表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/183

褒めて延ばす方針

「組長、五番組の組合長閣下からです!」

 護衛の兵がメモを差し出す。

「皇子じゃなくてあたしに? ……それに、なんで紙?」


「閣下、読み上げても?」

「お願いします」

 当然リンクも中身を知っておいた方が良いだろう。そう思った彼女は兵を促したが。



「こっちはまもなく片付く。アニキに、……五人分。対策本部の経費で、払えるように。段取り、しておいて……。くれ……? ――だ、そうです。が」

 読み上げた兵のみならず、ターニャもあっけにとられる。


「そんな手紙、わざわざ戦のさなかに送ってくんなってのっ!!」

「じ、自分に言われましても……」


「自分ちの中でカタぁ付けろよ。……あの兄弟は金持ちのくせに無駄に小銭にうるせえっ、つーんだよ。全く。――なんであたしが組合長の呼んだ連中分の請求書、回さにゃならんのか、全然理解ができねぇ!」



「まもなく片づく、と言うのだな?」

 全く表情を変えずにリンクが問う。

「まぁ、その。そうとしか書いてありませんが、……恐らくは」


「ターニャ、私が直接請求を受けるから気にするな。――彼が自発的に五番組に回ってくれて助かった。専門家としてものごとを大きく見る能力に長けているのだろう、組合長のポストはまさに適任だ。……エルとパリィは専門家リジェクタとは言えないだろうしな」


「とりあえず、ご苦労様。――組合長に阿呆! って言っておいて」

 伝令に来た兵は、――さすがに私からは。そう言いながら笑いをこらえつつ下がった。


「組合長がそう言うなら、どうやったのかは別にして。ゾンビはどうにかしたんだろ、きっと」  

「ゾンビ、か。処理は面倒くさいものなのか?」


「単純に死体がもぞもぞ動いてるだけ、なんだけどさ。……問題は拝み屋とかリジェクタでは無く。初手で普通の兵士が、正面からあたっちまったことだ」

 ターニャはあからさまに嫌な顔をする。

「強い、と言うことなのか?」


「もっと単純に、キモい。って言うことだよ。……始めて見るなら、そりゃ、……ちょっとね。――人ってさ、わりと簡単にパニックを起こすんだよ。一人で動いてるんじゃ無い限り、組織の統率が取れなくなるってのが一番恐い」


 ――多分、組合長が何かしら誤魔化しを考えついたんだろうけど。ターニャはそう言いながら、――ありがとう。のジェスチャをしてみせ、メモは陣の隅で各組の報告をまとめている官吏へと渡る。



「でも、誤魔化せるなら。……確かにやることの方針さえ示せたら、あとは力押しでいけるんだよ。……あそこにはエルとパリィが居る」

「うん? どう言うことだ?」


「知ってると思うけど、あの二人は法外に強いからさ。――二人だけでも、ゾンビの200や300ならものの数じゃ無い。……傭兵でも冒険者でも、そのまま喰ってけるレベルだもんよ」


「結構なレベルだとは思って居たが、貴女あなたがそう言う程なのかい? ……しかしそうならそうで、なぜ。そのような二人が、あえてリィファと共に居てくれるのだろうな?」

「自分より強いのがルカ(アイツ)しか居ないから、じゃねぇの? 力だけで無く、地位も、あり方も。そしてあの鼻っ柱の高さも、ね」


 そのターニャの説明に、むしろリンクは不思議そうな顔をする。

「時々、貴女の言うことがわからない」


「ん~。あの二人、自分のために何かをする。ってのには、てんで興味がなくてさ。――簡単に言っちゃえば誰かの役に立ちたいんだよ。けれど自分より劣るヤツなら、貴族だろうと近寄るのもお断りっ、ってな具合でね」


 ――もちろん“戦闘力”の話じゃ無いぜ? ターニャは記録係の視線に気がついて、一つ頷いてみせる。

 記録係はそれを見て、一番上の紙を破いて捨てるとペンを置いた。


「あの二人、ぱっと見だけはまともに見えるけど。人としての立ち位置自体が捻くれてんの、知ってるだろ?」


「完全に、なんというかその。……有り体に言って頭のおかしい人間のように聞こえるが?」

「いくら皇子に言われたとは言え、あの二人がウチでメイドしてる時点で。……もう、完全におかしいだろ?」


 ――まぁ、アイツ等が大なり小なりおかしい。ってのは否定しないけど。ターニャは、続々伝令に来るものの中に知った顔を見つけ、手をあげてみせつつ。

「でもさ。今のあり方がアイツ等としては至極、真っ当な結論なんだ」


「……おかしいことが真っ当である、と?」

「リジェクタ事務所でメイドなんかやってるのは、ホントは勿体ないんだけど。でも、アイツ等が選んだ最良の選択がリィファ姫と一緒に居ること。……なんだよ」



 

 ターニャとリンクが小声で話している内にも、続々と各組の情報が入り、各組が順調に魔方陣へと侵攻している報告が上がる。


「――了解した。報告ご苦労、引き続き頼むぞ」

「は! 殿下より身に余るお言葉を頂き、光栄です!」

 ひざを付いて報告をあげた兵士は、立ち上がるとリンクに敬礼を送ると足早に去った。


「皇子、二番組が右翼から突貫を試みるってのは……」

「あぁ、さすがはクリシャだ。ブラックアロゥを最初に蹴散らすとはな」


 二番組の右翼は二番組最大の強敵、ブラックアロゥが陣取っていたはずの場所である。

「軍の死者がゼロって……。ヘシオトールのおっちゃん、頑張りすぎなんじゃ……」

 エルファスを一〇人単位で突っ込んでいる、とは事前にヘシオトールから聞いているターニャである。


「人の事ばかりいうが、ターニャもクリシャを褒めてはどうか?」

「二番組、現場の仕切はオリファさんでしょ? そう言うの、クリシャが得意じゃ無いのは、知ってるもんよ」


「……わかった、私も折れよう。中を取って両方を褒める事にしないか?」

「あのさ、……皇子はそう言う理由で褒められて、嬉しい?」


「褒められる前段はあるのだ、言わなければわかるまい」

「そう言うことじゃ無いんだけれど……」 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