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害獣駆除はお任せを! -モンスター退治屋さん繁盛記-  作者: 弐逸 玖
第七章 紋章の乙女は憂う ~皇太子殿下、西へ!~
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湖畔の道

 湖畔の道を、騎馬、馬車、騎馬の順で、今ひとつ不釣り合いな集団が結構なスピードで走り抜けていく。


「で、ラムダは納得したのか?」

 御者台でラムダの手綱を取るターニャは、珍しくその襟元にネックレスが廻っている。そしてそのネックレスに付けられた糸は、彼女の肩に座るパムリィの腰に巻かれていた。

 パムリィはたいそう嫌がったが、飛べない以上はこうするしか無い。


「一応、な。此奴こやつに言わせると、下銭なものであるとのことだが」

 そしてラムダの言い分を聞くことが出来るのは、もちろんパムリィしか居ない。



 騎士のパレードのような衣や飾りを付けているのに、灯りの類を付けていない馬。

 その後ろを追って、フィルネンコ害獣駆除事務所のマークのついた馬車が、付けられるだけのランタン、三つを揺らして後に続き、さらにその後ろ。

 鎧こそ着ていないが、革手袋をはめマントで鋼鉄の手甲と胸当てを隠して、完全武装状態でアッシュの駆る馬が続く。




「ケルピィなんて、ひれが着いてるだけで、同じ馬じゃ無いかとも思うんだが……」

 ターニャ達の乗る馬車のさきにたって走る馬は、普通とはあからさまに雰囲気が違う。

「馬と言うには品がない、と言って憤っておるのだが」


 妖精とは言え、面白半分で人や動物を水の中に引き込み命を奪う。

 そうした習性を持つケルピィである。


 ターニャは、ラムダが不機嫌な理由をなんとなく察する。

 ラムダは“仕事前に一言二言交わした”らしいが。

 彼の態度も性格も、“正義感”の強いラムダには気にくわなかったらしい。

 リジェクタ事務所の一員である、と言う自覚は結構強い彼である。


「……馬の品格なんて、あたしにゃわからんがね、ま。頼むぜ?」

「へそを曲げずに走れよ? 真面目に仕事をすることだけが取り柄であろ?」


 その品が無いと称されたケルピィは。夜陰に紛れ、派手派手しく装飾を付けているので普通の馬との違いは、隠せないまでも目立たない。

 そしてそのケルピィを駆るのは、昨日ターニャ達の元を訪れたシェリーコート。

 馬に乗っている姿は、鎖帷子で身を固めた小柄な女騎士。に見えなくもなく、違和感はそれ程無い。


「なんでシェリーコートが来たんだろうな? ケルピィだったら人語を解するどころか喋るだろうに」

「ぬしに常識論を話すとは思うていなんだが、不自然であろ?」

「……ん?」


「飾りを付けた馬が騎手も無しに走っておったら不自然なる」

 騎士でも無い少女が、きらびやかな装飾を付けた馬で荷馬車を先導している。

 その事実だけでもかなり不自然ではあるのだが、ターニャは突っ込むのをやめた。

 一応、モンスター的には人間の常識にあわせてくれているものらしい。とパムリィの言動を見て思ったからだ。


 街を離れ、ますます暗くなる湖畔の道。

 そこをその一団はさらに速度を上げて駆け抜ける。




「何処まで行くものだろうか……?」

「そう言う意味じゃ、旦那の心配にはあたらねぇさ。馬車で来いってんだから、さしたる距離じゃないはずだ」

 ――いくら精霊とは言え、“彼岸”を越えろとは言わんだろうしな。それに……。ターニャはロミに装備の点検を始めるように促す。


「パム、二回は気が付いたが他にもあったか?」

「ほぉ、気が付いたか。さすがはターシニアなる。実際には既に今ので三回だが」

 御者台の後ろから、会話を聞いていた皇太子が会話に割り込む。

「それは一体なんの話かね?」


「人の入れない結界だ。ケルピィに付いて行ってるから抜けてるが、普通の人間だったら入れない」

「ターニャさん。それはつまり、僕らはもう、あちらの縄張りの中。と言うことですか?」


「そう思って間違い無い。……三度も結界を抜けたなら、そろそろ終点だろうな」

 ターニャがそういう内にも、先頭を走る異様な風体の馬は少しずつ速度を緩め、湖畔の少し開けたところで止まった。

 周りは鬱蒼とした雑木林、あたりには霧が立ちこめ、大鹹湖はかろうじて見えている程度。


 貝殻の服を着た少女が飛び降りると、ケルピィは湖の中へと消える。

「塩湖だけど良いのか……?」

 リジェクタの認識では、淡水の大きな川に住んでる認識のモンスターなのである。

