ、テクトオリハルコンやオリハルコンの加工は不可能とされています』
オリハルコンは何となくチートだと思うが、いまいちテクトオリハルコンの凄さが分からないな。
『テクトオリハルコンでは、今まで傷や凹み等が付いたという事例は、同じテクトオリハルコン同士でなければ確認されておりません。加工には同じテクトオリハルコン以外では不可能です。耐熱温度も今のところ不明で、厚さ0.1インチで表面にドラゴンのブレスを受けても、持ちで側では温度変化の確認がされた事はありません』
んな、バカな……。
改めて盾を見ると、若干赤いながらも鈍く光るその盾は、確かに普通と違うように思える。因みに盾の周囲は細い銀色に輝いているが、そちらはオリハルコンで出来ている。
『通常、オリハルコンやテクトオリハルコンは鉄と同じような色をしていますが、そこに色を付ける場合は、魔法鉱物などを添加する事になります。ですが盾や鎧の色は、戦闘中に浴びたモンスターの血の色を反映している模様です。なぜその様になったのかは不明です』
マテ、呪われているんじゃないのか!
『いえ、呪いの類いは確認できません。原因は不明です。また盾についてですが、魔力を与える事により盾の周囲及び盾の表面に、魔力の防御膜が展開されます。通常は透明ですが、属性を与える事により色は変化可能です。盾に魔力を与える方法は、そのまま盾に対して魔力を注入するイメージか、もしくは魔石を用いる事で可能となります。魔石を使用した場合は強制的に常時発動ですが、一般的なゴブリンサイズの魔石を用いた場合、使用可能時間は5分程度です』
ツッコみたいが、正直我慢した。むしろ呆れるばかりだ。
ついでに盾にも固有スキルが出来ていた。
・魔力防壁LV― 魔力注入時に、任意のサイズで半透明の魔力の膜が出来る
・自動防御LV― 敵のあらゆる攻撃に反応し、あらゆる角度で防御を行う。常時発動で自己の攻撃は防がない
・拡散防御LV― 任意の位置にミスリル製の盾と同程度の防護壁を任意の数放出
・広域防御LV― 最大で範囲200インチのオリハルコン製の盾と同じ強度の防壁を構築
・超高域防御LV― 最大で範囲4000インチのミスリル製の盾と同じ強度の防壁を構築
・接触攻撃LV― 盾に接触した場合に、任意で一品級の剣や槍と同程度の自動攻撃を接触面に起こす
・神防輝LV― 聖属性。アアンデット系に最大補正防御
さらに鎧の方も当然のごとく汎用級から神々級になり、金属と布を組み合わせたような物なのに強度は楯と同じでスキルまで付加された朱墨華甲冑となった。赤い金属部分を繋げている黒い糸の束に見える物は、実際にはオリハルコンを糸状にした物を編み上げた物で、現在の所そんな技術は無いらしい。しかも強度は金属板としてのオリハルコンと同じで、盾とほぼ同じ防御力があるという。チートにも程があると思うが、赤というか朱色の部分はやはりモンスターの血が元になった物ではないかという話であり、やはり呪われているとしか思えない。しかしそれでも呪われていないというのだから、正直何が何だか。
肝心の鎧のスキルもどうかしている。
・温度補正LV― 対温度変化仕様で、あらゆる極地でも装着者の負担を最低限とする
・衝撃補正LV― あらゆる直接、間接攻撃の威力を軽減する。軽減された威力は装着者に振動以上のダメージを与えない
・魔力防壁LV― 魔力注入時に、任意のサイズで半透明の魔力の膜が出来る。物理攻撃無効化
・魔法無効化LV― 自動で相手の魔法攻撃を無効
・神防輝LV― 聖属性。アンデット系に最大補正防御
・サイズ変換LV― 装着者の体型に合わせ、自動でサイズが変化する
これ、どうするんだ? 鑑定でバレたら、大事になるんじゃないか?
『その心配は無用です。通常の鑑定スキルでは、装備の名前以外は判別不可能です。スキルがある事は隠せませんが、内容を知る事は出来ません』
どこまでチートだよ……。
『マスター。それから短期間でモンスタースタンピードを終結させた事により、ステータスの上昇は次の通りで、新たなスキルも習得されております。称号も取得されています。ご確認下さい』
・体力 :SS(25974)
・筋力 :SS(11395)
・力 :SS(15690)
・素早さ:SS(8843)
・器用 :SS(6822)
・敏捷 :SS(35991)
・反応 :SS(5841)
・感知 :SS(9735)
・知性 :SS(4373)
・学習力:SS(4096)
・知識 :SS(3481)
・魅力 :SS(5467)
・HP :35329
・MP :6555
新規取得スキル
・威嚇LV10
・挑発LV10
・完全感知LV10
・ステータス隠蔽LV10
・相手ステータス確認LV10
上昇スキル
・盾術LV5→盾術LV10
・格闘術LV5→格闘術LV10
・中級魔法→超級魔法
・火魔法LV8→火魔法LV10
・風魔法LV4→風魔法LV10
称号
・モンスターの殺戮者
・近接戦闘超越者
・火炎の使い手
・超級魔法を操る者
・人々の守護者
・殲滅者
・破壊を司る者
・竜殺し
・竜の殺戮者
・神々と並ぶ者
あー……もう、ツッコまないぞ。というか、これをどう判断しろと? どう考えても、普人の持つスキルじゃないだろう……。いや。種族なんか関係ないだろうな……。
『ステータスカードはまだ更新されておりませんので、後ほど騒ぎになるかと……』
あ、そう……。それ以外にどうしろと?
『とりあえずマスター、一度街に帰還された方が良いかと。マスターを監視している者がいるようですが、どうやら放心状態で動けないようですし』
マップで監視者は把握しているが、先ほどから微動だにしていない。生きているよな?
『はい、それは問題ありません。若干気絶に近い状態のようですが、この周辺は既に安全なので、問題はないかと思われます』
どちらにしても街に戻る必要はあるだろうし、エデムのいう通りに戻る事にした。




