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リジェクタ組合

2016.10.19 一部脱字他修正しました。

「わたくしは来なくても良かったのでは無いかと思うのですれど。クリシャさん、ロミ君も、これについてはどのようにお考えですか?」

「まだちょっと姫……、じゃない。ルカさん一人で留守番は、無理があるかなって。平民、というか。リジェクタに、なりきってないわけだし、ね?」

「クリシャさんの言う通り、今は雰囲気に馴染んだ方が良いと思いますよ。会計係ならむしろ、組合の皆さんに顔合わせくらいはしなくちゃいけないし。それにウチの場合お客さんもちょっとアレな感じな人が多いですから」

 ――ロミ君、アレな感じとはどう言う意味ですの? クリシャもロミもその問いには愛想笑い以外では答えない。


 午後。いつもより一人増えた昼食を終えたフィルネンコ事務所の面々は、呼出のかかった怪物モンスター駆除リジェクタ業者組合ユニオン へと向かって居る。

「宮廷はともかく、皇帝妃陛下おきさきさまがあたしと一緒に居ると認識するまでは単独行動はダメだ。あたしが所長、おまえはヒラ。ウチに居たいなら黙って言う事聞け、いいな?」


 さっき自分で言っていた“お手紙”。それが宮廷に届けば誰か護衛が来るのでは無いか。そう考えるターニャである。それにいくら何でも、姫様だとわかっている相手を一人きりで留守番させるわけにはいかない。

「理屈があっているように聞こえるのが悔しいですわ」

 大きく膨らんだスカートとプラチナの縦ロールを優雅に揺らしながら、ルカが拗ねる。

「聞こえるだけじゃねぇ、それであってんだよ。――ところでクリシャ、組合長はなんの用事だ、つってた?」

「さぁ。直接組合長さんに会ったわけじゃ無いから」



 帝国内に一〇〇以上あるリジェクタチームの仕事をとりまとめ、仕事の配分を行うリジェクタ組合。ターニャのように名の通ったA級リジェクタともなれば、仕事の方から寄ってくる。と言う具合になるわけだが、単純に言えばモンスター退治屋なのであり、職業としてはひいき目に見ても一般的とは言いがたい。

 だから組合が依頼をとりまとめ、割り振りをするのである。


 なのでターニャ達は無関係で良いかと言えば、当然そう言うことでは無く、依頼は建前上、全て組合経由でかけられることになっているし、“掃除当番”や“現地調整”と呼ばれる組合員持ち回りのほぼボランティアの様な作業も来る。


 気性も荒く、武器のたぐいを大量に保有するリジェクタ達を取り纏め、更にはフリーの冒険者や賞金稼ぎモンスターハンターとも繋がりのある組織なので、あまり表には出てこないが、実は帝国政府に対して相当な影響力を持っている。


 潜在的保有戦力も帝国軍の一個軍団に匹敵する、とまでささやかれる位だ。

 なので帝国政府もその存在は無視出来ずに組合長は、一代限りではあるものの環境保全庁総督と同じく、公式には伯爵同等位として扱われている。

 フィルネンコ家の男爵相当位と違う所はまつりごとはともかく、有事の際のいくさへの免責事項が極端に少ないこと。非常時は遊撃隊の扱いなのであり、所属する組合員もまた、免責事項を持つA級とB級の一部業者以外はその兵隊としてカウントされる。



「“現調”の当番はまだ先だったはずなのになぁ」

「でも、ロブさんが居なくなってしまったから、順番、詰まっちゃったのかも」

「順番以外はA級である必要性も無いんですけどね、“国営の現調”くらいだったら。……急に“掃除”しなきゃいけなくなったりしたんじゃ無いですか?」

「それこそC級どころかフリーに小金渡せば十分だろ……」

「いったい何のお話しをされているのか、わたくしには全く理解が出来ないですわ……」

 ――だからわかるようになるまでは単独で行動するな、っつぅ話だ。わかったな? 言いながらターニャは“怪物モンスター駆除リジェクタ業者組合ユニオン ”の看板を見上げた。



