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害獣駆除はお任せを! -モンスター退治屋さん繁盛記-  作者: 弐逸 玖
第十章 空を往く者 ~皇太子殿下、西へ!~
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仕事をフルのは所長の仕事

「アッシュ、場所はここに間違いないのか?」

「えぇ、若旦那。前回、ウチの旦那とご一緒したときは、まさにここでした」

 ここはグレーデル大鹹湖のほとり、小さな街グレディアン。

 その唯一の宿の二階である。


「とは言えロミネイル、なにも同じ部屋で無くとも良かったのではないか? 今回はもっと良い部屋が開いておったろうに。ラムダの厩の位置まで同じにするなど、ぬしはそこまで細かい人間であったか?」

 そう言いながら。窓際のランプのシェードに腰掛けるパムは、“装甲メイド服”姿である。

「粗雑な人間ではないつもりですが……。その辺は基本的にターニャさんの指示です。環境は前回を極力踏襲しろ。とのことでしたので」  





 宮廷からターニャ達が戻って数日後。

 オリファとアッシュが各々、双方自身の意思でフィルネンコ事務所を訪ねてきた。

 お互いに話し合いはしていない、とターニャには言った。

 むしろ。事務所の前で平服の当人同士が鉢合わせして驚いたのだ、と。


 但し、二人共来るなりそうそうターニャの前で。それぞれ銀に輝くⅢとⅣの数字の入った親衛騎士団章を、右手に掲げて片膝をつき。

「親衛騎士団副長として、お恐れながら男爵閣下に申し上げます」

 口を揃えてそう言った。

 ターニャに意見の具申をしに来たのであった。



 但し、――“出張”に出た後も事務所は開けておいて欲しい。と言う、良くわからない話なのである。


 どうやらリンクの第四とレクスの第三、そしてリンク預かりのルカの第五。親衛騎士三部隊が共同で。結構な時間をかけてこのところ、何某なにがしかの調査を行っていたらしい。

 と言うところまではターニャも理解した。


「クリシャさんからも既にお聞き及びとは存じますが。ご存じの通り、ブラックアロゥとベニモモ暴走スタンピードの件については、人間の関与は確定しました」

「それがさっきの話と、どう繋がるんすか? オリファさん」


 片膝を付いて低頭したままオリファが続ける。

「そしてそれを解決したのがフィルネンコ事務所(ここ)である、と言うことです」

「まだわかんないなぁ」



「ついでに言えば妖精の女王を従え、さらには大精霊サイレーンとも話し合いができるとは私もこの目で……。この辺は秘匿してあるはずなのですが、ご存じの通り。知っているものは知っているのですが」

 オリファの隣で同じく片膝を付きながらアッシュ。


「あのさ、二人共。まずは頭上げてさ、普通にしてもらって良いっすか? ――パムの事を隠すつもりはハナからないし、大鹹湖の件もそのスジでは有名だし。例のベニモモの件にしたって、なにを今更。なんて思うんすけど?」



 二人共、ターニャの言葉がきれるのを待って立上り、姿勢良く立つ。

「そして今回の、組合を通していない宮廷から直接の依頼です」

「そこはもちろん公にはしていませんが、その気になれば当然知れるでしょう。なのでこれより先、できる限りで目立たないで頂きたいと、我らが言いたいのはそういうことなのですが」


「うん、全然わかんない」

「……そう、ですよね」

「……仰る通りですが」




 そこまでルカの肩に座っていたパムリィが、二人の顔の前へと音もなく移動する。

「人間の様式が面倒臭いのか、ぬしらがそろって阿呆なのか。――どちらだ?」

「……女王」

「その、我らは……」

 但し、彼女は、明らかに怒っていた。



「ぬしらが内定している何者か。それにフィルネンコ事務所(われら)が宮廷と同調して動いている、と知れればここが強襲を受ける可能性がある。と、こう言えばいくらターシニアが鈍かろうとも、わかろうものを。――まどろっこしい!」


