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妖精混成軍団

「我は協力者ぞ。まったく、手が届いたら本当に握り潰されておったのではないか? ……我から言わせればよほど人間の方が恐ろしい」


 いや、恐ろしいのはルンカ・リンディ個人か……。などとパムリィが考えていたところに、頭の上から金切り声が突き刺さる。


「女王様ぁあ! 報告ですですっ!!」

「今はいくさ故、大声なのは必要だと思うことにするより他無いな……。トゥリィ、どうした」


 火除けの布で作られたサーコート(かんとうい)を着たフェアリィが一人、舞い降りてくる。

 サーコートの胸にはファステロン家の紋章。

 クイーン=パムリィ・ファステロンが、自身の名乗る家の紋(として、かつてルカが一〇分前後でデザインしたもの)をいれて作らせた特注品である。


 ここまでほぼ、手をつけていなかった自身の給金、全額をつぎ込んで。

 最高級の火除けの布に、手の込んだ刺繍を施し、大小一〇〇着以上を細い皮のベルトと共にこしらえた。

 彼女の見た目は、立派に小さな騎士と見えた。


「予定よりも少し多いと聞いたが、現場はどうなっている?」




 ペティナイフや包丁、ショートスウォードを手にした人形の数は現在九百弱。

 数日前のフィルネンコ事務所ではその予想された数について。


 ――全く。一体、何故そんな数になるものか。

 ――鎧ですら四〇以上集めたようですわ。うち捨てられた人形を集めるとすれば、鎧などよりよほど容易いことでしょうね。


 ――人形を手放すとしても、みなそれそれに事情はあるのであろ? 燃やして埋めるはずのものを、わざわざ拾い上げるなど。非道い事をするものなる……。

 ――あなたは存外に優しいのですわね、パムリィ。


 ――そんなものであろうかな、わからんよ。


 と言うような会話が交わされた。

 いずれこの時の予想よりも現状は三割以上多い。


 標準的な大きさは人間の兵の膝下しか無いが、やたらに素早い上に攻撃自体は的確。

 人間よりも妖精があたる方が適当だ。とも思えたので、パムリィが自身で手を上げたのだが。




「ハイです! 公国のブラウニィとドワーフがぷっつん、大お姉様の話を聞いてくれないです! 人形は予定より多くやっつけてるですが、このままだと、です! 女王様から言われた配置のカタチが歪むです! 大お姉様から、――大至急女王様に相談してくるのっ! と、言われたです!!」



 全て、自分の手の届く範囲で済ませよう。としていたパムリィであったのだが。

 シュムガリア公国から数名。以前人形に、家族や仲間を殺されたブラウニィとドワーフが来ている。


 妖精は基本的に同族意識が高い。と言うのは、その女王であるパムリィは良く知っている。

 フェアリィとピクシィが主力、その他近所に住み着いている何某かの妖精。

 とすれば単純に戦闘力のこともある。

 戦列に加わることを許可せざるをえなかったのだが。


 ……どうやらアタマに血がのぼったな? 気持ちは理解するが、単純な連中なる。

 パムリィはいかにも人間くさく肩をすくめる。



「潰した数の問題では無い。陣のカタチが維持できんでは、相手がリビングドール(にんぎょう)とは言え、突破される可能性がある」


 そうなれば、帝都内に住むのは、なにも人間だけでは無い。

 帝都内でモンスター同士の全面戦争が起こってしまう。


「……ミリィは今、何をしている」

 お花畑(コロニー)おさである彼女に、現場の指揮を任せていたはずだったが。


「大お姉様は、油をまいて火をかける係をやってるです!」

「アレには全体の指揮を執れと言ったはずであろ」

「女王様から燃えないお洋服はもらったですが、でもでも、火が。ですよ、恐い子が多くって、です。こっちは予定より遅れちゃったので、大お姉様もお手伝いしているですっ!」


