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害獣駆除はお任せを! -モンスター退治屋さん繁盛記-  作者: 弐逸 玖
第七章 紋章の乙女は憂う ~皇太子殿下、西へ!~
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道を確かめる

 突然、皇太子士おうたいしがフィルネンコ事務所を来訪した約二週間後。


 『フィルネンコ害獣駆除事務所』と書かれた荷馬車は、街道とは言いながら林の中の一本道を、帝国本国の最南端へと向かっていた。

 

「あのぉ、レクスの旦那?」

 リンクが若様であったので、レクスの呼称はこうなった、と言うことだ。

 一応。この呼び方の根拠としては、公家に連なる血筋の某商家の長男。と言う謎の設定を作って、本人もそれを名乗っている。と言うことがある。

 ちなみにどうしても名前を呼びたくない、旦那と呼ぶのも抵抗があるルカは、大若様。などと言う謎の敬称で呼んでいたが。

 

「なんだ?」

 荷物と共に荷台に腰掛けるターニャとレクスである。

 その他随行員はロミと、そして荷馬車を轢くラムダの頭のうえに陣取ったパムリィ。他にはいかにも貴族のお付き、と言った風情のアッシュの髭面が馬に乗って、馬車の後ろを着いてきている。


「宮廷の方は空けてもよかったんすか?」

「その為の代理人だ、二週間程度なら問題あるまい。リンクもリィファも使い方を間違っているのだ」

 ――もっとも二人共、意図的に間違っているのだろうがな。そう言うとレクスは、ふ、と口元に笑みを浮かべてみせる。


 そのリンク唯一の代理人こそターニャであるから、意図的に。と言われれば。

 まさにその通りだと自分でも思うので、それにはなにも言えない。



 一緒に行くのは最小限。そう言って譲らなかったレクスである。

 なのでターニャは自分の他。対人戦ならば絶対の剣技を誇る、今御者台で手綱を握るロミと。

 そしてもう“一人”。モンスターと“交渉”になったときに円滑に進めるため、と言う、ほぼ詐欺のような理由でパムリィを連れてきた。


 レクスは随行するのは専門家が二人で良い、と言い張った。

 三人必要だと思ったターニャの、だからこれは最低限の抵抗ではある。



「その、旦那? やっぱ護衛の数、もっと増やした方が良かったんでは……」

「そなたが帯同しているだけでも本義的には多い。俺一人で来たかったのだが、周りがうるさくてな」


 戦闘力が足りないきらいはあるものの、親衛騎士としてはオリファと並んで最強を取り沙汰される腕前のアッシュが、剣の他に槍を背負って臨戦態勢で控えている。

 そして、大人数で囲まれない限りは護衛は要らない。と言い放つ武闘派皇太子、レクス本人も、いつでも使える位置にバスタースウォードを置いて居る。

 


 さらに現状。フィルネンコ事務所もそこそこ忙しい。

 副所長として全体を取り仕切り、戦術家の顔も持つクリシャと、経理でもあり、下級モンスターなら十分フォワードを務めることのできるルカ。この二人を連れてくるわけには行かない。

 ターニャとロミが居ない以上は、メイドの二人も実行部隊として必要。と言う事情もある。

 結局。フィルネンコ事務所の大火力部隊は今回は留守番、と言う事になった。



「時にターニャよ。向かう先はこれで良いのか?」

「良いはずですよ? 水の女王を名乗るサイレーンはこの先のグレーデル大鹹湖だいかんこにいるはずなんで」

 馬車が向かうのは、帝国本国の南の外れ。向こう岸が見えないほど巨大な塩湖であるグレーデル大鹹湖。


 海に住まう精霊であるはずのサイレーンであるその女王は、その巨大な湖に居を構えるのだと言われている。

 これもまた伝聞であり、それを確認したものはここ五〇年、誰も居ないのだが。




「ターニャさん、道が分かれてますがどっち行きますか?」

 御者台のロミからターニャに声がかかる。

「街は左だよな?」

「はい。東岸の街、グレディアンに出ます。右なら岸を廻って西岸に出るはずですがそっちは人はほぼ住んでません」  

  

 ――当然、人の居ない方なんだろうけどなぁ。そう言って腕組みのターニャ。

「うん、先ずは東で宿屋を探す。街まで一時間かからんだろ? ……落ち着き先を決めて、その後夕食まで。まずは聞き込みに廻ろう」


 彼女にしても、具体的にサイレーンのいる場所を知るわけでは無い。

 ベースをはっきりしたうえで探索に廻った方が良い、とターニャは判断した。

 野宿の準備もあと一日分しか無い。

 それに、身分を隠しているとは言え、そう何日も皇太子を野宿させるわけにはいかない。


「それとついでに。この先は両方とも、道がどうなっているのか、はっきりわかんないので。本当に馬車で入って良いかどうか心配なんですが……」


「国の街道であるなら、馬車が入れないなどと言うことは無いはずだが。目の行き届かないところはあるのだな、反省しよう」

「いまぬしが反省したとて、なに程の役にもたたぬがな」



「パム、一応、口には気をつけような? お前は女王かも知れんが、旦那もお客さんだ、――喋り方はいまさら言わんが内容。……旦那はもちろんなにも言わんだろうが、少し気をつけろよ?」


