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一つ、頼みがある

「いつの間にお越しに……」

 タラファスベルンはエルフ族全体でも第二位の家系、一気に態度はへりくだる。

 それに、オリファと同い年程度にも見えるが、三倍は優に超えている年齢の彼である

「知ってのとおり。僕は意識していないと、人間の認識を阻害してしまうのでね」 


 半分はうそだった。ここ半刻。クリシャにはバレていたものの、意図的に気配を消していた彼である。

 クリシャに言われて意図的に気配を隠すのは辞めた彼だが。

 人間が普通に気が付くためには、逆に意図して気配を強めなくてはいけない。


 エルファスの特性ではあるのだが、その性質がとりわけ強く出るのが彼の一族。

 水のモンスターの間者として、水の女王に代わって人の世を見る。そのことが仕事になっているタラファスベルンの一党である。


 但し現状、見通してオリファ以外で気が付いた者は居ない。


 そして。そのオリファは、走り込んで来なければいけないほどの距離にいた。

 既知であったことも無関係では無いが、オリファの勘が彼の気配を検知した。


 そう、意図的な認識の阻害を外した瞬間に気が付いて、走り込んできたのだ。

 ――我らエルフの。いや、僕の認知阻害を看破するか……。

 彼はかつて一度、意図的阻害までを看破されたことを思い出す。

 その時“彼女”はなんと言っていたか……。



「いついらっしゃったのですか、閣下」

「以前も言ったが、僕には称号も領地も無い。ヘシオトールで良い、オリファント。……先程、エルフ族(わがほう)でマグマリザード14体を確認している。人類領域で動かせる エルフ(もの) に限りはあるのだが、それでも5体までは僕らがうけよう」

 

「く、クリシャさん?」

「母体が生きてようが死んでようが、あまり離れることはできない。ブラックアロゥであろうと、基本的にイーターはイーター。“はぐれ”になる率は低いはず。行動範囲が限定されるのは、ありがたいことだと思います」

「了解です。……それではお願いしてよろしいのですね? ヘシオトール殿」


「ついでにブラックアロゥ自体も、最低四割はこちらで面倒を見よう。我があるじピューレブゥルは八割潰せとおっしゃられたが、予想よりだいぶん多いようだ」

「お父さん。数はわかりますか?」


「アクリシアの予測では九群、八万八千と聞いていたが。現状、見る限りは一四群、約一九万。……アクリシア。人間側の備えは?」

「二倍なら予定通りでおおむね大丈夫、三倍になっても対処の用意はしてあります」

 ――ただの水だって弱りますからね。そしたら剣で切れるし鎚で潰せる。そう言ってクリシャはオリファの方を見る。


 前回、母体を殲滅したのちにも動きを止めず。

 スライムやベトベトガエルの脅威からも逃れて街に入ろうとするブラックアロゥは、実は結構な数がいた。。

 クリシャが水を撒いて弱らせたそれを、民家の納屋にあった鎚で潰して回ったオリファである。


「確かに。剣よりは鎚の方が効率が良いですね……」

 始めは律儀に一匹ずつ剣で突いていた彼である。



「そうか。ならば、予定より多くこちらへと流れてくるからそのつもりで。最善は尽くすがいずれ半分で限界だろう」


「タラファスベルン殿、対抗策はあるのですか?」

「駆除する薬品については事前にパムリィ(わがじょおう)からレシピの提供を受け、ダークエルフの薬師くすしが、人間の単位なら樽で三〇ほど作ってある」


「この短期間でアレを三〇樽も作ったのですか!?」

 薬の製造の指揮を執っていたオリファは知っている。

 発明者の性格を反映するかように、余りにも微妙な配合や加工が必要な薬なのだ。

 作業員を大量投入しても、一日にできる量などはたかが知れている。


 クリシャの計算から、無駄になる分を含めて約二〇樽が必要。とされたが。

 最後の一樽が搬入されたのは、結局昨日の夜更けである。


 パムリィから、――薬の試剤とレシピを水の女王に渡しても良いか? と問い合わせのあった日から逆算すれば、人間側の半分以下の時間しかかかっていない。

「聞いては居ましたがエルフの技術力、それ程とは」


「それぞれ得手不得手はあるだろう。……どちらかと言えば問題はマグマリザードの方だな」

「は? それはどう言う……」


 ――マグマリザード単体としてみれば、さしたる脅威では無いのだよ。本来なら、ね。そう言うとヘシオドールは、いかにも人間くさく肩をすくめてみせる。

「このような込み入った状況に対応するなら、当然にエルフ族しかいないのだが。……知ってのとおり、そもそも人間と接触すること自体が禁忌。人類領域に入りたがるもの自体が少ない」


