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専門家(プロ)と助手(プロ)

「よんじゅう、ごっ!」

「ロミ君、左ですわっ!」


 正面のフルサイズを叩き切ったロミに横合いから襲いかかるもう一匹のフルサイズ。だが、ルカの声を聞いたロミは、考える前にはもう身体が動いた。

 触腕を紙一重で躱し、一気に間合いを詰めると勢いそのままに横にスライサーを振り抜く。

「せっ! これで四六っ!」


 一方、彼の背後を守るルカにもメータークラスが殺到していたが、全て彼女の間合いに入った瞬間に穴だらけになって、瞬く間に三匹が体液を吹き出す。

 その穴だらけの仲間の陰から、大きく身体を変形させ巨大な口のような形になってルカに襲いかかるこのグループ最後の一匹。


「あなたが出てくるのを読めない程、甘くはありませんでよ?」

 完全に動きを読み切った彼女。その右手が少しだけ動いて、ばくん! その巨大な口が閉じる時も、だからほんの一歩。彼女が場所をずらしただけで、ルカが口に飲み込まれることはなかった。

「では、……ごきげんよう」


 次の瞬間には、身体の中にメルトパウダーを放り込まれたスライムが破裂。

 体液に溶け出したパウダーと消化液が、周りの小型のスライム五匹を巻き添えにする。

 そしてその時、既にルカは、体液のかからない位置へと移動していた。


「助かりました、ありがとうございます」

「あなたのシーカーを任されたのですから当然ですわ。そしてあなたの腕前も認めましょう、なんと言う立派な剣士ぶり。正直、驚きましたわ」

「ルカさんの素早い動きと目の速さの方がすごいです」


 口ではなんと言おうと実はお互い、

 ――貴族の剣士崩れ。

 ――お嬢様の戯れ事。

 と思っていた二人である。だが、ここで完全にお互いを理解した。

 ――こいつは使える、と。


「わたくしの事よりも。……ターニャより先にリーダーに到達ですわよ?」

 明らかに彼らの身長を超えるスライムが、ほぼ目の前と言って良い位置に居る。

 一気呵成でここまで来た二人である。


「アレを倒せばお給金、倍になるのでしょう?」

「言われてみれば、そんな話も。……ありましたね」

 完全に忘れていたロミである。


「要らないと言うならば、わたくしがその分を貰ってさしあげましてよ? 基本的に事務員となると、フォワードと違ってお給金がだいぶん少ないのですわ」

「いや、もちろん要らなくはないんですけど。……でも、取り巻きにフルサイズ一〇匹は厳しくないですか?」

「わたくし、木の棒だけでここまで四匹程、つぶして来ていましてよ?」


 いくら相手が小型メインとは言え、大きなものだって居るのである。馬を降りて以降、木の棒三本だけでここまでを乗り切ってきたルカである。

「な、……凄っ!」


「一流の戦士は、ほうきだろうが編み棒だろうが、得物を選ばないものなのですわよ?」

 ――但し、パウダーはもう少し欲しかったですわね。既に在庫が底を付き、パウダーは迂闊に使えない。


 既に二人合わせてメルトパウダーの手持ちはルカのもつ一個のみ。そのパウダーもリーダーに対しては、普通のフルサイズの三倍はある厚い皮を切り裂かない限り効果は無い。その上リーダーの再生能力は異常に高い。

 散発的に直撃するオリファの鋼矢ボルトも、パウダーは煙を上げるだけ、ボルトで負った傷も直ぐに再生し。だから全くダメージを与えていないのだった。


「さて、ロミ君。どうしますの?」

「……最後にやることは単純です。僕のスライサーならあのデカいヤツを結構致命的に切り裂ける、そこにパウダーを放り込めば表皮の再生は出来なくなる。それでお終いです」


「つまるところ二人揃って超接近戦、と言う事ですわね? わたくし、わくわく致しますわ」

 スライムの体液、その飛沫を嫌って覆面のように巻いていた厚手のスカーフを外しながらルカ。



 周りにフルサイズが一〇匹“しか”居ないのは他の三〇匹以上をターニャが一人で引きつけているから、である。

 既にクリシャ達もパウダーは無くなってしまったらしく、パウダーの付いてないボルトしか飛んでこない。直撃で一時的にダメージを与える事は出来ても、異常な表皮の厚さと脅威の回復力のせいで、リーダーに対しては致命傷にはならない。

 ロミとしては、決してわくわく出来るような状況では無い。 



「でもその前にフルサイズ一〇匹、ですけどね」

 油の入った瓶からスライサーに油を注ぎつつロミ。

「全てなぎ倒せばそれでお終い、相手はデカブツ一匹のみですわ」

 何事も無くいつも通りの口調でそう言い放つルカに、残り1/4程残った油の瓶を渡しながらロミが応じる。


「力押し。それしか、無いようですね……!」

 ルカが完全に先の鈍った木の棒にスカーフを縛り付け油瓶をそこに傾ける。

 そして中身の無くなった瓶を棒にぶつけて叩き割ると、予備動作も無しに思い切り放り投げる。


 瓶はゆっくりと近づいていた五十センチはあるスライムに回転しながら突き刺さり、スライムは体液を吹き出しながら動かなくなる。

「力押しも立派な戦術ですわ。それこそ、実戦経験のあるものしか知りえない特殊な戦術なのですけれどね」


「つい今ほど、思い知りました、よっ! ……と」

 ロミはルカの作った即席のたいまつに種火を近づけ、たいまつに灯がともったのを確認すると、種火を最大限に起こした上で、正面の一番大きなスライムに投げつけた。


 種火は赤く光ったままスライムの表皮を破って内部へとめり込み。

 そしてその個体は若干ひしゃげると動きを止めた。

「ルカさん、戦術を変えます。僕が左から廻って七匹潰しとります、ルカさんは右から三匹。リーダーの前で合流。――どうですか?」


「妥当な線ですわね。……但し、数字は逆になるかも知れませんわよ?」

「その時は、……父から貰った、僕の正装用のネクタイを差し上げます! では後ほど!」

 ロミは言いながら駆け出す。


「わたくし常々、女性もリボンのみならず、ネクタイをしても良いのでは無いかと思っていましたの。――アリネスティア伯のネクタイともなれば、当然職人仕事の逸品もの。わたくしが有り難く頂きましてよっ?」

 ぶんっ! ルカは火の付いたたいまつを一振りすると、ロミとは別方向に走り出した。



私事により害獣駆除の年内の投稿はこれで最期といたします。

年明けは第2週辺りから投稿を再開したいと思っていますので

来年も宜しくお願いします。


年明けはいきなりスライム編の決着です。

楽しみにしていただけら嬉しいです。

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