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害獣駆除はお任せを! -モンスター退治屋さん繁盛記-  作者: 弐逸 玖
第十一章 西の山の主 ~皇太子殿下、西へ!~
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かつてと未来と

 キングスドラゴンの巨大な瞳には空が映り。

 雲が流れていくのさえ見えた。



「すこし長い、難解な話になります。――かつての人間は栄華の極みに居ました。何万桁の計算であろうと瞬時に完了し、地上を騎馬の二〇倍の速度で移動し、海に鉄の船を浮かべ、,空を飛ぶ機械を作り、その先。空の上にさえ足跡を残しました」


「ドラゴンよ、それはしかし……」

 だがキングスドラゴンは、レクスの言は無視する。


「一〇〇億人を超えて暮らす人々にとって、既に不治の病などは無く、100歳を越えて生き。腕や足をなくしたもの達にも手足を作り、補うことさえ出来たのです」

 ドラゴンの目からは、しかし何かの表情を感じることは出来ない。


「但し技術というものは、兵器へと転用することは簡単である。そこは私が何かを言わずとも、理解が出来ますね? 皇太子」

「あぁ、それは大丈夫だ」


「そう。かつて、とても遠い過去に。大きな、とても大きな。世界の全てを巻き込むような、想像を絶するような巨大ないくさがあったのです」




 ――敵を殲滅するためだけの戦。皇太子には理解出来ないかも知れません。しかし、その日はやってきてしまったのです。


 ――たった一発で本国では無く、シュナイダー王朝連合全土が纏めて吹き飛ぶような、皇太子には想像もつかないであろう爆弾。当時の人間はそれを何千、何万と所有していました


 ――領土は要らない、国民も要らない。そうなればどうするのが手っ取り早いか。想像が付きますね? 病気を治せるというのなら、病気を流行らすことさえも、逆説的には可能になるのですから。


 ――そして戦に参加した国全てが。それらをみな使った、としたら。どうなるでしょうか、皇太子。




「世界が全て破壊された、と……」

「人だけで無く、動植物も。おおよそ生物の生きていける環境は破壊され尽くしました。人類も世界中で、ほんの数万人しか残らなかった。とデータにはあります」




 ――ごくわずかな土地に限られた数の人間。ほかの土地にはもう住むことが出来ない。そこで汚染された土地を浄化する計画が立てられます。


 ――汚染された土地に住まい、そこで代替わりを繰り返す生き物たち。それらを捕まえ、研究し、改良を重ね。ほんの少しずつでも土壌を改良する。そうした性質を得たそれは野に放たれました。


 ――そうして作られたものは調整アジャスタブル生物・モンスターと呼ばれました。


 ――爆発的な進化プログラムを遺伝子に持つモンスターは、長い時間の間に徐々に数を増やし、少しずつ新しい機能も獲得していきました。


 ――それこそがあなたがたの言うモンスター、その始まりです。




「ふむ。ならばモンスター領域というのは……」

「不可侵な領域。隣のターニャが言う線引き、と言うのは実に理に適っている。何しろ長居をするとお互い、死ぬのですからね。――ここから先はあなたがたには少々複雑な話かも知れません」




 ――モンスター達の進化や個体数を管理するために作られたプログラム。それが私です。


 ――但し、高度な工業力は失われてしまった当時。媒体が機械のままではいずれガタが来る。なので人工的に頑丈な生物を作り、そこにインストールされました。


 ――個体の寿命は有限ですが、代替わりのプログラムが発動すれば、身体は新たな個体となり、自動でプログラムとデータの引き継ぎが成される有機体演算装置。それこそが私です。いまの私は既に六回の代替わりを行っています。


 ――私の役目は順調にモンスターが土地の改変を行っているか、そして不必要に危険なものが誕生していないか。それを監視することです。危険が過ぎるものであった場合にはその種の排除まで、当初からの命令には入っています。


 ――私の本当の名前は、エコシステムサーヴェイユニット『ドラグーン』、それを構成する一部であるマスターフレーム01。モンスター領域全般の生態系を観測、監視、管理するものです。