「……ならば、我が前に出て全体を見るか」

 いくら賢い(インテリジェンス)モンスターの括りのなかでも上位、とは言え。自由気ままが妖精の基本的なあり方である。

 種族を越えてその上、組織だっての戦闘など。むいているわけが無い。



「そんなことをさせては、この陣の人間はスプリガンどもに皆殺しにされるぞ? ――女王、久しいな。……遅くなったが手伝おう」

 普段は国営第一ダンジョンの管理を任されているコロボックル。ヘルムットが、自身のサイズに見合った槍を携え、兜を持ってパムリィの足元に居た。


 パムリィは、直立不動で腕組みのまま、ルカの前。地図を広げたテーブルまで降りる。

「ヘルムット? ……来ておったのか」

「ターシニアとアクリシアが命がけで動いていると聞いては、来るよりほかない」


 義理堅いコロボックルの中でも、特に堅物のヘルムットである。

 ターニャたちへの恩には、以前の分のみならず、先日の緊急現地調整の分も加算されているらしい。



「管理事務所から外出の許可も取った」

「……人の中にあってどうあるべきか、ぬしは割切っておるの」

「特に我ら家族は、藪に隠れ住んでいるわけでは無いからな、人間のやり方も知らねばたちいかんよ」

 ある程度、人間のやり方を理解している彼である。


「どうせしばらく国営第一ウチに客は来ない。ランタンフラワーの手入れにに二,三人残っておれば良いのでね」

「確かに客は来るまいよ……。して?」



「フェアリィとは言え、人間の有り様を完全に理解が出来ているかと言えばそうでは無かろう、人間式の戦などますますだ。防衛線を護る、などとなっては。概念自体が理解できないものも多いのでは無いか」


 モンスター同士の戦いとなれば、当てはめるなら基本は各個撃破。

 集団戦で陣を組む。理解できないものが居ても不思議は無い。


「確かに。お花畑(コロニー)お姉様(ミリィたち)六人で全体を見せようと思うたが、さすがに無理があった様なる」

「だからといって、人間を毛嫌いしているスプリガンどもを使う。というのも後のことを考えれば、どうかと思うぞ」


「……そこは多少、浅慮せんりょであったと我も思うてはいる」



 彼女が一声かければ、スプリガンが動くように話はつけてあり、既に最終ラインの藪の中に潜んでいる。

 ほんの数人ではあるが、戦力としては帝国軍一〇〇人隊にも匹敵する。全く申し分ない。


 但し、如何に女王の命令とは言え、人間を護るために彼らを動かしてしまえば。

 彼女の言う事は以降、聞かなくなる可能性もある。できることなら待機のまま済ませたいのも本当のところだった。



「我らの家族のみならず、コロボックル五家族九八人。陣の形成に協力しよう。我らコロボックルは人間の近くで暮らす、人間の戦のやり方もそれなりに知っている」


 ――トゥリィ、ぼさっとするな。降りてきて私と一緒に地図を見ろ。陣形が崩れ始めたのは何処だ!?

ヘルムットが上を向いて大声で呼ばわると。

「ハイハイですですぅ!」

 慌ててトゥリィが降りてくる。そして戦支度のコロボックルがさらに三人、ルカの足元に増える。


 ルカはそれを見て、テーブルの上にあった地図を手に取る。



「国営第一ダンジョンの管理人、ヘルムット殿でありますね? わたくしは皇帝の娘、ルケファスタ=アマルティア。帝国の皇女おうじょとして此度こたびの加勢、感謝します」 


 自分の足元に妖精達が集まったのをみて、回りの兵達が文字通りに引くなか、ルカはあえて泰然と(見えるように気を使いながら)椅子に座ったまま。

 テーブルの上にあった地図を、自身の足元に広げつつ声をかける。


「アクリシアからあれだけ言われたのに、挨拶が遅れてしまった。――帝国には家族ごと世話になっている。国営第一ダンジョン管理人。コロボックルのヘルムットだ」

 ヘルムットはそう言うと、地図を持ったルカの手に口づけをして見せた。


「むしろ人のやり方をよく存じてあることです。ヘルムット殿のことは、ターシニア・フィルネンコより、良く聞いておるところ。お会いできたは、まっこと僥倖であります。あなたに手伝って頂けると言うなら、これは頼もしいことこの上ない」


「人は一宿一飯の恩というのであったか。家族全員、ターシニアに命を助けてもらい、アクリシアには子供達の病気も治してもらった。今も帝国に家を借りている。借りは返すものであるのだよ。我らコロボックルは特に、な」


 人と必要な物資を融通し合って生きる。

 家に付く妖精の中でも、コロボックルは特にこの考え方が強い。

 借りたまま、は自分たちのあり方として許容できないのである、



 地図の上で腕組みをして一〇分程度話をしたのち。

 ヘルムットは兜を被り、槍を振り上げる。

 その槍にはいつの間にか、ファステロン家の家紋の旗が翻る。


「人間に、我らコロボックルの知恵と勇気を見せつける良い機会だ! 全員、行くぞ! 人間式の戦だっ! 」

「応!!」


「……トゥリィ、案内しろ」

「ハイです! あっちなのです!」

「道沿いに飛べよ!?」

 フェアリィに先導され、コロボックルの一団が走って行った。


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