「まぁ、人間の側としても見慣れておりませんから。作戦上必要だと言われても、協調というのは」

「オリファントのような拘らない人間が増えれば、僕個人は姿を現しやすくなる。エルフの禁忌もまもなく無くす、とはパムリィ(じょおう)ピューレブゥル(わがあるじ)が勝手に決めたようだが」


「なればタラファスベルンの一党、往く々々はモンスターの全権大使というわけですね?」

「女王を差し置いてそう言う訳にも行くまい。なにしろ今回の段取りをつけたはあのお方。娘と会うことも作戦上必要だ。と言われ、あえて見逃して頂いている。……む?」




 クリシャの座る正面。突然、うおぉ! と言う声と共に黒い煙が上がる。

「クリシャさん、冒険者達が始めたようですね」

「思ったより、少し早いかな? ……でも、想定の範囲内だね」


「進行を早めたのは普通のイーターの数が揃わなかったから、でしょうか?」

 カタリナの報告にあった中央のイーターの数は、クリシャや魔道士達が魔方陣の出力から計算した数の7割程度しかいない。


「恐らくそうです。こちらが先手を打ったことには気が付いたんでしょうね」」

「主戦力を中央に集中させようとしている、と?」


「……戦闘を早め、中央寄りに陣形が崩れて、ある程度疲弊したところで。気性の荒いメドゥと、半分狂っていると言って良いブラックアロゥが両側から挟み撃ち。魔方陣の位置が露呈してないなら、かなり効果的だったんじゃ無いですか?」


「全種を混ぜて使えば良いものを」

「同じ種類同士だと譲り合ったりもするんだけど。種類同士、仲が悪いですからね。多分、制御できなくなるんじゃ無いですか? お陰で事前に対策を立てられるんですが」


「種類ごと全てにカウンターを喰らう、とはさすがに想定していないでしょう。リジェクタ三〇と冒険者六〇、帝国軍の精鋭が一五〇。そして大ポロゥの駆除薬、さらには情報軍団のワイバーン」



「ふむ……。ならば、こちらは母体排除に全力を挙げても大丈夫なのだね?」

「相手にとって不足無し。とは言え、帝国軍われらはモンスターを相手取るは不慣れ、数を減らして頂けるなら、これは是非にお願い致します」 


「わかった、任されよう。――そして僕からもオリファントに一つ、頼みがある」

「何なりと。……ですが我にできることなど、ありましょうか」


「大事なことだが僕には出来ない。キミになら任せられる。……娘を、大切な僕の娘を。支えてやって欲しい、……今ばかりでは無く、ね」


 言葉と共にヘシオトールは気配ごとかき消えた。

「え? は……、いや、その」


「……もう! 絶対わざとだっ! お父さんは人間の言い回しとかに、やたら詳しいはずなのに、知らんぷりしてっ! ――エルフのくせに、要らないとこだけ人間くさいんだからっ! 何処行ったの、もっかい出て来なさいっ!」

 真っ赤になってクリシャが怒る。


 エルフ全体でも人間に接することの多いエルファス、

 わけても種族を問わず人間領域で活動する時は、実行部隊の長でもあるヘシオトールである。

 なにを言いたかったのかは言わずもがな。


 そしてオリファントは気が付くまい、と言うところまで織り込み済み。

 クリシャが、真っ赤になって怒っているのはそこである。



「その、クリシャさん。……わざと、とは?」

「わざとはわざと! って。あ、……その、だと。思うんですが、もう、その。……お父さんが言うことなんか、どうでも良い。じゃ無いですか……。えぇと……」


 クリシャは赤くなったままうなだれた。

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