「しかしパムリィ、それでは事務所が開いている方が危険なのではないですか?」

 当初の予定から行けば、事務所はクリシャとパリィのみ。

 いくらパリィの腕が良かろうと限界がある、と思ったルカなのであるが。


リィファ姫(プリンセスリィファ)麾下きかの親衛第五が、密かに事務所の護衛に付くことまで込み。と言う話なのであろ? ……ターシニアの阿呆に話すと言うことはおいても、……ぬしらの話は全員、回りくどいわっ!」

 パムリィはそこまで言うと、空中で振り返りターニャと目を合わせる。


「話はまぁ、納得できた。だが、話をわかりやすくしてくれてありがとう、とも素直に言いたくないんだが……」

「頭の巡りの悪いものには、それなりの話し方をせねば伝わらん。立場のある人間皆が察しの良いわけではない。とは、ここ暫くでよく々々わかった」

 パムリィはむしろ大真面目でターニャに語る。

「大きなお世話だよっ! 誰が礼なんか言うか!」



「なるほど、そういうことですか、道理で。……最近、見た顔が素知らぬふりで通り過ぎると思っておりましたわ」


 リンクの預かりになっているはずの親衛第五。平服で職人街にある事務所付近を歩くその姿を散見するので、心配していた彼女である。

 もっとも彼らの側からすれば、ルカに気が付かれて居る。とは思っていないし、一方のルカとしても、心配していたのは主が不在の、その彼らの去就なのであるが。

 

親衛第五ルカさんのぶかの人達だったんだね? 見間違いとか、監視とかじゃなくて良かったじゃない。――でも、今のパムっちの話の通りだとして。……内定できるほどに犯人は絞れたんですか?」

 そこまでなにかを書き付けながら話を聞いていたクリシャが、ペンを持った手を上げる


「そこはその……」

「人間だとしか」

「そこまでは絞れた、と言う話で良いんすかね。確かに魔道士やら召喚師とか、話は出てましたが」

 ターニャがクリシャに視線を投げると、クリシャも一つ頷いてみせる。

 その調査に、深く関わっている一人が彼女である。

「結論には至ってないけどね」

 