「わざわざ来て貰って済まなかった。ティオレントのイーターの件で残務処理がまだ残っていると聞いていたが、そっちは良いのか?」

「保全庁の総督おっさんに言われてカエルとスライムは先週までに全部“無料で”駆除しかたずけた。……残りは標本作りと最終報告書だけだよ」

「無料を強調するな。アフター扱いなのに保全庁から経費ぶんどってんじゃねーか。……なるほど、今忙しいのは、クリシャとロミだけな。――まぁ座れよ」


 年の頃なら二五,六。組合長は気さくにそう言うとターニャ達に椅子を勧める。

「なぁ、組合長。……ロブのカミさん、どうしてる?」

「どうやら帝都からは引っ込むみたいでな。一昨日、道具の処分を頼まれた」

「そう言うのも組合の仕事か、……ツラいな」

 ――まぁな、そう言うのも組合ぼくらの仕事さ。そう良いながらドアの横に立っていた職員に合図をする。


「ところで、みんなお茶で良いのだよな? 美人さんが一人増えてるが、彼女は?」

「家名は言えませんが見ての通り(・・・・・)、さる高名な家系のご息女ですよ。故あって当面、我がフィルネンコ害獣駆除事務所で当面お預かりすることになったんです」

 ロミが間髪入れずに立て板に水で答える。この辺がターニャが“営業担当”として信頼を置く部分である。


「本日よりフィルネンコ卿(レディ・フィルネンコ)の御厚意を持ってお世話になっております、ルンカ・リンディ・ファステロンと申します。どうかルカ、とお呼び下さいませ。組合長ユニオンマスター閣下」

「ルカ、こんなヤツに閣下なんてつけなくて良い」


「おいターニャ、こんなヤツはないだろ? まぁ確かに僕がエラいわけでもたっといわけでも無いんだけどな。組合長のロジャー・ヴァーンだ、以後よろしく。……しかし、詳しくは聞かんが。しかし、良家のお嬢様がターニャんとこでリジェクタ、ねぇ」

 彼がルカのことをロミと同じような境遇である、と思ったのは想像に難くない。

 そして彼女はさる貴族の娘、しかもターニャが預かる事になった経緯は訳ありなのだ。と、事前に紹介かたがたロミが釘を刺している。


 つまりこの後は何を詮索しようが、その匿名でターニャに娘を預けた“貴族”の家を腐すことになる。それが何処の誰だかわからない以上、組合長はルカの出自について、もうこれ以上は突っ込めない。

 対人交渉の前面に、言葉の組み立てが緻密なロミを立たせるターニャの選択は、だから結果的に正しいのだった。


「ロミ、おまえの他にもお荷物を抱え込んじゃターニャも大変だ。――これからは仕事を選んでられないな、ターニャ。こっちは助かるけどな」

「ところがお荷物かっつぅとそうでも無いんだな。こう見えてコイツはソロヴァン使いなんだぜ? ウチの会計処理を全面的に面倒見て貰うんだ」

 ――ほぅ、ソロヴァンをねぇ。そう言って組合長は“ルカ”の顔をまじまじと見つめる。

「それにしても、何処かで見たことあるような……」


「そ、その、それは良く言われるのですわっ。わわ、わったくし個人としては、とってもとっても、とぉおっても心外ではあるのですけれど、きっとその辺にゴロゴロとよくある顔なのでございましょうっ! 本当にありふれた顔でその、お、お恥ずかしい限りでございますわっ! おほ、おほほ、お、おーほっほほほ……」

 どこから取りだしたのか、扇子を広げて顔を隠すと誤魔化し笑い。


 本人に会ったことは無くても、皇家の肖像画は結構な確率で目にしているはず。ターニャから見ても、会ったことのあるリンクとルカに関しては本人そっくりで良く描けているな。と思うところである。

 ――だからせめて縦ロールはやめろ。つったろうが。出がけに注意したのを思い出して突っ込みたい気持ちを抑えつつ。なのでターニャは会話に割って入った。



「あぁ、おほん。……美人を口説こうって台詞にしちゃあんまりだぜ、組合長。それに女の顔をじろじろ見るのはそれこそ不作法ってもんじゃねぇのか?」

「……まぁ、そうだな。確かにあんまり美人なもんで僕としたことが礼を失したよ。失礼、ルカさん。――本当の僕は作法こそ知らないが、紳士なんですよ?」

 取り繕うように組合長は多少焦りながらルカに話しかける。

 但し、この程度は日常茶飯事の範疇であるらしい彼女は動じた様子も無く、ただ組合長に微笑んでみせただけだった。

「あら、お上手ですのね。……お優しい方で良かったですわ」

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