 聞こえよがしにそう言われては、レクスは反論も同意もできない。

 何気なくフォローに入るターニャを見て、――なるほど、あのリンクが気に入るわけだ。と自然に口元の緩むレクスである。


「で。ロミ、地図はどうなってんだ?」

「2年前の大水の後、少し道が変わってるみたいで。今でもちょっと東にずれてる感じですが……」


「センテルサイド卿、私が見て参りましょうか?」

 既に御者台の横には、馬が横付けされている。 

「何度でも言いますが、僕のことはロミで良いですからね? ――ならば、ちょっとお願いしてしまっても……」


「ロミネイル、それにはおよばん。アストリゼルスも気をまわさんで良い。我が見てこよう。羽があるのだからな」

「いや、しかし女王、それは……」

「パム。見ての通り、この辺は林だからな? あたしがなに言いたいか、わかんな?」


 ――誰だと思うてある? 大丈夫だ。そう言いながらパムリィは既にラムダの頭のうえから浮き上がっている。

「あまり高く飛ぶなよ? 鳥から見ればカゲロウもピクシィも関係ない」

「わかっておると言うのに。――ロミネイル、右の道はだいぶ整備されて……」

 

 パムリィが周りの木立よりも高く舞い上がった瞬間、黒い影がふわふわと舞うパムリィと交錯した。

「言ってるそばから、あの阿呆はっ!!」

 そう言いながらターニャは機敏に立ち上がる。



「ロミっ!」

「はいっ!」

「アッシュさん、ちょっと旦那を頼んます!」

 ターニャがクロスボゥ、ロミは弓と矢筒を手に、馬車から飛び降りて駆け出す。 


「ごめんなさいターニャさん! 僕では走ってちゃ撃てないです!」

「わかってる、お前で無くたって撃てるかっ! こんのぉ、カラスの分際でっ!」

 ギャン! ターニャは走りながらクロスボゥを撃つが当たらない。


「不味いです! 茂みの上を飛ばれたら!」

 ギュリン。走りながらターニャは次のボルトをつがえる。

「わかってるっ!」


 いくらクロスボゥとは言え、全力疾走しながら空を飛ぶ鳥に当てるなど。そこまで器用なことは、きっとルカであっても出来ないのだ。

「……くそったれ!」

 ターニャの二本目のボルトが放たれた次の瞬間。

 黒い影は茂みの中に真っ逆さまに落ちた。


「さすがです!」

「いや、あたってねぇ。……とにかく行くぞ!」

 


 ターニャとロミが落下点と思しき場所へと茂みを分け入ると、小柄な人影が三名。弓や吹き矢を手に持ち、動かなくなったカラスを囲んでいる。


 地面に落ちて明らかに絶命したカラス。それが目に入ったロミは言葉を失う。

「こんな……。一体……なにが」

 カラスの身体には、矢が五本、吹き矢が四本貫通していた。 


 くちばしから這い出してきたパムリィはエプロンドレスが破れ、羽がくしゃくしゃになっていたが、立ち上がると胸を張って周りを見渡す。

「女王パムリィ。命に別状無いご様子、何よりです。……お会いしたく思っておりました」


「ターニャさん、あの人達……」

 極端に白い肌、とがった耳、時折見える発光する瞳。

 なによりも空を飛ぶ鳥に複数の矢をたたき込む、猟師さえ問題にしない弓の腕。

「人? ロミ、ありゃあ、エルフだ……」

 妖精の女王の窮地を救ったのは、やはり妖精であったらしい。




「つけてきているのは気が付いて居たが。我がカラスに食われるまで出てこんとは、なかなか良い気構えなる。我に対する白エルフ(エルファス)、いや、エルフ全体の……」

 パムリィはそう言って一旦、むぅ。と顎に手をやる。


「ここではっきりさせた方が後々(のちのち)よいな。――水性妖精全般の、ピクシィの女王に対する立ち位置はそうである、と言うことでよいのか?」

 特に彼女が怒っている様子は、しかし無い。



 どうやらパムリィは、エルフが自身の動きを捕捉しているのに気が付いた。

 なので。カラスやトビに狙われるリスクを理解したうえで、エルフの動きを見るために、あえて飛び上がったものらしい。


 ――何処まで莫迦ばかなんだ……。さすがのターニャも、それに気が付いたところでこめかみを押さえる。

「エルフが知らんぷりしたら、どうする気だったんだよ……!」



「滅相もありません。……女王のお怒りはごもっともなれど、言わせて頂ければ女王の行動こそが想定外。我らエルフはご存じの通り。全ての種族において、人族の前にみだりに姿を現すこと、これは禁忌とされております故」

 武器を地面に置き三人の人影は低頭する。

「接触の機会をうかがっていた、というは、これは本当のことに御座いますが」


「まあ特に怒っているわけでは無い。……エルファスなれば名前があろう、名乗れ」

「エルファスのヘシオトール・タラファスベルンと申します。女王パムリィ」

「ふむ、聞いた名だの。……“水の”も面白いことをする」



「おいおい、……タラファスベルン、だと?」

「ターニャさん、知り合いですか?」

「いや、そう言う意味では知らんのだが……。エルファスの頭領家、そしてフィルネンコ事務所(うち)とはちょっと因縁がある、とだけ言っておく」


 ――詳しくは落ち着いたら教える。ロミにそう言うと、ターニャはボゥガンを放りだして、エルフ達に近づいていった。

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