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ヴァーン商会 ~プロの矜持~

「なるほど。真面目、ね。……わかったわ」


 リアンはため息を吐くと、ソファに深く座り直す。

業者リジェクタでは無いけど、組合おとうとんとこには行った?」

「いえ、まだ。組合長ロジャーさんも忙しい方なので」


「この状況下では、アレも暇なわけは無いよねぇ。あたしはロジャーとセットで大将、ターニャのおやじさんのところに修行に出された。……って言うか、あたしがロジャーに強引に首に縄かけて引っ張っていったからね。だから、当初はだいぶ恨まれてねぇ」


「……恨まれた?」

 その見た目で、親族には彼を快く思わないものも多い中。組合長との関係は悪くない。

 貴族で商家の兄弟。と言う前提ではいがみ合っているものさえ多い中、むしろ仲が良いと言いきっても問題が無い。と言うのはロミも知っている。



「うん、アイツはリジェクタどころか仕事全般、するつもりは無かった。一生、親父の名前にぶら下がって、家でゴロゴロしつつ、穀潰しで生きていこうとしていたからね。だからテルの大将のトコに引き摺っていった」


「あんなに真面目な人なのに、聞かないとわかんないもんですね」

「真面目。……そうだね、最近はむしろその言葉がはまって見えるよね。アイツ」

 ――最近では仕事がね、面白いらしいよ。変われば変わるもんだよね、あのナマケモノがさ。リアンはちょっと笑う。


「組合はもともと。怪我をしたり、老いぼれて身体が動かなくなったリジェクタが、仲間達のためにお役所やらの取り次ぎとかをやってる互助組織なんだ。この間行ってきた公国のリジェクタ組合、そんな感じだったんじゃない?」

「言われてみると……」


 能動的に仕事を探し、的確に仕事を割り振る。

 ロジャーが乗り込んで以来、組合が積極的に動き出し。今では帝国王朝でも最強武装組織の一つに数えられるほどにまでなった。

 組織としてまとまった意思を持って動ける、と認められたのだ。

 彼が組合長に就任してからなら、まだ三年にならない。


「でしょ? だから俺が変えてやる! って乗り込んだ。ホントのところは楽してエラくなりたい、と思ってたんだと思うけど」

「それならそれでロジャーさんらしい、とは思いますが……」

「ま、アレの本質はナマケモノで変わんないからねぇ」


 結局、フィルネンコ事務所で瞬く間に凄腕リジェクタとして名をあげた彼は、しかし。ヴァーン商会(じっか)の立ち上げたリジェクタ・ディビジョンには名を連ねず、

 ――兄貴の後方支援をするよ。

 と、わかったようなわからないような理屈で組合へと入った。


――現場に出たくねぇだけなんじゃ無ぇの? などとターニャあたりに揶揄される所以である。


「おっと、話がそれた。……あたしが思う仕事で大事なこと、だったね。それは、……見ること。よ」

「……見る。ですか?」

「そう。モンスターだけじゃ無い、襲われた人、現れた村、草木の植生、もっと大きく場所や環境」


 リアンはソファから立ち上がると、窓際まで歩いて、ロミを振り返る。


「事前に状況を完璧に見ておいたら、そしたら。作戦が失敗しようが、モンスターの群れに囲まれようが、――逃げ道が確保出来てるんなら、そこは問題がない」

「見る、って。逃げ道を探す。って言うことですか?」

 ターニャ以上の力技で、案件を解決しているイメージのリアンである。


「もちろんそれだけじゃない。けれど、一番大事なとこだ。リジェクタが現場で絶対に必要なもの、それはもしもの時の逃げ道。それを見極めるための目、なんだよ」

 やたら背の高い、異様なまでに整った顔立ちの美女。に見えるリアンが、――くるり。反転して完全にロミと目を合わせる。


「テルの大将からね、一番最初に言われたんだ。――仕事中に死ぬと、回りが迷惑だ。だから死ぬのはかまわんから他で勝手に死ね。ってね」


 ――死んだあとまで迷惑がられるなんてのは、最悪だろ?

 ――だから死ぬくらいなら逃げろ。

 ――逃げるってんならルートくらいあらかじめ確保しろ。

 ――ルートを確保するためには、突っ込む前に現場をよく見ろ。

 ――人もモンスターも地形も季節も、風向き、ニオイも。全部を“見る”んだ。


 ――そうすれば、モンスターが何故湧いたかまで見えてくる。

 ――人間とモンスター、お互いが暮らす境界線を踏み越えた理由もな。

 ――そこまでいきゃあ、お前。リジェクトの方向性だって見えてくる。

 ――なんなら事後に線を書き換えたって良い。人間側を少しだけ広くして、さ。


 ――いずれモンスターだけ見て、剣を振る。なんてヤツはド三流だ。

 ――どうせそのうちに喰われて終わる。緩慢に自殺してるようなもんだぜ?

 ――何も見えてねぇヤツは、リジェクタにはなれねぇって話だが。


 ――どうだ、お前さんには、なにか見えてきそうに思うか? 

 ――生き死にまで含めて。全てはリアン自身の“目”が決めるんだよ。

 ――お前さんの目にはこの先、どんなモンが見えてくるんだろうかね……?



「死にかけたあたしを簡単に救い出して、怒りもしないでそう言ったテルの大将の言葉は、顔も。……今でも、実に良く覚えてる」

 ――普段はともかく、仕事の時はスゴく怖い人だったのに。それでも、にっと笑ってそう言うんだよ。そう言うとコートかけから外出用の上着を外して手に持つ。



「いろんな意味を含めて、“見えていない”ものには対処のしようがない。だから事前に情報を集めて、退路を確保した上で仕事にかかるのは当たり前。こちとらプロよ? 失敗はしても、死ぬ可能性なんかあるわけない。あっちゃあ、いけないの」

 上着を手に持ったリアンはソファへと戻る。


「あたしらは兵隊じゃ無いし、なにしろ相手はモンスター。――なら、これをいくら 倒して(とって) も名誉なんか無いんだ。命がけなんて馬鹿げてるでしょ? ……総べてを見渡す目、これを持った人のことをプロって言うんだとあたしは思うな。……リジェクタに限らず、ね」

「プロの、目。……ですか」



「と言うことで、おねいさんとお昼を食べに行きましょ? おごるからさ、いっぱい食べてね♡ ――おーい、誰か居るかいっ!?」

「はい、御用でしょうか!」

「表に馬車をまわして! それといつもの店、今日は二人だっていっておいて!」

「かしこまりました。――会頭、少々のお待ちを」



「あの、……」

「大丈夫、なにもしないから。一緒にご飯、食べるだけ。お願い、約束するから」

「それを約束しないといけない様なことを考えてるんですか!!」

「いやいや、考えるくらいは許してよ! 口に出してないし、ロミには迷惑になってないでしょ?」



 そこでノックがなる。

「お嬢、宜しいでしょうか? ――かしこまりました、では。……ご会談中、失礼を申し上げます」

 口ひげの執事バトラーが入り口の扉を開く。

「お嬢、ほどなく準備が整います。お嬢が宜しければお客人共々、車寄せへおまわりを」


「わかった。……ロミ、行こう」

「口に出せない様なことって……」

 ロミはおずおずと立ち上がり、伏し目がちにリアンと目を合わせる。


「聞きたい?」

「……いえ、それは聞かなくても結構です!」


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