「なんでも直接見ないとわからんモンだなぁ、クリシャがいたら喜んだろうに」



「女王様、ここで待ってて? ……すぐ来るはず」

 いつの間にかシェリーコートが御者台のすぐそばまで来ていた。

案内あないご苦労。我も含めてこのものら、帰れるのだろうな?」


「来た道、帰って」

 確かに蹄と轍の跡ははっきり残っている。


 ――検証のためにもう一度来てみたいが、一度帰れば二度とここには来られないんだろうな。ターニャは声を出さずに思うに留める。

 道を惑わせるのはシェリーコートの十八番おはこである。

 彼女をメッセンジャーに使ったのはその意味もあるのだろう、と思った彼女である。


「あいわかった、もう良いぞ」

 パムリィがそう言った瞬間、シェリーコートは気配どころか姿がかき消える。


「いなく、なった?」 

「まぁ、あの連中ってのはあぁしたものだから」

「普通に戻っただけだがな、人間には見えんのか」

 ターニャの肩では不思議そうな顔のパムリィ。


「お前がいてくれて助かるよ。……ロミ、装備!」

「はい!」

「旦那。ここだって言うから降りるけど、なにがあるかわかんないから、気を抜かないで」

 ――わかっている。そう言って彼は腰に手をやる。柄の部分にカバーのかけられた結構な長剣が、腰にぶら下がっていた。


「アッシュさんもいいっすか?」

 彼も既に馬を降りていて、槍をおくと腰の剣に手をやる。

「わかっております。こう藪が多いと槍では邪魔ですな」


「パムはともかく、灯りが無いと身動きが取れない。みんなあまり馬車から離れないように。――ロミ?」

「さっきランタンの油は足しました、朝まで持つはずです」

「……良し」

「足の付いたヤツ、二つありますけど、増やしますか?」

 ――今は良い。そう言いながら、正装用の帯剣ベルトをぶら下げるターニャ。 


「そっち、なんですか?」

 普段の仕事用のベルトを用意していたロミはあっけにとられる。

「一応、旦那のお付きだからな。制服って訳には行かないが、これだって正装の一部分だろうしさ」

 腰には銀に輝く柄と、それについた皇家の紋。両方が見えないようにカバーのかけられた証の剣。


「それにこれから、水を総べるもの。に謁見するんだぜ? 実際武器が必要になるとは思ってない」

「話はわかりますけど」

「お前は旦那の護衛として、むしろ武装はしてて良い。すぐ動けるようにな? ……あたしがなんか持ってても結局、邪魔になるだけだ」

 ――その為に連れてきたんだぜ? そう言うとターニャはにっと笑う。


「どのような、姿なのであろうな」

 皇太子はそう言うと、剣の柄が見えないようにかけられていたカバーを外し、金に輝くそれを握ると、バスタースウォードを引き抜く。

 証の剣、その柄には火を吹くワイバーンの皇帝章が朱く輝く。


「あったことは無いけれど、こんな感じでしょ。多分」

 ターニャも同じく、腰のレイピアからカバーを外すと、こちらは鞘ごと腰から外して持ち上げる。


 その柄には嘆きの乙女の横顔、有翼の少女、サイレーンをかたどったシュナイダー皇家の紋。

「嘆きの乙女、か。……常に嘆いているわけであるまいが」

「確かに。二つ名は迷惑かもしんないかもですね。ただの歳を取らない美少女の……」



「ターニャさん、なんか霧がいきなり……」

「ほぉ、待たせずに来るとは感心」

 パムリィのその言葉を聞いて、ロミとアッシュは剣の柄に手をかけるが、一方彼らの主人。

 皇太子は泰然として湖の方を眺め、ターニャは背筋を伸ばすと目を閉じる。


「前方、やや右。ロミ、こちらに攻撃の意思は無い。抜くなよ? 歩いてくる? ――パム、数、わかるか?」

「ふむ、他は感じぬな。気配は一つだけなる」


 ――少し構えすぎたか? 皇太子がそう呟いた瞬間。

 並んで立つ彼とターニャの目と鼻の先。いきなり、白く長い衣を着て、大きな羽を背負った妙齢の女性が立っていた。


 完全に虚を突かれたロミとアッシュは動けない。

「紋章なんか目じゃねぇ美人ぶりだぜ……」

「ターニャさん、そんな場合じゃ……」

 

 そんな二人のやりとりを横目で眺めた皇太子は、姿勢をただして現れた女性の正面に向き直る。

「俺が次期皇帝、レンクスディア=ドルミラム・デカルロ・ド・シュナイダーだ。わかっていようとも、人の流儀に従って名乗リを頂きたいが、如何いかがか」




わらわはピュゥレブール。精霊サイレーンの長にして、水のモンスターを総べるもの。――よくぞ参った、シュナイダーの皇太子よ」



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