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害獣駆除はお任せを! -モンスター退治屋さん繁盛記-  作者: 弐逸 玖
第十一章 西の山の主 ~皇太子殿下、西へ!~
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中継地点

 西の山は実はそこまで標高は高くない。約三日で頂上に到達する。

 そして頂上までの道も、何がどうなっているものか、キチンと付いている。

 そしてビバークできる場所までが。“ちょうど良い場所”にあるのだった。



 そこそこ風がある為、ネックレスに“命綱”を付けたパムリィを肩に乗せ、手際よく荷物を解いて宿営の準備を始めるターニャ。

 西の山に登り初めて二日目。

 一行は既に八合目までやってきていた


「意外と、と言ってはまた怒られそうですが、毎度見事な手際ですな」

 荷物が無くなって軽くなったのか、ここまで荷物を背負ってきたヤクが身震いをする。


「ま、この辺は仕事上ね。……パム、どうだ?」

「既に人類領域でない故、こんなものであろうな。……大丈夫だ、陸も水も。周辺に暴走スタンピードしている個体は無いようなる」


 慣例通りなら、皇太子の試練にあたっては、小規模とは言え皇太子へのお付きは二〇名前後。

 今回、レクス皇太子のお付きは異例にも、専門家ターニャと、自身の部下アッシュの二人だけ。

 だからこそ自分の居る意味がある。と言うのがパムリィの論である。曰く。


 ――我がおれば、陸と水のモンスターは襲ってくることは無いぞ。


 だから警戒すべきは野生動物と毒虫だけで良い。と彼女はそう言った。

「“空の”はきっと手を出してはこんだろうしな」



「水も……? いつの間にピューレブールと話を付けたんだ?」

「女王同士、相通づるものがあるのだ」

 出発前。ターニャの問いにはそう言って、パムリィは話を煙に巻いた。

「なんだそりゃ?」


「女心は複雑であるのだよ、ぬしにはわかるまいが」

 暴走状態でないのなら、水系のモンスター達は全力でレクスを護るだろう。

 と言うのはパムリィには、ハイランダーの村で話す以前から。それこそ始めからわかっていたことだった。


「あたしも女だ、巫山戯んな!」

 ダシにされたターニャだけが良い面の皮、なのであった。




「アッシュさんそっち、――旦那も悪いけどそこ、持って?」

「おぉ、すまぬ」

「これで良いですか?」


 リジェクタは仕事柄、テント張りも仕事の範疇。

 パムリィ以外のフィルネンコ事務所の面々。彼らにテント張りの基本を教え込んだのが。

 アッシュが驚くようなスピードで、やや大きめのテントを設営するターニャなのである。


「むくつけき男二人と同衾などと、本当に申し訳無い」

「同衾たって、一緒の部屋って程度だし……。それに荷物増やすわけにもいかんですからね。その辺二人共紳士ですんで、気にしないで良いっす」


 あまりに人数が少なすぎて、男女別のテントを用意出来なかった。

 レクスが済まなそうにしているのはそこであったが。


 しかし、ターニャ個人とすれば。ロミやリアンと二人で夜明かししたるすることもまま有るし、その中で仮眠したりも普通のこと。

 なので、当初はあまり気にならな“かった”。

 そう言われる度に、自分の寝言やいびき。色々意識してしまう彼女である。


「その。……アッシュさん、火を起こしてくれる? 旦那はヤカンに水を。夕食の準備、しましょ?」

「わかりました」

「そうだな、そうしよう」




 テントの外。夜風に吹かれてターニャが座っている。

 “お花摘み”等の都合もあるので、黙ってテントの見通し以上には行かない。と言う約束をレクスとさせられた上で、夕食後のターニャは自由に行動できることになっている。


「流石に山だな。……寒みぃや」

 ターニャは上着の襟をかき合わせる。

「……寒くねぇのか、アイツは」

 パムリィはヤクの角に命綱を繋いで、風に流されて浮き上がっては居るものの。どうやら眠っているようだった。


「一体。……あたしはドラゴンにあって、その後。どうしたいんだ」

 レクスを一人で皇太子の試練に出すわけには行かない、位の気持ちで同道を申し出たターニャなのであるが、しかし。

 その時は、その後のことなど。全く考えて無なかった。

 

 その後のこと、と言うのは。

 例えばレクスに聞こえない位置で、昨日アッシュとした話などである。




「私は無骨もの故、詳しくは知らんのですが。どうやら殿下のお妃候補に、その。……ターニャ殿のお名前が急浮上しているようなので、お耳に入れた方が良いかと」

「は? いったい何の……」


「詳しくは知らない、と前置きしましたよ? 殿下の皇帝ご即位までにフィルネンコ家を伯爵位とし、ご当主を宮廷に迎える。と言うことならどうだろう、などと……」

「いやいやいや! あたしは、その……!」


 現状、レクスはパムリィと話をしており、こちらの声は耳に入っていない。

「存じております。レクス殿下ご自身も、大切なご友人であるとは常々仰って居るところ。ですが、お妃候補として今のところ殿下に見合うお方も、そうそうおられず。――その手の話は、本人の意思は勘案されないものですからな」


