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大鹹湖 ~乙女の決意~

「……牙も毒も無い人という生き物がここまで繁栄する理由、それは情報を集め集積し、分類し分析した上で活用する、と言う能力にある」

「“空の”とあって、何か聞いたかえ?」

「そう言う意味ではなにも聞かぬし、向こうも言わなんだ。……だが」


「む。……なんだ?」

「考えも無しにただ生きていくのみでは、いずれ衰退し滅びる。――話の通りとするならば、三、〇〇〇年以上に渡って生きておるもの、それの言うことなる。傾聴する価値も有ろうというものであろ?」


「……パムリィ、“空の”になにを聞いてきたか」

「結局、生きる場所を無くさば、あとは滅びる。我の聞いたは、そんな当たり前の話だけなる」



 ――特に我ら妖精は。

 ――基本的に人間との関わりが深い。なにしろ同じ場所で暮らしておるのだからな。

 ――アレらに何かがあらば、我らもただでは済まぬは明白。

 ――シュナイゼルの歩く人型(リビングドール)の件ではかなりの被害も被った。


 ――だが。精霊とて蚊帳の外、と言う訳には行かぬ。状況は変わらぬぞ。

 ――人に姿を見せることが無くなれば、それこそ。ぬしらの存在意義は無くなる。

 ――それに……。



「もったいぶりおって。……なんぞ?」

「帝国が滅ぶ、と言うことはレンクスティアも命を落とすことと同義なる。ピューレブゥルよ、そこまでの理解は及んでいようかしらん」

「それは今は関係が……」

「間違い無く関係のある話だぞ。臨むと望まざると、我らは関わっておるのだ。人に、……な」



「パムリィ。……頑丈なベニモモスライムと火を好むビレジイーター。であったな? そして水をかければビレジイーターは弱る……。なればそのビレジイーターは、我ら“水”が受けましょうぞ」


「我がなにもするな、と言ったを聞いておらなんだかや?」

「そこなスプリガンの言い草では無いが、そを作り出した現況は我らが不始末。全てを陸に任せる訳にもいきはすまい」


「だがな、“水の”が……」

「良いだろう、パムリィ。……どうあっても聞きたき様であるから、ならば。わらわの口からこの場でハッキリと、望み通りに言うてやらんとする」

 そう言って一歩前に出ると、ピューレブゥルはあえて微笑みを浮かべる。


「レンクスティアに害を成そうと言うものは。……そは、妾が敵であるっ!」

 凶悪な薄笑いを浮かべつつ言い切るピューレブゥルに、パムリィはむしろたじろぐ。

「いや、別にそこまで望んでは居なかったのだが……」

「うぬの思惑などもはやどうでも良い。……やはり口にしておかねばな。かつての二の舞はもう踏まん」


「あー、その。……まぁ良い。どうするかとも思うたが、そうまで言うなら良いのであろ。――ミリィ」

「はい!」

 フェアリーの一人が、――すっ。とパムリィに近づくと、彼女には少し大きめの袋を手渡し、下がる。

「人間では一日に作れるのはこの半分だそうだ、……どう見る?」

 パムリィは、そう良いながらピューレブゥルへと袋を放る。


「こはなんぞ?」

「改変されたビレジイーターは、水をかければ弱る。それはわかっていたが。ギディオンというものが水に混ぜ物をすればある程度は死ぬ、と言うことを突き止めた」

「これがその混ぜ物であると?」

「そう言うことだ」


「なるほど。……アペレオス!」

 彼女は横に控えていた、長と見えるエルフに袋を渡す。

「どうだ、作れようものか?」

「人には難しいでしょうな、むしろこの量を一日で生成できるのが奇跡」


「うぬには以前にも申したことがあるな? ……簡潔に話せ、もったいぶるな、聞いた事に答えよ!」

「失礼を。……一日でこの10倍程度ならばすぐにでも」

「なれば今すぐに作り始めよ!」



「あぁ、おほん。……その他、人為的に狂化スタンピードしたものらも来ようが、性質が変わるわけで無し。これは人に任せる、我ら陸はスライムぞ。――ヘシオトール!」

「は……」


「エルフ族は今この時をもって、かつて禁忌を犯したことは全て不問に付す。エルファスのみはフィルネンコ事務所に。……エルフ族(そのほか)はエルフに合流。ピューレブゥルのもとに集い、エルフの指揮の下、ビレジイーター駆逐に注力せよ」

「ははっ……。しかし女王。現状の推定20万超、全ての駆逐はいくら我らとはいえ……」


「いちいち勘に障る話し方をするものですね? “陸の”よ。零したものは人が控えている、と?」

「察しが良くて助かる、我らは人の当たる前に強く危険なものを選んで潰すのだ」

 ――人間を体よく利用する、資材も情報も、な。我らにはその発想が欠けていたのではないか? そう言って彼女はゆっくりと舞い上がる。


「噂に聞くターシニアの父、それが生きておったなら良いように使われるは我らであったろうがな」

「妾も結局会うことは叶わなんだが、興味深き人間であったようだな」

「あのターシニアの父であるからな。そこは会わずとも、面白かろうとはわかる」


 パムリィが指を鳴らすと、巨大な鳥のシルエットが羽を広げて舞い上がる。



「もう帰るのかえ?」

「調べ物が残っておる、人の世界におった方が都合が良い。――連絡にはエルファスを使う、良いな?」

「是非も無い。頼むぞヘシオトール」



 舞い降りてくる巨大な鳥へと向かうパムリィとフェアリィ二人。ピューレブゥルが声をかける。

「パムリィ! もし“そのとき”が来るのなら、妾は女王も精霊も寿命さえ。全て捨てる覚悟ぞ」

「人の世界の身分の差、というものは大変であるぞ? 我とてレンクスティアとは数度しか会うておらん」


「うぬにはわかるまい。同じ人として、遠くからみている。それだけで良いのだ」

「ぬしの方が、よほどわからんことを言っておると思うが?」


「だ、だまりおろ!」 

 ――生涯少女として過ごすうぬには、女の気持ちはわからぬわ! ピューレブゥルが真っ赤になってさけぶ。

「……ますますもって、わからぬな」

 空中で腕組みのパムリィが止まる。


「いずれ人となり果てたその時は、うぬの相棒として雇うてもらうからなっ!」

「雇うかどうか決めるのは、それは我では無いぞ。――だいたい、良く考えてみたれば。……我がそこまでぬしの面倒をみやる義理など無いわっ!」  


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