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カウンターメジャー臨場

 夜明けから少し後。


 ターニャ達以外は強制的に退去させられた街に、ドラゴンの頭、巨大な蝙蝠の羽に猛禽の足を持つ異形の怪物。飛龍ワイバーンが三匹、舞い降りてくる。


 ワイバーンは首に帝国軍情報軍団のプレートをかけているが、それを御しているのは白いマントを羽織った青い親衛騎士の制服二人と、そして。


 白地に金の刺繍とパイピング。皇帝の血族以外は軍服に使うことを許されない赤。それを使ったカフスや肩飾り。

 ――ばんっ! と、真ん中に金で皇帝章をあしらった真っ赤なマントを右手で大きく払い、宮廷騎士としてリンク皇子がワイバーンから降り立った。



「り、リンク殿下自らこの様なところに……」

「やぁおはよう、ロミ。――土地もここに住む人々も、全ては陛下の所有物。なればそれを守るは宮廷騎士たる私の役目。分けても私は宮廷騎士内ではモンスターの専門家、と言う事になっているからな。それにMRMのカウンターメジャーでもある。この件については現場に来るは当然至極。そこを気にする必要は全く無いぞ」


「しかし。このような危険なところに、わざわざ殿下御自ら、お出ましになられる事は無いかと存じますが!」

 強く抗議するクリシャだが、リンクはマントを外しながら全く動じること無く返答する。


「クリシャのようなたおやかな少女にそれを言われては、騎士としては立つ瀬が無いのだが……」

 マントを外してあらわになった紅い皮のベルト。

 宮廷騎士の証、金のレイピアは今日は右側。

 そしていかにもな騎士の剣、ロングスウォードが左側につり下がる。


 先日は場違いにも見えた右肩と腰に回したその赤いベルトは、今日は彼が騎士である事を明確に主張する。



「一応言わせてもらえば、自分の身体程度なら自分で守れると言う自負はある。そうは言っても、周りのものに必要以上に心配もかけられんので、護衛も連れて来ている。キミ達に迷惑をかけるつもりは初めから毛頭ない」


 真っ赤になったクリシャの、――わ、わたくしも、もう一六ですので少女と言うのはちょっと……。

 と言う呟きに、

「これは失礼。決して幼く見えるとか、そう言った事では無く、単純に語彙ごいの足りない私の失言だ、どうか口のつたない私を許して欲しい」

 と言うとマントを護衛の親衛騎士に渡し、ターニャと目を会わせる。


「ターニャ、報告書は読ませて貰った。再度君の口から詳細を、今から聞きたいのだが、朝食は済んでいるか?」

「日の出と共にな」

「では、話を聞こう。――マクサス! 周囲の警戒を怠るでないぞ。なにしろ大きいとは言え相手はアリだ、見落とす事の無い様。オリファは私と共に来い」

「はっ!」



 テーブルにお茶を配り終わったロミは、入り口に立つ騎士にもカップを渡す。

 恐縮しきりの騎士が、それでも皇子の目配せを見てカップを受けとると、ロミも自分もカップをもってその横に立つ。


「クリシャ、キミの帝国随一のモンスター学者としての見地を確認する。今の話、ビレジイーターの行動様式から考えて有り得るのか?」

「まず有り得ません、不可能です」


 テーブルの上に置かれた瓶をつまみ上げてターニャが続ける。

「ただあたしはこの目で見てきたんだ、間違い無い。コイツ等は偶蹄目の動物では無く、モンスターを母体にしてる」


「クリシャ、ビレジイーターは本来は火を嫌うのであったな?」

「そうです。彼らにとって一番の敵は他の生物はもちろん、ヴィスカスフロッグやロッテンジェリーなどの他のモンスターでも無く、山火事や火山の噴火ですから」


「その此奴こやつらがマグマリザードを母体にする……」

 そう言ってリンクは串刺しにされた標本を取り上げしげしげと眺める。

「殿下、お気をつけを。死んでいるとは言え、まだ、酸や毒抜きの処理をしておりませんので」


「マグマリザード自体は5m越えのモンスターとは言え、ただうろこが硬くてデカいだけのトカゲだ。……問題は二つ。噴火口の中にしか居ないはずのマグマリザードが何故こんなところに居るのか、そして何故火の息を吐くような生き物をイーターが母体にしたのかだ」