 ――時代とともにだいぶ限定的にはなりましたが、ドラゴンの種のいくつかとは今でも無線接続が確立できています。先日使いに出したリヴァイアサンもそうです。


 ――言葉が要らないコミュニケーションが取れる、とでも言うのがわかりやすいでしょうか。


 ――人間とも通信手段はあったのですが、私が初代の個体であった中期、完全に通信機器が壊れ、修理も再現も出来ず。以降意思の疎通は会話のみ、となりました。


 ――そして人類最後の砦の一つであったのがこの周辺、私を作り、当初管理していたハイランダー達の遠い先祖が住まう土地、と言うことになります。


 ――今でこそ廃れましたが、当時。世界でもっとも高い技術レベルを持つ地域の一つ。それこそがハイランダーの地でした。


 ――そしてあるとき、私をメインで作り上げた一族から、一人の若者がシュナイダーを名乗り、ハイランダーの地を出ていきます。


 ――つまり、シュナイダーを名乗るものは、私のメインプログラマーの末裔まつえいとなるもの、なのです。


 


「俺達皇家はあなたを“作った”いにしえのハイランダー、その末裔である。という理解で良いのか?」

「シュナイダーの血縁はみな、そうだと言って良いでしょう」

「では初代皇の逸話はどうなる? 彼はモンスターの王と交渉するために山に……」


 どこもみていなかったと見えた巨大な目が、レクスを見つめた様に見えた。

「逆です。異様に頭の回る彼は数々の逸話から事の本質に気が付き、――人類自身にも耐性が付き始めた。人が生きるための土地を作るのだ、だから邪魔をするな。と宣言をしに来たのです」


「では、シュナイダー二十代の前も……」

「この地に私が顕現して約三,〇〇〇年になります。当然にハイランダーの歴史はそれよりも一〇〇年以上長い、人類自身とすればそれはもっと長きにわたります。信じる、信じないは皇太子に任せましょう」


 ――私の話はこれで終わりです。そう言うと巨大な目は一つ瞬きをする。



「黙っておると承諾したが、出来ることなら一つ。我に教えて欲しい。気に喰わぬなら無視してかまわぬ」

「かまいませんが、応えるか否かは質問にもよりましょう」


「我らモンスターは、滅び行くことを宿命付けられた生き物であるのか?」

「はいでもあり、いいえでもあります。確かに、土地の浄化が終われば。もう用事はなくなるはずでした」


「でした? ……今は違うってのか?」

 こちらも、黙ってはいられなくなったターニャが口を挟む。


「一部は人類領域に順応し、既存生物の抜けた隙間ニッチへと入り込み、そこで暮らしています。女王パムリィ。あなたたちも今や、環境の一部でありましょう」


「滅びぬように努力せよ、などと。……ドラゴンよ、作っておいて傲慢だ、とは思わぬのかや?」

「どう考えるかは貴女方次第である、と最初にことわりました。事実以上の私の意見などというものは、ありません」



「なら、あたしからも一つ」

「当然、そうでしょう」

「は? まだ何も」


「そもそも。モンスター自体は人が作ったもの。それを人がさらに手を入れる、と言うならば私の排除対象にはならない。私はそうは作られていない、と言うのがあなたへの答えです」


「ほぉ。自分のケツは自分で拭け、と?」

「人類が、自信で新たな可能性を生み出しているのだ、とも言えます。人類が絶滅する、と言う事で無ければ。帝国王朝の半分程度で被害が収まると言うなら、私は座視します」 


「滅ぼしてもいいんだな?」

「生存競争に負けたものは、必然そうなるでしょう」

「それを聞いて安心したぜ」




 ――さて。大きな頭が持ち上がり、一行を上から見下ろす。



「これで儀礼は終わりですが。――皇太子」

「俺になにか?」

「女王ピューレブゥルが拘るのもムリは無い。あなたはシュナイダーの初代と生き写し、まさに遺伝の神秘ですね」


「そうなのだろうか? 自分では良くわからんが」

「感情の無いこの私さえ、懐かしさを感じると思うほどに良く似ています。――人間世界の安寧、期待しています」



「どうして良いものか、今の俺には想像もつかん。方法を考えつくのは俺では無く、さらに未来の皇帝なのかも知らんが、俺も努力はしよう」


「明日は風が強いですが、雨は降りません。十分注意して下山するのが良いでしょう」



 ――シュナイダーの収むる国が繁栄し、私の役目が一日も早く終わらんことを。



 そう言うとドラゴンの首は大きく動き。頭は元通りに、広場の隅にある胴体の陰へと消えた。


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