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大鹹湖 ~少女の遠征~

「確かに居心地は良いものよな。引きこもるなら最高の立地ではある」

 シュナイダー帝国の最南端に位置する大鹹湖。湖の向こう岸は既に帝国本国ではないのだが、そもそも向こう岸は見えない。


「こうして日の光を浴びたとて、解けて崩れるわけで無し。……どうしていつも夜ばかり選んで出てくるものかの。演出効果でも狙っておるかや?」

 パムリィが、以前にピューレブゥルと会った付近。低い木の枝に足を組んで座っている。


「普段なれば、この場で握り潰してくれようところですが。今回ばかりはそう言う訳にも行かぬでしょう。……“陸の”には、足労をかけました」

 彼女の正面には。姿勢良く立つサイレーンの女王、ピューレブゥル。

「ほぉ。“水の”に気を使われるとは、珍しいことがあるものよの。……今日は乗せてきて貰ったのみであるからな、さしたる労苦は無い」


 パムリィは上を見上げると、木のてっぺん付近の太い枝。巨大な鳥のシルエットが太陽を背に姿勢良くとまっている。

 簡単に人を丸呑みにする、と言われる巨体を誇る鳥のモンスター、ルーフ。これもまた、羽はあっても陸の括りのモンスター。

 帝都からここまで一時間かからずに来たパムリィである。


「先日は、そちらに帝都まで来て貰ったことでもあるしな」

「あくまでアレは個人的なこと、それとこれとは関係が無い」

 色々と回りには理屈をつけているが、皇太子が無事に帰った。それをパムリィに確認しに行ったのである。

 これ以上個人的な話も無い。

 


「それにうぬには移動の手段も無いところ。毎回ルーフを使うわけにも行くまい」

「人目、などとはぬしも中々に人間くさいな。我は人の中で暮らしておる以上、その辺は確かに気にしておかねばならぬ道理ではある。――もっとも、今回は用心棒のつもりもあったが」

 誰も居ないように見えて二人の回りは。実は相当数のエルフやスプリガンに取り囲まれている。

「用心棒が必要であるのは、しかしぬしのほうであった様だの?」


 スプリガンの他、いかにも戦闘力が高そうなモンスターが数種複数。

 さらには。種族間ではあまり関わりを持たないはずのエルフ達が、複数種。一〇や二〇ではきかないくらいに相当な数が木陰や草むらに潜んでいる。

 水の括りであるエルフ達だが、今回は“妖精”の立ち位置に立っているらしい。


 その他には、戦力として役に立つのかと言う疑問は残るが、パムリィと一緒に来た花畑のリーダー(おお おねえさま)、ミリィを含むフェアリィはもとより、コロボックル、ボロゥリトルの姿もある。

 つまり、包囲されているのは水の女王サイレーン、ピューレブゥルだけなのである。


 そして、そうなるのはわかった上で、あえてピューレブゥルは自身の回りに水のモンスターを呼び立てることはしていない。

 唯一、彼女の後ろには数人のいわゆる“原種エルフ”が控えている。本来はエルフ族全体をまとめる立場の彼らである。


 

「女王。……何故我らに、あの約束破りの恥さらしを殺せと命じない」

「ぬしらスプリガンは少々、言動が性急で浅慮である。とは前にも言ったな?」


「どうせ次などいくらでも控えているのだ、サイレーンの一人や二人……」

「やれやれ、ヘルハウンドも浅慮であるかや? まずは落ち着いて我の話を聞け」

 見た目以上に多種のモンスターが、パムリィとピューレブゥルを取り囲んでいた。


「だが女王! モンスターと人との盟約を破って、なにもせずにもう六〇年だ」

「まさにそれだ。いくら人の決めた括りとはいえ。ぬしらは仮にも頭が良い(インテリジェント)、などと言うカテゴリに属しておるのだぞ。ならば少しは考えよ」


「女王パムリィ。それは、どう言う……」

「簡単なる。基本不干渉で、ぶつかる度々(たびたび)に戦うかどうかを判断する。これは我ら陸と、そして人との決め事。……そして妖精の括りなれば“水”であろうと基本はこれに準ずる。――ヘシオトール、答えよ。我の認識、間違ってはおらぬな?」


 エルファスの一団を率いる位置に居る一人が、顔を伏せたまま答える。

「……やや戦闘は回避する方向となりましょうが、概ね女王の仰せの通り」


「うむ。――そしてピューレブゥル。……水のものにあっては、ただ許容の範囲で人に譲るのみ。先日ここで、自分でそう言うたが。それで良いのよな?」

 それを聞いてピューレブゥルはむしろ気色ばむ。


「……パムリィ。わらわになにをさせたい?」

「なにもせぬで良い、いや、むしろなにもするな。……これは我ら“陸”と人間の問題だと言っている」

 しかし、パムリィの態度には茶化すようなところは一切ない。


「うぬは。言っていることが、ままわかりかねる時がある」

「人間には良く言われるが、ぬしまでがそう言うか。……何度でも言う、ぶつかったときに戦うのであって、意味も無く殲滅戦をするのでは無いのだ」


 ――かつての妖精の女王が、シュナイダーの初代と約束したのはそう言うことなる。パムリィは組んでいた足を組み替える。


「しかるに現状、明らかに帝都を殲滅せんとモンスターが向かうのだ。盟約破りは我らが側ぞ」


「女王、だが原因を作ったのはエルフであろうが!」

「村を潰され発覚するまで、ずっと処分もせずに……」


「考えよとはさっきも言ったぞ。それともなにか? ぬしら、言葉を話すのみで中身はスライム以下の阿呆であるかや? 納屋で群れておるドミネントスライムとて、もう少し考えておるわ」


 ――原因を作ったはエルフであろうが、問題は既にそこではない。

 ――それに、きゃつらに禁忌破りの罰を下そうにも、もう。

 ――関係したものは、作ったものも、かくまったものも。

 ――皆一様に、死んだ。

 ――自ら作った禁忌に殺されたのだ。


「これをもってエルフへの懲罰は済んだ、と我は思うてある。エルフ族全体もそうだ。既に罰する対象では無い」

 それを聞いて彼女の回り、全種のエルフが頭を下げる。


「いつまで拘っておる場合では無い。我らとて、そうそう暇では無いのだ。……問題なのは」


 ――そう、問題なのは帝都を襲うとされるモンスターの種類なる。

 ――相当数の歩く人型(リビングドール)やら彷徨う鎧(ワンダリングメイル)が来るらしいが。

 ――これは、そもそもが人の作りしもの。勝手にすれば良い。

 ――だが問題なのは、食欲と耐久性を底上げしたベニモモスライムと、そして人を襲う事を前提に、性質を歪められたビレジイーター。

 ――これらが帝都を襲うことが、ほぼ確定しているということなのだが。


「これら全ては陸のモンスター、それに手を加え兵器化したものだ。我はこれに対して指をくわえてみているような性質タチでは無い」

「作ったものをあぶり出して……」


「だから阿呆だというのだ、愚か者がっ! ……話が進まん、当面口を閉じていよ。――何の為に人間の中で暮らしておると思ってあるか! とうにやっておるわ!」

 パムリィはふわりと浮き上がると、その後ろ。どこに居たのか、フェアリィとピクシィ会わせて一〇人程度が低頭したまま一緒に浮き上がる。


「作ったもの自身は特定する必要さえ無い、そしてどこに居て何をしているか。人間が既に調べ上げておる」


 ――モンスターと人間、双方に害をなしたい、などとな……。その意思を持ってまずは大シュナイダー帝国の帝都を遅う。それだけは確定しているのである。


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