 ターニャは椅子を立ち、落ち着かずにイライラしている様子を隠しもしないで部屋中をグルグル歩き始める。


「昨日から言ってるけど、マグマリザードが居ること自体はおかしくないよ。高温は卵を産むとき以外必須ではないし、肉食の彼らは普段から人間や動物を食べるために山を下りる。多分溶岩を飲み込んでいるから体温はそれで維持出来ているし、その状態なら五〇キロや一〇〇キロは普通に移動するもの」

「クリシャ、ビレジイーターが母体にする動物と言えば……」


「はい。殿下もご存じの通り基本は偶蹄目、分けてもウシ科の生き物。通常ならレイヨウや水牛。人里に現れた場合、ほぼ牛です。その他、意外にも他種のイーターとの生存競争に負けやすいグレイトは、羊や山羊を母体にする事もありますが、その場合は上手くワーカーを増やすことが出来ないようで、最大でも群れの規模は三〇〇前後というのが今まで通例です」


「母体からの形質がビレジイーター側に遺伝するという可能性は?」

「こう言うケースが初めてですので断定は出来ませんが、この場合に限って言えば今の殿下のお考えは間違っていないかと。硬い外皮と火を恐れない性質。これは母体からの形質を受け継いで居る、と考えて良いでしょう」


「いずれ他のほ乳類でさえ寄生例が無ぇ、モンスターなんか論外だ!」



「特性はわかったとして。――ターニャ。駆除リジェクションの方向性だが」

「それはもう考えてある。――皇子、材料は持ってきてくれたか?」


「ワイバーンが積むのをのを嫌がって、かなり大変だったのだが。……流石に外に置いて来たが、あのいかにも臭いそうな材料は、あれは何をするつもりだ?」

 ターニャはその王子の言葉には応えず、――ロミ、外にあるそうだ。早速調合を初めてくれ。

 と後ろを振り返る。言われたロミはいかにも嫌そうに肩をすくめると、


 ――はぁい。気の抜けた返事をして、諦めたようにドアを出て行く。


「……ん? あぁ、カエル寄せの香を作って焚くんだ。ヴィスカスフロッグと不定型くされスライム共は風向きも良いからそれでバンバン集まる」

 ただ、その端折りまくったターニャの説明を聞いたリンクは、彼女が何をする気なのか意図は汲んだらしい。


「焼き潰す代わりに喰わせる、そういう事か。近所に群生地があると言う事なのだな? なるほど。……オリファ、我が友ロミネイル=メサリアーレから手順をよく説明して貰った上で、作業を手伝ってやれ。但し、終了後は良く手を洗うまで入ってくるな、ロミにもそう伝えろ」

「はっ、では早速に。……男爵閣下、博士。――殿下を一時いっときお頼み致します!」



「そして皇子が飛龍ワイバーンを三頭も連れてきてくれた」

「どういうことか? 私に出来る事があるなら是非手伝いたいのだが?」


 答える前、自分の椅子に立てかけた幅が二〇cm以上、刃渡りは自分の腰を超えるような巨大な“なた”のような剣の柄に手をかける。

 一般常識が欠如しているわけでは無いターニャだから、当然生きた牛を二つに切る。と言われる巨大な剣を皇子の眼前に突き出すようなことはしない。


「水をかければブラックアロゥもマグマリザードも弱る。だから上に回って水の入った革袋を投げつけて欲しいんだ。そこをこの、“牛切り包丁”でマグマリザードの頭を落として、出てきた王アリも真っ二つに叩っ切る!」

「私にも出来る事があるか、ありがたい」


「それとこれから親衛騎士団の人を一人、借りたい」

「私ではいけないのか?」

「いけない事は無いけどね。……ただ、皇子を“カエル取り”に付き合わせるわけにはいかん、と個人的には思うんだが? ロミがどうしても臭いを嫌がって……」



「ではターニャ、頼む」

「巣の位置と行動範囲はわかった。あとは各人、自分の配置と動きを頭に入れておいてくれ。多分あたしはサポートに行く余裕は無い。特にロミとクリシャ」


 夕食後、リンクが見張りに立たせた一人以外は全員テーブルに着く。


「当然、僕は香を焚いたら、あとは後方から一歩たりとも動きませんとも!」 

「カエルの匂いを振りまきつつ、散水しながら行動するから大丈夫」


 事がモンスターとなれば安全地帯を一歩も動かないロミと、メモ帳片手に何処までも踏み込むクリシャ。

 そしてこの、目の眩むようなコントラストで正反対の二人が居なければ、フィルネンコ害獣駆除事務所はまわらない。


「夜明けと共に行動開始だ。みんな、今日は少し早いけど、休んでくれ」

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