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害獣駆除はお任せを! -モンスター退治屋さん繁盛記-  作者: 弐逸 玖
第七章 紋章の乙女は憂う ~皇太子殿下、西へ!~
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一触即発

「ふむ。……わざわざ呼び立てたようになって済まなく思う」

「そこはもっと思って貰わなければ困る。我を呼出の口実に使ったこともあるしな」


 白い服を着て白い羽を背負い、金髪をなびかせた美少女。彼女はどうやら皇太子へと話しかけたようだが、それにはパムリィが答える。


「人間と共にあると知ってのち、“陸の”には迷惑をかけた。確かに謝罪が必要だろうな」

「そんなうえからの謝罪など要らんわ。但し“水の”に通じるとは言え、妖精を手駒に使った件は別なる。さらに“水の”がなにを考えているのか、そこは理解しておかねばこれからの……」

 パムリィが喋り終わる前に、結構な太さの木が一本。幹が斜めにずれると、そのまま湖へと落ちる。



「ロミ、旦那を! ――サイレーンっ! なんのつもりだ!」

わらわはなにも……」

「落ち着けターシニア、我の身内だ。……問題はない」

 パムリィはそう言うと、倒れた木の後ろへと声をかける。


「ずいぶんと手荒な挨拶だのう。ぬしらスプリガンは、それだから人間から誤解を受ける」

「女王にはお初にお目にかかる。人間との共存を唱えているのは知っているが、我らはそこに従う気はない」

「そこは好きにすると良い。考えを無理強いする気などないわ」


 姿は木陰に隠れて見えないが、盗掘に入る人間など歯牙にもかけない古代遺跡の守護者。スプリガンがすぐそこに居るらしい。

「共存ではなく共生であるがな。……取り込み中だが、なに用なるか?」

 

「こざかしいエルフどもにはそれなりの懲罰が必要ではないか。と、それを直訴にあがった次第だ。……ついでに“カラスども”から女王を守るには人間2,3人では足りなかろう」

 ――事実、足りずに女王が羽を痛めた。ありえん話だ。木陰からの声は続く。

「エルフどもがついて居ながらこの体たらく。人間などどうでも良いが、“水の”がその気ならこちらにも覚悟はある。と、言いおかねば気が済まない」



「まぁまて。このものらのたれかが死ぬればそうなるが、今は生きてある」

「妖精を穢すものは、例え精霊であろうと許さぬ。女王の考えは如何に……?」

「単純だ。……その時は戦争なる」

 ――新女王の誕生を心より祝う。言葉と共に気配が薄くなるのをターニャは感じた。




「妾が姑息にもうぬを頼ったが故に、余計な手間を増やしてしまったな。改めて陳謝する」

「うえから謝罪など要らぬとは、先にも言ったところなる。意図するところは汲んだからこそ皇太子こやつを連れて来てはみたが、害をなすのではなかろうな?」


 自分で飛べない以上、ターニャの肩から動けないパムリィは、髪の一房を掴んで肩の上に立ち上がる。

「水と陸とが対立するは、なにも初めてと言う事でもなし。我はぶつかることに躊躇はないぞ」



「まぁ、女王。気持ちはわかるがその辺で……」

「むぅ」

 自国領内、しかも目の前で。さらに自分が原因で“怪物モンスター大戦争”の口火を切られては困る皇太子である。


「さて、サイレーンの長、ピューレブゥルとやら。次代の皇帝たる俺に何某かの話があるのだと。そう思って妖精の女王にここまで連れてきて貰った」

 ――それがしきたりでもあるのだが。そう言うと皇太子は腰の剣を外してアッシュへと渡す。


「用向きを教えて貰うわけには行くまいか」

「たいした用事ではない、うぬに昔語りを聞いて欲しいと思うただけだ」

「……昔の、話?」



「その瞳、その顔立ち。うぬはシュナイダーの血が良く出ておる」

「どう、言う……」


「妾を含めサイレーンは、精霊にあっても長寿の部類。分けても妾が何故に女王などと呼ばれ、サイレーンを率いる立場におるか」

「……最長寿の個体である、と?」

「その通り。そこな女。その剣の飾りを見せてくれないか」


 ターニャは鞘ごと剣を外して銀色の剣を掲げてみせる。

 剣の柄には皇家の紋章、憂いのサイレーン。


「……それは妾であるのだ」

「え? えぇ!? ……に、似てなくも、ないけど。……って、えーと」




「かつてこの大平原には人間は、東の極一部にしかいなかった」

「アルフレイド大平原は、帝国樹立前にはそもそも人類領域じゃなかった。それはモンスター関係の仕事をしてるヤツならみんな知ってる」

 ターニャは表情を変えず、事務的にサイレーンの言葉に答えを返す。

「なるほど、人間であっても知っていることなのだな」


「みんな知ってること、ですか……?」

 ロミが不安そうにしているのにも、感情を感じない声で返答する。

「今、覚えたろ? 忘れんな」


「もちろん、俺達皇家の人間も知っていることだ。開祖アルフレッド・シュナイダー。彼がモンスター達と交渉の末に手に入れた土地だ、とな」

「ふむ、そういう理解であるのか。間違ってはいるまいが」

「ピューレブゥル、俺に認識に何か間違いが?」


「シュナイダーを名乗る若者が、人間の住む場所を広げんと、妖精の女王と交渉をした。そして確かに陸のモンスターと人間、その交渉は成された」

 サイレーンの瞳は、皇太子のそれを正面から捕らえる。


「戦って食い合ってつぶし合い、勝った方がその土地を得る。妖精の女王は伝統的に、粗野で野蛮な方法を好む」

 パムリィはむしろ、口の端に笑みを浮かべて答える。


「野蛮だと言わるればそうであるやもしれぬな。だがしかし、一番わかりやすいと我などは思う故、先だってもそう答えたところなる」

「一番温和なピクシィですらこれだ。先程のスプリガンとて、アレはアレで至極普通の挨拶なのであろうな」


「我から見てもアレを普通とは言わぬ。人間との付き合いも長い時間の間にそれなりには学んだ。――ぬしを基本的には敵視しておるのだ。“水の”の括りであるエルフであっても、それは例外ではないぞ」

「……わかっては居た」


皇太子こやつを呼び出すのに我を使う。……わかっておろうが、人間に距離も生活も近い我ら妖精は、だからそのような姑息な手法を使うことを嫌う」

 ――その上、我の不注意で怪我をしてしまった。直情的なものが多い故、言動は過激にもなる。言いながらターニャの頭によじ登り、頭のうえに座り直す。


「キングスドラゴンはおくにしろ。シュナイダーの跡継ぎが自発的に来ること。これこそが、我らの会見の条件であろ?」

 ターニャは頭の上のパムリィに声をかける。

「そうなのか?」


「“水の”がどのような条件でシュナイダーと話をしたかは、知らんし興味もない。だが、ルンカ=リンディも言っておったではないか。陸と水を総べるものに逢う。シュナイダーの皇帝にとっては、いや。我ら(りくとみず)にあっても。双方、これは必ずしも必須ではない」


「確かにルカはそう言ってたが」

「どうしてもとなれば、これは自分で逢いに行く事になろうが……」

 ――自ら呼び寄せるなどとは無粋の極み、なにより盟約を無視することと同義なる。パムリィは多少怒りを含んだ声色で続ける。



「なに故、盟約を無視してまで皇太子こやつをここに呼び出す必要があった? 我はそれが知りたいだけなる」

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