 通常、皇子のお妃候補とすれば公家に連なる者か、もしくは良家のお嬢様。

 さらに話がレクスであれば皇太子妃と言うことになる。当人の意思が介在する隙間など有りはしない。


「オリファは勿論知るところで無く、私もなかなかお話しする機会を得られず。噂話とは言え。ターニャ殿へのお話が遅れましたこと、申し訳無く……」

「あ、いや。まぁ。……あ、ありがとう、ございます」



 今回、誰の手伝いも要らない。と言うレクスにあえて手を挙げ、――せめてあたしとアッシュさんは同行させてくれ! と言ったのはターニャである。

 雷帝レクスの身を案じ、さらにはそれに意見が出来るレディ・フィルネンコ。


 単純に一人じゃ危ないから。くらいの意味ではあったのだが、宮廷での注目度は俄然上がった。

 男勝りの美人リジェクタ、そう言う意味で“有名人”であったのも悪かった。

 雷帝レクスに物怖じせずに意見を具申する、美しき“じゃじゃ馬娘”。

 

 現状、お妃候補の上位三位にいるのだ。と聞いて当人が一番驚いたのである。




「あたしが皇太子妃とか、なんの冗談だよ……」

 ターニャはあわせた襟に、半分顔を埋めるようにする。


リンク殿下(おうじ)と義理の姉弟きょうだい……? ヤメヤメ! いまそんなことを考えてもしゃあ無いっ!」

 ターニャは、――ぱっ、と立ち上がると山の上を見上げる。

「ドラゴンに会えれば、いまよりもっと仕事の割は良くなるさ。そしたらクリシャもロミも、良いものがいつも喰えるようになる。ルカに頼らなくても良いくらいに、人だって増やせる……」


 暗い山の上は現状では何も見えない。――ふぅ。一つため息。

 


「……だけど、あたしはその後。どうしたい?」

 男性やら結婚やら、その手の話題からはあえて全力で逃げ回り、ここまで来た彼女である。

「たぶんお妃様では無い、と思うんだ」


 まるで吹き流しのように風に流され、命綱の金具を軸にクルクル回っているパムリィを見やる。

「なんでアレで寝れるんだよ……! ――まぁパムは良いとして」


 パムリィの考えるところは一貫して一つ。

 人間とモンスター。意味のない殺し合いはぜず、一番良い形での共生の形を模索すること。

 今回もきっと同行したかった理由は、それに何某かの関わりがあるはずだ。




「皇太子殿下、いいや。今更であるな。……兄のことはあなたに全て任せる」

 出発の日、宮廷正面。車寄せの脇。

 ターニャは。リンクとほんの短い間、話したのを思い出す。


「皇子になんか、することがあるように聞こえたけど。今度は何する気なの?」

「あぁ、モンスター改変事件の首謀者。これをロミとクリシャに手伝ってもらって内定する」


「いや、皇子おうじ! ……だって!」

「まぁ待て、話は最後まで聞くものだ。……今回は流石にムリはしないし、直接前にも出ない、話が固まった時点で一度行動は停止。帝国最精鋭、皇帝軍を直接動かすことで皇帝陛下ともお話が付いている」


 ――それはともかく。そう言ってリンクは口の端に笑みを浮かべる。

「あなたが兄上に付いてくれるなら安心できる。かの人が皇太子である事は関係がない。とても優秀で世界にただ一人、私の大事な兄上なのだ。……頼むぞ」


「あ、うん」

「ふむ、もう時間か。――くれぐれも気をつけてくれよ? そして帰ってきたならもう少し、二人で話す時間を取っ……」


「殿下、会談中に失礼致します! 至急伝です!」

「かまわん、話は仕舞いだ。どうしたかっ! ――ターニャ、その件は一任する!」

 話を切り上げたリンクは、――ばんっ! 皇太子を見送るための正装、真っ赤なマントを翻してターニャに背を向けた。




「もちろんだよ。あたしだってとっくの昔にわかってる、男だ。ってんなら、それは絶対皇子が良いよ。――やりたいことなんて、ハナから決まってる。皇子と、仕事なんか関係無い、どうでもいい話をしたいんだ! ……けど」


 一瞬。風が吹き渡り、ターニャの髪の毛と上着が持ち上がる。

 ――大事な仕事の前に気持ちが乱れては。などと思ってみるものの、さらに意識は千々に乱れ、すっかり伸びて結んでいない髪が風に嬲られ、気持ちを表すようにバラバラに躍る。


「けどさ。話をする、ったって。――何があるのかは知らないけれど。まずは旦那と一緒に、ドラゴンにあった上で。生きて。帰んなくちゃいけなくて……」

 ターニャは自身の腕で、自分を抱きしめるようにする。

「皇子。……私だって一応女だからさ。気弱になるときだって、あるんだよ」





 次の日の朝。

 ヤクとテントをそのままに、歩き始めてほんの二時間弱。

 一行の目の前、突然上り道が途中で途切れたように見え、その上には空が広がる。


「ついにやってきたな、頂上へ……!」

「……旦那」

「しきたりでも一〇人前後、侍従が付いて行く。まして今回は正式の謁見でも無い。――このまま女王含め、四人で会おうでは無いか」


 ――空を総べるもの、キングスドラゴンに!

 杖をアッシュに渡し、レクスは先頭に立って道を昇った。


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