「単なる暴走スタンピードや、インテリジェントモンスターが人間に対して害をなしているわけではない、と言うところまではわかっております」

「むしろ、女王が花畑をあえてでてきて以来。人間とモンスター、双方の衝突は帝国内においては目に見えて減っておるところ。まさに女王のご威光あってのことかと」


 モンスターに詳しいものと、帝国の内部事情に詳しいもの。

 この二人の騎士は、意外にも良いコンビと言えた。



「我は知らん。――二人に問うが。そも、モンスターと人間。ただ生きていくということなれば、そこで対立をする必要があるものか」

 オリファとアッシュに対する問いかけではあるが、これはパムリィ自身の命題でもある。


「そこは私ではなんとも」

「我々は、そこになにかを言う立場にはないかと」



「個人としての考えを聞いただけなのだが、それすら答えられぬかや?」

「パム、その辺にしておけ。……立場的に言えないことだってある。この二人はお前の前では、モンスターをどう思っているか、なんて話はできない」


 この二人は国に仕える騎士。パムリィは本人がどう言おうと妖精の女王。

 口に出してはいけないことも当然に、ある。

「わかって言ってるんだろうけどな」


 オリファとアッシュは、気をつけの姿勢を取るとターニャに一礼する。

「お気遣い、かたじけなく存じます閣下」

「ま。パムの言い草じゃないが、楽にして下さいよ。せめて“旦那方”抜きでここに居るときくらいは、さ」


「わかってはいたつもりだが、面倒なものよな」

「やはりターニャは細かいところに気が回りますのね」

 ――はぁ。全員、面倒くせぇ。ターニャはため息を一つ。


「わかってもらったようで助かるよ、パム。――そしてお嬢様も、面白がって傍観するの、止めてくれねぇかな? 話が進まねぇ」

「本当に気が付きませんでした。今のこれはわたくしの役目ですわよね? ――すみませんでした、ターニャ」




「とにかく話はわかった。事務所は開ける。あと人員配置を少し変える」

ターニャはそう言いながら応接のソファから自分のデスクへと戻り、ノートを広げる。


「宮廷のルカにはエルではなくてパリィ。有事にウチの周りに展開するはずの第五親衛騎士団の指揮もあるし、それならパリィよりエルだろ。だから事務所はエルな?」


「事務所はクリシャさんのみ、ですね? 再度気を引き締めます」

「単独で暴れるならともかく、指揮しろって言われても困るしね。……でも宮廷だってこないだモンスターに入られてるからさ。お嬢もダガー、ちゃんと持っててよ?」



「それとオリファさん、親衛第六も最近、ウチの近所でなんかしてますよね?」

「……まぁ、私の関知するところでないとは言え」

「ルゥパ姫に話をして、んー。メルちゃん、……って言ったっけ? 彼女を借りられるように話をしてもらって良いですか?」


 まだルゥパと同い年ではありながら、第六では副長代理を務める彼女。

 なにより、将来性は一番。と親衛騎士総団長。シャルロッテ・アイシンガーが太鼓判を押す逸材でもある。

 そしてそんなことを、ターニャが知るわけがない。


「目の付け所がさすがというか……。しかし彼女になにを」

「事務所が開いてるなら、人数が居る様に見えた方が良い。……そして姫はルカと一緒に居るんだから、宮廷との連絡係もお願いしたいんだ。だからもう一名、第六から選抜して事務所に待機してて欲しいんだよね。残りは宮廷で姫の護衛」


「本当に連絡することができると、私とエルさんしか居なくなっちゃうからね」

 書き物に戻りつつクリシャ。

「現在の第六は五名だったはずですから、三名は宮廷なのですね? 今回、あてに出来るのは宮廷内では彼らだけ、ですからね」


「あの、僕は……」

「ロミとパムが若旦那と大鹹湖、あたしがレクスの旦那と法国に行く、ってのは変えない。……で、ついでにお二人さんにもお願いがあるんですが」

「は? 我々?」

「なにかができましょうか?」



「アッシュさんは大鹹湖で一度、ピューレブゥルに合ってる。だから、若旦那の護衛をお願いしたい。――そして、オリファさんはこないだ法国に行ったばかりだし、聖騎士団に知り合いがいる。あたしと一緒にレクスの旦那について欲しい」 


「アッシュ殿、騎士団法上の運用としてはどうなのでしょう?」

「さてなぁ。主を入れ替えるなど、聞いた事もないが。ターニャ殿のお話にも一理ある。俺とお前しか同行はしないのだし、オババ様に相談してみよう。」


「法を云々しているときではない、とは私も思います」

 珍しくオリファが強い口調で相づちを打つ。


「よし。その意気で、お前からオババ様にお話申し上げろ!」

「嫌ですよ! 是非にご一緒しましょうよ!」





「アッシュ。皇太子あにうえは、ここでピューレブゥル様の伝令を待つ間。様子はどうであったか?」

 窓際に椅子を持ち出し、暗い路地を見下ろしながらリンクが問う。

「いつも通りに泰然としておられました。雷帝の二つ名は伊達ではありませんな」


「全く、……あの方には敵わんな。今、こうしている間にも私は手の震えが止まらない。――モンスターが、名指しで訪ねてくるのだぞ?」


「まぁ、楽しげにターニャ殿とお話しなさっておいででしたが、……ね。――あのお方であっても、さすがに平然としている。と言う訳には行かなかったのでしょうな」

「……? アッシュさん、旦那はいつもはあんな感じの方ではない、と?」


「センテルサイド卿、いやロミ君は即位前に雷帝。などと、とんでもないあざなを頂く方の普段が、うら若き美女と談笑する様な若者であると思いますか?」

 ロミは大真面目な顔でそう言うアッシュと目が合う。

「仰ることはわかりますが……」


「見てくれ、権威、対面。人間とはつくづく面倒なものよな」

 パムは腰掛けていたシェードに立ち上がり、リンクの顔を見る。

「あなたが居てくれるから、私は逃げ出さずにここに居られるのですよ」


 だがパムはそれを聞くと不機嫌な顔をして、――ついっ。とテーブルの上にしつらえられた。自分のベッドの方へと飛ぶ。


「人の尊厳を、我に丸投げしようとしている。としか思えぬな……。人間のことは人間が決めよ。それが生き物のことわり、と言うものであろ?」

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